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MOTOR SHOW
2022年12月7日
パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Auto
Le Mondial de l’Auto|パリ・モーターショー
クリーンエネルギーに蘇るフレンチ・リュクス
イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする2022年パリ・モーターショー(パリサロン)。後編では、展示車両から見えてくる、3つの潮流について記す。
Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA Lorenzo OYA
欧州の新潮流
すでにメディアで報じられているように2022年10月、欧州連合(EU)は、ガソリン車などの内燃機関車を2035年に事実上販売禁止することで合意した。あと13年である。しかし、EUの議員や官僚たちがブリュッセルで構想を立案するように域内全体が進行するとは筆者は思えない。
フランスでは2022年1月現在、フランスの路上を走る乗用車の平均車齢は11年である。2020年からすると、4カ月古くなっている(データ出典:AAA data)。隣国イタリアもしかりだ。平均車齢は、2009年の7.9年から2021年の11.8年と4年連続で伸び続けている。さらに今や4台に1台は車齢15年超えである(データ出典:UNRAE)。
もちろん、2035年は内燃機関車の新車販売禁止であって、目下使用禁止にまでは至っていない。
だが、高齢化するヨーロッパで今後世帯収入の減少や高齢化が進めば、これまで所有している内燃機関車を乗り続ける人は多いに違いない。日本で報道される北欧のEV普及ばかりを見て、欧州の自動車環境を判断してはいけない。
ルノーグループがサブブランドの「ダチア」で、リーズナブルな価格の内燃機関車の展開を当面継続しようと計画しているのは、彼らがそうした地域特性を熟知しているためであろう。
若い世代のための「レトロ」
しかし前編で記したように、パリをはじめとするフランスの大都市に関していえば、待ったなしのゼロエミッション化政策が進められている。
今回のパリ・モーターショーでは、そうした都市の方向性とも合致しているといえるゼロ・エミッションカーやそのコンセプトカーが数多く発表された。それら共通のスパイスは「レトロ」である。
その最たる例はルノーの「4Everトロフィー」だ。1961年から1992年まで31年にわたって生産された「4」のデザイン的レガシーをEVで再解釈したものである。
メーカーはルノー4の復活を真剣に考えている。参考までに、同ブランドでアドバンスド・デザイン部門を率いるサンディープ・バンブラ氏がイタリアのメディアに語ったところによれば、生産型はよりシンプルなデザインで登場することになること示唆している。
もう1台の「5ターボ3E」は、かつてラリーを荒らしまくった5ターボのイメージを継承したもので、2基のインホイール・モーターを左右後輪に内蔵したリトル・ダイナマイトだ。
プレスカンファレンスをリードしたルノーのルカ・デメオCEOは、「私は歴史あるクルマが大好きです」と語った。
このEV+レトロは何を意味しているのだろうか。19世紀末の美術運動アール・ヌーヴォーがフランスで隆盛した背景には、急速に進化する産業社会に疲弊した人々の心があった。人々は18世紀ロココ様式への回帰と、自然の草花が混じり合ったそのスタイルに安らぎを求めたのである。
レトロな雰囲気をたたえたEVたちも、電動化とハイテクで先鋭化した自動車に疲れた人々の心を狙えるのかもしれない。
ただしその照準は、着想源となったオリジナルモデルを懐かしがる世代よりも、レトロをポップと受け止める若い世代のようだ。たとえばデメオCEOは5ターボ3Eを「まさにドリフトのために生まれてきたクルマ」と紹介。ルノーブランドのデザインを率いるジル・ヴィダル氏は、4EVERトロフィーのマトリックスLEDを駆使したフロントグリルを「若者に受けると信じている」とプレゼンテーションした。
さらにいえば、ルノー・グループ現CEOのルカ・デメオ氏は、フィアット時代に、1957年のヌオーヴァ チンクエチェントを彷彿とさせる2007年「500(チンクエチェント)」の商品企画を主導し、同ブランドを“おじいちゃん”のブランドからクールなブランドへと再生した人物である。ゆえに、こうしたルノーのレトロ&ポップが成功する公算は高い。