パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Auto

1972 プジョー504 モディファイド バイ REV モビリティーズ

CAR / MOTOR SHOW
2022年12月7日

パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Auto

ヒストリックカーの電動化ビジネス

ゼロエミッション化の波として、もうひとつ興味深い動きも会場で楽しめた。それは「コレクタブルカー」の電動化である。一例が「REVモビリティーズ」である。その社名は「Retrofuture Electric Vehicles」の略だ。
創業4年という同社はブースにEV化を施した1972年「プジョー504クーペ」をディスプレイした。満充電からの航続可能距離は165km、最高速度150km/hである。改造費用の目安は、2万2000ユーロ(約318万円)という。同社のダイレクター、オリヴィエ・マルシェゲイ氏によると、改造に要する時間は2〜3日である。ベース車両も手配希望の場合は、そこに1万2000ユーロ(約174万円)追加となる。
どのような顧客が、こうしたコンバートを希望するのか? マルシェゲイ氏は、「面白いことに、我々のビジネスに興味を示してくださる方の25%は女性です」と答えた。排ガス規制が強化され、すでにヒストリックカーを運転できる機会が限定されている大都市で、合法かつ優雅に走りたい女性ドライバーという。
「もうひとつはコレクターが所蔵車の1台を普段乗り用にと改造を依賴するケースです」。何台ものヒストリックカーコレクションがある場合、1台はオリジナルコンディションを犠牲にしても良いと考えるようだ。
参考までに、パリ市内に星の数ほどある月極制の地下駐車場を訪ねて驚くのは、ヒストリックカーの多さである。筆者の知人も数カ所に分けて数台のコレクションを保有している。週末になると、愛好家が集って、地下にもかかわらずさながらミーティング風になる駐車場もある。そうした都会派愛好者のためにも、EV仕様へのコンバートビジネスは、これから一定の需要があると筆者はみる。

フランス版ハイパープレミアム再興のチャンス

第3の潮流の予感は、「フレンチ・リュクス復権の可能性」である。
隣国イタリアでは、フェラーリが戦後に興ったブランドにもかかわらず──創業者エンツォ・フェラーリ自身は単なるレース資金稼ぎと考えていたものの──アメリカ市場でステイタスを確立した。続いてフィアットの資本注入に助けられながら、世界を代表するラクシュリーカーブランドに成長した。その成功のおかけで、マセラティも米国をはじめ各国でマーケットを開拓することができた。
いっぽうフランスで、超高級車は事実上育たなかった。第二次世界大戦前、フランスは「ヴォワザン」「ドラージュ」そして「ドライエ」など、数多くの超高級車メーカーが存在した。一部は戦後まで延命したものの、それらの上顧客であった上流階級の没落と自動車の大衆化には勝てず、次々と消えていった。
そうした超高級車の復興を目ざし、ヌーヴォー・リッシュ(新興富裕層)をターゲットにした「ファセル・ヴェガ」も1964年にあっけなく消滅した。
今日かろうじてフランスに存続する超プレミアムブランドは「ブガッティ」だが、現在のものは2000年代に入ってからフォルクスワーゲンによって再興されたものである。
いずれも前編の写真で紹介したように、2022年のパリでは、水素エンジン搭載のコンセプトカー 、アルピーヌ「アルペングロー・コンセプト」、燃料電池車を手掛けるスタートアップ企業オピウムによる「マキナ」が注目を浴びた。
オピウム「マキナ ビジョン」
ヨーロッパではこれまで無敵といえた既存プレミアムブランドの牙城が崩されつつある。2022年上半期の欧州販売台数で「テスラ・モデルY」が「メルセデス・ベンツGLC」を上回ったのは、象徴的な一例である。クリーンエネルギーへの移行を機に、半世紀以上にわたり途絶えたフレンチ・リュクスを復興できる可能性がないとはいえない。
10月17日から23日に開催された2022年パリ・モーターショーの入場者数は、前回比63%減の39万7812人にとどまった。だが今回のリポートから想像いいただけるように、近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショーの姿もそこにあった。同様に隔年開催で、新形態を模索中の2023年ミュンヘン・ショーがどう展開されるのか、今から興味深い。
48 件
                      
Photo Gallery