プジョー 208 XY を語る|Peugeot
Peugeot 208 XY|プジョー 208 XY
プジョー 208 XY を語る
5月に日本でも発売されたプジョー「208 XY」は、クルマとしては、すでに登場している「プジョー 208」ファミリーのうち、1.6リッター4気筒エンジンをターボチャージャーで過給した、「208 GT」とおなじである。しかし、XYにはGTとはちがう、エクステリアとインテリアがあたえられている。このモデルの存在する理由、位置づけとはいったい何なのか。OPENERSは今回、座談会の形式で、208 XYを手がかりに、プジョー車、フランス車の魅力を探ってみた。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ABE Masaya & Peugeot
小さいクルマ=エントリーグレードでいいのか?
鈴木 文彦 OPENERS編集部の鈴木です。今日はプジョー「208 XY」の魅力について、プジョー シトロエン ジャポン広報室長の城 和寛さん、それにライターの大谷 達也さんと一緒に語りたいとおもいます。
まず、城さん、208 XYは「208 GTi」とおなじタイミングでカタログモデルとして登場しましたが、その背景というか狙いについて教えてください。
城 和寛 ご存知のとおり、フランスの自動車メーカーはもともと小さいクルマをつくるのが得意です。ただし、フランスでは小さいクルマだから質が悪くていいというふうには捉えていない。もしくは、小さいクルマだからエントリーモデルというふうには扱っていないんです。
その根底にあるのは、お金があることがラグジュアリーだとか、値段の高いものほど質が高いとか、そういうモノの見方に懐疑的な考え方だとおもいます。
たとえば、プジョーには「208」、「308」、「508」というラインアップがありますが、これは単純にクルマの大きさがちがうだけであって、クルマの質とか装備とか与えられたバリューとかに差はないんです。
これがプジョーの昔からの考え方です。
ただ、こういう受け止め方は日本ではまだあまり一般的になっていないようにおもいます。そこで「小さくても上質なものはあるよ」、もしくは「小さいけれど上質なクルマというのはどういうものか?」ということを提案したくて、この「208 XY」を導入しました。
大谷 達也 ただし、「208 XY」は、走りがいい「208 GT」をベースにしています。その辺には、どういう意図があるんですか?
城 走りがいいというのは、ある意味、プジョーにとっては基本的なことなんです。ただし、さらに走りにフォーカスした208 GTiがデビューしているので、208 XYはもう少しちがう価値を提供したいと考えています──
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セクシャルなクルマ
城 たとえば、このモデル名のXYは男性と女性の染色体を表現していて、その先には男女の価値観、もしくは恋愛の価値観というようなものも意味しています。別の言い方をすると、男女間で誘惑されるとか、そこで生まれる恋愛感情をクルマで表現すると、“走り”とはちがった価値観が提示できるんじゃないかと……
また、もしも“愛”というものが語られるのであれば、それはコンフォタブル(快適)でなければいけないでしょうし、そうなれば、必然的にインテリアのクオリティは高くなければいけない、ということになります。また、走りにしてもキビキビというよりはコンフォートが求められることになります。
大谷 実際に試乗しましたが、確かに城さんがおっしゃるとおり、基本的に十分なパフォーマンスはあるんですが、だからといってハンドリングが特別クイックなわけではなく、それよりもどっしりと落ち着いた乗り心地のよさが前面に出ていました。
城 そうですね。
鈴木 インテリアでは、特にどういう部分が特別な仕立てになっているのでしょうか?
城 たとえばシートはホールド性もいいんですが、それとともに紫のステッチを施したりとか、アンビエントライトにこだわったりとか、ダッシュボードにレザーとよく似た手触りのテップレザーという素材を採用したりしています。
大谷 その結果としてできあがったクルマについて、城さんはどのような印象をお持ちですか?
城 クルマのサイズとかエンジン排気量でいえば日本の「ヴィッツ」とか「デミオ」のクラスですが、そういうなかでも女性がラグジュアリーに乗ってサマになるクルマだとおもいます。変な話ですが、このクルマに乗って誰かをデートに誘ったら、成功率が高くなりそうな……
大谷 それは男性が誘っている? それとも女性?
城 男性でも女性でも、どちらでもいいとおもいます。
大谷 それはあたらしい考え方ですね。いままでにも女性仕様車というのはよくありましたが、208 XYは男女を乗り越えている。でも、だからといってユニセックスという言葉は当てはまらない。
城 ちがいますね。ユニセックスという言葉は性的な要素を排除しています。
大谷 でも、このクルマは明らかにセクシャルな要素を備えている。
城 はい、セクシャルだとおもいます。
鈴木 それって本当にあたらしいですよね。自動車って、発生の段階から、荒馬を手懐けるではないですが、男性的な価値観が絶対的に存在してきた。女性的なクルマはその対になるようなものです。ところが、ついにそれを無視するような自動車の登場を時代は許すようになった、ということでしょうか。
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ドイツ車とはちがうフランス基準
大谷 先ほど城さんもおっしゃっていましたが、208にかぎらずフランス車で面白いなとおもうのは、小さいクルマだから質が悪いとか、偉くないとか、そういう価値観と無縁なところに存在していることのようにおもいます。これってドイツ車とは決定的にちがっていますよね?
鈴木 僕はフランスの大学に留学していましたが、そうした経験からわかったのは、フランスって、階級社会ですが、生活するうえでの階級意識は薄いし、とても理念的な国だっていうこと。
彼らは理念をもってして国家を形勢しているんです。
で、その理念がなにかといえば、トリコロールの国旗でも表現されているとおり自由、平等、博愛の3つ。しかも、これらは単なる看板じゃなくて、生活の強い基調をなしています。
だから、売っている商品にしても、決して高価ではなく、デモクラティックなものが好まれます。
日本人のような豪華一点買いみたいな発想はありません。
大谷 フランス人の暮らし向きを見ていても、豪華じゃなくてもおいしい食事があって、おいしいワインがあって、自分が大切にしている家族と一緒に過ごせる時間があればそれでいいという感じで、あまり贅沢をしたいと願っているような印象を持ちません。そのせいかどうか、「もっと金持ちになりたい」「もっと偉くなりたい」というような、ある種の上昇志向もあまり感じないような気がします。
城 その辺は宗教とも関係があって、フランスのようなカトリックの国では、働くというのは神様からあまり祝福されていないと捉えられているようです。それにたいして、ドイツのようなプロテスタントの国では、反対に働くことが神様から祝福されていることだという意識がある。
だから、ラテンの国の収穫祭は、その辺にあるものを獲ってきて飾るだけですが、ドイツの収穫祭では畑を耕して、種を植えて、それを育てて収穫することが尊ばれる。
そういう、労働という行為に重きを置くところが、ドイツ人のモチベーションにつながっている。反対にカトリックの国、特にイタリアなんかだと、「早くリタイアして神様と向き合う暮らしがしたい」なんておもいが強いようです。
鈴木 ものづくりの観点からいえば、イタリア人とかフランス人は、色彩や形態にかんして非常に人間的というか、非論理的な部分で優れているとおもいます。
それがクルマのデザインにも表れていて、たとえばこの208のデザインはヨソの国の人にはなかなかおもいつかない。しかも、特別に高級というわけじゃないのに、ステキに見える。でも、ドイツの人たちはもっと真面目に物事を積み重ねてモノを作り出している。
たとえば、クルマのインテリアだったら、「前作ではボタンとボタンのすき間が0.3mmだったから、今度は0.2mmにしよう」みたいな、常に前進、進化していこうとする意思のようなものを感じます。
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日本に提案できるフランス的価値
大谷 それと、フランスやイタリアの製品は、独創的なアイデアをうまく生かして、あたらしいデザインを常に生み出しているけれど、だからといって奇抜なだけじゃなくて、人の心に訴える美しさを備えている例が多いですよね。
城 そうおもいます。それはクルマだけに限らず、日用品とか家についても同様だとおもいます。
大谷 しかも、安いものでもデザインがいい。
鈴木 そうなんですよ。スーパーで100円で売っている食器のデザインがすごくよかったりする。
大谷 フランス人は、手軽に生活を彩る工夫というか、知恵を持っているような気がしますね。
城 まさにそのとおりなんですが、明日のほうが今日よりももっと経済的に豊かになるという保証がなくなってきたいま、日本人にもそういう生き方を提案できる土壌ができあがってきたようにおもいます。
大谷 大きいクルマ、高いクルマを買うことだけが偉いわけじゃない。生活全体のクオリティ、バランスを見直しましょうということですね。
城 たしかに、日本のベーシックカーである「ヴィッツ」や「フィット」は100万円とか120万円とかで買えます。208 XYはもうちょっと高くて200万円以上するけれど、そんな値段のことよりも、家族で乗って楽しいとおもえることのほうが価値は高い。そういう価値観を、日本でも受け入れてもらえるようになってきたとおもうんです。
鈴木 先日、ドイツのコンパクトカーに試乗していたんですが、コンパクトカーでもドイツ車は乗っていると偉くなったような気分を味わえる。でも、フランス車に乗っていても、僕は僕のままで、そういう印象はまったく持たない。乗っている人に偉くなったとか強くなったという意識を一切持たせないフランス車って、本当に不思議な存在です。
大谷 そういう意味でいえば、ドイツ車にはある種の階級というかヒエラルキーが厳然として存在しています。
城 ところが、プジョーは、208の横に508がきても、まったく気にならない。つまりヒエラルキーを意識させない。これはブランドのかなり根幹にかかわる思想です。
城 それはやはりドイツなりフランスなりの土壌のちがいですよね。
大谷 ええ。いい悪いではなく、ふたつの国のちがいですね。
Peugeot 208 XY|プジョー 208 XY
ボディサイズ|全長3,960×全幅1,740×全高1,470mm
ホイールベース|2,540 mm
トレッド 前/後|1,480 / 1,490 mm
重量|1,200 kg
エンジン|1,598cc 直列4気筒 DOHC ターボ
最高出力| 115kW(156ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|240Nm/ 1,400-3,500 rpm
トランスミッション|6段マニュアル
駆動方式|FF
タイヤ|205/45R17
燃費(JC08モード)|15.2 km/ℓ
価格|269万円