ポルシェ 911 GT3 に試乗|Porsche
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2015年4月7日

ポルシェ 911 GT3 に試乗|Porsche

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

ポルシェ 911 GT3 に試乗

50周年を迎えた、ポルシェ「911」。ポルシェはこの節目となる年に、“991型”911をベースとした、ワンメイクレース向けレーシングカー「911 GT3 CUP」と、その公道バージョンというべき「911 GT3」をジュネーブモーターショーで公開した。今回ここで、河村康彦氏がリポートするのは、後者。最高回転数9,000rpm、最高出力475ps/8,250rpmの自然吸気エンジンをリアに宿す、公道をゆくもっともレーシングカーに近い911の最新モデルや、いかに?

Text by KAWAMURA Yasuhiko

911 GT3 5代目に

最強、もしくは最速! といったタイトルでは、その座をターボ付きモデルへと譲る事にはなる。が、「もっとも“刺激的”な911」となれば、そこでの支持率は俄然アップするにちがいない──それが、“もっともサーキットに近い911”こと「911 GT3」のキャラクターだ。

典型的な高回転・高出力型の自然吸気エンジンを搭載し、シャシー・サスペンションのセッティングもそんな強心臓に相応しいもの。くわえて、組みあわせるトランスミッションもMTに限り、「911シリーズ中にあっても、もっともスポーティで“ハードコア”」というキャラクターを明確に演じて来たのが、これまでのGT3というグレードだった。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3 (997型)

先代にあたる997型 911 GT3

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3 (991型)

最新型となる991型 911 GT3

ここに紹介の最新991型 911 GT3は、1999年に登場の“初代モデル”から数えて5代目となるもの。「従来型にくらべ重量を約13パーセント軽減のいっぽうで、ねじれ剛性値は約25パーセントのアップ」と謳うそのボディシェルは、もちろんカレラ シリーズと同様の、鉄とアルミを主体とした“ハイブリッド構造”を採用する一品。

従来型の場合と同様、リアのフェンダー付近を拡幅した、「カレラ4」シリーズ用の“ワイドボディ”がそのベースとされている。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

ポルシェ 911 GT3 に試乗 (2)

エンジンは新開発

そんなあたらしいGT3に搭載される心臓は、当然ながら今回も高回転・高出力型が大きな特徴の水平対向6気筒ユニット。排気量は3.8リッターと従来型同様だが、実はボア×ストローク値がわずかにことなる点からも推測できるように、それは開発陣が「まったくあたらしい」というフレーズで紹介する新開発ユニットだ。

シリンダーブロックはカレラS / 4S用をベースとするものの、「モータースポーツの世界からフィードバックされた」というロッカアームを備えるバルブ駆動系や、GT3としては初の直噴システム採用のヘッド部分は、今回専用に開発。コンロッドはチタン製でピストンは鍛造構造と、もちろん各部の素材も贅が尽くされた。

9,000rpmという最高許容回転数や125psという1リッターあたりの出力は、それぞれ従来型の8,500rpm、114.6psというスペックを大幅に凌ぐもの。

8,250rpmと従来型より650rpm高い回転数で発せられる475psの最高出力も、従来型にたいして一挙に40ps増しだ。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3 Engine

いよいよGT3もPDKの時代

そんな新エンジンと組みあわされるトランスミッションは、GT3として初の“PDK”。

そう、これまでかたくなにMTに拘りつづけたトランスミッションが、ついに2ペダル式へと変更されたのも、この991型GT3での大きなトピックであるわけだ。

こうして、MTに“見切り”がつけられたという点には、当然賛否両論が渦巻くのは間違いない。個人的にも「MTでも乗ってみたかった」というおもいは、実際にテストドライブを終えた今になっても完全には拭い去る事ができないポイントだ。

しかし、そうした声が世界であがるのを承知の上で、それを断行したポルシェ開発陣から聞かれるのは、「速さの点では、もはや“PDK”に圧倒的なアドバンテージがある」というコメント。

実際、新型と従来型との0-100km/h加速タイムには、3.5秒と4.1秒と“決定的”とも言える大差が発表されている。従来型の場合、「GT3には『軽さ』が重要」という理由から、“PDK”の採用は見送られていたが、そうした判断もついに覆されるタイミングがやって来たという事だ。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

ポルシェ 911 GT3 に試乗 (3)

911 GT3のPDKは ただのPDKではない

もっとも、そんな“PDK”自体にはGT3への搭載に際して、かなりの手がくわえられている。

重量増加を抑えるため、軽量ギアの採用によりユニット重量はカレラ用より2kgの削減。ギア比全般もより動力性能を重視して見直され、第7速のギア比も燃費重視のカレラ シリーズとはことなって「この位置で最高速が発揮されるスペック」へと改められた。

左右のステアリング パドルを同時に引いている間、駆動力がカットされる“パドルニュートラル”の機能も新採用。素早いスタンディング スタートのためのローンチコントロール機能にも、ブレーキペダルのリリースから実際に駆動力が発生するまでのタイムラグを短縮した、専用チューニングが施されたという。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3 PDK

興味深いのはフロアレバーによるシーケンシャル モードの操作ロジックが、これまでとは逆の「引いてシフトアップ、押してシフトダウン」に改められた事。レーシング界では常識のそんな操作ロジックが、911ではGT3に限って採用されたのだ。

そんなこの操作ロジックの、今後のその他のポルシェ車への展開にかんしては、担当エンジニアは「自分はGT3の専任なので……」と明言をしなかった。が、同席したブランドアンバサダーで開発ドライバーでもある元WRCチャンピオンのヴァルター・ロール氏は、「自身が15年に渡って主張しつづけてきたポイントがようやく採用された」と、歓迎の気持ちを隠さない。

もっともこうした突然の変更は、“ティプトロニック”時代からの従来ロジックに慣れ親しんだユーザーには戸惑いも大きいはず。本来ならば、この部分は使う人が好みに応じての“ユーザー設定”をおこなえるようにするのが、最善であるはずなのだが。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

ポルシェ 911 GT3 に試乗 (4)

いよいよDレンジにレバーを放り込む

新エンジンに火を入れ、これまでのGT3には有り得なかった“Dレンジ”をセレクトしてブレーキペダルをリリース。

が、この段階ではまだあたらしいGT3は微動だにしない。カレラ シリーズの“PDK”にみられるクリープ現象は、このモデルでは敢えてカットをされているのだ。

アクセルペダルを軽く踏みくわえていくと、グラスファイバーとカーボンファイバーの組みあわせによるエンジンフード上に、大きな固定式リアウイングがそびえる派手なルックスの新型GT3のボディは、カレラ シリーズに遜色のないスムーズなクラッチワークによって意外なほどにスムーズに走りはじめる。

ただし、“PDK”のシフト動作に伴うメカニカルなノイズが遠慮なく耳に届くのは、カレラ シリーズとはことなる点。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

2ペダル化されたゆえ、もしもこのモデルを単に“最速のカレラ”という位置づけで受け取ろうという人が現れたりすれば、これは文句を付けられかねないポイントとなりそうだ。

さらにアクセルペダルを深く踏み込めば、そこでは「GT3の真骨頂」が味わえる。パワーの強力さも、アクセル レスポンスのシャープさも、耳に届くサウンドも、何もかもが「文句ナシのゴキゲンさ」だ。

なかでも、6,000rpm付近からレブリミットの9,000rpmまでで得られる快感は、単独で乗ってしまえばそちらでも「十分パーフェクト」とおもえる「カレラS」用エンジンと段違い。

そもそも、991 / 981型になってからのポルシェの最新フラット6エンジンは、以前にも増して高回転型の傾向を強めている。

が、GT3のこの心臓では、そうした伸びの鋭さという部分を、「磨きに磨き抜いた」という印象が強いのである。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

ポルシェ 911 GT3 に試乗 (5)

ポルシェ初の後輪操舵

そんな魅力的な心臓を獲得した最新のGT3には、当然シャシー・サスペンションにもそれに相応しい専用のセッティングが施されている。

電子制御式のLSDと組みあわされたトルクベクタリング機構や、やはり電子制御によるダイナミック エンジンマウントなど、今やハイテクメカを積極採用するGT3。が、その中でも今回の最大のトピックは、ポルシェ車では初となる「アクティブ リアステア システム」が採用された点にある。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3 Rear Axle

911 GT3 のリアアクスル

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3 Active Engine Mount

エンジンとフレームの接続をレーシングカーのように直接溶接されたかのような状態から、ある程度遊びのある状態まで変更できるダイナミックエンジンマウント

電気機械式アクチュエーターによって、リアのホイールを前輪と逆位相もしくは同位相方向に最大で約1.5度までステアさせるこのディバイスは、「よりホイールベースの短いモデルのような俊敏性と、よりホイールベースの長いモデルのような安定性の双方を狙った」と開発陣が述べるもの。

いざテストドライブをしてみれば、なるほどステアリング操作にたいする応答はすこぶる俊敏でありながら、安定感がこれまでのGT3とは段違いという感覚が確かなもの。同時に、いっぽうでは「特別なディバイスが付いている」といった違和感をまったく発しない点も印象的だった。

「このディバイスの採用で限界走行時のリア タイヤの“たれ”が遅くなる分、サーキットでは安定してタイムを出せる」とヴァルター・ロール氏は付けくわえる。

そんなこのモデルでの、ニュルブルクリンク旧コースでの7分25秒という“公式タイム”は、従来型の15秒マイナスだ。

50km/h未満の速度でおこなう逆位相制御と、80km/h以上でおこなう同位相制御がもたらす効果は、「ホイールベースを実際よりも150mm短縮、もしくは500mm延長させた事に相当する」との説明。

Walter Rohrl|ヴァルター・ロール

ブランドアンバサダーで開発ドライバーでもある元WRCチャンピオン ヴァルター・ロール氏

同時に、逆位相制御は最小回転半径の縮小にも貢献しているというが、これも「そうした制御がおこなわれている」という事をまったく意識させない仕上がりだ。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

ポルシェ 911 GT3 に試乗 (6)

PASMは快適なノーマルモードで?

もう一点感心をさせられたのは、そんなフットワークが、予想をした以上に高い快適性も確保をしていた事。

むろんそれは、基本的には“かため”である事は間違いない。

特に電子制御式の可変ダンパー“PASM”をスポーツのモードで用いれば、そのハードさから時に跳ねるような挙動をしめし、むしろ接地感が低下してしまう場面も皆無ではなかった。

いっぽうで、それをノーマルモードで用いる限りは、サスペンションはおもいのほかに良く動き、強固なボディがそこに入った振動をたちまち減衰させてしまう事との相乗効果によって、さほどのハードさ意識させられずに済むのが意外でもあったもの。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3 PASM

ちなみに、サーキットでも、ニュルブルクリンクの旧コースのような荒れた路面では、「“PASM”のセッティングはノーマルモードが好ましい」(ヴァルター・ロール氏)とされている。

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3

あたらしいボディにあたらしいエンジン、そしてついに“PDK”の採用を決断のうえで、4WSシステムまでもを標準装備するに至った最新世代のGT3がもたらす走りは、圧倒的にパワフルで圧倒的に速く、しかも何とも官能的なものだった。

シフトレバーの操作もまた、スポーツカーを操る楽しみの重要ないち部分と考える人にとっては、“MTの消滅”は残念なポイントではあるだろう。が、「そうした声が世界で高まれば、今後にその再デビューの可能性を残さないでもない」というのが、とりあえずは現在のポルシェの見解でもあるようだ。

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Porsche 911 GT3|ポルシェ 911 GT3
ボディサイズ|全長4,545×全幅1,852×全高1,269 mm
ホイールベース|2,457 mm
トレッド 前/後|1,551 / 1,555 mm
トランク容量|前 125 / 後 260 リットル
重量|1,430 kg
エンジン|3,799cc 水平対向6気筒
圧縮比|12.9:1
ボア×ストローク|102×77.5 mm
最高出力| 350kW(475ps)/ 8,250 rpm
最大トルク|440Nm/6,250 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(PDK)
ギア比|1速 3.75
    2速 2.38
    3速 1.72
    4速 1.34
    5速 1.11
    6速 0.96
    7速 0.84
減速比|3.97
駆動方式|RR
サスペンション 前|マクファーソンストラット
サスペンション 後|マルチリンク
タイヤ 前/後|245/35R20 / 305/30R20
ブレーキ 前|クロスドリルド ベンチレーテッド ディスク 6ピストン対向式アルミニウム製モノブロックキャリパー
ブレーキ 後|クロスドリルド ベンチレーテッド ディスク 4ピストン対向式アルミニウム製モノブロックキャリパー
最高速度|315 km/h
0-100km/h加速|3.5 秒
燃費(NEDC値)|12.8 ℓ/100km
CO2排出量|306 g/km
燃料タンク容量|64 ℓ(オプションで90ℓ)
価格|1,859万円

           
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