6車種一気試乗「ワールド カー アワード」|World Car Award 2017
World Car Award 2017|ワールド カー アワード 2017
ワールド カー アワード試乗会
グローバルモデル6車種一気乗り
その年の代表モデルを決める「ワールド カー アワード」は、2004年からはじまった賞で、世界中の自動車ジャーナリストたちによる非営利団体が運営し、グローバルモデルのみを対象とするのが特徴だ。そのワールド カー アワードの選考会が今年も行われ、日本から参加した選考委員のひとり、河村康彦氏が、国内ではなかなか乗る機会のない車両を中心に試乗した。
Text by KAWAMURA YasuhikoPhotographs by SATO Yasuhiko
なかなか乗る機会のないモデルを中心に選定
世界複数のマーケットで販売される最新のグローバルモデルを、選考委員である各国ジャーナリストがあらゆる角度から検証。さまざまな項目から直近1年を代表するにふさわしい1台を選出するのが、2004年に創設をされた「ワールド カー アワード」だ。
毎年春に開催されるニューヨークモーターショー。そこでのイヤーカー発表に向けた試乗会が、今年も開催された。舞台は昨年同様、アメリカはロサンゼルス北東に位置するパサデナのホテル。同じタイミングで開催されているロサンゼスルモーターショーに世界各地から訪れた審査員を対象に、今年はノミネート車両のなかから25モデルが一堂に集められての、トータル5日間に及ぶ大試乗会となった。
日頃からニューモデルに触れる機会は多いジャーナリストたちも、“地元”で販売されているモデル以外をテストドライブできるチャンスにはなかなか恵まれないもの。それゆえ、日本からの選考委員のひとりである当方も、可能な限り多くのモデルを、しかし決して“チョイ乗り”には留まらない範囲でチェックすることを心がけつつ、用意されたテスト車両を次々と乗り換えた。
すでに日本で発売済みのモデルや、海外試乗会で乗っているモデルは除外をしつつ、個人的に気になっていたのは、日本ブランドながら国内では発売をされていないため、試乗の機会が得られていなかったマツダのフラッグシップSUV「CX-9」や、やはりまだ公道試乗のチャンスがなかったUSでの名称が「プリウス プライム」こと「プリウス PHV」などがメイン。
さらには、広島のマツダ工場製ながら国内発売の予定はないというフィアット「124スパイダー」や、日本では近い将来に次期「スカイライン クーペ」として発売されると目されるインフィニティ「Q60」。また、わざわざこのイベントのためにヨーロッパ仕様車がそのまま持ち込まれたフォルクスワーゲン新型「ティグアン」や、アメリカきってのプレミアムブランドの作品であるキャデラック「XT5」なども、興味津々でテストドライブを行った。
World Car Award 2017|ワールド カー アワード 2017
Mazda CX-9 Grand Touring AWD|マツダ CX-9 グランドツーリングAWD
Mazda CX-9 Sport FWD|マツダ CX-9 スポーツ FWD
Toyota Prius Prime Advanced|トヨタ プリウス プライム アドバンスド
グローバルモデル6車種一気乗り
ワールド カー アワード試乗会 (2)
マツダ唯一のターボエンジンを搭載するCX-9
現行マツダ車としては唯一の、ターボ付きエンジンを搭載することでも話題の「CX-9」は、そんな心臓がもたらすスムーズでトルク感豊かな動力性能や、時にダンピングがやや甘めと感じられる場面もあったものの、やはり現行マツダ車としては最も豊かなストロークが実感できるフットワークのテイストなどが好印象。そうしたこのモデルの乗り味は、「新型CX-5でも目指したテイストにも近いもの」というのは、ロサンゼルスショーで出会ったマツダのエンジニア氏によるコメントだ。
ちなみに、現在のところCX-9限定で積まれるこの2.5リッターのターボ付き4気筒直噴ユニットは、「物理的には新型CX-5にも搭載は可能 ―― 」とのコメントも得られた。
現時点では組み合わされるATが6段にとどまるのが残念だが、スタートの瞬間からしっかりと力感を伴って回るこのターボエンジンは、いずれCX-9以外にも搭載される時がやって来るのだろうか?
EVらしさ強調するプリウス プライム
一方、フル充電済みの状態を狙い“朝一番”の試乗枠を確保して乗った「プリウス プライム」は、プラグイン機能を持たない通常の「プリウス」とは異なる、別次元の色濃いEVらしさの持ち主であることが確認できた。
アクセルペダルを深く踏み込んだ状態が数秒間キープされると、エンジンが始動され出力を上乗せするものの、アクセル“ベタ踏み”が一瞬で終了する場合、エンジンは始動しない。絶対的な加速力がもう少し強力ならば良いのに――と欲が生まれるシーンはあったものの、それでも通常のプリウスでのモーターのみでの加速よりは確実に素早く速度を増していく。その様子は、まさに「100パーセントのEV」というテイストそのものだ。
トヨタが新型プリウスシリーズから採用を始めた新骨格“TNGA”の威力は絶大で、右に左にと続くコーナーを、低重心感覚の強い自在なハンドリングでクリアしていけるテイストは、従来型プリウスとは別次元の仕上がり。
残念ながらこの先、アメリカでは税制面などで“エコカー”としてのインセンティブを受け取ることができなくなってしまうのが標準型のプリウス。それだけに、「補助金を含めて考えれば、普通のプリウスよりも安価に手に入る」と、そんな絶妙な価格設定で発売をされるこちらPHV仕様の売れ行きが、今後の新型プリウスの評価を決定していくことになるはずだ。
World Car Award 2017|ワールド カー アワード 2017
Fiat 124 Spider Classica|フィアット 124 スパイダー クラシカ
Volkswagen Tiguan 2.0TSI 4Mition|フォルクスワーゲン ティグアン 2.0TSI 4モーション
グローバルモデル6車種一気乗り
ワールド カー アワード試乗会 (3)
予想外に上出来だった日本生まれの“フィアット”
前述のように組み立ては日本で行われるものの、日本市場では正規購入のできない、最高出力160psを発するターボ付きの1.4リッター エンジンを搭載する“普通の124スパイダー”は、AT仕様でテストドライブした。
ところが意外なことに、このモデルの乗り味に関しては、日本で発売中のアバルト「124スパイダー」よりも、個人的にはむしろ好印象を受けることに。アバルトのMT仕様では大いに気になった、スタート時のエンジントルクの細さがまったく気にならず、同様にアバルトでは「かた過ぎ!」と感じられたフットワークのセッティングがしなやかさを増し、その分多くの路面で接地感により優れると実感することができたからだ。
予想に違わず好印象のティグアン
ナビゲーション画面を開くとヨーロッパの地図が表示されるなど、このイベントのために、急遽アメリカに運ばれて来たという雰囲気溢れる初対面の新型「ティグアン」は、最新の「ゴルフ」などと走りのテイストが共通する「ほぼ予想通りの好印象」の持ち主だった。
テストドライブを行ったのは、最高180psを発するターボ付き2リッター エンジンを7段DCTと組み合わせて搭載し、その出力を4輪へと分散して伝える「2.0TSI 4モーション」。
キープコンセプトの印象が強いルックスは新鮮さには欠けるものの、軽いフットワークで快適性にも静粛性にも優れるその走りは、なるほど“最新作”と納得するにふさわしい仕上がり。
もちろん、パッケージングも大人4人が長時間を過ごすために、いささかの不満もないもので、欧州発の最新コンパクトSUVとして日本でも好評を博すことになりそうだ。
World Car Award 2017|ワールド カー アワード 2017
Cadillac XT5 3.6 AWD|キャデラック XT5 3.6 AWD
Infiniti Q60 3.0t|インフィニティ Q60 3.0t
グローバルモデル6車種一気乗り
ワールド カー アワード試乗会 (4)
日本導入を期待させるキャデラックXT5
一方、全長が4.8メートル強で全幅が約1.9メートルと、アメリカンSUVとしては比較的小ぶりなボディを採用するのが、“2017年モデル”としてアメリカ市場で発売されたばかりのキャデラック「XT5」。実は、この新骨格を採用したブランニューSUVは、「SRX」の後継モデルとして開発されたと言われるもの。すなわち、今後日本に導入される可能性も大いに考えられるというわけだ。
FWD(前輪駆動)仕様も設定はされるものの、今回テストドライブしたのは4WD仕様。舵の正確性は高く、路面を問わず4輪の接地感もつねに優れる――というあたりは、実は最新キャデラック車に共通をする美点であったりもする。
一方、インテリアに採用された木目(調?)パネルの質感は欧州発のライバルに明確に見劣りするなど、このクラスの最新プレミアムSUVとしては、主に見た目の点でやや残念な部分も。
いずれにしても、日本導入時にそれなりの存在感を放つためには、右ハンドルバージョンの設定は最低限必須と言えるポイントだ。
エンジン以外は残念感の残るインフィニティQ60
ところで、なかなか流麗なスタイリングから個人的には大いに期待をしていたインフィニティの最新クーペ「Q60」は、実際に乗ってみると何とも期待外れ感が否めなかった。
いざスタートするためパーキングブレーキを解除しようとすると、それは“足踏み式”というこの期に及んでのこのクラスではまずあり得ない旧さ。さらに、気を取り直して走りはじめると、突っ張ったフットワークが伝える路面凹凸のダイレクトさが、やはり何とも古臭い乗り味を彷彿とさせるものであったのだ。
新開発されたツインターボ付きの3リッターV6ユニットが7段ATとの組み合わせによって発する力強さは、さすがに最高出力が400psというだけあって不満のないもの。けれども、今回のテスト車にオプション採用されていた、“世界初”を謳う例のバイワイヤ式ステアリングは、やはり違和感がタップリ。日本の「スカイライン」でテストドライブして以降、熟成が進んだ感を受けられなかったのは、何とも残念でだった。
こうして、今回のテストドライブによってこれまでの自身の経験に加えさまざまな新たな印象が得られたことは、実に大きな収穫。果たして、今期はどのようなモデルがどのような部門賞と大賞を獲得するのか、自身でもますます楽しみになってきた。