Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか
CAR / FEATURES
2016年6月14日

Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか

McLaren 570S|マクラーレン 570S

Jaguar F-Type R AWD|ジャガー Fタイプ R AWD

Lamborghini Huracan LP610-4|ランボルギーニ ウラカン LP610-4

Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか

輸入車のラインナップが充実してきている。スーパーがつくようなスポーツカーの分野でも、面白いモデルが続々日本に登場するなか、小川フミオ氏が従来の価値観にとらわれず、自分好みの選択をしようと提案する。

Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか

Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki

クール・クールなスポーツカー

なぜ、フェラーリじゃいけないのか ―― マクラーレン570S

マクラーレンはとても面白い会社だ。そもそもは1963年にブルース・マクラーレンがスタートさせたフォーミュラ1のチーム。そこからのスピンオフのようなかたちで、マクラーレンカーズが誕生したのが1990年だ。目的はスポーツカーの製造販売。

マクラーレン・オートモーティブは、新たな資金を注入して、2009年に設立された。マクラーレンカーズの理念を引き継ぎつつ、当初はF1活動を中心とするマクラーレングループから独立した存在になることを目指した。が、実際は経営体制などで比較的近いところにある。

マクラーレン・オートモーティブが手がけるラインナップは豊富だ。大別すると3つ。頂点が「アルティミットシリーズ」。次に、サーキットを得意とする「スーパーシリーズ」、そしてより幅広い層を対象とした「スポーツシリーズ」となる。今回乗った「570S」はスポーツシリーズに属する。既発の「650S」はスーパーシリーズだ。スーパーをつけたくなるスポーツカーでもこれだけバリエーションを作る。個人的には超高級ウォッチブランドとマクラーレン・オートモーティブとはイメージが重なる部分があるのだが、それは精密なメカニズムへの信仰を感じさせるとともに、こういう製品展開方法ゆえかもしれない。

McLaren 570S|マクラーレン 570S

McLaren 570S|マクラーレン 570S

マクラーレン 570Sの魅力は、じつに緻密に出来たスポーツカーであることだ。まさに精密ウォッチというかんじだ。価格的にいうと、2,556万円の570Sには、フェラーリなら、同じようにオープンになるカリフォルニアT(2,450万円)がライバルとなるだろうか。フェラーリは、412kW(560ps)の3,855ccV8エンジンをミドシップして、性能的には静止から100km/hまでの加速に要する時間は3.6秒。それに対して570Sは、3,799ccのV8をやはりコクピット背後に搭載して419kW(570ps)の最高出力と、静止から97km/hまでの加速を3.1秒でこなす。

フェラーリの魅力が、端的にいうと、乗る人の気分をいきなり昂揚させてくれるところにあるとしたら、マクラーレンはクールだ。けれん味のないスタイリングから想像されるとおりで、印象としては“静か”という言葉が似合う感じだ。しかしメチャクチャ速くて、ハンドリングは正確そのもの。97km/hまでの加速が3秒フラットという650Sよりは数値的にアンダーパワーだし、サーキットでの性能も劣るかもしれないが、それはあくまで“上”と比較した話。インテアリアの質感の高さといい、じわじわと好きになっていくのは間違いない。

これみよがしの派手さがない。それをよしとすることができるなら、持つ人に喜びと誇りを与えてくれるスポーツカーだ。しかもGTとして遠出しても疲れないだろう(未体験)、乗り心地のよさがある。最近のマクラーレン・オートモーティブは(ポルシェ商法のように)高性能モデルを追加しはじめている。570Sは“このあたりで十分だ”と割り切れるところも魅力といえる。日本人の好みに合うスポーツカーなのだ。

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McLaren 570S Coupe|マクラーレン 570S クーペ
ボディサイズ|全長 4,530 × 全幅 2,095(サイドミラー含) × 全高 1,202 mm
重量|1,344 kg(軽量オプション時は1,313kg)
エンジン|3,799 cc V型8気筒 ツインターボ
最高出力| 570 ps / 7,500 rpm
最大トルク|600 Nm / 5,000-6,500 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(SSG)
駆動方式|MR
サスペンション|ダブルウィシュボーン (アダプティブダンパー)
タイヤ 前/後|225/35R19 / 285/35R20(ピレリ P ZERO Corsa)
ブレーキ|カーボンセラミックディスク
最高速度|328 km/h
0-100km/h加速|3.2 秒
0-200km/h加速|9.5 秒
CO2排出量|258 g/km
燃費|11.1 ℓ/100 km(約 9.0 km/ℓ)
価格|2,556 万円

Why not? なぜセダンに乗らなくちゃいけないのか

McLaren 570S|マクラーレン 570S

Jaguar F-Type R AWD|ジャガー Fタイプ R AWD

Lamborghini Huracan LP610-4|ランボルギーニ ウラカン LP610-4

Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか (2)

コスト・パフォーマンスに趣味性

なぜ911じゃいけないのか ―― ジャガーFタイプR AWDクーペ

ジャガーのスポーツモデル「Fタイプ」はバリエーションが豊かだ。ボディはクーペとコンバーチブルの2タイプ。エンジンスペックはさらに多岐にわたる。

ベースモデルの「Fタイプ」(887万円~)には340ps(240kW)の3リッターV6。「Fタイプ S」(1,079万円)は基本的に同じV6ながら380ps(280kW)の最高出力。「Fタイプ R」(1,373万円~)は550ps(405kW)の5リッターV8を搭載する。さらにまもなくそこに、575馬力(473kW)の「FタイプSVR」(1,779万円)が加わる。

もう一つ、Fタイプのラインナップの特長は、後輪駆動モデルと、フルタイム4WDモデル(ジャガーではAWDと呼ぶ)の設定だ。それが2015年に追加設定された、「Fタイプ R AWD」で、通常トルクのほとんどは後輪へ配分される。エンジンは5リッターV8で、ボディはクーペとコンバーチブルとが用意される。

ジャガーFタイプの魅力は、要するに、豊かなバリエーションを持つところにある。マニュアル変速機搭載モデル(Fタイプ S)もある。なかでも、抜群のオールマイティぶりを発揮するのが、Fタイプ R AWDだ。

Jaguar F-Type R AWD|ジャガー Fタイプ R AWD

Jaguar F-Type R AWD|ジャガー Fタイプ R AWD

Fタイプ R AWDの魅力は、パワフルさとコンフォートとが両立しているところにある。しかもAWDシステムは、雪道では(スタッドレスタイヤと組み合わされば)かなり頼りになる。ロードクリアランスはごくわずか上がっているだけなので、積雪路はともかく、圧雪路ならがんがん走っていける。これも、あらゆるライフスタイルに対応し、ラグジュアリー性も併せ持つスポーツカー、Fタイプにふさわしい。

価格と車種展開の方法などからすると、Fタイプのライバルはポルシェ「911」シリーズだろう。911は昨今エンジンのダウンサイジング化(ライトサイジング化ともいうらしいが)が進んでいるが、Fタイプは高性能化を進めているし、方向性は近いものを感じるからだ。

911はFタイプよりだいぶ価格帯が上だ。ベーシックモデル「カレラ」で1,309万1,000円、FタイプRと近い。370ps(272kW)の3リッター6気筒エンジンの後輪駆動で、静止から100km/hにいたる加速は4.5秒。対して、Fタイプ Rは4.2秒だ。V6のFタイプ Sに少し下げれば、加速は5.5秒だが、300万円近い価格差を埋め合わせる楽しさはある。

Jaguar F-Type R AWD|ジャガー Fタイプ R AWD

Jaguar F-Type R AWD|ジャガー Fタイプ R AWD

Fタイプを楽しもうと思ったら、パワーを余すところなく使える感じのFタイプ R AWDが最高だ(SVR未体験)。高速での安定性をはじめ、コーナーからの立ち上がりといい、パワーをかけたときの加速性といい、4つの車輪を駆動することによるトラクションの高さをフルに生かしている感じだ。カーブを曲がるときも外側にふくらんでいくようなこともない。

Fタイプ R AWDのもうひとつのよさは、ロングツアラーとしての資質の高さにある。長距離ドライブでも疲労感をいっさいかんじない。乗り心地はややゴツゴツ感があるかなと思わないでもないが、安定感ばつぐんであり、長い距離を走っても体はまったく疲れない。よく出来ている。

シートも、見た目がいいだけでなく(これもFタイプのアドバンテージだ)、クッション性などとてもいいのだろう。長い距離乗ってみて、改めて性能の高さに気づいた。

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Jaguar F-Type R AWD Coupe│ジャガー Fタイプ R AWD クーペ
ボディサイズ│全長 4,470 × 全幅 1,925 × 全高 1,315 mm
トレッド 前/後|1,600 / 1,650 mm
ホイールベース│2,620 mm
重量|1,860 kg
最小回転半径│5.5 m
エンジン│4,999 cc V型8気筒 DOHC スーパーチャージド
ボア×ストローク|92.5 × 93.0 mm
最高出力│495 kW(550 ps)/6,500 rpm
最大トルク│680 Nm/3,500 rpm
圧縮比│9.5:1
トランスミッション│8段オートマチック
0-100km/h加速│4.1 秒
最高速度|300 km/h
燃費(JC08モード)|8.1 km/ℓ
CO2排出量|269 g/km
タンク容量│310-408 ℓ
価格│1,444 万円

McLaren 570S|マクラーレン 570S

Jaguar F-Type R AWD|ジャガー Fタイプ R AWD

Lamborghini Huracan LP610-4|ランボルギーニ ウラカン LP610-4

Why not? なぜスポーツカーに乗らなくちゃいけないのか (3)

合理性を拒否した一級の演出

なぜアウディR8じゃいけないのか ―― ランボルギーニ ウラカンLP610-4

ランボルギーニ「ウラカン」は、スーパーがつくスポーツカーのなかでも、異例にバランスのとれたモデルだ。オンロードでの性能、サーキットモデルまで展開する多様性、そして他に類のない際だったスタイリング。さらにスタッドレスタイヤを履けば(とくに末尾に4がつくフルタイム4WDモデルでは)圧雪路もみごとにこなしてしまう。

2014年に「ガヤルド」の後継車としてデビューしたウラカン。5.2リッターV10エンジンをミドシップしたスポーツカーだ。出力は、580ps(427kW)と、610ps(449kW)とがあり、それが車名になっている。ボディ形状はクーペとスパイダーの2タイプ。駆動方式は(現在とのころ)LP580は後輪駆動で、LP610はフルタイム4WDとなっている。

Lamborghini Huracan LP610-4|ランボルギーニ ウラカン LP610-4

Lamborghini Huracan LP610-4|ランボルギーニ ウラカン LP610-4

よく知られているように、ウラカンは、親企業であるアウディの新型「R8」とプラットフォームを共用している。それがこのクラスのなかではとびぬけて安定した走行性能に大きく寄与しているのだ。見かけはかなりエキゾチックだけれど、操縦性のよさは特筆もの。斜め後方を目視するにはやや難があるけれど、いまはそれも電子デバイスによる警告システムでカバー。日常的に使えるクルマである。

日常的といっても、静止から100km/hまでの加速は3.2秒という加速性能に代表されるとおり、性能は非日常的だ。やや重めの設定となるステアリングを含めて、ハンドリングはクイックでスポーティ。慣れていない人にはトゥーマッチ感があるかもしれないが、昔から大排気量のスポーツカーに乗り慣れている人なら“まさにこれ!”と言いたくなるはず。スポーツカーのヘリティッジを理解した作りだ。

ウラカンの面白さは(少々もってまわった言い方になるけれど)求められるスポーツカー像の解釈と再構築にあると思われる。一見、合理性とはかけ離れたルックスといい、1,165mmとマクラーレン570Sより低い全高といい、太くて薄いタイヤに高価そうなホイールの組み合わせといい、すべての点において特別感が強い。

Lamborghini Huracan LP610-4|ランボルギーニ ウラカン LP610-4

Lamborghini Huracan LP610-4|ランボルギーニ ウラカン LP610-4

キャビンが前進したプロポーションをはじめ、ブランドの意匠上のアイコンといえる六角形のモチーフをあらゆるところに用いたり、電子的に増幅してまで太くて乾いた排気音を聞かせたり、といったぐあいだ。知識を総動員して、細部の凝り方を発見していく過程で、ファンは、ランボルギーニの開発者と、ランボルギーニというブランドへの“忠誠度”を競い合う楽しみもある。

最後に特筆すべきは、5.2リッターV10は自然吸気型であることだ。フェラーリをはじめ、(直接のライバルにはならないが)ポルシェなど、多くのスポーツカーメーカーがターボ化を進めているなかで、大排気量を守っている。回転を上げていくほど高まるパワー感は絶妙。“分かっている”人のための、スーパースポーツだ。

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Lamborghini Huracan LP 610-4|ランボルギーニ ウラカン LP 610-4
ボディ|全長 4,459 × 全幅 1,924 × 全高 1,165 mm
ホイールベース|2,620 mm
トレッド 前/後|1,668 / 1,620 mm
車輛重量|1,422 kg
エンジン|5,204cc V型10気筒
ボア×ストローク|84.5 × 92.8 mm
最高出力| 449 kW(610 ps)/8,250 rpm
最大トルク|560 Nm/6.500 rpm
トランスミッション|7段LDF(ランボルギーニ・ドッピア・フリッツィオーネ)
駆動方式|4WD
サスペンション 前/後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前|245/30R20(Pirelli P Zero)
タイヤ 後|305/30R20(Pirelli P Zero)
ブレーキ 前|ベンチレーテッド カーボンセラミックディスク φ380 × 38 mm
ブレーキ 後|ベンチレーテッド カーボンセラミックディスク φ356 × 32 mm
最高速度|325 km/h
0-100km加速|3.2 秒
0-200km加速|9.9 秒
燃費|12.5 ℓ/100 km(およそ8.0km/ℓ)
CO2排出量|290 g/km
価格(消費税込み)|2,970 万円

           
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