成熟の域に達した現行型911に試乗|Porsche
Porsche 911 Carrera & 911 Carrera 4 GTS|ポルシェ 911 カレラ & 911 カレラ4 GTS
成熟の域に達した現行型911に試乗
今だからこそ味わえる魅力
環境性能向上のため、ターボ化とダウンサイジング化が図られた最新型ポルシェ「911」が発表され、OPENERSでも国際試乗会での試乗記をお届けした。いっぽう、NAユニットならではの特長を最大限に持ち、成熟の域に達したともいえる現行モデルの魅力が捨てがたいのも事実。そこで、モータージャーナリスト小川フミオ氏が、改めて試乗してみた。
Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki
心を動かされる、素晴らしいスポーツ性
ポルシェ「911」に乗ると、本当にこれだけでいい、と思う。スポーツカーのほとんどすべてが詰まっている。最近、「ミッションE」と呼ばれる電気モーターで四輪を駆動する次世代スポーツカー開発計画を発表したポルシェ。新しい動きは支持もしたいが、もう少しだけ、911で楽しみたい。さらに、ターボ化直前の、現行911(ファミリー)の魅力は、まさに今だからこそ味わえるものだ。
ポルシェ911の現行モデル(ファンが好んで使うコードネームでは「991」)は2011年に発表された。先代911(「997」型)がさらにもう一つ前の911(「996」型)とシャシーを共用していたこともあり、現行モデルは大きな技術的飛躍が最大の魅力である。
シャシーはアルミニウムなど軽量素材を使用することで最大60kg軽くなった。いっぽうで、ホイールベースが100mm延長されるとともに、リアエンジンの搭載位置の見直しなどで、サスペンションレイアウトが改良されている。
エンジンは、997後期に用意された、新開発の水平対向6気筒エンジンをベースにしたもの。燃料直接噴射方式と、「バリオカム」とポルシェが名づけた可変バルブリフトおよびバルブタイミング機構が備わった。ベースの「カレラ」と「カレラ カブリオレ」のためのユニットは、従来の3.6リッターから3.4リッターにダウンサイジングされて燃料効率が高められているのも特徴だ。しかし出力は5ps上がっている。
911は大きなファミリーで、現在日本でのラインナップを数えると、20近いモデルが存在する。「911ターボSカブリオレ」は3,000万円になんなんとするプライタグを提げている。ぶ厚い財布を持っていたら、迷う楽しみは大きい。それでも、911の核にある魅力は、911カレラで堪能できるといっていいだろう。
7段マニュアル変速機を備える、もっともベーシックな911カレラ(といっても1,178万円するのだが)には、心を動かされる、素晴らしいスポーツ性がある。
Porsche 911 Carrera & 911 Carrera 4 GTS|ポルシェ 911 カレラ & 911 カレラ4 GTS
成熟の域に達した現行型911に試乗
今だからこそ味わえる魅力 (2)
911ラインナップの核
911のラインナップの最もベーシックなところに位置する「カレラ」。911を象徴する名前だ。読者は先刻ご承知だろうが、1950年代にポルシェが活躍した公道レース「カレラ パナメリカーナ メヒコ」に由来する、レースを意味するスペイン語だ。356というモデルの時代にサブネームとして車名に使われ、911には1984年からクーペには(ターボ以外)使用されてきた。
911カレラは、それだけに、今も911ラインナップの核だと思う。価格的にも性能数値的にも下のほうだから、買いやすさを狙って設定されたモデル、ということではない。その内容の濃さは、操縦するとすぐに分かる。
911カレラには、現在2つのモデルが設定されている。7段マニュアル変速機か、PDKとポルシェが呼ぶツインクラッチの2ペダル式だ。どちらにもよさがあり、PDKのほうが、人がクラッチペダルを踏んでギアを入れ替えるより、機械にまかせたほうが変速タイミングが速くてスポーティ、と好む向きもある。そういうこともあるだろうが、しかし、一度マニュアル変速機を試してみてから決めても遅くはない。
カレラはそもそも、クルマとしての出来がよい。390Nmの最大トルクは5,600rpmで発生と、見事にスポーティな設定。低回転域からしっかり実用トルクが出て、それがよどみなく、エンジン回転の上昇とともに、車体を押し出していく。エンジン音はだいぶ抑えられているが、高音成分がうまく取り出されていて、耳に心地よい刺激を与える。この加速感覚は脳天直撃型だ。
エンジンは小さくなったとはいえ、3.4リッター。豊かなトルクを出し、1,000rpmを切るところからレッドゾーン手前まで、あらゆる回転域で息つぎもしない、するどい加速が味わえる。ターボでない、自然吸気型のよさが、ここにあるように思う。ポルシェのターボ車の、体感的な部分を含めて技術力の高さからすれば、ターボでもおそらく魅力的な体験はできるはずだ。
マニュアル変速機は、自然吸気エンジンの広いトルクバンドと相性がいい。PDKに対するメリットは、感覚的な部分では、自分がコントロールしていると思えるところにある。ポルシェはアクセルペダルに込めた力を感知して、加減速を行う絶妙な設定が、とてつもなくうまい。実はドライバーは、体のあらゆる部分を使ってクルマの動きを制御しているのだが、それが実にナチュラルだ。ゆえに、シフトアップとシフトダウンだけで、車両の動きを楽しんでいる感覚になる。
手首の動きだけでギアチェンジができるのがスポーツカーにとって“マスト”なので、911カレラでも上下左右の動きの幅はきわめて小さい。しかしギアにはちゃんとゲート感がある。手前奥という一般的なポジションにある1速で発進したあと、シフトアップをしていく際は、小さな動きだけで、吸い込まれるように、気持ちよくギアがゲートに入っていく。
クラッチがつながるところのミートポイントの設定もよく、多少不慣れでも扱いやすく、すぐ慣れるはずだ。大容量だけあって、高回転まで回してからのシフトでも、じつに気持ちよくつながる。シフトダウンも同様。頭の後ろに、フラットシックスと呼ばれる6気筒エンジンの機械音と排気音を聞きながら、ブリッピングしてギアを落とす楽しみはスポーツカーならではのものだ。
余談だが、ギア操作は利き腕でやったほうが素早くできる(と思っている)。ハンドル位置が選べるので、個人的にはこのクルマだけは左ハンドル仕様を選びたい。
911の“恐ろしさ”は、さらに上があることだ。それが「911カレラ4 GTS」。ほかでは味わえない喜びを求めるドライバーのために、とポルシェが謳うモデルだ。
Porsche 911 Carrera & 911 Carrera 4 GTS|ポルシェ 911 カレラ & 911 カレラ4 GTS
成熟の域に達した現行型911に試乗
今だからこそ味わえる魅力 (3)
ポルシェの高い技術の真骨頂
911を楽しみたければ、カレラから始めるといい、とした。さらなる楽しみは、ラインナップの豊富さにある。自分の望むスタイルに応じてモデルが選べるように車種を拡充したのは、他社に先んじたポルシェのマーケティングでもある。装備レベルにとどまらず、技術的内容がきちんと伴っているのは、ポルシェ以外のメーカーではなかなかできないことなのだが。
好例が、「911カレラ4 GTS」だ。ラグジュアリー性と、サーキットをイメージさせるスポーツ性を併せ持つところに特徴がある。294kW(400ps)の3.8リッター搭載の「カレラS」より、40mm拡大されたリアフェンダーを持つボディに、同排気量ながら専用チューンで22kW(30ps)高い、316kW(430ps)のエンジンを搭載する。
GTSのキャラクターは、例えていうならスポーツウェアだ。身体の動きを制約せず、運動機能を高めるための補強が入っている、その感覚が操縦性にある。無限に速度が上がっていくような加速感覚は、まるで夢の中でアスリートの自分の足に羽根が生え、天かけていくみたいだ。
加速にしても、ハンドリングにしても、ブレーキングにしても、911カレラで不満はないのだが、GTSではその上があることを感じさせる。ここにポルシェの高い技術の真骨頂がある。約600万円の価格差は、ハイビーム走行時に対向車を検知するとそこだけ照射しない「ダイナミックライトシステム」や、レースカー譲りのアルカンタラ表皮のシートだけではない。
サスペンションの硬さが切り替えられる「アクティブサスペンションマネージメントシステム」や「スポーツクロノパッケージ」など、GTSにはスポーツ走行をより楽しめる装備が多い。なにより、特筆すべきは、感覚的な部分にある、自分と直結したような、絶妙な効き味を持つブレーキや、ミリ単位のライン変更も可能と思わせる正確なステアリングなど、入念なチューニングこそ、ポルシェのエンジニアのノウハウが詰まっているはずだ。これこそ、GTSの最大の価値だと思う。
試乗したのは、四輪駆動システムを備えるカレラ4 GTSだった。「トラクションマネージメントシステム」が組み合わされ、前後の駆動力配分は電子制御のマルチプレートクラッチが行う。路面状況や走行モードによって、トルク配分を変化させていき、ポルシェでは雪道での安全性の高さも謳っている。
今回は限られた時間での試乗だったので、高速道路での走行も制限されていたし、摩擦係数の異なる路面も体験できなかった。万能のグランドツアラーともいうべき、カレラ4の真価をじっくり味わうことはできなかったわけである。サーキットなどスポーツ走行でも走りのキャラクターは異なる。ナチュラルな走行感覚を体験すると、自分だったら、二輪駆動と四輪駆動、どちらを買うか。悩ましい選択はつきないと感じた。ポルシェには永遠に悩まされるのだろうか。
ポルシェカスタマーケアセンター
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