初試乗、フェラーリ カリフォルニアT|Ferrari
Ferrari California T|フェラーリ カリフォルニア T
ターボのフェラーリについて考える
初試乗、フェラーリ カリフォルニアT
2014年3月のジュネーブ モーターショーでデビューしたフェラーリ「カリフォルニアT」は、「F40」以来ひさびさとなるターボを搭載したフェラーリという点で注目を集めた。アメリカで実際にカリフォルニアTに試乗する機会を得た九島辰也氏は、そのエンジニアリングに感心し、フェラーリのつくるターボ車というものについて考えを巡らせた──。
Text by KUSHIMA Tatsuya
フェラーリのターボ
イタリア語のコンプレッソーレ。英語でいうコンプレッサー、つまり過給機のことだ。もっと身近な言い方をすればターボチャージャー。排気ガスの一部を使ってタービンをまわし、圧縮した空気をエンジン内へ送り込むアレである。
フェラーリが実用化したのは80年代の初頭のフォーミュラカーと言われる。スクーデリア フェラーリが手がけたそれは、バンク角120度のV6エンジンで、上部にドイツのKKK製ターボチャージャーをマウントしていた。物の本によれば、ターボラグのキツいかなりやんちゃなマシンだったらしい。
では市販車ではどうか。
すぐに思い浮かぶのは、「F40」だろう。1987年にフェラーリ創業40周年記念として登場したスーパースポーツで、そのエンジンにインタークーラー付きツインターボが搭載されていた。サプライヤーはIHI。公称最高速度は320km/hというから恐れ入る。21世紀に突入したいまもじゅうぶん通じる、トップランクであることはまちがいない。
このほかでは「288GTO」なんかもそうだが、個人的には「208GTB/GTSターボ」も見逃せない。おなじみ「308」同様のピニンファリーナデザインボディに2リッターV8をミッドにマウントしたモデルである。こいつには前述したフォーミュラマシンの影響が色濃く残る。ターボチャージャーはそれとおなじKKK製だったからだ……。
Ferrari California T|フェラーリ カリフォルニア T
ターボのフェラーリについて考える
初試乗、フェラーリ カリフォルニアT (2)
おおきな進化を果たした“T”
そんなフェラーリが久々のターボチャージャー搭載モデルを市販化した。それがこの「カリフォルニアT」である。“T”はまんまターボであることをあらわす。
ベースとなったのは「カリフォルニア30」。こいつはそれまであった「カリフォルニア」をさらにブラッシュアップしたモデルで、30馬力アップと30キロの軽量化を施したものとなる。最高出力は490psで、0-100km/h加速は3.8秒まで向上した。ちなみにそれまでは460ps、4.0秒であった。
なにがいいたいかと言うと、カリフォルニアTの進化はその度合いをはるかに越している。こいつの最高出力は560psで、0-100km/h加速は3.6秒にまで縮められているからだ。しかも、約15パーセントの燃費抑制と二酸化炭素排出量の軽減も見事こなした。
エンジンの排気量は4.3リッターから3.9リッターへダウンサイジングされる。エンジンのダウンサイジングは流行と言えばそうだが、それでいてこの数値だけにターボの効果的な効力を感じる。タービンはツインスクロール型で、低回転から稼働。レスポンスタイムを最小限にするためツインスクロールになった。サプライヤーはF40のときとおなじIHI。彼らとの共同開発がこれだけのパフォーマンスを生む。
ちなみに、フェラーリは昨今、IHIとのつながりを太くしている。というのも、マセラティに積まれるV6パラレルツインターボもまた、彼らとのコラボとなるからだ。このエンジンはマセラティが開発、マラネロにあるフェラーリ ファクトリーで生産されるという。が、今回フェラーリの開発陣に問うと、フェラーリからエンジニアがマセラティに出向いてターボエンジンは開発されたといっていた。
Ferrari California T|フェラーリ カリフォルニア T
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初試乗、フェラーリ カリフォルニアT (3)
フェラーリサウンドは健在
では、カリフォルニアTのターボエンジンはどんなフィーリングなのか。率直に言ってターボの感覚は薄い。というのも、右足の動きにたいするアクセレーションは至極滑らかで、不自然なターボラグは一切ない。それこそ自然吸気ユニットのようなテイストである。
もちろん、走りの状況で7段あるギアをいろいろな速度域から試すとラグは発生するが、そうでない限り気になるところはない。
ただ、エンジニアに言わせると、じつは高回転領域の方が難しかったそうだ。今回そこをクリアしたことに自信を持って語っていた。
また、彼らはこうも言っている。このエンジンもまたフェラーリ伝統の力強いレーシーなサウンドを奏でるように全力を注いだと。
確かに、ターボになっても“らしさ”はままで、例の甲高い乾いたサウンドは楽しめる。一瞬にして一般道をサーキットに変えてしまうほどの存在感は健在だ。しかも今回はさらに低回転域のボリュームが上がった。というか、低音もしっかり出ているのが珍しい。この辺についてリリースでは、「等長パイプの排気ヘッダーは排気脈度を最適化し……」なんて説明している。
サウンドもそうだが、個人的にユニークに思えたのはバリアブル ブーストマネジメントというシステム。これはシフトポジションによってトルクの出方を変える仕組みで、3速から7速まで異なるトルクをエンジンが供給する。もしかしたらこの辺が自然吸気っぽい演出に一役買っているのかもしれない。
といった状況を見てゆくとエンジンだけで語るべきものは多い。これぞエンジニアの執念。とにかく、今回彼らはあらゆる角度からターボのメリット・デメリットを追求し、最適なものをつくりだしたのだ。
Ferrari California T|フェラーリ カリフォルニア T
ボディサイズ|全長 4,570 × 全幅 1,910 × 全高 1,322 mm
ホイールベース|2,670 mm
トレッド 前/後|1,630 / 1,605 mm
乾燥重量|1,625 kg
重量配分 前/後|47% / 53%
エンジン|3,855 cc 90度V型8気筒 直噴ターボ
最高出力| 412 kW(560 ps)/ 7,500 rpm
最大トルク|755 Nm(77.0 kgm)/ 4,750 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|245/40ZR19 / 285/35ZR19
ブレーキ|カーボンセラミック(CCM3)
最高速度|316 km/h
0-100km/h加速|3.6 秒
0-200km/h加速|11.2 秒
燃費(NEDC値)|10.5 !/100km(9.5 km/!)
CO2排出量|250 g/km
燃料タンク容量|78 リットル
トランク容量|340 リットル(ルーフ収納時)
価格|2,450万円