フェラーリ 458スパイダー&FFをロードテスト|Ferrari
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2014年12月5日

フェラーリ 458スパイダー&FFをロードテスト|Ferrari

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

優美な力で人生を彩る

2台のフェラーリをロードテスト

フェラーリを語るとき、その圧倒的な運動性能ばかりが注目されすぎてはいないだろうか──OPENERSは今回、渡辺敏史氏とともに「458スパイダー」、そして「FF」をロードテスト。あくまで日常的な領域において、その魅力とフェラーリがもたらす価値を問いなおす。

Text by WATANABE Toshifumi
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

スポーツ性能を突き詰めたことで高い日常性を獲得した

21世紀に入ってからの十幾年における、フェラーリの最大の進化。それを誤解をおそれずにいえば「誰にでも扱える」ものになったということだろう。

単にドライビングスキルを問われなくなったというだけではない。安全性や信頼性や快適性に……と、市販車としてのあらゆるファクターで、フェラーリはおおくのユーザーを満足させるべく、間口をひろげてきた。

だが、それは市場への全面的な迎合ではなく、むしろ必然がもたらした副産物と考えるべきだろう。そもそもフェラーリが90年代後半にいち早くスーパースポーツの世界に持ち込んだパドル変速の2ペダル セミオートマチックも、シフトレバーへと手を離すことなくステアリング操作に集中するために設えられたもので、変速制御にはF1のテクノロジーももちいられていた。

結果的に2ペダル化の判断が多様なユーザーを誘引することになったわけだが、本来の目的はスポーツドライビングのためだったわけである。

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

あるいは、乗り心地にかんしてもそうだ。走りを突き詰めればサスペンションの作動を設計値に近づけるべく、おのずとボディ剛性の向上が求められるようになる。サスペンションの可動領域が増え想定通りの働きをしめすということは、結果的に低速域からの作動抵抗低減に繋がり、普段の乗り心地にも好影響をうながす。あくまで走りを端緒としての、こういう循環が昨今のスーパースポーツに日常性をもたらしていることは想像に難くない。

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

優美な力で人生を彩る

2台のフェラーリをロードテスト(2)

フェラーリ流の“モード”─ 458

いま、その最たるところにあるモデルとして挙げたくなるのは、フェラーリ「458」だ。前型にあたる「F430」とくらべても著しくかわったそのデザインは、人によっては奇をてらった流行的なものにみえるかもしれない。が、そのディテールには隅々に至るまで、空力特性にまつわる理由が介在している。

じつは、その道のプロがみればみるほど、ため息を漏らすほどのエアロダイナミクスの塊。走りを突き詰めるがゆえに生まれた機能的な形状を、あからさまにそうとは見せないのが彼ら流の「モード」である。

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458 スパイダー

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458 スパイダー

このシェイプと両立する形で「458」が実現したのは、可能な限り広い前方および左右視界の確保だ。これもまた、本来はコーナリング時の視認性に考慮したという建前ではあるものの、副産物的に日常域での取りまわしやすさに大きく貢献している。そしてしっかりと立てられたフロントフェンダーの両峰は車幅の把握を容易にし……というわけで、「458」は「360モデナ」や「F430」あたりとくらべても、街中での扱いに無用なストレスが溜まらない。

昨今の世界的な騒音規制強化の波を察してか、周囲の流れと同調しながら乗っている限りはほどよく抑えられたエキゾーストサウンドも相まって、「458」の車内は普通に会話を楽しむほどの静粛性ももたらされている。あるいはちょっと奢ったオーディオを鳴らすのもいいだろう。

掘り起こせば掘り起こすほど、思い浮かぶのは、もはやスペシャリティクーペのような快適性。その裏に、フェラーリきっての旋回性能や爆発的な火力を擁しているということがにわかに信じられなくなる。「458」の多芸ぶりは、いま、すべてのスーパーカーを並べても褪せてみえることはないはずだ。

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

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2台のフェラーリをロードテスト(3)

スパイダーを選ぶ理由

そして、そのスペシャリティ的な側面をさらに押しあげるのが、ユニークな開閉システムをもつメタルトップ オープンの「458スパイダー」。手許のボタンを押すと、アルミ製のルーフが180度反転するようにリアのフード内に収まるそれは、開閉時間も14秒とストレスを感じさせないだけでなく、幌屋根を持つ前型の「F430スパイダー」にたいして25kgのシステム重量低減をはかるなど、フェラーリのスポーツカーとしてのキャラクターにもしっかり沿うものになっている。

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458 スパイダー

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458 スパイダー

耐候性や静粛性、セキュリティやメンテナンスなどの面では有利な反面、オープンモデルらしい「粋」に欠ける……というのはメタルトップのオープンカーにまつわる巷のおおくの認識だが、「458スパイダー」はその議論の俎上にはあがらないクルマかもしれない。というのも、限りなくクーペとおなじプロポーションを保ちながらルーフの開閉を可能にすることを目的としているからだ。発想としては、先祖にあたる246~355系のデタッチャブルルーフにさらなる解放感をあたえつつ、現代に蘇らせたという解釈になるだろうか。

フレーム構造も手伝って、シャシー側の剛性感はクーペとほぼ遜色ないレベル。サーキットを激走するような状況でもなければ屋根開きのハンデを感じることはまずないだろう。クローズド時のキャビン環境も然り。接合部が異音を立てることもなく、車内は平穏が保たれる。

もちろん、クーペにたいして増えてはいる重量も、570psを発揮するV8ユニットの前には、とるに足らずというのが正直な印象……ということで、「458スパイダー」は乗ってもまた、クーペとかぎりなく近いパフォーマンスを供するものになっている。

やろうとおもえばもう、そこらの峠あたりでは手に負えないほどの壊滅的な速さをみせてくれるわけだが、その気にならずとも流しているだけで気持ちがいい……という点において、屋根が開くというオプションは、価格以上の価値があるものだ。

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458 スパイダー

また、まちがいなくフェラーリを持つ意味のひとつである、エンジンの存在感を常にアリーナ席で味わえるというのも、スパイダーに与えられた特権のひとつといえるだろう。

それでなくても目立つクルマの屋根まで開けるという敷居の高さは、一見するとクーペと相違なさそうにみえるフォルムとファンクションが和らげてくれる。敢えてハズした色や沈んだ色を選んで、最上のオープンエア環境を日々のものに──「458スパイダー」は、そんなフェラーリの愉しみ方を妄想させてくれる1台だ。

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

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2台のフェラーリをロードテスト(4)

伝統と改革―Ferrari Four

フェラーリといえばF1直系の最強スポーツカーブランドというイメージが常に先行するが、コンマ一秒を削り落とすばかりが自らの役割ではないことは、彼ら自身が一番よく知っているはずだ。12気筒エンジンをフロントに収めた、2+2シーターの2ドアクーペ。このパッケージにこそフェラーリの伝統が詰まっていることに、疑いの余地はない。世の嗜好がどう移ろえど、フェラーリはそのエスタブリッシュなニーズに応えつづけるし、それを望むユーザーもまた確実に存在する。こればかりはどのフォロアーも侵すことはできない領域だ。

フェラーリは2011年、唯我独尊ともいえるこのカテゴリーに大胆な改革を試みた。事実上、「612スカリエッティ」の後継車となる「FF」は、そのスタイリングとユーティリティにシューティングブレーク的なコンセプトを採り入れている。ハッチゲートはラゲッジスペースへのアクセスを容易にし、そのスペースはリアシートのバックレストを倒すことで最大800リットルまで拡張……と、その使い勝手はかつてのフェラーリには望み得なかったものだ。

Ferrari FF|フェラーリ FF

Ferrari FF|フェラーリ FF

フェラーリらしからぬという話でいえば、彼らにとって初となる四輪駆動の採用も注目に値する。後輪側にトランスミッションを配するなど、前後重量配分にもシビアにこだわる彼らのプロダクトにおいては、もちろん四駆システムも可能なかぎり軽くコンパクトにまとめなければ意味がない。

そこでクランクと同軸上にトランスファーユニットを近接させて前輪に最大20パーセントの駆動トルクを配分するという「4RM」をあらたに開発。フェラーリの特許となるこのユニークなシステムは、センターデフを持つ従来の四駆システムにくらべて50パーセントの軽量化を実現している。あわせて前後重量配分も47:53と、怒級のパワーを吸収するにあたっては理想的なものとなった。

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

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2台のフェラーリをロードテスト(5)

FFというクルマ

フェラーリきってのラグジュアリーモデルにして、スキー板を積んで雪山を走れるほどのヴァーサティリティ。「FF」にある両端のギャップはあまりに大きすぎて、僕のような凡人にとって難解なものに映らなくもない。

しかしそのど真ん中に居座るのは紛れもない、スペチアーレモデルである「エンツォ・フェラーリ」の直系ともいえる12気筒ユニットだ。直噴化が施されたそれは、7段デュアルクラッチ トランスミッションと組みあわせられ、滑らかな発進や変速を可能にしている。

アイドリング時のスタート&ストップシステムは、もはやすべてのストラダーレ フェラーリには標準装備。極力優しく柔らかく、環境にもおもんばかられたセットアップがなされている……ものの、いざアクセルを深々と踏み込めば、炸裂するのは660psという途方もないパワーだ。

12気筒だからこその滑らかさや艶やかさをもって、12気筒でしか叶えられない猛々しくも荘厳なサウンドとともに、決して小さくはない車体が瞬く間に未知のゾーンに吸い込まれる。

その始終は、やはりフェラーリでしかあり得ない刺激に満ちている。

が、そうやって660psを唱わせながらも自分が割と冷静にクルマと対峙できている理由を探ってみると、そこに与しているのは「4RM」による前輪への穏やかな駆動配分だ。

Ferrari FF|フェラーリ FF

FRらしいリア側によった旋回感を歪めることなく、あくまで操舵側の接地性をアシストするレベルで介入するそれは、雪や雨のためだけのものではなく、オンロードでもピュアスポーツモデル並みのドライバビリティをスムーズに供するために機能している。

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

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2台のフェラーリをロードテスト(6)

フェラーリの優美な衣

フェラーリをドライブするという特別な体験は、これまで動力性能や運動性能が織りなす圧倒的な速さを軸として語られてきた。特に日本ではその傾向が強い。

一方でフェラーリの側には、その速さをもラグジュアリー的な価値を高めるひとつのツールとして、クルマをつくりつづけてきた歴史がある。自らが世界の頂点であるという戦意を剥き出しにしたスペチアーレですらそうだろう。彼らのモデルはどの時代のそれも、持てる力を優美な衣に包み、路上を彩るものになっている。言わずもがな、顎を伸ばし羽根を生やし……といったなりふり構わぬスピードへの演出は彼らの美学とは相反するものだ。

フェラーリがもつ、速さだけではない価値を求めたい。世界的にも成熟した日本の自動車市場にあって、そう望むユーザーが徐々に増えてきてもおかしくはないタイミングだろう。

少なくともハードの側には迎える準備はできている。「FF」と「458スパイダー」との共通項を挙げるとすれば、持てるパフォーマンスを日常の充実へと振り向けた、もっとも伝統的なフェラーリのスタンスを採っているクルマということだ。

Ferrari 458 Spider & FF|フェラーリ 458 スパイダー & FF

spec

Ferrari 458 Spider|フェラーリ 458 スパイダー
ボディサイズ|全長4,527×全幅1,937×全高1,211mm
ホイールベース|2,650 mm
トレッド 前/後|1,672 / 1,606 mm
トランク容量|230 リットル
重量|1,430 kg
エンジン|4,499cc V型8気筒
最高出力| 570ps/ 9,000 rpm
最大トルク|540Nm/ 6,000 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ
駆動方式|MR
タイヤ 前/後|235/35R20 / 295/35R20
最高速度|320 km/h
0-100km/h加速|3.4 秒未満
0-200km/h加速|10.8 秒未満
0-400m加速|10.9秒 @ 216km/h
燃費|11.8 ℓ/100km
CO2排出量|275 g/km
燃料タンク容量|86 ℓ(リザーバータンク 16 ℓ)
価格|3,060万円

Ferrari FF|フェラーリ FF
ボディサイズ|全長4,907×全幅1,953×全高1,379mm
ホイールベース|2,990 mm
トレッド 前/後|1,676 / 1,660 mm
トランク容量|450-800 リットル
重量|1,790 kg
エンジン|6,262cc V型12気筒
最高出力|486kW(660ps)/ 8,000 rpm
最大トルク|683Nm(40.8kgm)/ 6,000 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|245/35ZR20 / 295/35ZR20
最高速度|335 km/h
0-100km/h加速|3.7 秒
0-200km/h加速|11 秒
燃費|15.4 ℓ/100km
CO2排出量|360 g/km
燃料タンク容量|91 ℓ
価格|3,200万円

           
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