Ferrari FFに氷上サーキットで試乗
CAR / IMPRESSION
2014年12月16日

Ferrari FFに氷上サーキットで試乗

Ferrari FF|フェラーリ FF

フェラーリ初の4輪駆動モデル

FFに氷上サーキットで試乗

Ferrari Fourの頭文字を車名に冠したフェラーリの新たなるフラッグシップ「FF」。同社初の4輪駆動モデルであり、大人4人がゆったり座れるスペースを確保したシューティングブレーク風のボディもあいまって注目を集める同モデルに、氷上特設コースで試乗した。

Text by AOKI Yoshiyuki
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko

“4シーター+4WD”を意味する「FF」

フェラーリ最新モデルのニュースに接して、英国紳士はニンマリしたにちがいない。跳ね馬のシューティングブレイク! その名もFF!!

シューティングブレイクとは、「狩猟に使う」という名目でモディファイされたハイエンドスポーツカーのこと。いわば英国車の専売特許で、ハロルド・ラドフォードやAMLが手がけた、アストンマーティンのそれらがよく知られる。ステイタスシンボルたる超高級ツーリングワゴン。せいぜい猟銃と弾薬が積めればOKで、大きな荷物は下男のランドローバーで、という仕様だから、ラゲッジルームの広さはあまり頓着されない。また、元来の高性能をスポイルしないため、スポーティな、低く長いルーフラインをもつのが特徴だ。しかしDB5やV8のシューティングブレイクを見るかぎり、一般的かつ客観的に言って“通”向けの車型といえよう。イギリス人の「妙なカタチ」に対する愛情が、上流階級ではさらに濃縮されて発露されたものと、個人的には睨んでいる。

Ferrari FF|フェラーリ FF 02

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FFと書いて「Full time Four wheel drive」を意味させるのは、かつて英国の自動車メーカー、ジェンセンが、インターセプターの4WD版で使った手だ。12気筒をしてダブルシックスと呼ばせるような、イギリス独特のセンスと通じるものがある。ただし、フェラーリFFのFFは、「4シーター+4WD」を表すとされる。

……とまあ、ずいぶん前置きが長くなったが、イタリアのスーパーエクスクルーシブな2ドアワゴンを用いての氷上試乗会が、長野県白樺高原は女神湖でおこなわれた。

Ferrari FF|フェラーリ FF

フェラーリ初の4輪駆動モデル

FFに氷上サーキットで試乗(2)

トヨタ・アルファードがすっぽり入る大きさ

うっすらと雪が積もった氷の上に、5台のフェラーリFFが用意されていた。458イタリアとイメージを揃えたヘッドライトユニット。長いボンネットに沿ってフェンダー上にならぶLEDランプが華やかだ。比較対象がほとんどない凍った湖の上でも、強い存在感がある。

ボディサイズは、全長4,907×全幅1,953×全高1,379mm。較べるのもなんだが、路上専有面積で言うと、トヨタ・アルファード(4865×1840mm)がすっぽり入る大きさである。しかも、いかにハイトが低いとはいえ、カタチがツーリングワゴンだから、車体のマスが大きい。杞憂とは知りつつ、「氷の上で、ちゃんと走るのだろうか?」と不安かつ不思議に思う。気になる車両重量は、1,880kg(カタログ値)である。

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赤いコンストラクターの強み

2,990mmのホイールベースに載せられるボディは、アルミニウムをメインにさまざまな合金を使用。要所を鋳造部品で結合した枠組みにアルミパネルを貼るスペースフレーム構造を採る。旧世代のモデルより、10%軽く、ねじれ剛性は6%アップしたという。スタイリングを手がけたのは、いうまでもなくピニンファリーナだ。

0-100km/h加速3.7秒、最高速度335km/hを謳うハイスピードクルーザーだけあって、空力への配慮も徹底される。フロントフェンダー横のアウトレットは飾りではなく、エンジンルームからの熱気を放出するとともに、ボディサイドの空気を流す手助けをする。リアの断面積が大きいワゴンボディは、とくにテール直後に乱流が発生しやすいが、もちろん万全の対策が施された。リアライト横のエアベントがホイールアーチの圧力を抜くと同時に、ボディ後端底面に設けられたダブルディフューザーと併せて、車両後部の乱流を吹き飛ばす。「空力競争が先鋭化しているF1テクノロジーからの流用……」そんなフレーズをてらいなく使えるのが、赤いコンストラクターの強みである。

Ferrari FF|フェラーリ FF

フェラーリ初の4輪駆動モデル

FFに氷上サーキットで試乗(3)

FFの目玉「PTU(Power Transfer Unit)」

フロントに搭載される12気筒の排気量は、現行ラインナップ中最大の6262cc。94.0×75.2mmのボア×ストロークから、最高出力486kW(651ps)/8000rpm、最大トルク683Nm(69.7kgm)/6000rpmを発生する。670psの599GTOには一歩及ばないが、620psの“ノーマル”599を凌駕、トルクはいずれをも圧倒する。しかし注目すべきは効率の追求で、直噴化と精緻なコントロールの恩恵で、圧縮比は12.3にまで引き上げられた。しかも、アイドリングストップ機能付き! 欧州基準で100kmを15.4ℓ、日本流に言うと6.5km/ℓの燃費がカタログに記載される。

リッターあたり104psを絞り出すハイテクユニットとペアを組むのは2ペダル式の7段MT。2つのクラッチが交互に駆動力を伝える「F1デュアルクラッチギアボックス」で、「楽しさと快適性を両立した」とフェラーリは主張する。ゲトラク社製。機構そのものに目新しさはないが、感心するのはその配置。リアディファレンシャルと一体化させたいわゆるトランスアクスル方式で、前後重量配分の適正化を図る。その結果が、前:後=47:53というすばらしい数値である。

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さて、V12を拝見しようとボンネットを開ける。赤い結晶塗装が施されたヘッドをもつエンジンは、フロントバルクヘッドにめり込まんばかり。エンジンルーム内の、能う限り後ろに搭載されている。2列の6気筒が完全に前車軸の後ろに置かれた、絵に描いたようなフロントミドシップだ。そして12気筒前方、フロントアクスルの上に置かれた、赤い結晶塗装を反復したユニット。それが、フェラーリFFの目玉「PTU(Power Transfer Unit)」である。

Ferrari FF|フェラーリ FF

フェラーリ初の4輪駆動モデル

FFに氷上サーキットで試乗(4)

フェラーリだからこそ“許された”方式

4RMと名付けられたフェラーリの4WDシステムは既存の四輪駆動とは根本から異なる、まさにフェラーリだからこそ“許された”方式といえる。エンジンのクランクシャフトから取り出された動力は、前と後ろに送られる。後方へ伝わるトルクは、プロペラシャフトを介して7段ギアボックス、リアデフ、左右後輪へ。これは通常の(トランスアクスル方式を採用した)FR車と変わらない。一方、前方へ出されるトルクは、PTUを介して前輪左右へ振り分けられる。

エンジンの前に置かれたPTUは、上に被されたカバーが立派なので大きく感じるが、実際は全長わずか170mmのデバイスである。原理的には、リアのE-Diffをフロントに持ってきたものと考えていい。つまり左右の車輪それぞれに、電子制御された湿式多板クラッチを介して駆動力を伝達する装置だ。

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レース屋ならではの割り切りのよさ

おもしろいのは、PTUが2段のギアを持つこと。メインギアボックス(!?)たるF1デュアルクラッチは7段。前後輪の回転差は、多板クラッチの断絶/圧着を繰り返すことによって吸収する。といっても、許容能力には限度があるから、メインの1~2速をPTUのロウ、同3~4速をハイがカバーし、5速以上になるとPTUは対応しない! つまり、フェラーリFFは、「Full time Four wheel drive」どころか、1~4速限定のオン・デマンド式4WD車なのだ。ギアを5速以上に入れられるような状況なら、それは滑りやすい「ロウグリップの路面ではない」。だから4輪駆動は必要ない。そう判断する、レース屋ならではの割り切りのよさ! フェラーリ以外の自動車メーカーではまず承認されない“粗暴な”解決策である。

フェラーリFFは、基本的にはFR車。通常の路面なら、まずフロントへトルクが伝えられることはないという。そんなフェラーリロードカー本来のドライブフィールを損ねることなく、増えつづけるエンジン出力と、(裕福な、しかし必ずしも腕利きではない)ユーザーから要求される多様な路面への対応能力を満たしたのが、小型軽量なPTUなのだ。トップエンドの多用途モデルに求められる全天候性を、必要最小限の重量増加で実現したわけだ。

Ferrari FF|フェラーリ FF

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FFに氷上サーキットで試乗(5)

コペルニクス的転回を果たした駆動方式

フェラーリ4RMは、ちょっと大袈裟なフレーズで気恥ずかしいのだが、コペルニクス的転回を果たした駆動方式といえる。これまでマイナス=減速方向へ作用していた電子制御を、プラス=加速方向へ使うという、発想の転換を具体化したシステムである。

滑りやすい……を通り越して、やたらと滑る氷上を歩いて、指定された試乗車に乗り込む。凍った湖面に設置されたコースは、前日、前々日の使用で、所々ブラックアイス化している。ステアリングホイールに設けられた赤いスターターボタンを押す。右手の内側には、GTマネッティーノ。小さなレバーで走行モードを選ぶF1マシンゆずりのダイナミックコントロールシステムで、サーキット用の「ESC OFF」「SPORT」「COMFORT」、そしてFFには「WET」と「ICE-SNOW」が用意される。

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マツダ・ロードスターで氷上を走っているような気楽さ

まずは「ICE-SNOW」で完熟走行。おっかなビックリな運転者の心とシンクロするように、エンジンは吹けず、静かに走る。左折箇所のはるか手前からブレーキを踏むのだが、止まらない。というか、インストラクターとスタッフを乗せた3人乗りフェラーリは滑りつづける。ブレーキは、ストロークより踏力でコントロールするタイプらしく、足置き場かと思わせるガッシリした足応え。ありがたいのは各輪のブレーキを緻密に制御しているのだろう、ノーズがしっかり前を向いたまま、まっすぐ滑りつづけてくれること。

つづく「WET」でFFとドライバーは多少息を吹き返し、ノーマルモードたる「COMFORT」にトライする。豪奢な大型スポーツカーに乗っていることを忘れ、アイス路面を楽しむ。スロットルを開けると瞬時にサウンドが高まりリアタイヤが空転し、ときにごく低速域ながらカウンターステアを当てて“ヤッてる”気にさせる。なんというか、たとえばマツダ・ロードスターで氷上サーキットを走っているような気楽さ、手軽さがある。総重量2トン超、700Nmに近い大トルクのモンスターを運転しているのが信じられないほど。エンジン出力、シフトタイミング、サスペンション、トラクションコントロールにVDC(各輪のブレーキ制御)、さらにPTUが一体となって、知らないうちにドライバーのいたらない部分を補ってくれる。そのことを実感したのが、GTマネッティーノのレバーを「SPORT」に切り替えたときだ。

Ferrari FF|フェラーリ FF

フェラーリ初の4輪駆動モデル

FFに氷上サーキットで試乗(6)

圧巻だったローンチコントロール

V12のレスポンスは、噛みつかんばかり。荒々しくなったFFで最初の“曲がり”をこなし、さらに1回、2回……ステアリングを切って、「ココは完全にブラックアイスになっていますから」と助手席から注意された箇所へ。荒馬の手綱をひきながら慎重にアプローチ。と、ハーフスピンした。VSCの安全マージンが削られ、よりドライバーの技量にかかる割合が増やされたからにちがいない。赤面しながらコースにもどる。もう一周。おなじ場所で、十二分に注意しながら近づくと……スピンした! さすがのダイナミック・コントロールも、ドライバーの学習能力のなさまではカバーできないようだ。

圧巻だったのは、インストラクターに促されて、「SPORT」モードでローンチコントロール(レーシングスタート)を試したとき。LAUNCHボタンを長押しして、ブレーキペダルを踏みつける。スロットルを開け、回転数を上げてからブレーキをリリース!

「ノーズが猛り狂ってドコへ行くかわからない」……との不安をよそに、フェラーリFFは4輪で激しく氷を掻きながら、ジリジリとまっすぐ進んでいく。ゴトゴトと床下からの振動を受けながらドライバーはステアリングホイールを握っているだけ。タイヤが空転しない通常の路面では、どんなロケットスタートが決められるのか、想像しながら。

フェラーリFFの4RMシステムは、4つの多板クラッチで、前後と左右の差動を吸収するだけでなく、むしろ積極的に駆動力を与える考え方に基づいてシステムが組まれている。4つの車輪それぞれに小さなエンジンが付いて、中央のCPUの指示に従って出力を調整しているようなもの。余分な駆動力を削って車両を安定させるスタビリティ・コントロールの思想から一転、かつてのアウディ・クワトロのような“プッシュする”駆動方式が、21世紀の電子制御によって復活した。

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シューティングブレイクと呼ぶには、実用的すぎる!?

ステアリングホイールをスタッフに渡し、リアシートに座ってみる。やや着座位置は低いが、膝前、頭上とも、十分、実用的な空間が確保される。身長185cmまで、成人の95%をカバーするという。前席で運転手が氷路面に四苦八苦しているのをおもしろく眺めながら座っていられるのは、フェラーリのフル4シーターらしく、後席もホールド性に配慮された形状が採られるからだ。

荷室容量は450リッター。ゴルフバッグ2個とトローリーケース4つが積める。後席背もたれセンター部分のみ倒してスキーなどの長尺物を載せることも、場合によっては左右分割式になった後席背もたれを倒して、2人で旅行に出かけることもできる。シューティングブレイクと呼ぶには、実用的すぎるフェラーリFF。価格は3200万円からとなる。

           
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