2つの フィアット 500 ツインエア に試乗|Fiat
Fiat 500 TwinAir Lounge|フィアット 500 ツインエア ラウンジ
Fiat 500S TwinAir|フィアット 500S ツインエア
2つの フィアット 500 ツインエアを試す
フィアット「500(チンクエチェント)」は、現在のフィアットを代表するクルマだ。2代目500である「Nuova 500」のルックスを引き継ぎ、Nuova 500の発売から50年の節目となる2007年に発売された。その評価は高く、日本でも、バリエーションモデル、限定モデルが登場するたびに話題をさらう、自動車界のアイコンである。今回は欧州で2010年、日本で2011年に登場した、ハイテク2気筒エンジン“ツインエア”を搭載した2台の500をフィーチャー。ひとつは通常モデルとなる「500 ツインエア ラウンジ」、もうひとつがマニュアルトランスミッションの「500S ツインエア」。ドライバーは小川フミオ氏だ。
Text by OGAWA FumioPhotographs by ABE Masaya
追い風に乗るわずか2気筒のフィアット
昨今の自動車業界の流行りといえば、ダウンサイジング。なかでも出色が、わずか2気筒のフィアット「500 ツインエア」だろう。発売は2011年だけれど、2ペダルのデュアロジック仕様にくわえ、今年4月にMTの500Sが登場したので、ここで改めて、2台同時に試乗した。
フィアット500は、いま出ているクルマで4代目。
1936年の「500」(「ローマの休日」でグレゴリー・ペックが運転している)、57年の「ヌオーバ500」、91年の「チンクエチェント」(500のイタリア語読み)、そして2007年の現行モデルだ。コンパクトなボディで、日常的な「アシ」としての完成度の高さは代々継承されてきた徳目。
ちなみに、3代目チンクエチェントは500としてカウントされないことが多いが、当時フィアット本社では“ヌオーバ500の後継”と明言していたから、系譜に連ねても問題ないだろう。小さなピープルムーバーとして完成度は高かったし。
現行500の魅力は、キュートなスタイリングと、車種の豊富さにある。
スタイリングは、50年代のヌオーバ500のイメージを大きく採り入れ、丸みを強調しつつ、愛らしいフロントマスクを実現している。
サイズは現代の水準に合わせて、2,300mmと比較的余裕あるホイールベースに、全長3,545mmの2ドアハッチバックボディを載せている。
直列2気筒エンジンという思い切りのよさは、ヌオーバ500が2気筒だったことを知っている欧州の40代から上のひとたちには、違和感がないかもしれない。なにより、大胆な技術でもって先へ進んでいくことを、前向きに評価する気風がある。その2つを追い風として、ツインエアの名とともに、2気筒エンジン車は快走しているようだ。
はたして乗ってみると、意外なほどよく走る。とりわけ自動車が好きなひとで、エンジンをまわして走る楽しさを知っているなら、ある種のスポーツ性すら感じるかもしれない。
Fiat 500 TwinAir Lounge|フィアット 500 ツインエア ラウンジ
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2つの フィアット 500 ツインエアを試す (2)
まずは500 ツインエア ラウンジから
これまで、日本での500 ツインエアには、デュアロジックと名づけられた2ペダル式マニュアルトランスミッションが搭載されていた。クラッチ操作を機械でおこなうもので、多少の便利さと、トルコンATより無駄がすくなく燃費がいいのがウリだ。
500 ツインエアも気軽に運転できるのが、デュアロジックのよさだ。
慣れないうちには、トルコンAT(通常のオートマチック変速機)のつもりで、アクセルペダルをずっと踏んだまま走ってしまい、シフトアップでクラッチが切れると、がくっとショックを感じることもある。操作に慣れれば、シフトアップそろそろかなとエンジン回転計で判断して、意図的にアクセルペダルに載せている足の力を緩めれば、すっとシフトアップしてくれる。MTの感覚に近い。
500ツインエアは、145Nmの最大トルクが1,900rpmで発生する設定なので、900ccにも満たない排気量といえども、意外に力強く走ることができる。とくに交通量の多い市街地では、デュアロジックのオートモード(自動的にシフトアップ/ダウンしてくれる)を選んでおけば、もっと大きな排気量のAT車とあまり遜色ないドライブができる。
また積極的に早く走らせたいときは、マニュアル操作モードで、シフトアップとダウンをすれば、3,000rpmあたりから目立って大きなトルクを出すターボエンジンの力を、めいっぱい使うことができる。
ちなみにこのマニュアルモードは手前に引けばシフトアップ、奧に押せばシフトダウンと、世間一般のクルマとは逆。レーシングカーと同様のパターンだ。レーシーなイメージを好むBMWも、同様のパターンを採用している。
足まわりは、落ち着いていて、ダンパーは硬めだが、それでも高速だろうが、荒れた路面だろうが、跳ねることはない。上手な設定だ。スプリングはややソフトで、車線変更などは急いでやらないほうが同乗者にやさしい運転になるが、それが、このクルマの気持ちのよさにもつながっている。
着座位置が高めのシートは、座り心地もよく、長い時間のドライブでも疲れにくい。あたらしい世代の500もやはり、すぐれたピープルムーバーだと感じる。
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マニュアルならばもっと楽しい?
あたらしく追加された500Sは、ツインエアエンジンの出力、トルクともにデュアロジック車(2013年7月の時点でPOPとLOUNGEの2車種)と同等で、こちらだけ5段マニュアル変速機を備えているのが最大の特徴。
ひょっとしたらマニュアル変速機だともっといいのでは? と、500ツインエアに興味をもつひとがおもっていた疑問にたいして、運転して得た回答は、ずばり「イエス」。とてもよい組み合わせだと感心した。
マニュアル変速機が向いているとおもうのは、2気筒エンジンのトルクバンドが、数値上は1,900rpmで最大トルク発生となっているものの、実際は3,000rpmあたりで大きな力が出る設定であることと関係している。回転マナーは悪くないので、ギア操作によって、さっとエンジン回転を太いトルクバンドで保てば、気持ちのいいドライビングができる。
ギアはややストロークが大きく、それに輪をかけるように、シフトノブが大きすぎて操作がしにくいのが難点だが、それでも、楽しい。小さな排気量のMT車を操縦した経験を持っているひとなら、500Sにすぐなじむはず。というか、積極的にこのクルマを支持したくなるだろう。
ドライバーがいないと活発に走らないという、本来なら当たり前の事実を再確認させてくれるのが、500Sの美点だ。
最近の我われは、大トルクのオートマチックに慣れすぎたかもしれない。静止から100km/hまで3秒うんぬん、なんて世界とは無縁の500Sだが、アクセルワークとシフトワークを駆使して一所懸命走らせる楽しさがある。
昔は誰もがこんなふうにクルマに乗っていた。それを思い出させてくれる。そこがとてもよい。
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500を買うならば──
500 ツインエアは、クルマ好きをとりこにするクルマだ。
別ブランドとして販売されるアバルトはとてもよくできた、すぐれたスポーツカーだが、それとおなじプラットフォームを用いながら、コンフォートを重視したモデルとして存在するのも、なんとなくおもしろいではないか。
「ツインエアラウンジ」(250万円)、「ツインエアポップ」(220万円)、それに「500S」(225万円)という500のライバルは? フォルクスワーゲン「up!」(ほぼおなじサイズの車体で、999cc 3気筒エンジン搭載、149~186万円)、プジョー「208」(とりわけ1.2リッター3気筒「アリュール」で199万円)、さらにクライスラー「イプシロン」(おなじ2気筒エンジン搭載で235万円)などがあげられる。価格設定の面でも実際のセールスにおいても、市場ではup!が強いが、趣味性というファクターもあるので、一概に価格差をうんぬんするのも難しい。
輸入元では、環境にやさしいとアピールするが、あいにく昨今は、1.2リッター4気筒エンジンの新型「ゴルフ」が「高速走行が多くなればプリウスを超える(燃費)」(フォルクスワーゲングループジャパン広報部)と豪語するのにたいして、500 ツインエアはリッター15kmていどと、期待ほどの燃費ではないのは事実だ。
エンジンにたいしてボディが重すぎるせいもあるのだろう、気持ちよく走ろうとすると、先にも書いたように、ついエンジンを回してしまうのも、燃費には悪影響を与えてしまう。
でもまあ、年間の走行距離が1万km程度のひとなら、このぐらいの燃費差にこだわる必要はない(と断言)。大事なことは、日常的につきあって楽しい気持ちでいられるかどうか、かもしれない。
デザイン性の高い(しかしおしつけがましくない)インテリアデザインといい、グレーなんて色がよく似合う車体といい、いちど乗ったら、一生忘れられなくなりそうだ。
トコトコトコッとかわいらしい2気筒のエンジン音にしても、要は、この500ツインエアが好きになれるかどうか。それを感性で判断して、結果が「ゴー」なら、ほかのライバルをさしおいて、一生つきあえるいいパートナーになってくれるはずだ。
Fiat 500 TwinAir Lounge|フィアット 500 ツインエア ラウンジ
ボディサイズ|全長3,545×全幅1,625×全高1,515 mm
ホイールベース|2,300 mm
トレッド 前/後|1,415 / 1,410 mm
重量|1,040 kg(サンルーフ付きの場合1,050 kg)
エンジン|875 cc 直列2気筒 DOHC ターボ
圧縮比|10.0:1
ボア×ストローク|80.5×86.0 mm
最高出力| 63kW(85ps)/ 5,500 rpm(ECOスイッチ使用時57kW(77ps)/5,500rpm)
最大トルク|145Nm(14.8kgm)/ 1,900rpm(ECOスイッチ使用時100Nm(10.2kgm)/2,000rpm)
トランスミッション|5段オートマチックモード付きシーケンシャル(デュアロジック)
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソンストラット スタビライザー付
サスペンション 後|トーションビーム式 スタビライザー付
タイヤ|185/55R15
ブレーキ 前/後|ディスク / ドラム
燃費(JC08モード)|24.0 km/ℓ
CO2排出量|97 g/km
価格|250万円
Fiat 500 TwinAir Lounge|フィアット 500 ツインエア ラウンジ
ボディサイズ|全長3,585×全幅1,625×全高1,515 mm
ホイールベース|2,300 mm
トレッド 前/後|1,415 / 1,410 mm
重量|1,010 kg
エンジン|875 cc 直列2気筒 DOHC ターボ
圧縮比|10.0:1
ボア×ストローク|80.5×86.0 mm
最高出力| 63kW(85ps)/ 5,500 rpm(ECOスイッチ使用時57kW(77ps)/5,500rpm)
最大トルク|145Nm(14.8kgm)/ 1,900rpm(ECOスイッチ使用時100Nm(10.2kgm)/2,000rpm)
トランスミッション|5段マニュアル
駆動方式|FF
サスペンション 前|マクファーソンストラット スタビライザー付
サスペンション 後|トーションビーム式 スタビライザー付
タイヤ|185/55R15
ブレーキ 前/後|ディスク / ドラム
燃費(JC08モード)|26.6 km/ℓ
CO2排出量|88 g/km
価格|225万円