マーケティング的にも重要なモデル

ボルボの本年度の目玉、V40に「V40 クロスカントリー T5 AWD」が追加され、2013年5月7日に発売された。既発のスタンダード版V40 T4、スポーティなV40 T5 R-DESIGNに、機能的なモデルがくわわったことで、「3つのバリエーションで販売を押し上げられる」とボルボ・カー・ジャパンでは語る。

V40 クロスカントリー T5 AWD（以下V40クロスカントリー）は、213馬力の2リッター5気筒ターボユニットを搭載。6段ATに、ハルデックス社製オンデマンド型4WDシステムが組みあわせられる。2駆版より最低地上高が10mm上がり、悪路走破性が高められているとされる。

「ボルボでは伝統的に、スタンダード、R-DESIGN、クロスカントリーをラインナップにもつ商品展開をしており、今回もその伝統にのっとったもの」（ボルボ・カー・ジャパン）とするが、いっぽう、「北海道のような積雪地帯で4WDが求められている」というマーケティングの観点からも重要なモデルだという。

パワートレインは、目をみはるようなスポーティな動力性能を誇るV40 T5 R-DESIGNと同一だけあって、よく走る。ノーマルのロードコンディションでもかなり楽しいモデルに仕上がっている。

期待以上に速い

V40クロスカントリーは、コスメティックス上もファンカー的な要素も備えている。専用のルーフレール、専用のハニカムメッシュのフロントグリル、独自のカラースキームと表面デザイン（CROSS COUNTRYのエングレービング加工など）の前後バンパー、それにクロームトリムなどが特徴だ。

シャシーにおいても、最新のハルデックス第5世代のレスポンスがはやいオンデマンド型（通常は前輪駆動で必要に応じて後輪へとトルクが分配される簡便型）4WDシステムにくわえ、フロント部分ではサブフレームのラバーマウントなど、リアでは4WD化に応じて専用リンクアームや専用ダンパーブラケットが採用されている。

しかし、車高の高さが視覚的に強調されているわりには、走りはスムーズでかつ俊敏であることが印象に残る。気分が浮き立つような明るくモダンなデザインの室内に腰を落ちつけ走り出すと、ターボが1,500rpmで効果的に効きはじめるのが体感できる。加速は止まらず、エンジンは上までまわるから、期待以上に速いクルマだ。

クルマは楽しむものだ

ハンドリングはこの手のクルマとしては期待以上。操縦が楽しいうえに安心感が高い。コーナリングも速く、入り口から、横方向のGが高まっていく途中以降、そして加速に移る出口いいたるまで、終始、挙動は安定しており、心が浮き立つものがある。ボルボのエンジニアによる“クルマは楽しむものだ”という主張が強く感じられる。

騒ぐ心を落ちつけ、室内のノイズに耳を傾けても、騒音レベルは低い。路面の音の侵入もていねいに抑えられている。フロアの振動もない。

エンジン排気音は少し大きいが、最近のクルマはどれもスポーティさを排気音と同義にとらえている感がある。なぜだろう。いずれにしても、質感は高級だ。それでいて、雰囲気は若々しい。

ネガをつぶしていったというより、きちんとした思想にもとづいて作りあげられたクルマという感が強い。

「運転を楽しむように開発しています」

とは、同車の日本へのローンチにタイミングをあわせて、ジャーナリスト向け試乗会に姿を見せてくれた開発総指揮のホーカン・アブラハムソン氏だ。

「V40クロスカントリーを運転するときはぜひシフトレバーに設けたSモードを試してください。シフトアップポイントが上になり、アクセルレスポンスが向上し、コーナリング中はシフトアップしないし、シフトダウンのときは自動でブリッピングをしてエンジン回転数を合わせてくれるので感覚的な楽しさもあります」

たしかにそうなのだが。ふつうのモードでも充分と感じたことを付記しておこう。ポテンシャルを感じさせてくれるから、それだけでもかなり楽しい。

絶妙な価格設定

V40クロスカントリーは、213馬力の2リッター5気筒エンジンをはじめ、6段ATのギア比も、320mm径のフロント通気式ブレーキも、V40 T5 R-Designと共通だ。事実、さきに触れたように、ドライブは活発である。

ただ比較すると、ダイレクト感においてはT5 R-Designのほうが上だ。クロスカントリーは、四輪駆動ゆえに、乗り心地などを考慮してラバーブッシュなどをソフトに設定しているのだろう。乗り心地や、コーナリング時の感覚などで、一枚、膜のようなものの存在を感じる。ゴムっぽさともいうのだが、微細だが、レスポンスにズレがある。

価格は、「見えないところのクオリティに材質をおごった」（ボルボ・カー・ジャパン）というV40 T5 R-Designが399万円であるのにたいして、V40 T5 AWDクロスカントリーは359万円。

動力性能と、積雪地やスキーなどのウィンタースポーツを楽しむ機会が多いなら、こちらが買い得だ。なかなか絶妙な価格設定である。（ちなみにスタンダードのV40 T4 1.6GTDi（180馬力）は269万円から）

車線に合流するさいに高速で接近してくる車両の存在を知らせてくれるレーンチェンジ・マージエイドをはじめとするドライバーサポートや、先行車への追突の危機を回避するかダメージを軽減してくれる自動ブレーキシステムであるシティセーフティなど、多様な安全技術は、他のV40モデルと同様だ。

使い勝手の高いモデル、それがこのV40 T5 AWDクロスカントリーなのであるとおもった。

個人的にはT5のダイレクト感がいいとおもうが、四輪駆動が活躍しないかぎり、いい意味でその差はきわめて小さい。

外観は好みが分かれるだろうが、コスメティックスに違和感がある。ベースがクーペライクなプロフィールなので、うまくあっていない気がする。

Volvo V40 Cross Country T5 AWD｜ボルボ V40 クロス カントリー T5 AWD
ボディサイズ｜全長4,370×全幅1,800×全高1,470 mm
ホイールベース｜2,645 mm
トレッド 前/後｜1,550 / 1,540 mm
最小回転半径｜5.4 メートル
重量｜1,580 kg
エンジン｜1,983 cc 直列5気筒 直噴DOHC ターボ
最高出力｜ 157kW（213ps）/ 6,000 rpm
最大トルク｜300Nm（30.6kgm）/ 2,700-5,000 rpm
トランスミッション｜6段オートマチック
駆動方式｜4WD
タイヤ｜225/50R17
燃費（JC08モード）｜12.4 km/ℓ
価格｜359万円