F Sportの原点 レクサスLFA Nurburgring Package|Lexus
Lexus LFA Nurburgring Package|レクサス LFA ニュルブルクリンク パッケージ
いまふりかえるF Sportの原点
試乗! レクサスLFA Nurburgring Package
レクサスのセカンドステージを代表する、「GS」や「LS」が、ドライバーズカーとしての完成度を高め、スポーティな走りを強調する方向にあることは、すでにOPENERSでも、専門家たちが異口同音に語るところ。そのレクサスの走り、「F Sport」の頂点と名付けられたクルマが「LFA(Lexus F Sport Apex)」だ。世界一級のスーパースポーツカーとなるべく、2009年の東京モーターショーにて発表され、限定500台は翌年の生産開始をまたずして完売した。そして、2012年12月、その500台目の生産も終了。もはやLFAを試す機会もこれが最後。OPENERSはそんな最後のLFA、それも500台のうち、わずか50台あまりの高性能仕様「ニュルブルクリンクパッケージ」に、いま一度、F Sportの原点を振り返るべく、島下泰久氏とともに乗り込んだ。
Text by SHIMASHITA Yasuhisa
Photographs by ARAKAWA Masayuki
ニュルを走るマシン
先日、予定されていた500台すべての生産が終了したというアナウンスのあったレクサス「LFA」。フルカーボンボディに4.8リッターV10エンジンを積み込み、ベース車で3,750万円というプライスタグを掲げた、このレクサスの垂涎のスポーツカーとは一体何だったのか。もたらしたのはどんな価値だったのかを振り返るべく、最後にもう一度、そのステアリングを握ることにした。
試乗場所に選んだ某ワインディングロードまで積車で運ばれてきたのは、オレンジ色のボディがさらに人目をひく「LFA Nürburgring Package」であった。これはその名のとおりドイツ ニュルブルクリンク北コースを焦点にセットアップされた仕様で、エンジンは最高出力571ps、最大トルク480Nmとベース車より11psアップに。
専用のBBS製メッシュホイールに組みあわされるタイヤはブリヂストンRE070とされ、サスペンションも車高が10mm下げられた専用品が奢られている。
その他、外装ではCFRP製の大型フロントスポイラー、カナード、大型固定リアウイングなどを装着。内装はアルカンタラ張りとされ、カーボンドアトリムやフルバケットシートによって、よりスパルタンに仕立てられているという具合だ。
Lexus LFA Nurburgring Package|レクサス LFA ニュルブルクリンク パッケージ
いまふりかえるF Sportの原点
試乗! レクサスLFA Nurburgring Package(2)
荘厳と評したいほどのV10サウンド
軽いドアを開けてフルカーボン製のドライバーズシートへ。スパルタンとは書いたが、そのインテリアのしつらえはきわめて上質で、それこそ見ているだけでも陶酔できてしまいそうだ。手に馴染むフォーミュラカーのようなステアリング、繊細な操作感のウインカーレバー、アルミ製のペダル等々、すべてがこのLFAだけのためにつくられているのだから、何と贅沢なことだろうか。
意外にもステアリングコラムにあるキーホール。そこに差し込んだキーを奥までまわし、左右のシフトパドルを引いてギアをNに入れる。そしてスタートボタンを押すと、珠玉のV10エンジンのお目覚めである。メーターナセル右側の走行モード切替ダイヤルは、まずはNORMALのまま。右のパドルを引いてギアをDに入れたら、いざスタートだ。ただし、このNürburgring PackageはベースのLFAよりさらにアゴが低いから、あくまで慎重にパーキングスペースを抜け出す。
シングルクラッチのギアボックスは自動シフトアップがあまり上手ではないが、おもったよりエンジンにトルクがあるせいで、慣れればギクシャクするほどではない。
それよりも、押し寄せる感動の方がはるかに大きく、そんなのは些細なこととして頭の隅に追いやられてしまう。
感動。それは荘厳と評したいほどのV10サウンドだ。ピックアップはレーシングエンジンのように鋭く、それでいて低回転域から素晴らしく粒の揃った至極滑らかなフィーリングは、それだけでも頬を緩ませる。そしてさらに踏み込めば、サウンドはますます甲高くなっていき、一気にトップエンドを究めようとする。このエンジンだけでもLFAにはすでに十分な価値がある。一度味わったら、きっと誰もがそんなことをおもうにちがいない。
その快感を存分に味わい尽くすなら、SPORTモードに限る。TFT液晶と可動式メーターリングを組みあわせたメーターパネルは、盤面がホワイト地に変化し、12時の部分に8,000rpmの目盛りがくる。LFAのV10にとっては、まさにそこからが真骨頂。心地良いタッチのパドルシフトを駆使してマニュアル変速し、息つく暇なく到達する9,000rpmの高みまで使い切る歓びは、まさに至上のものだ。
そんな風に走らせれば、当然あっという間に速度計の針はとんでもないところに達してしまう。しかし、数字を見てはじめてそれに気付くということは、そのシャシーが良い意味で速度を感じさせない安定感を誇っているということである。
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いまふりかえるF Sportの原点
試乗! レクサスLFA Nurburgring Package(3)
攻め甲斐がある
ただし、サスペンションは相当ハードだ。普段は気付かないようなうねりや凸凹でも跳ねて、断続的に接地感が失われることもあり、正直言って最初は「これで荒れたニュルブルクリンク、大丈夫なのか?」ともおもったのだが、一度降りてクルマの周りを観察すると、やけにリアまわりが汚れていることに気付いた。そう、車体の下側を抜けてきた空気が、埃を一緒に、盛大に巻きあげているのだ。
これはベンチュリー効果によって車体下面を流れる空気が高速で車体後方に巻き上げられている証。要するにLFAのボディは、強力なダウンフォースを発生するようデザインされているのである。きっと、もっともっと高い速度でアプローチできれば、もっともっと安定感が増すのだろう。ニュルブルクリンクで多用するのは3、4、5速といった速度域。すべては、そこに照準を合わせているのである。
もちろん、ここは一般道。攻めるのは程々に抑えたが、それでもターンインがきわめてシャープなのは容易に実感できた。ステアリングレスポンスの鋭さは、とてもフロントにV10を載せているとはおもえないほど。
それでいてトラクション性能も十分で、もちろんラフな操作は禁物ながら、アクセルを踏み込んでいくと後輪がしっかり路面をグリップしているのが伝わってくる。それを活かして、ステアリングなりに走らせるのではなく、大胆にターンインしてあとはアクセルで合わせていく。そんな走りの方がしっくり来る。つまり攻め甲斐があるという意味だ。
このV10エンジン、最大トルクは480Nmと決して大きくないが、駆動輪であるリアの荷重がどうしても小さくなるFRレイアウトだけに、そうやって積極的に踏んでいくドライビングにはかえっていい案配ともいえるかもしれない。これ以上トルクがあっても、おそらくトラクションコントロールの介入が増えて面白くなくなるだけだろう。
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いまふりかえるF Sportの原点
試乗! レクサスLFA Nurburgring Package(4)
LFAの味
いっぽう、不満に感じたのは、これはベース車も同様なのだが、全般にクルマからのインフォメーションが薄味なことである。掌にも腰にも、クルマが今どういう状態にあるのかという情報があまり伝わってこないから、思い切り攻めきれない。目からの情報と優れた感覚、そして豊富な経験で運転できるプロなら問題ないだろうし、流す程度ならば、そこを意識させられることはないのだろうが、好きだけどそこまで上手くはなく、でも頑張ってしまう筆者のようなドライバーにとっては、なかなか難しい。
まあ、これももっとペースを上げて、より大きな荷重がかかってくれば話はちがってくるのかもしれない。乗る人も、その舞台も選びますよというわけだ。何しろコイツはNürburgring Packageなのだから。
無論、それも敢えて言えばの話で、本当に怖くて攻められないようなクルマだったら、すぐに降りている。しかしこの日は、撮影だからと自分に理由をつけて、この571psのFR車で冬のワインディングロードを飽きることなく、そして当然、怖いおもいをすることもなく何往復もしてしまったのだった。これがLFA、味わうのは最後かもしれないな、なんておもいながら……
LFAの開発については、デビュー前から「味づくり」という言葉が使われ、レース参戦なども積極的におこなわれてきた。生産は終了してしまったが、ここで得られたもの、つまり秘伝のタレは今後のレクサス車に継承されるという。
それでも「もったいないな……」というおもいは拭い去れない。今から納車される方には申し訳ないが、じつは今回ひさしぶりにステアリングを握ってみて、この2年で周囲のライバル達のレベルが飛躍的に高まったこともあり、LFAにも少々古さを感じる部分があった。
そういう部分をアップデートし、あたらしい技術を入れつつ育ててゆけば、もっと濃厚なタレをつくり出すこと、できるんじゃないだろうか?
いや、もはやそれを言っても仕方がない。
今はただ、このクルマが世に出たことに感謝するのみである。そして今後のレクサス車が「LFAという存在があったからこそだな」と納得させるような味を醸し出してくること、大いに期待したいとおもう。
Lexus LFA|レクサス LFA
ボディサイズ|全長4,505×全幅1,895×全高1,220mm
ホイールベース|2,605 mm
トレッド 前/後|1,580 / 1,570 mm
最低地上高|110 mm
重量|1,480 kg
エンジン|4,805cc V型10気筒 DOHC
最高出力| 412kW(560ps)/ 8,700 rpm
最大トルク|480Nm(48.9kgm)/ 7,000 rpm
トランスミッション|6段セミオートマチック
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|ダブルウィッシュボーン / マルチリンク
タイヤ 前/後|265/35ZR20 / 305/30ZR20
最高速度|325km/h
0-100km/hh加速|3.7 秒
価格|3,750万円
*試乗車はNürburgring Package装着車
エンジン最高出力は420kW(571ps)に向上しているほか、CFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)製フロントスポイラー、固定式リヤウイング、サーキット走行向けサスペンション、専用ホイールなどを装着する。