萩原輝美 連載 vol.167|コム デ ギャルソン展
コム デ ギャルソン展
「Rei Kawakubo / Comme des Garcons Art of the In-Between」。ニューヨークメトロポリタン美術館で5月4日から始まったコム デ ギャルソン川久保玲展のタイトルである。日本語では「間(はざま)の技」。ファッションはアートかを問う。
Photographs by YAMADA AkiraText by HAGIWARA Terumi
メトロポリタン美術館(通称MET)では毎年5月にファッション展が企画される。現役のデザイナーで選ばれたのは1983年のイヴ・サンローランに次いで二人めだ。初日プレスプレビューの夜には「メットガラ」というファッションの祭典とも言える華やかなガラパーティーが催される。これはアメリカンヴォーグの編集長、アナ・ウインターが主宰するチャリティーイベントで、世界中からファッションデザイナーと彼らの服を纏うセレブリティたちが集まる。飾り、競い合う祭典だ。この春、メットガラの舞台裏ドキュメンタリー映画(邦題「メットガラ」)が封切られ話題となった。
5月1日に行われた「間の技」プレスプレビューに行ってきた。美術館の荘厳な作品を通り抜けて会場に向かうと、突然真っ白なモダンな空間が現れる。その空間も川久保玲のデザインだ。
作品150点は、METのコスチューム・インスティテュートの主任学芸員アンドリュー・ボイドが選んでいるが「空間のデザインをすること」と「年代順に並べないこと」を川久保が主張した。
1981年にパリコレデビューし「ボロルック」と保守派メディアに酷評された穴あきニットから17-18年秋冬の白いドレスまで約150点が9つのテーマごとに並んでいる。
Fashion / Anti-Fashion(ファッション/アンチファッション)、 Design / Not design(デザイン/非デザイン)、Clothes / Not clothes(服/非服)、Model / Multiple(原型/複製)など。同じテーマの中に時を超えて違う年代の作品が並ぶのに違和感はない。むしろその過去の作品は今も尚、力強い発信力を持っている。それは川久保の絶えず進化させている服の価値観が一貫しているからだろう。これほど世界中のデザイナーたちに尊敬され影響を与えたデザイナーはいない。そして「ファッションとビジネスをデザインする」川久保はデザイナーとオーナーという間の技を両立させている。
コレクションでこだわるのは「ボディと服」だ。ある時はボディを誇張し、服をデフォルメさせる。見た瞬間いびつに見えたカタチが、次第に美しいフォルムに見えてくる。それこそが、川久保のパワーであり、新しい美の価値観の提案である。日常の情熱や興奮、社会への怒りを服を通して表現する。いま見るべき展覧会である。キャットウォークではなく、美術館で見せる服。瞬時のジャーナリズムだけではなく、持続的にアカデミズムに訴えるコレクションだ。何度でも向き合いたい、発信力のある服だ。一般公開2017年9月4日まで。
萩原輝美|HAGIWARA Terumi
ファッションディレクター
毎シーズン、ニューヨーク、ミラノ、パリ・プレタポルテ、パリ・オートクチュールコレクションを巡る。モード誌や新聞各誌に記事・コラムを多数寄稿。セレクトショップのディレクションも担当。
オフィシャルブログ http://hagiwaraterumi-bemode.com/