Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG 試乗
Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG
さらにスポーティになったメルセデス製4ドアクーペに試乗(1)
4ドアでもスポーティな雰囲気のクルマに乗りたい、というユーザーに支持されているメルセデス・ベンツ CLS。2011年2月にフルモデルチェンジを受けて発売開始された新型に試乗した。ルックスがよりマッシブに、魅力的になった。さらに重厚感のなかに運転の愉しみが盛り込まれた、スポーティさが印象に残る。
文=小川フミオ
ライバルモデルは、パナメーラ、ラピード
メルセデス・ベンツ CLSクラスの初代が発表されたのは2005年。4ドアでありながら、クーペのようにコンパクトな印象のキャビンを特徴とした、いわゆる4ドアクーペのマーケットに属するモデルだ。4ドアクーペは前席使用が中心で、そのように見えるコンパクトなキャビンを特徴とするクルマ。前席中心だが、後席に子ども、あるいは時としておとなの乗員を乗せるさいの快適性も犠牲にしたくないという実用性を重視するユーザーに受け入れられた。
ほかには、ボルボ S60やフォルクスワーゲン・パサートCCなど、とりわけアッパーミドルクラスにとってニッチ(すきま)マーケットの一角を構成するまでに成長している。なかでもCLSはとりわけ高価格帯に位置するモデルだ。新型はCLS 350で930万円。さらに1645万円のCLS 63 AMGもラインナップされる。ライバルは、アストンマーティン・ラピード(2299.5万円~)やポルシェ・パナメーラ(929万円~)というスポーツカーメーカーが手がける4ドアといえるかもしれない。
従来より広びろ感が増した後席
先代CLSクラスのセールスが好調だったのは、スタイリングコンセプトのユニークさとともに、現行Sクラスが登場する前の、潜在的ユーザーをうまく吸収したせいだった。とくにユニークだったのは後席で、センターコンソールをあえて大型化し、座席をタイトに作っていた。しかし今回、セカンドジェネレーションへの以降にあたって、北米のユーザーを中心に窮屈という声が少なからずあったことを考慮。センターコンソールの高さを下げるなどして、後席の広びろ感を作るのに腐心したという。それ以上に特徴的なのは、デザインの完成度が上がったこと。先代では未消化に感じられたデザインディテールの煮詰めがはかられ、Sクラスと同種のテーマが各所に見受けられつつ、よりスポーティでアグレッシブな印象が強くなった。Sクラスを軸とした立ち位置がこれまで以上に明確化されて、マーケットでの存在意義がくっきりと見えるようになっている。
ラインナップは3.5リッターエンジンモデルと、5.5リッターを積むAMG
新型CLSクラスは、2,875mmという長いホイールベースの恩恵で、後席は「クーペ」というコンセプトから想像するより広く、居住性は高い。実用面からいえば、りっぱな4ドアセダンだ。ボディ外寸は、先代より全長でプラス26mm延長されたが、いっぽう全幅はプラス5mmにとどまり。全高は15mm低くなった。フレームやドアにはアルミニウムさらにシェルには極超高張力鋼板が採用され、剛性を上げると同時に車体は24kg軽量化がはかられている。感覚的な価値としては、たとえばドアだが、閉めるときに、軽量ゆえの気持ちのいい音が味わえる。アルミボディのスポーツカーをどこか彷彿させる、クルマ好きなら意識していなくてもどこかで気持ちいいと確実に感じるたぐいの音だ。ドアの開閉音はじつはクルマの官能評価(人間の感覚を軸にしてクルマの性能を評価する指針)に大きな影響を与えるものだ。
新型CLSクラスのラインナップは、ふたつのエンジンで構成される。新開発の3.5リッターV6直噴エンジン搭載のCLS 350 Blue EFFICIENCY(930万円)と、5.5リッターV8直噴ツインターボエンジンをおごられたCLS 63 AMG(1645万円)だ。さらにCLS 350には93万円のエクストラでAMGスポーツパッケージが用意される。日本ではこのオプショナルパッケージの人気が高く、装着率は8割が見込まれるとか。
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さらにスポーティになったメルセデス製4ドアクーペに試乗(2)
ドライバーズカーであることを主張するエクステリア
CLSクラスの魅力はなにか、というと、クルマとしての出来のよさを筆頭にあげたい。BMWがメルセデス・ベンツのライバルだとすると、BMWがSUV(スポーツ多目的車)でスポーティなラインナップを拡充するいっぽう、メルセデス・ベンツは軸足をセダンに置きながら、CLSクラスのようなモデルで、高級ニッチ路線を進んでいる。そのちがいがおもしろい。新型CLSクラスはスタイリング的に完成度が高くなっている。現行Sクラスで採用されたリアフェンダーまわりをふくらませ、フロントからリアへと走るキャラクターラインを深くえぐることで彫刻的な特徴をもたせるデザイン手法がみごとに奏功している。運転を楽しむひとが乗るモデルだということを外観が如実に表している。
AMGには、SLS AMGにも設定された「AMGドライブユニットシステム」を用意
操縦感覚もスポーティさが強調されている。ボディは全長4,940mmに全幅1,881mmと比較的大型。それでもコクピットは比較的タイトで、操作性のよさにくわえて、ドライバーに楽しいひとときを与えようという意図がよく伝わってくるデザインだと感じられた。CL 63 AMGでは、シフトレバーがコラムからセンターコンソールに移設されたばかりか、先に発表されたスポーツカー、SLS AMGと同様の「AMGドライブユニットシステム」も設けられている。シフトレバーの横に並べられたダイヤルと3つのボタンで、変速プログラム、ESP(横滑り防止装置)の介入タイミング調節、サスペンションの硬度調節ができる。たとえば市街地走行では「C」(おそらくコンフォート)を選び、積極的に運転を楽しみたいときは「S」(スポーツ)あるいは「S+」(スポーツプラス)と選択可能。レーススタートモードも設定されている。CLS 350 BlueEFFICIENCYにこのシステムは搭載されないが、それでもCモードにくわえ、SモードとMモードがあり、Sモードではスロットルペダルへの反応がするどくなるなど、操縦時のキャラクターを選べる設定。これが楽しさを倍加している。
1.8トン前後という車重がもたらすしっとりした乗り心地と、エンジンのバランスはけっして悪くない。CLS 350 BlueEFFICIENCYに搭載されるのは新開発の3.5リッターV型6気筒直噴エンジン。V型のバンク角を従来の90度から60度に変更して振動を抑えバランサーシャフトを廃止することに成功しているのが特徴のひとつ。燃費向上と排ガスのクリーン化のために、希薄燃焼方式を採用している。一方、パワーが犠牲になってはおらず、最高出力は306psで従来よりプラス34ps、最大トルクはプラス20Nmの370Nmとなっている。組み合わせられる変速機は7段となる。数値だけでなく、実際に体験するとこのエンジンは、とくに3,000rpm~4,000rpmに明確なトルクバンドをもち、この領域で回転数を維持すると、ドライバーの思いどおりのレスポンスのよい加減速を手に入れることができる。
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さらにスポーティになったメルセデス製4ドアクーペに試乗(3)
AMGスポーツパッケージ装着車を試乗
試乗したクルマはよりスポーティな乗り味を求めるひとのために用意されたAMGスポーツパッケージ装着車だった。外観上の識別点における最大のものはフロントグリルがシングルルーバータイプになること。内容的にはAIRマチックサスペンションが装備される。タイヤは標準モデルが18インチであるのに対して19インチと大径化される。そのせいか、路面の舗装が滑らかでないとゴツゴツ感がハンドルをとおして伝わってくる。しかし速度が上がると、路面に吸いつくような、スポーティな運転感覚を味わうことができる。エアサスの恩恵だろうか。先代では8割のユーザーが同種のスポーツパッケージを選択したという実績があると輸入元ではするが、今回は標準モデルに試乗できなかったので、どちらがよりよい選択か、この時点ではわからない。個人的には選べるならつねに径の小さいタイヤのほうが、乗り心地などで快適性が高いため、CLS 350 Blue EFFICIENCYでも18インチタイヤに興味を惹かれる。
CLSのスポーティさを引き出す、見直されたチューニング
外観にふさわしく(?)スポーティな操縦性を求めるひとには、CL 63 AMGがいい。おどろくほどパワフルな386kWの最高出力をもつ5.5リッターV8ツインターボユニットは、ごく低速域から高速まで、よどみのない加速を味わわせてくれる。最大トルク700Nmを1,750rpmから発生するパワフルな感覚が魅力的だ。過給器(ターボチャージャー)を用いることで排気量を抑えつつ出力を上げる、昨今のダウンサイジングコンセプトにのっとって設計されたパワーユニットだ。燃料直接噴射システムの採用と、効率のよい変速機(AMGスピードシフトMCT)との組み合わせで、CO2排出量の低減が謳われている
以前日本に輸入されていたAMGモデルは、たんに足まわりが硬いだけの、あまり感心しないチューニングだったが、近年はメルセデス各モデルが秘めているスポーツ性を、みごとなまでに拡張して、もうひとつの魅力を表現するのに成功している。硬いといえば硬いが、そのなかにしなやかさを感じさせる足まわりと、反応がよいステアリングフィール、そして操作性のよいシャシーと、メルセデス車のポテンシャルの高さを存分に味わうことができる。CクラスからはじまるAMG各モデルすべてでおなじことが言えるが、スタイリッシュで、ドライバーズカーとしての性格づけが明確なCLSクラスには、より合致していると感じられる。
CLS 63 AMGはトレッド幅拡大にともない、専用設計のフロントアクスルを搭載。サスペンションシステムも「AMG RIDE CONTROL」とついたスポーツサスペンションとなる。走行状態に応じて連続的に演算をおこないダンピングを調整するものだ。さらに「AMGドライブユニットシステム」がこのクルマの個性を際立たせる。C(コンフォート)は快適な走行向けだが、S(スポーツ)あるいはS+(スポーツプラス)モードでは、びしっと締め上げられたシャシーの核となるスポーティ性を、さらに純粋なかたちで味わうことができる。S+モードにしたさいの、ハンドルの操舵感覚やスロットルレスポンスの高さは、スポーツカー的な気持ちよさだ。「サーキットでのスポーツ走行から街中でのゆったりした快適な走行まで」カバーすると輸入元ではしている。さきにも書いたように、やはりスポーツカー的な乗り味を求めるひとにより向いているだろう。
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さらにスポーティになったメルセデス製4ドアクーペに試乗(4)
さまざまなドライビングフィールを愉しめる「AMGドライブユニットシステム」
CLS 63 AMGの変速機は7段オートマチックをベースに、トルクコンバーターに代わって湿式多板クラッチを採用し、反応時間の早さが目指されている。変速タイミングの速さがスポーティ性につながるためだ。さきの「AMGドライブユニットシステム」と連動しており、コントローラーを手動で操作して「S」を選択した場合、ギアチェンジに要する時間が「C」より約25パーセント短縮、「S+」では「S」よりさらに約25パーセント短縮する。ドライバーが任意に変速する「M」モードも設けられており、こちらはCモードに対して約50パーセント、変速時間が短縮される。4つの車輪の駆動状況をモニターしていて車両の姿勢変化を事前にコントロールするESPについては、早めの介入はスポーツ性を損なう場合もあるとして、介入度合を3つから選べる「3ステージESP」も設定されている。3段階めはESPの機能を停止するOFFモード。サーキットなどで本格的なスポーツ走行をするさいのモードだ。
ステアリングのパワーアシストを油圧から電動へ変更
新型CLSクラスで技術的に注目すべき点はもうひとつ。ステアリングのパワーアシストが従来の油圧にかわり電動となったことだ。それだけ書くと、独特のステアリングフィールを特徴としてきたメルセデスにおいて、大きな変化がもたらされたように思われるかもしれないが、中立ふきん、そして切り込んでいったときに、中心では反応が鈍く、回転させると慣性が生まれ独特の重さになる、個性的な感覚がきちんと残されている。電動化に踏み切った理由として「エンジン停止中でもパワーアシストが働く」ことをメルセデスでは挙げている。信号待ちなどでエンジンストップ機能をもつCLSではステアリングホイールを切るのにエンジンを始動させる必要がないことで燃費の向上に貢献することがその理由とされている。CLS 350 BlueEFFICIENCYおよびCLS 63 AMGともに同様の電動パワーステアリングが採用された。
ボディサイズは小さくないが、ハンドルがそこそこよく切れて取りまわし性がよいため街中でもてあますこともなく、都市型のスポーティなルックスを特徴とする新型CLSクラス。長距離は快適、かつワインディングロードでも楽しめる。ニッチ(すきま)を意識しすぎた結果か、すこしいびつに感じられたパッケージングなどを思い切りよく捨て去ることで、クルマとしてひとまわり成熟した製品になった。スタイリングも、Sクラスではやや未消化に感じられたオーバーフェンダーのテーマをうまく活かしていて好感がもてる仕上がりだ。メルセデスが目指したスポーティなモデルのひとつの完成形がCLSと印象ぶかかった。
Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY|
メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー
ボディ|全長4,940×全幅1,881×全高1,416mm
ホイールベース|2,874mm
車両重量|1,735kg
エンジン|3.5リッター V型6気筒
最高出力|306ps(225kW)/6,500rpm
最大トルク|370Nm(37.7kgm)/3,500-5,250rpm
トランスミッション|電子制御7段AT
駆動方式|FR
燃費|6.8-7.0ℓ/100km
CO2排出量|159–164g/km
価格|930万円
Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG
車両重量|1,870kg
エンジン|5,4リッター V型8気筒+ツインターボチャージャー
最高出力|525ps(386kW)/5,250-5,750rpm
最大トルク|700Nm(71.4kgm)/1,750-5,000rpm
燃費|9.9ℓ/100km
CO2排出量|232g/km
価格|1,625万円
※国内で得られなかった燃費およびCO2排出量は本国データにもとづく。