VOLVO S60|ボルボ S60 試乗インプレッション
CAR / IMPRESSION
2015年3月6日

VOLVO S60|ボルボ S60 試乗インプレッション

VOLVO S60|ボルボ S60

あたらしい安全機能を備えた、スタイリッシュなクーペセダン(1)

ボルボのスタイリッシュな4ドアクーペは、安全性と運動性能でも秀でている。

文=小川フミオ写真=荒川正幸

より機敏な操縦感覚に

新型ボルボS60は、個性的なスタイルにくわえ、ヒューマンセイフティなる画期的な安全装置と、ドライブの楽しさが印象に残るモデルだ。さらに今回は、1.6リッターターボエンジン搭載モデルも登場。環境負荷の少ないダウンサイジングコンセプトも注目に値する。こんなクルマを通勤に使ったら、毎日が楽しくなりそうだ。

ボルボ・カーズ・ジャパンが2010年3月5日より発売する新型S60。10年ぶりのモデルチェンジとなる。スタイリッシュなクーペセダン。いまでこそ拡大しつつあるマーケットだが、先鞭をつけたのは先代S60。流麗なルーフラインという特長を、新型も受け継いでいる。さらに新型はよりアグレッシブな印象が強い。

モデルラインナップは3つ。

・S60 DRIVe(1.6リッターターボ/前輪駆動)|375万円
・S60 T6 AWD SE(3リッターターボ/フルタイム4輪駆動)|519万円
・S60 T6 AWD R-DESIGN(パワートレインはSEと同様/足まわりを強化+特別な内外装)|579万円

VOLVO S60|ボルボ S60 試乗インプレッション|01

デザインディレクター ピーター・ホルベリー

「フロントグリルは前方に突き出すようなアグレッシブな形状にデザインしました。我われが“ダブルウェーブ”と名づけたフェンダーアーチは、競争馬などの筋骨を思わせるマッシブなイメージをもっています。さらにルーフラインは弧を描くように丸みを帯び、新型ではCピラーからリアにかけてより傾斜をつけて寝かせることでファストバックのようなスポーティさを実現しています」

S60の報道向け試乗会に合わせて来日した、イギリス人のデザインディレクター、ピーター・ホルベリー氏は、マーカーで図を描きながら、このクルマの特徴を語ってくれた。

実際に運転した楽しさはS60の大きな特長のひとつ、とボルボ・カーズ・ジャパンでは説明する。

「シャシー各部を徹底的に見直し、かつてないドライビングプレジャーの実現をめざしているのがS60。フロントサスペンションのスプリングストラットは47パーセント剛性を向上させるとともに、シャシーと接合部は50パーセントも剛性を上げています。ステアリングコラムはチューブを厚くしブッシュを硬くすることでねじれ剛性を100パーセントアップ。ステアリングのギア比は先代より10パーセントクイックにしているので、シャープな操縦感覚をもたらします」

スムーズなコーナリングを生み出すふたつの機能

VOLVO S60 T6 AWD SE|ボルボ S60 T6 AED SE|02

VOLVO S60 T6 AWD SE

VOLVO S60 DRIVe|ボルボ S60 DRIVe|01
VOLVO S60 DRIVe

同時に、S60には電子制御によりコーナリングスピードを高めてくれる機構がふたつ備わっている。ひとつはコーナートラクションコントロール。コーナリング中の左右前輪におけるトルクのバランスを調整する働きをもつ。コーナー内側の車輪にブレーキをかけることで車体が外へとふくらんでいこうとするアンダーステアの傾向を打ち消すというもの。横方向に強いG(遠心力)がかかると、物理の法則にしたがって駆動力は殺がれてしまう。外へ行こうとする慣性を抑えることで、有効に駆動力を使う。すなわち速いコーナリングスピードを保つ。これがこのシステムの目的だ。

もうひとつの電子制御機構が、アドバンストスタビリティ コントロール。ジャイロスコープとアクセルセンサーの働きで、車体の横滑りを早期に関知して、車輪へのトルク配分をコントロールしたり、ブレーキ制御をおこなうシステムだ。これによって、コーナリングがスムーズになり、同時に、前方の障害物をハンドル操作でよけなくてはならないときにも、車体の動きが不安定になる危険性が低下するという。

VOLVO S60|ボルボ S60

あたらしい安全機能を備えた、スタイリッシュなクーペセダン(2)

キャラクターがことなる2つのモデルに試乗

実際に操縦してみると、たしかに気持ちがいい。ハンドリングは中立ふきんで多少反応がにぶい。おそらくボルボの安全思想によるものだろう。いっぽうボルボが言うように、ハイスピードでのコーナリングはじつに安定している。そしてトルクがたっぷりでるエンジンの特性も手伝って、じつに気持ちよくコーナーを曲がっていける。安定とハイスピード。このふたつをうまく両立させている印象だ。

エンジンは、2種類。224kW(304ps)の最高出力をもつ3リッター6気筒ターボと、1.6リッター4気筒ターボとなる。どちらもあつかいやすい。とくに注目は、1.6リッターユニットだ。フォード傘下にあった時代に開発されたエンジンで、排気量を抑えて出力は上げるというダウンサイジングコンセプトにのっとったものだ。すでに市場に導入されているXC60 T5 SEの2リッターユニットの系列に連なるものだ。筒内直接燃料噴射式にバルブリフトコントロールを備える。

ツインスクロールターボチャージャーを組み合わせた4気筒ユニットの最高出力は180ps。最大トルクの240Nmを1,600rpmから発生する。ゆえに扱いやすく、実際、2,000rpm以下で十分な力を出すのは驚くほどだ。回転が上がるにつれ力を出し、ハイスピードまで気持ちのよい加速を味わわせてくれる。適度にマイルドなパワー感で、アッパーミドルクラスのS60によく合った性格設定だ。

ギアボックスは1.6リッターは6段デュアルクラッチシステムとなる。トルクとの関係もよく、変速時のショックは比較的低く、トルコン式に近いスムーズさを感じさせる。

VOLVO S60 T6 AWD SE|ボルボ S60 T6 AED SE|03

VOLVO S60 T6 AWD SE

VOLVO S60 DRIVe|ボルボ S60 DRIVe|03
VOLVO S60 DRIVe

1.6リッターエンジンは、もうひとつ、興味ぶかい機構をもつ。ダッシュボード上の「DRIVe」スイッチを押しておくと、アクセルペダルから足を離したとき、エンジンがトランスミッションから切り離される。つまりアイドリング走行となる。もういちどアクセルに足を載せると、軽く踏んだだけで、最適のギアが選択され、ふたたびエンジンとトランスミッションがつながる。これによって燃費向上がはかられている。下り坂とか、使える場面はかぎられるが、燃費をかせぐのはこういう小さなことの積み重ねが大事といえる。

3リッターV6は、こちらもスムーズで、トルクがたっぷりあり、運転しやすい。ターボのタービン径が大きいせいだろうが、もりもり力が出るのは2,500rpmを超えてからだが、やはり排気量が大きいぶん、感覚的な余裕がある。4気筒モデルは軽快、6気筒モデルはしっとり。キャラクターがことなるのもよい。140万円ほどの価格差と、好みとを考えて決めるといいだろう。4気筒モデルには4気筒モデルの、6気筒モデルには6気筒モデルの個性がある。なので4気筒モデルには不足がなく(一部装備がオプションだがそれは別の話として)、十分すぎるほど楽しめる。レザーシートなど豪華装備を望まないなら、4気筒モデルを選んでも失望することはないだろう。

ツーリングとダイナミックのスポーティな2仕様

VOLVO S60 T6 AWD SE|ボルボ S60 T6 AED SE|04

VOLVO S60 T6 AWD SE

VOLVO S60 DRIVe|ボルボ S60 DRIVe|04
VOLVO S60 DRIVe

乗り心地はよい。サスペンションシステムの設定を比較すると、4気筒のDRIVeは快適志向の「ツーリング」、6気筒のT6 AWD SEはスポーティな「ダイナミック」となっている。さらにT6 AWD SEに設定されるR-DESIGNには「もっともスポーティでハード」とボルボがする専用スポーツサスペンションが組みあわされている。ツーリングとダイナミックを体験したが、どちらもスポーティさと快適さをうまくバランスさせていると思う。多少の性格のちがいはあるが、どちらかの極に振れずきていることはない。

室内は広々としている。シートもホールド性がよく座り心地も快適だ。センターダッシュボードはボルボがフローティングセンタースタックと呼ぶ、1枚の薄い曲げ木細工のようなデザインを踏襲しているが、木材の材質とか組み合わせる金属の雰囲気が高級なかんじだ。ただスイッチの形状などはやや煩雑で、初心者には走りながらのエアコン操作など、難しいことが多い。

後席は、そもそも4ドアクーペがコンセプトなので、ややヘッドルームに制約が出ている。そのためシートのヒップポイントを下げているが、子どもが成人していない家庭などでは、まあ、これで十分だろう。

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あたらしい安全機能を備えた、スタイリッシュなクーペセダン(3)

初採用となる「ヒューマン セーフティ」

安全性の面で、特筆すべきもののひとつが「シティ セーフティ」。市街地などにおける追突事故の75パーセントが時速30km以下で、半数が衝突前にブレーキを踏んでいない」(ボルボの広報資料より)という調査結果をもとに開発されたもので、車両が自動的にブレーキをかけて追突回避をはかる。作動速度は時速4kmから30kmまで、15km/h未満では追突は回避され、そこから30km/hは衝突時の速度を減速することで被害を最小化する、とボルボではする。XC60から採用されたシステムで、S60にも標準装備となる。

もうひとつ、S60で初採用の注目技術が「ヒューマン セーフティ」だ。車両が前方の障害物を検知し自動車的にブレーキをかける追突警告機能つきオートブレーキを発展させたシステムとなる。シティ セーフティがグリルに設けられたレーザーセンサーを使うのに対して、こちらはレーザーセンサーとデジタルカメラを使用。車両はもちろんのこと、身長80cm以上の歩行者を自動的に検知して、警告とそれにつづくフルブレーキで衝突回避もしくは被害を軽微にとどめる。

「先進国では米国を除いて歩行者と自動車との衝突事故はそれなりの頻度で起こっている。クルマづくりをはじめた当初から安全をもっとも重要なコアバリューとしてきたボルボは、ボルボ車がかかわる事故をゼロにすることを目指している。今回のヒューマン セーフティもその企業指針に沿ったもの。日本の事故統計をみても、乗車中の死亡率は下がってゼロに向かっているのに、以前はそれより低かった歩行者を巻き込んだ事故での死者の数は大きく減少していない。いまや死亡事故でトップにきている。そこでヒューマン セーフティが役立つと思う」。
ボルボで電子安全技術を担当するディレクターであるヨナック・エックマークは語る。

VOLVO S60|ボルボ S60 試乗インプレッション|03

VOLVO S60|ボルボ S60 試乗インプレッション|04

ヒューマンセーフティをもちいて、車両前方のひとが立つ位置を検知しているところ。

実際にダミー人形でテストしたところ、20km/hでアクセルを踏んだまま人形に向かって突っ込んでいった車両は、ぎりぎりのところでみごと制動した。ダミーは動かないが「実際は手を振ったり歩いたりと動いているほうがカメラを補足しやすいのです」とエックマークは語った。

ただし作動条件にはまだ制約も多い。側方や後方は補足できない、雨の日は作動状況が悪くなるし、夜間は動かない、といったぐあいだ。「改善に向けて動いている」とのことだが、歩道の整備が悪く、歩行者と自動車がおなじ路面をとおることの多い日本の道では、役だってくれそうだ。S60ではDRIVeにオプション。レーンデパーチャーコントロールなどとともに25万円の「セーフティ パッケージ」として用意される。オプションでもいいので、さらに下位のモデルにもどんどん採用してもらいたいものだ。

エコカー減税対象車両(DRIVe)でもあり、S60はじつにコンテンツ豊かなクルマだ。ボルボはブランドが提供する価値をよくわかっている。

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VOLVO S60 DRIVe|ボルボ S60 DRIVe
ボディサイズ|全長4,630×全幅1,845×全高1,480mm
エンジン|1.6リッター 直列4気筒DOHC
最高出力|132kW(180ps)/5,700rpm
最大トルク|240Nm/1,600-5,000rpm
駆動方式|前輪駆動
トランスミッション|6段デュアルクラッチシステム
10・15モード燃費|12.6km/ℓ
CO2排出量|173g/km
価格|375万円

VOLVO S60 T6 AWD SE|ボルボ S60 T6 AED SE
エンジン|3 リッター V型6気筒DOHC
最高出力|224kW(304ps)/5,600rpm
最大トルク|440Nm/2,100-4,200rpm
駆動方式|フルタイム4輪駆動
トランスミッション|6段オートマチック
10・15モード燃費|8.9km/ℓ
CO2排出量|231g/km
価格|519万円
※CO2排出量は欧州データに基づく。

           
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