特集|2015年国際映画祭速報|第68回カンヌ国際映画祭
特集|第68回カンヌ国際映画祭
各部門の受賞作品を最速リポート!
5月13日より風光明媚な南仏の高級リゾート地で催されていた世界最大の映画祭が、24日(日本時間25日未明)に閉幕した。68回目を数え、好天に恵まれた今年のカンヌは、さまざまな面での変化が表出した年となった。現地で取材をつづけていた映画ライター、吉家容子さんのリポートとともに早速受賞作品を振り返ってみることにしよう。
Text by KIKKA YokoEdited by TANAKA Junko(OPENERS)
フレッシュな顔ぶれを常連監督が迎え撃つ
映画祭の華であり、日本からも是枝裕和監督の『海街diary』が出品された注目のコンペ部門の審査員は、1991年の『バートン・フィンク』で最高賞のパルムドール、監督賞、男優賞の3部門を制したアメリカの兄弟監督ジョエル&イーサン・コーエン(審査委員長)以下、ギレルモ・デル・トロ監督、グザヴィエ・ドラン監督、俳優のジェイク・ギレンホール、シエナ・ミラー、ソフィー・マルソー、ロッシ・デ・パルマらの総勢9名。
コンペでの受賞経験のある名だたる監督の作品が、映画祭公式部門の第2カテゴリーである“ある視点”部門にシフトし、話題となった今年のコンペ選出作は19本。コンペ初参加のフレッシュな顔ぶれが並び、それを最高賞受賞監督のふたり、ガス・ヴァン・サント、ナンニ・モレッティをはじめ、ジャック・オディアール、マッテオ・ガローネ、パオロ・ソレンティーノらの常連監督が迎え撃つ構図となった。
ある視点賞を受賞した『籠の中の乙女』(2009年)で頭角を表し、今回のコンペ初参加で審査員賞を獲得したギリシャの気鋭監督ヨルゴス・ランティモスの怪作『The Lobster』は、コリン・ファレル(役作りで激太り!)、ベン・ウィショー、レア・セドゥ、レイチェル・ワイズらの人気スターを起用した英語作品で、実に奇想天外かつシュールな物語の展開に思わず惹き込まれてしまった。
メキシコ人監督ミシェル・フランコが脚本賞を受賞した『Chronic』も同様で、末期患者を介護する看護師役で主演したティム・ロスは、フランコ監督が『父の秘密』(2012年)である視点賞を受賞した際の審査委員長だった。あらたな才能とそれに惚れ込んだ名優のコラボ、なんて素敵なんだろう。
『La Loi du Marché』で熱演を披露したヴァンサン・ランドンの男優賞受賞は順等だろう。女優賞は『Carol』のルーニー・マーラと『Mon Roi』のエマニュエル・ベルコ(オープニング作品『Standing Tall』の監督でもある才女)が分け合ったが、『Carol』でルーニー・マーラの相手役を務めたケイト・ブランシェットの巧演も光っていた。
名匠ホウ・シャオシェンが監督賞を受賞した武侠映画『黒衣の刺客』は、映像の圧倒的な美しさに比べ、人物描写があまりにも薄いような気がした。妻夫木聡の出演シーンもセリフも少ないので、あれっ?と思っていたが、現地での日本人記者向け囲み取材によると、妻夫木聡にはかなりのセリフ量と出演シーンがあったとのこと。とすれば、今回は映画祭バージョンでの上映で、日本公開時には別バージョンとなるやも知れない。
映画祭を通して最も衝撃を受けたのは、審査員特別大賞を受賞したハンガリーの新鋭監督ラズロ・ネメスのホロコースト映画『Le Fils de Saul』。主人公のクローズアップを多用した意図的カメラワークが絶大な効果を発揮する傑作で、本作が長編第1作目とは思えない完成度の高さ。個人的には、この作品に出会えたことが今年の最大の収穫であった。
最高賞のパルムドールに輝いた『Dheepan』は、ハッピーエンディングに賛否両論があり、ジャック・オディアール監督の最上作とは言い難いものの、テーマの掬(すく)い上げ方と、圧倒的な演出力には舌を巻かされた。
ところで、我々報道陣は授賞式セレモニーの模様を別会場のスクリーン映像で観るので、賞が発表される度に気兼ねなく歓声をあげたり、ブーイングしたりと喧しいのだが、今年は授賞式が格段にショーアップされていて驚いた。コンペ出品作2本に出演したアメリカ人俳優ジョン・C・ライリーがダンシングしながら歌ったり、しっとりしたビアノの弾き語りがあったり……。カンヌの進化を実感した次第である。