ご当地フレンチと侮るなかれ。青森美食の真髄、ここに極まれり!|TRAVEL
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2022年7月25日

ご当地フレンチと侮るなかれ。青森美食の真髄、ここに極まれり!|TRAVEL

TRAVEL|星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル

「知る」は、おいしい!リターンズ 星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル編(1)

私が“朗々と響かせて”という音楽用語を意味するそのレストランに足を運ぶのは、今回が3回目です。あ、マウンティングじゃないですよ。フレンチレストラン「Sonore(ソノール)」は、2019年7月、十和田八幡平国立公園内に位置する「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」に、同ホテルのメインレストランとして誕生しました。私が同レストランを初めて訪れたのは、2019年9月だったと思います。奥入瀬渓流沿いに設けられたテラス席でのアペリティフ、個性的な青森の食材をフランス料理の技法で仕立てた料理の目新しさ、そして、美味しさに陶酔しました。2回目の訪問の際は、「記憶は美化されるもの。期待しすぎて失望したくないな」と、盛り上がる気持ちをなだめながら向かったものですが、いらぬ心配でした。1回目の感動を凌駕するような、至福の時間が待っていたのです。で、3回目の今回、私には、もう何も恐れるものはありませんでした。振り切れんばかりに高まった期待と共に、「ソノール」へと向かいました。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi

感動を育むのは、やはり人。このふたりの協業が、いま素晴らしい

左はソノール料理長の岡 亮佑さん。右が同ソムリエの鈴木良隆さん。
「ソノール」のシェフを務めるのは、1985年生まれの岡 亮佑さん。滋賀県出身の岡さんは、神戸北野ホテルやレストランオマージュ、ピエールガニェールなどで研鑽を積んだあと、2016年に星野リゾート ロテルド比叡の総料理長に就任。ロテルド比叡の運営が星野リゾートの手を離れたのを機に、2020年4月より、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルのメインダイニング「ソノール」料理長に就任します。
では、ここで改めて「ソノール」のコンセプトについて伺っちゃっていいでしょうか……?
「青森県は日本海、津軽海峡、太平洋と、3つの海に囲まれた日本有数の海産地帯で、また山の幸も豊富な食材の宝庫でもあります。その青森県の旬の食材を駆使したフランス料理を、渓流を眺めながら、グランヴァンとともに味わっていただくレストランです」
そうなんです。こちらでいただけるのは、洗練されまくった“青森フレンチ”です。そして訪れるたびに、さらに青森色、そして独創性が高くなっているような気がします。そう伝えると、「はい、これまで以上に青森にフォーカスした、食材選びや仕立てを意識しています」と、にっこり。とはいえ、これまで青森とは縁もゆかりもなかったという岡さん。個性あふれる青森食材に対する知識を深め、これをフランス料理に仕立てるのは簡単なことではないのでは──?
「たしかに青森の食材は個性的です。でも、私は、ゼラチン質、油脂分、アルコールという3つの要素があれば、どんな素材も、フランス料理になり得ると思っているんです」
ほほう。面白いですね、その思考。そして今後、フランス料理を食べていく上で意識したいキーワードでもあります。
奥入瀬は芸術家の岡本太郎が生前こよなく愛した土地。エントランスの奥にあるロビー 森の神話の中央には、岡本太郎による同名の、高さ8.5mのブロンズ製の大暖炉が置かれている。大暖炉「河神」は、岡本の最晩年の作品。
さて、より青森の食材や文化にフォーカスしていきたい──、と語る岡さんですが、魚や肉など、素材によっては、東京のほうが良いものが手に入ることも多いのだそうです。だから、仕入れ先にもこだわります。たとえば鮮魚は、巧みな神経締めに定評がある、青森市のカリスマ鮮魚店、塩谷魚店のものを使用しているのだとか。といっても、力技で地産地消を貫くわけでもありません。「いろいろ探してはみたのですが、青森の牛肉はメインとなるとやはり弱いんです」と語る牛肉は、名だたる料理人たちが称賛する滋賀県の精肉店「サカエヤ」から仕入れています。
そんなユルやかな地産地消を貫く岡さんの料理を、ソムリエの鈴木良隆さんは、こう評します。
「食経験が浅い方、深い方、すべての人が食べておいしいと感じる料理だと思います。何を食べてもらいたいか、そのメッセージが明確なんです。野球で例えると、カーブやシンカーなど、いろいろな球を投げるけれど、美味しいというストライクゾーンにはバシっとはまる、という感覚です。あ、僕ちょっといいこと言っちゃいましたね(笑)」
(笑)。それじゃ、そろそろ食事をすすめていきますかね。「ソノール」での宴は、奥入瀬渓流を眼下に臨むテラスでのアペリティフから始まります。すでにいろいろな記事で紹介されているし、この記事の冒頭でもちらっと触れているので、ご存じの方も多いとは思いますが、「渓流沿いに位置する」という、同ホテルの強みを最大限に生かしたアペロを語らずして、「ソノール」の紹介はできません(笑)。
 
 
渓流の瀬音や四季折々の風景、冷えたシャンパーニュ、そして、渓流をイメージして作った特注のお皿に乗って登場する宝石のようなアミューズなど、そのすべてが作り上げる唯一無二の世界観──、これ以上求めるべくもない、完璧なシチュエーションです。そして、5品のアミューズがまた、アブラツノザメのコンフィ、イノシシのパテ、発酵りんごのサブレなど、どれもこれも愛おしい存在なのです……。

「知る」は、おいしい!リターンズ 星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル編(2)

そろそろダイニングへ移動するとしましょうか

ささ、シャンパーニュもそろそろ終わりそうです。そろそろダイニングへ移動するとしましょうか。「ソノール」のダイニングの内装について、一言で紹介すると、奥入瀬渓流の自然がスタイリッシュにアート化された、パラレルワールド(言い過ぎ⁉)。ナラやコブシの木、岩、奥入瀬渓流の水、流木などをモチーフにしたインテリアやアイテムが随所に配されているのです。そんな、奥入瀬渓流の自然が凝縮したような空間で、全9品で構成されるコース料理をいただきます。
小前菜「イガメンチ 筍」/カシ・ロゼ2019 ドメーヌ・ド・ラ・フェルム・ブランシュ
冷前菜「鮪 春キャベツ」/コート・デュ・ジュラ・ピノ・ノワール・アン・プレール2018 ドメーヌ・グラン
冷前菜「山菜 馬肉」/トゥーレーヌ・ブラン2019 ドメーヌ・オー・ペロン
温前菜「旬豆 帆立 モリーユ」/エステル&シリル・ボンジロー・ブリュット2018
温前菜「棘栗蟹 軍鶏」/ヴァン・ジョーヌ2014 ドメーヌ・デュラン・ペロン
魚料理「旬魚 貝」/ドメーヌ・ウーダン シャブリ・プルミエクリュ ヴォージロー2018
肉料理「牛 アスパラガス」/シャトー・ラ・トゥール・ド・モン2008
アヴァンデセール「雪の下人参」
デセール「苺 ピスタチオ」/ピノ・ノワール・アイスワイン2018 ファミリー・フリードリッヒ・ベッカー
イガメンチ
2022年5月にいただいた、一皿目の料理は「イガメンチ」。津軽地方内陸部で古くから食べられている、「簡単に言えば、イカをたたいて作るメンチカツ」(岡さん)を、フランス料理にアレンジした逸品です。
「青森に来ているのだということを、コースの最初の段階から実感していただきたくて」と、岡さんはその製作意図を語ります。磯の香りが引き立つ海苔のソースの濃厚な味わい、イカと筍のコリコリとした食感がたまりません。昆布で出汁を取った筍と海苔のソースを合わせ、若竹煮を連想させる春らしい組み合わせに仕立てていますが、「付け合わせは季節ごとに変えていきます」(岡さん)。
鮪 春キャベツ
続いて登場した、少し大きめにカットした鮪と旬の春キャベツを合わせた「鮪 春キャベツ」も優美で、忘れ難い一皿でした。春キャベツの甘味がほのかに香るチュイルの下には、鮪を使って作った魚醤で味付けした鮪と、火入れした長芋、うずらの卵の温玉が潜んでいました。「青森では、やはり鮪を期待されます。その季節に合わせた食材とともに、鮪は常にオンメニューさせています」と語る岡さん、今回の料理は、ハワイのポキから着想を得たそうです。
で、一見、脇役と思われがちの春キャベツのチュイルが、また、いい仕事をしているんです。やわらかく、香り高い春キャベツには、「私なんてどうせ鮪の引き立て役でしょ」といった卑屈なところがまったくありません。では鈴木さん、この料理にはどんなワインを合わせましょう⁉
「鮪には、やはりピノ・ノワールです。今回は、岡が作る鮪の魚醤に合わせ、出汁感のあるピノ・ノワールを探したのですが……いいワイン、見つけちゃいましたよ(笑)」と、注いでくれたのは、ジュラのピノ・ノワールでした。「酸も穏やかで旨味も強い。この料理にはよく合うと思います!」と、心なしかドヤ顔の鈴木さん。どれどれ。うわー、淡いけれど、なめらかな酸味と赤果実の香りが際立ち、旨味が強いピノ子ちゃんですこと! コクのある鮪とワイン、それぞれの持つ旨味成分が口内で重なり合い、花開いていきます。恍惚の表情を浮かべる私に、鈴木さんはこう続けます。
「今度は鰹とピノ・ノワールの相性を検証したいんですよ。いい鰹だとハマるのですが、鰹の生臭さが際立ってしまうこともあって。意外と良かったのは、長野県のメルローでした」
そんな話に耳を傾けながら、珠玉のマリアージュをいただく幸福よ……! 私は前世でいったいどんな得を積んだのでしょうか。身に余るほどの幸せに、そっと目を閉じ、小さなため息をつきます。ところで鈴木さん、岡さん、鰹はいつ食べに伺えばいいですかね?
山菜 馬肉
続く「山菜 馬肉」も、コースの前半にして、絶頂に達しつつある私のテンション、そして飽くなき食欲をさらなる高みへと押し上げてくれました。独特の苦みや香りが特徴のこごみやふきのとうなど、春を代表する山菜の上に、馬肉のタルタルがどどーんっ!
岡さんが、「春の山菜を楽しんでいただくための料理です」と語る、この冷前菜は、とろんとした馬肉と、苦みと滋味に富んだ山菜がカップリングした耽美な一皿。そして一口いただけば、「あくまでも主役は山菜」と岡さんが力を込める理由が理解できます。付け合わせの鬣のラルドの存在がまた秀逸でして。溶けだしたラルドの脂分が、山菜の苦みを優しく包み込み、その苦みを中和します。ああ、なんて楽しいんでしょう。「うまい、うますぎる!」と、大声で叫び出したい衝動をこらえるのに必死でした。
「上からみると赤ワインを合わせたくなる料理ですが、山菜に集中しました(笑)」と語る鈴木さんが、この料理に合わせたのは、ロワールのソーヴィニヨン・ブランです。ほほう、白ワインで来ましたか。「一見、馬肉が主役のように思えますが、ワインと合わせることで、いやいややっぱりこれは山菜料理だよと気づいてもらえる、山菜の風味を尊重した、緑が強く出るワインを選びました」。そんな鈴木さんの話を聞きながら、岡さんが言います。
「鈴木さんは、料理を美味しくしようという観点でワインを選んでくれます。そこに、ソムリエのエゴは一切入ってこないんです」
この日、用意されたペアリング用のワインがこちら。ちなみにソノールでは、世界中から厳選された約150種類、約2000本の銘醸ワインを用意している。
「ソノール」が美食家から高く評価されている理由のひとつは、鈴木さんと岡さん、それぞれの技術やセンスはもとより、ふたりの信頼関係にあると私は確信しています。
牛 アスパラガス
メインの肉料理「牛 アスパラガス」は、「牛肉を、きちんと美味しく食べてほしい」と、サカエヤからひいた経産牛の熟成肉を、炭火でじっくり焼き上げ、牛肉本来の旨味をしっかりと閉じ込めています。噛めば噛むほど旨味が広がる牛肉は、スパイシーなキレと、たっぷりの旨味をたたえた、赤ワインソースと共にいただきます。付け合わせにはオランデーズソースをかけたアスパラガスと、食感と香りのアクセントにカリカリに焼いたエシャロットを添え、香ばしさを加えました。合わせるワインは、ボルドーの「シャトー・ラ・トゥール・ド・モン2008」です。
「メイン料理ですから、ペアリングはいちばんテンションの上がるものを選んでいます。冒険はしません(笑)。熟成から来る香り、炭の香りを持ち上げられる、ほどよくこなれたマルゴー村のワインです。べちゃっとしたソースではないので、ボルドーのなかでも、やさしいワインを持ってきました」(鈴木さん)
苺 ピスタチオ
デゼールの「苺 ピスタチオ」は、「苺をメインに据えたデザートです。私は苺はあまり細かく切りたくない、果肉として頬張るほうが美味しいと考えているんですよ」と岡さん。「苺感をしっかり味わってほしい」というスタンスを守りつつ、「フレンチらしい濃厚感のあるデゼールにしたい」と、軽くマリネした苺に、王道のピスタチオを合わせました。
このデゼールは、ドイツのアイスワイン「ピノ・ノワール・アイスワイン2018 ファミリー・フリードリッヒ・ベッカー」と共にいただきます。デゼールにもペアリングが付くとは思っていなかったので、うれしいサプライズでした。そして、鈴木さんの攻めっぷりは清々しいほどでした(笑)。
最後に──。私が今さら紹介するまでもありませんが、奥入瀬渓流ホテルにはさまざまな楽しみ方があり、そして、奥入瀬渓流の自然をいかしたアクティビティをたっぷり提案してくれます。「渓流オープンバスツアー」や、ルーペを持って渓流沿いを散策し、苔を観察する同ホテルの随一の人気アクティビティ「苔さんぽ」、ネイチャーガイドが案内する「奥入瀬ガイドウォーク」、ネイチャーガイドとともに、多くの滝を見ることができる奥入瀬渓流上流域を歩く「名瀑ガイドウォーク」、日本一のブナの巨木「森の神」を訪ねる「森の神ネイチャーツアー」などなど、どれもこれも魅力的で、「ぜんぶ参加したいんですけど!」と身を乗り出してしまいそうです。
 
なかでも食いしん坊の私の心をわしづかみにしたのは、2022年5月に1日1組限定で開催されていた、「渓流新緑ランチ」でした。奥入瀬渓流のせせらぎを独り占めするような特等席で、野菜たっぷりの料理と、ソムリエ鈴木さんセレクトのワインに酔いしれるという、極楽アクティビティです。今回、鈴木さんが選んだのは、フランスのロワール、ボルドーとニュージーランドという、産地違いの、3種のソーヴィニヨン・ブランでした。
「新緑が美しい5月の渓流を眺めながら、ハーブなどグリーンを連想させるソーヴィニヨン・ブランを飲んだら楽しいだろうな、そんな思いから企画したアクティビティです」
わかりやすっ(笑)。で、「渓流新緑ランチ」、控えめに言って、「最高!」でした。新緑に包まれた渓流を愛でながらいただく、アスパラガスやルッコラ、香草を取り入れた3種類の「新緑サンド」、サラダ、スープなどの野菜をふんだんに使ったランチボックス、そして産地違いの3種のソーヴィニヨン・ブラン──。霊感など皆無の私ですが、亡父をはじめ、代々の先祖たちが、「お前、本当に幸せだな。先祖一同、お前を誇りに思うぞ」と、この最高すぎるシチュエーションを祝福してくれているようでした。ちょっと何言ってるのかわからない? すみません。要するに興奮しているのです。
そして、「5月ってもう終わってるじゃん。ウチらが体験できないこと、自慢されてもねぇ?」というあなた。今回のプランが好評だったことを受け、奥入瀬渓流ホテルでは、来春の再開催、そして今秋には、紅葉deピノ・ノワールの開催も視野にあるそうですよ!
紅葉deピノ・ノワール(勝手に命名(笑))の販売スタートを、今か今かと待っている今日この頃です。

星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル

  • 住所| 青森県十和田市大字奥瀬字栃久保231
  • アクセス|JR八戸駅・新青森駅から車で約90分(無料送迎バスあり・要予約)
  • 客室数|187 室(チェックイン15:00、チェックアウト12:00)
  • 料金|1泊22,000円~(2名1室利用時1名あたり、税込、夕朝食付)
※フレンチレストラン「Sonore」のメニュー、渓流テラス朝食、各種アクティビティについては、時期により提供内容、食材の産地が異なる場合があります。
問い合わせ先

星野リゾート予約センター
Tel.0570-073-022
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/oirasekeiryu/

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