「知る」は、おいしい! ブレストンコート ユカワタン|TRAVEL

前菜 パプリカのムース

LOUNGE / TRAVEL
2020年7月27日

「知る」は、おいしい! ブレストンコート ユカワタン|TRAVEL

TRAVEL|ブレストンコート ユカワタン

このひと皿と出合うために、ブレストンコート ユカワタンへ(2)

さて、前述の通り、ユカワタンのコースはひとつです。季節によってメニューが異なるのはもちろん、皿数や料理の温度は、メニュー構成によって変化します。それでは2020年6月末時点のコースの一部を抜粋してご紹介しましょう。
アミューズのあと、最初の前菜として登場したのは「パプリカのムース」。テーブルにサーブされた瞬間、口をついたのは、「かわいい!!」のひと言でした。パプリカのムースを、パプリカのピューレとトマトのコンソメでおめかしさせた前菜は、洒脱な高原の夏が立ち上ってくるかのような出で立ちでした。
パプリカのムースといえば、東京・三田の名店「コート・ドール」で一世を風靡した前菜。「甘みもあってフルーツに近いフレーバーを持つパプリカを使ったムースは、夏にぴったりです」(松本さん)。見た目も可憐で、酸味と甘みがいい感じでせめぎ合い、口どけも滑らか──。めくるめく夜の始まりです。
前菜 鯉と胡瓜のコンポジション
続いての前菜は、「鯉と胡瓜のコンポジション」。ユカワタンの名物でもある鯉が、早々のご登場です。ユカワタンでは、1年を通して鯉を使用した前菜を提供しています。「季節に合わせて、組み合わせる食材や仕立ては変えていますが、必ず鯉は出しています」と、松本さんは力を込めます。
そもそも松本さん、「僕、長野出身なのに鯉は好きじゃなかったんですよ。臭いし、美味しくないし、むしろ嫌いでした(笑)」。しかし、“水のジビエ”をコンセプトとするユカワタンでは、信州の清らかな土壌で育ち、信州で古くから食されてきた鯉は“定番”の食材。向き合わざるを得ません。そこで厨房で、すべての部位を食べ比べしたそうです。
「鯉は部位によってまったく個性が異なります。それに骨だらけなんですよ。ただ、食べ方や調理法ひとつでもっと美味しくなる。決して海の魚に引けをとらないと可能性を感じました」
そこまでおっしゃるなら分かりました、私も鯉はそれほど好きな食材ではありませんが、お手並み拝見させていただきますっ!
「つい先ほどまで泳いでいた鯉です」とやってきた料理は「で、鯉さんはどちらにいらっしゃるの?」と、聞き返したくなるようなプレゼンテーションでした。しかし、それこそ、松本さんの狙いだったのです。
どうやらはにかみ屋さんらしい鯉さんは、きゅうりの下に隠れていました。ヴァンブラン(白ワイン)ソースに味噌を加えた、濃厚なソースを合わせています。チーズのように見えるのは、ピーナツオイルを粉状にしたもの。上にはきゅうりの花が飾られていました。
「鯉はイメージが良くなく、鯉という文字がメニューにあっただけで、“別のものにしてください”とおっしゃる方もいます。せめて見た目の先入観をなくしたいと、華やかさを前面に出しました」
艶やかなピンク色の鯉の、ぷりぷりとコリコリの中間のような歯ごたえは、少し前まで泳いでいたことを食べる者に語りかけているようです。ソースをつけると、鯉はまた異なる表情を見せ、口内でプチンと弾けました。ああ“鯉”に“恋”してしまうかも。
あ、引かないでくださいね、松本さんも、「子どもの頃は嫌いだった鯉が今は好きになりました」と言っていますし。
「鯉に限ったことではありませんが、もっと美味しくなるのではないかと、常に新たなやり方を模索しています。仕立て以外でも、さまざまに変化させています」
ユカワタンの鯉は、どこまで登り詰めていくのでしょうか。
「ブレストンコート ユカワタン」マネージャーの松原未那人さん。ワインの品揃えはブルゴーニュを中心に、長野県産ワインについても積極的に仕入れているそう。ユカワタンのペアリングについて聞くと、「知的好奇心をくすぐる、ちょっとした仕掛けのようなものを組み込むようにしています」。
この鯉料理にソムリエがペアリングしてくれたのは、コート・デュ・ローヌで、250年以上もわたって独自のスタイルで醸造を行なっている『オーギュスト・クラープ』のサン・ペレイ。そのミネラル感のある滑らかな味わいで鯉のほのかな甘みがさらに花開き、やがて身体の隅々へと染み入っていくのでした。ペアリングって、これが楽しいんですよね~。出合うことのなかったかもしれない料理とワインが奇跡の邂逅を果たし、抱き合うことで、予想もしなかった至福の境地へと誘ってくれるのです。料理はもちろん、ソムリエの提供するワインへの期待も、半端なし。身を乗り出さんばかりの勢いです!
前菜 サラダヴェール
リフレッシュメントを兼ねた最後の前菜、「サラダヴェール」は、そのルックスからして、身体が喜ぶ声が聴こえてきそうなひと皿。ホエー(乳清)のババロアの上に、あしらわれたインゲン、スナップエンドウ、とある外国人シェフの依頼で地元農家が育てていたイタリアのグリーンピースを、ヘーゼルナッツのオイルと塩でいただきます。
異なる豆たちは、それぞれ個性を放ち、さまざまな香りをはらみ、それでいて喧嘩をすることなく、見事な協奏曲を奏でます。センターの白い花はグリーンピースの花なのだとか。サービスの方に「豆の香りがしますよ」と言われ、それじゃあと香ってみました。五感を刺激される食事はなんて楽しいのかと、改めて実感します。
聞けば、松本さんの実家は兼業農家。小さい頃から美味しい野菜を食べて育ってきたそうですが、「子どもの頃は美味しいと思っていなくて。長野の野菜の美味しさに気付いたのは、大人になってからでした」。そんな松本さんのお眼鏡にかなった野菜たちは、ユカワタンの料理の皿の上で、新たな命を与えられ、美しく、華やかに、私たちをもてなしてくれます。
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