「知る」は、おいしい! ブレストンコート ユカワタン|TRAVEL
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2020年7月27日

「知る」は、おいしい! ブレストンコート ユカワタン|TRAVEL

TRAVEL|ブレストンコート ユカワタン

このひと皿と出合うために、ブレストンコート ユカワタンへ(3)

魚料理は、「蝶鮫のポワレ ソースロワイヤル」でした。突然ですが、蝶鮫が淡水魚って、ご存じでした? 無知をさらしますが、私は知りませんでした……。もうひとつ、蝶鮫は、鮫ではないそうです。見た目が鮫っぽいから鮫と呼ばれているだけで、蝶鮫は硬骨魚類に、鮫は軟骨魚類に属します。そもそも正反対の系統だってことです。鮫でもないのに勝手に鮫とか名前つけられて、不憫なヤツ……。
キャビアは時々いただきますが、蝶鮫そのものって、なかなか食べる機会がありませんよね。松本さんも、4年ほど前に食べた時は「美味しくなくて、料理には使わないと決めていました」。しかし昨年、鯉の締め方を変え、鯉の鮮度が格段に上がったことをきっかけに、同じ方法が蝶鮫にも使えるのではないかと試したところ「蝶鮫の持つ脂を引き出すことができ、抜群に美味しくなりました」。
魚料理 蝶鮫のポワレ ソースロワイヤル
サフランのソースと、アニスの香りをまとった泡を身にまとった蝶鮫のポワレの、ふぐを彷彿とさせる弾力のある食感に唸るのみ! 蝶鮫くん、これほどデキる子だったとは!! エレガントな脂は香草を使ったソースや泡と合わさることで、さらに輝きを増します。蝶鮫くん、松本さんと出合って、本当に良かったね。
肉料理 鴨のロティ ラベンダーソース
この日、メインとして供されたのは「鴨のロティ ラベンダーソース」でした。ユカワタンのために飼育してもらっている鴨を丁寧に蒸し焼きし、ラベンダーソースと合わせています。肉の表面は美しいロゼ色です。鰹節のように見えるのは、ごぼうをキャラメリゼして乾燥させたもので、松本さん曰く「土の香りのイメージです」。
ミルキーでジューシーな鴨肉は、窒息処理をして使用。「締め方ひとつ、毛抜きひとつで、味や香りの出方はまったく違うものになります」という松本さんが全幅の信頼を置く生産者は、「酒屋の当主だった方で、酒屋を引退し、鴨を育てていらっしゃいます。酒粕も入れた、穀物を中心とした餌を食べているので、こちらも脂が旨いんですよ」。
ラベンダーソースの華やかな香りが鼻腔を抜けていきました。やわらかな甘みを持つ鴨の肉汁や脂と絡み合い、さらなる高みへと誘われていきます。この口福を全身全霊で味わいたいと、そっと目を閉じると、松本さんのこんな言葉が蘇ってきました。
「僕が勉強したのは、ソースを大事にする伝統的なフランス料理。信州の食材を中心に使用し、現代的なアレンジは加えても、着地点はしっかりとフランス料理でありたいと考えています」
はい、私たちがいただいているのは、文句なしの、フランス料理です。
無花果(いちじく)のキャラメリゼ 黒胡麻のグラス 黒ゴマのアイスクリーム
さてコースのフィナーレを飾るデザートも、松本さんによるもの。東京のフランス料理店に勤めていた時は、1年ほどパティシエもやっていたという松本さん、「甘いものが好きなので、デザートづくりも好きなんですよ」。パティスリーのお菓子とレストランのお菓子は違うという考えのもと「コースの最後にお出しするので重すぎず、だからといって何を食べたか思い出せないくらい軽すぎてもいけない」と考え、「あくまでも考え方は料理。味の重ね方や瞬間的な造形など、甘い料理を作っているイメージで構成しています」。
なるほど、この日のメインデザートである「無花果(いちじく)のキャラメリゼ 黒胡麻のグラス 黒ゴマのアイスクリーム」は確かに“甘いフランス料理の一皿”でした。しょうがのブリュレと、表面をキャラメリゼしたフレッシュな無花果、その上には濃厚な黒胡麻のアイスクリームが載っています。ゴツゴツとした茶色いものは、アールグレーのパウダーを入れて焼き上げたクッキー生地。お皿の上の赤い粒々は、無花果の皮を赤ワインで煮てピューレしたもの。上に飾られた棒状のものは、白ごまのチュールです。
見た目のインパクト、食後にでも軽やかにいただける多彩な食感、さまざまな味の重なり合い──。フルコースを平らげ、お腹いっぱいと宣言したあとも、無理なく、楽しくいただけるのが嬉しいです。
周辺にはアカデミックな散策スポット、見どころも。小高い丘の上の木立の中にたたずむ三角屋根が印象的な「軽井沢高原教会」は、1921(大正10)年に開かれた「芸術自由教育講習会」を原点に誕生。キリスト教者で思想家の内村鑑三や、文豪 北原白秋、島崎藤村ら当時を代表する文化人が集い、「遊ぶことも善なり、遊びもまた学びなり」の理念のもと、ここでは自由に語り合った。内村はこの空間を心から愛し「星野遊学堂」と名付ける。昭和49年に「軽井沢高原教会」と改称したが、「星野遊学堂」の名は建物の正面に大きく刻まれている。
心地良い満足感にまどろんでいると、松本さんがひと言。
「ひとつのコースの中でたくさんの驚きがあり、新しい発見を与えてくれる──、ただ食事して終わり、ではなく、いろいろなことを感じていただけるのが、フランス料理の楽しさだと思っています」
ユカワタンでは、まさにそんな時間を過ごすことができます。
「そして、こういう環境でしか食べられないものがあります。軽井沢という土地を知ってもらう料理を、これからも、心を込めて作っていきたいです」
信州の風土が、色彩鮮やかに表現された、知的好奇心を刺激する料理を食す──。
ユカワタンは、人生の節目ごとに大切な人を誘いたくなる、そんなレストランなのです。
問い合わせ先

ブレストンコート ユカワタン
Tel.050-5282-2267
https://yukawatan.blestoncourt.com

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