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2020年1月27日
「知る」は、おいしい! 界 加賀|TRAVEL
TRAVEL|界 加賀
このひと皿と出合うために、界 加賀へ(1)
あの蟹まみれの夜のことを思いだすと、ついにやけてしまいます。多少つらいことがあっても、この思い出でしばらくはやっていけるような気がします。
Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi
生きててヨカッタ! 一生の思い出となる蟹づくしの宴
のっけから感じが悪くてすみませんが、みなさんは蟹をお腹いっぱい食べたことがあるでしょうか。格安の食べ放題でお目にかかるような、蟹さんじゃないですよ(あ、さらにムカつきました?)。
2019年冬のずわい蟹の解禁直後、「星野リゾート 界 加賀」(以下「界 加賀」)に、「極み 活蟹づくしのタグ付き蟹会席」(以下、「極み」)を食べに行ったのですが、これが未だ経験したことのない最高の蟹体験だったんです! というか、今後の人生においてもこれを超える蟹体験には巡り合えないと思います……。
「界 加賀」は、約1300年前に、高僧行基が発見したと伝えられる石川県の名湯・山代温泉の中心に位置します。寛永元(1624)年創業から、北大路魯山人(きたおおじ・ろさんじん)など多くの文人墨客に愛された日本旅館「白銀屋」が、2008年、星野リゾートへと経営を移行。2015年12月、「界 加賀」として、390年を超える歴史を誇る加賀伝統建築の風情はそのままに、伝統の中に現代的な文化や意匠を加え、新たなスタートを切りました。
運営が移った際、星野リゾートがコンセプトに掲げたのが、「北陸一の料理旅館」。かなり大きく出ました。料理にかける並々ならぬ情熱が伝わってきます。その「界 加賀」が、自信をもって提供している、同宿のシグニチャーとも言うべきコースが、「極み 活蟹づくしのタグ付き蟹会席」(以下、「極み」)です。この「極み」を目当てに、毎年、ずわい蟹の解禁直後に足を運ぶゲストも多いそうですよ。
「極み」コースで提供される蟹は、1人1・5杯。そのすべてにずわい蟹の活蟹を使用します。刺身、焼き蟹、蒸し蟹、鍋など、さまざまな調理法で蟹を仕立てた全8品とデザートで構成される、「極み」の名の通り、「ずわい蟹を極めちゃってくださいな」といったコースです。
まずはそのラインナップをご紹介しておきましょう。
・蟹刺身(活蟹と寒鰤のお刺身)
・焼き蟹(焼き活蟹)
・甲羅焼き(活蟹の甲羅焼き)
・揚げ物(活蟹の絹糸揚げ)
・おひたし(活蟹と野菜のおひたし)
・蒸し蟹(活蟹のしめ縄蒸し(タグ付き蟹))
・蟹すき鍋(活蟹すき鍋)
・食事(蟹雑炊、香のもの)
・甘味(「界 加賀」特製 金時のデザート)
・焼き蟹(焼き活蟹)
・甲羅焼き(活蟹の甲羅焼き)
・揚げ物(活蟹の絹糸揚げ)
・おひたし(活蟹と野菜のおひたし)
・蒸し蟹(活蟹のしめ縄蒸し(タグ付き蟹))
・蟹すき鍋(活蟹すき鍋)
・食事(蟹雑炊、香のもの)
・甘味(「界 加賀」特製 金時のデザート)
おわかりでしょうか。デザート以外、すべて蟹尽くし! 歓喜の蟹まみれです。
最初にお出ましになったのは香箱蟹(ずわい蟹の雌蟹)と寒鰤のお刺身でした。咲き誇るように盛り付けられた蟹の脚は、今宵の蟹カーニバルの幕開けにふさわしい、華麗ないでたち。蟹はとろりと濃厚な甘さで、すっかり蟹モードになっていた舌に「お待たせ!」とばかりに大胆に身を寄せてきます。旬のブリは豪快な厚切り。まっすぐな、でもやさしい甘味をたたえていました。大至急、日本酒のお代わりをお願いしまーす!
焼き蟹と甲羅焼きは、スタッフがテーブルで焼いてくれます。炭火で焼かれた蟹のパチッと音を立て始めるのと前後して、香ばしい香りが漂ってきました。絶妙な加減の蟹をスタッフが差し出してくれます。こんなに甘やかされていいのでしょうか。
水色のプラスチックプレートが「タグ」。これは、石川県内の漁港で水揚げされたことを示しています。つまり、これが最高品質の印というわけなんですよ。なぜって、岩場の多い石川県沿いの海で育った蟹は、泥が多い他の地域の蟹と違って、身が一段と引き締まっているからです。
気づけば蟹味噌もぐつぐつと煮えています。その濃厚でエレガントな甘さに身もだえし、心の中でウイニングランをしていると、「少しだけ蟹みそを残しておいていただければ、甲羅酒をお作りします」と、「神」(なんの? 蟹の?)からの提案が。よろしいに決まってます! 蟹味噌が残る甲羅に日本酒(銘柄は時期によって異なる)を注ぎ込み、軽く煮立ててくれるのですが、これがもう「くぅ~」と悶絶するしかない美味しさ。できることならバケツ1杯飲みたいです。ちなみに、この「甲羅酒」のための蟹味噌をどれだけ残すかは自分次第。悔いなくお取り計らいくださいませ。
カダイフを衣に使った揚げもの、おひたしをはさみ、ついに本日のハイライト、「蟹のしめ縄蒸し」がやって参りました。この「活蟹のしめ縄蒸し」、海水と同じ濃度の塩水にひと晩浸した縄で、生きたままの蟹をぐるぐる巻きにして蒸し上げるというダイナミックな料理。「界 加賀」の新たな名物料理とするべく、料理長が江戸時代の文献から着想を得て再現したものです。蒸し器がなかった当時、食材を湿らせた縄や和紙で食材を包み、囲炉裏で蒸しあげていたのだと言います。
なるほど、一度見たら忘れられない強烈なビジュアルですが、すみません、正直、思ったんですよ、私。「余計なことをしなくても、普通に焼いたり、蒸したりしたほうが美味しいんじゃないの?」って。──大変、失礼しました。縄を介して蒸し上げることで、旨みがぎゅっと凝縮した身はふんわり柔らかな……そして冬の荒々しい海を感じさせ、同時にエレガントな塩気をたたえていました。この複雑な味わいがなんともセクシーなんです。手を入れなくても存分に美味しい素材を、調理することでさらに引き上げる、「料理」というエンターテインメントの真髄ここにあり!
シンプルな昆布ダシでいただく「蟹すき鍋」は、蟹の甘みと旨味が強調されこれまた口福眼福。蟹さんも「いい湯だなあ」なんて感じでご満悦のようです(絶対そんなことはない!)。身もとろけるようにふんわりとしていました。〆は、「出汁を食していただきたい」というコンセプトの、蟹の旨味をたっぷりと抱いた雑炊。蟹まみれのコースのトリにふさわしい、至高の逸品です。
スタッフがこんな話をしてくれました。「冬になると何度か蟹を食べに来ていたけれど、これからは年に一度『極み』を食べることにする。そのほうがコスパも満足感も高い」とおっしゃるお客様も少なからずいらっしゃるって。
なるほどチマチマ蟹を食べるよりも、年に一度の「極み」ですか! まるっと同意です。旬の活蟹をとことん食べ尽くしたあとの、高揚感と背徳感を伴う満たされた気持ちは、これまで味わったことのないものでした。そして心とお腹が完全に満たされ、「来年もまた来よう」と決意を固めるのです。