古典派フレンチによるジビエを食す。今宵、軽井沢で王になる|TRAVEL
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2022年1月25日

古典派フレンチによるジビエを食す。今宵、軽井沢で王になる|TRAVEL

TRAVEL|ブレストンコート ユカワタン

「知る」は、おいしい!リターンズ ブレストンコート ユカワタン編(1)

Q. 好きなフランス料理店を3つ挙げてください。そう聞かれたらどう答えます? 私の場合、軽井沢ホテルブレストンコート(以下、ブレストンコート)のメインダイニング「ブレストンコート ユカワタン」(以下、ユカワタン)は、間違いなくランクインします。「オマエの好きなレストランなんて聞いてねーよ!」と言われそうですが、ここで食事をするために、都心からこぞって訪れる、見ず知らずの食通さんたちに免じて許してくださいませ。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi

嗚呼、麗しの「パテ・ド・ロワ」

で、行ってましたよ、今シーズンも。2022年1月早々に。お財布事情が許せば、季節ごとに足を運びたいと切に思うのですが、それが難しいとしたら、個人的なおすすめは、やっぱり冬なんです……。オマエのおすすめなんて(リプライズ)でしょうが、ここは、虎の威を借る狐モードもリプライズさせていただくとしましょう。
ユカワタンマネージャー兼ソムリエ 松原未那人さん
マネージャーで、ソムリエの松原未那人さん曰く、「ユカワタン」に、いちばん多くリピーターが集うのは冬場なんだそうですよ! 理由は、そうです、ジビエです。実際、私たちが伺った1月初旬の平日の「ユカワタン」は満席でした……。
早速、「美味しかった」自慢を始めたいところですが、これ、私の個人ブログではなく、れっきとした取材記事なんですよね(笑)。礼儀としてまずは、「ユカワタン」についてご紹介させていただきましょう。
50余年の歴史を持つ軽井沢ホテルブレストンコートですが、「ユカワタン」の誕生は2011年。その名称は、軽井沢星野エリアの敷地にある湯川の流れのように、緩やかな「時間」(フランス語で“タン”)を過ごしてほしいという思いに起因しています。
レストランは、ホテルの敷地内に、隠れ家のように佇んでいます。いや、隠れているわけではないでしょうし、ホテルのフロントからも徒歩で2、3分という距離なのですが、木立の向こうにあり、外からは見えないため、ちょっと隠れ家風でして、それもまた良し。
旬の野菜や肉、山菜、川魚を主役に、ここでしかできない、ここでしか食べられないフランス料理を提供するという、初代料理長で、現「星のや東京」料理長の浜田統之氏が打ち出した「ユカワタン」のスタイルは、美食家たちの好奇心を刺激。その名は、あっという間に知れ渡ります。2017年には長野県出身の松本博史さんが2代目の料理長に就任。ベースとなるコンセプトはそのままに、松本さんが得意とするクラシックなスタイルのフランス料理へと導きました。その松本料理長が毎冬、自信をもって繰り出すのが、冬の軽井沢だからこそ味わえる「王様のジビエ」です。
”王様”ってずいぶん大きく出たなって思ったでしょ? ええ、私も思いました。でも、「ユカワタン」に訪れたこの日、私は間違いなく、世界を収める王でした……。
ユカワタン松本博史料理長
いまやユカワタンの冬の定番となった「王様のジビエ」は、松本さんが料理長に就任した、その冬にスタートしたメニューです。松本さん曰く、「冬の軽井沢は食材が限られていますが、そんななか、美味しく召し上がっていただけるのがジビエなんです」。
なかでも毎年ブラッシュアップを重ねている前菜の「パテ・ド・ロワ」と、メインの肉料理「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」の2品を「王様のジビエ」と呼び、コース全9品の特別料理として提供されています。
まずは、「パテ・ド・ロワ」。めくるめく世界へのプロローグにして、気持ちと食欲を一気に高めてくれた、アミューズたちのあとに、早くもお出ましになりました。

こちらは、4種類以上のジビエをトリュフやフォアグラ、ジビエでとったコンソメのジュレとともに何層にも積み重ね、パイ生地で包んだもの。ジビエの配分は、鹿や猪、山鳩、雉など、その日の仕入れ状況によって変わります。
プレゼンテーションのインパクトも最強です。まずは、王冠を模した大きなパイが丸ごとテーブルに運ばれてきます。そもそも王冠の形をした特製の金型自体、日本国内では手にはいらず、「ユカワタン」でも「パテ・ド・ロワ」を作るにあたり、この金型を海外から仕入れたそうです。
本来であれば、お客様の前でカットしていましたが、今冬も引き続き感染症拡大予防の観点から、カット作業は厨房にて行っています。
「パテ・ド・ロワ」は、ジビエの種類や部位によって、ミンチにしたり、モルソー(塊)にしたりと調理工程が非常に複雑。さらに「ジビエは一般的な家禽と違って、個体差が大きく、それを見極めた上での調理が必要になってきます」と、松本さんは言います。
ちなみにゼロベースで考えると、「パテ・ド・ロワ」が完成するまでには、3週間ほどの準備時間を要するそう。ジビエごとにそれぞれの下処理を施したり、型に詰めたあと寝かせたり、火を入れて寝かせたり……。肉とともに流し込むコンソメのジュレも、ジビエから出汁をとったもの。この作業にも2日間ほど時間を要するそうです。
仕入れによって使用するジビエも異なるため、日々テイストが変わります。アート作品のように、美しい断面もふたつとして同じものはないのです! さらに、今年で5年目となるメニューですが、「塩の分量を変えるなど、毎年、改良を重ねています」と松本さん。ぜひともその進化、見守らせていただきたい、って、これ、これ以上、進化したらどうなっちゃうのって気もしますが(笑)。
今回いただいた「パテ・ド・ロワ」は、鳩、雉、青首鴨、ミンチした猪と鹿が入っていました。さらに食感のアクセントとして豚の耳も。トリュフやフォアグラ、ナッツに、前述のようにジビエでとったコンソメのジュレも入っています。コンディメントもこだわりたっぷり。市田柿の干し柿、イチジクのドライフルーツを赤ワインでコンポートにしたもの、大根をピクルスにしたもの、甘酸っぱく仕上げた、赤すぐりのピューレが添えられていました。で、このコンディメントが、また新たな世界に誘ってくれるわけです。ジビエの力強さと、香辛料やコンディメント、そして香ばしいパイとが作り上げる小宇宙で、私のなかの野生が目覚めました。
そして、忘れちゃいけませんね。ジビエには、あのブドウを発酵させたあの飲み物が必要ですよね? ソムリエの松原さーん、この「パテ・ド・ロワ」に合うワインを教えてくださーい!
「昨年はブルゴーニュのピノ・ノワールを合わせていましたが、今年はローヌのシラーをお勧めしています。アラカルトだったらボルドーでもいいのですが、まだコースの序盤。コース全体のバランスを考えると、あまりタンニンが強くないものがいいと思います」(松原さん)
今回いただいたのは、ローヌ北部のコルナスを代表する名手、アラン・ヴォージュさんのもの。ヴォージュさんは2020年夏に亡くなっていて、この日いただいた年がラストヴィンテージになるそうです。ローヌのシラーというと、力強いものを想像しますが、ヴォージュさんのシラーはやわらかで、タンニンもエレガント。それでいて、王様の名前を冠する「パテ・ド・ロワ」の力強さにまったく引けをとりません。
ちなみに、今回(も)私たちは、ワインはペアリングでお願いしました。通常、「ユカワタン」のペアリングは日本酒やウォッカなどが出てくるなど、遊び心満載ですが、ジビエの勝負は、フランス産のワイン、オンリーで攻めているとか。
「直球一本勝負。変化球を投げるとしたらツーシームくらい。良く曲がるスライダーは入りません(笑)」(松原さん)
その潔さ、嫌いじゃありません(むしろ好き)。
「パテ・ド・ロワ」のあとに提供されたコンソメは、その時々のジビエのアラを使ったもの。荒々しさのなかにセクシーさが漂うコンソメに、自然への畏怖を感じたと言ったら大げさでしょうか。
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