連載|南アフリカ旅行記
LOUNGE / TRAVEL
2020年10月6日

連載|南アフリカ旅行記

最終回「絶景に抱かれた美食の都ケープタウンの懐へ」

豊かな自然と隣り合わせの大都市ケープタウン。ここは、恵まれた環境が育む豊富な食材と多様な文化を礎とした多彩なフードカルチャーに出会える街でもある。南アフリカの美食に欠かせないものといえば、世界的にも評価が高まっているワインだ。ケープタウンからは、わずか90分のドライブで、南アフリカの一大ワイン生産地ワインランドを訪れることができる。旅行記の締めくくりは、土地の恵みを異なるアプローチでヴァリエーション豊かな美味へと昇華させていく、南アフリカの懐の深さをご紹介。またいつかこの地を旅することができる日を夢見て。

Text by MAKIGUCHI June

南アフリカの豊かな食文化を支えるワインランド

世界有数の美食の都、ケープタウン。ここを訪れたらぜひ足を伸ばしたいのが、南アフリカの豊かな食文化を支えるワインランドだ。街の中心部から車で1時間ほど走っていると、美しい山々に抱かれた絶景を抱く国内最大の輸出量を誇るワイン生産地に到着する。太陽がさんさんと降り注ぐ地中海性気候のこのエリアは、大西洋とインド洋に挟まれており、夏は乾燥していて温暖、冬は冷涼で適度に雨も降るというワイン造りに絶好条件が整っている場所だ。さらには、海岸に沿って発生する霧は畑のぶどうを直射日光から守り、海流に乗って吹き込んでくる涼しい海風”ケープドクター“が吹き込み畑を適温に保ちつつ、風圧で埃や虫を吹き飛ばす。減農薬でクリーンな栽培をも可能にするブドウ栽培の桃源郷なのだ。恵まれた環境が整っていることから、このエリアにはおよそ700軒ものワイナリーが点在しているという。
南アフリカのワインが世界で注目を集め始めたのはここ最近という印象だが、実は約360年もの歴史を持つ。オランダの東インド会社初代総督ヤン・ファン・リーベックが、ブドウの苗木を植えたことから始まっている。5億年前にも遡るという古く、水はけと保湿のバランスに優れた土地は、多種多様なテロワールを育み、香り高く風味豊かなワインを多く生産してきた。
民主化以降は輸出量が増え、世界の愛好家がその質の高さを認めることに。人気の理由は、世界最高とも称されるコストパフォーマンスの高さだ。それを実現させているのが、国を挙げて取り組んでいる世界でも最も厳しいとされる品質基準(IPW)。減農薬、酸化防止剤の使用制限、リサイクルなどワイン生産のガイドラインが定められている。また、2010年からは品質、品種、産地、ヴィンテージ、持続可能な農業認定を受けたワインであることを保証するシールをボトルの首部分に貼る制度も。トレース可能なものも多いため安心して楽しめる。
実は、ケープ州には世界自然遺産に指定された9万㎡にも及ぶ「ケープ植物区系保護地域」があるが、この地域のワイン産地の95%がこの保護区内にあるのだ。
ワイン生産者たちにとっては、豊かな自然を保護しながら産業を発展させることは使命とも呼べるもの。その姿勢が、自然はもちろん、造る人にも飲む人にも優しい南アフリカ産のワインを生み出しているのだ。ビオ、フェアトレードのプレミアムワインも積極的に生産されていて、今叫ばれているSDGsを、ごく当たり前に目指そうとする姿勢が、幸せなワインの味に表れているのかもしれない。
欧州のワイン文化を受け止めたワインランドで中心となっているのが、ステレンボッシュという大学の町。南アフリカでケープタウンに次いで2番目に古いこの町には国内最古のワイナリーを含む300軒ほどが集まっており、ケープ・ダッチ様式の歴史的建造物が多く残っている。真っ青な空の下、山々に囲まれた黄金のぶどう畑を背景に純白の建物が佇む様子は、まるで絵画のようだ。
今回ステレンボッシュで訪れたのは、6軒のワイナリー。宿泊したのはそのうちの1軒、「Asara Wine Estate & Hotel(アサラ・ワイン・エステート&ホテル)」だ。ここは、ネルソン・マンデラ大統領の専属シェフだった伝説の料理人にして醸造家のピート・ゴッケンズ氏が所有している。池を望むテラスが人気のメインダイニングや、500種以上もの銘柄のジンが世界から集められたバーなど、絶景の中での美食体験を求めて国内外からも人が多く訪れる高級リゾートだ。
「Viliera Wine Estate(ヴィリエラ・ワイン・エステート)」では、シャンパンと同じ瓶内二次発酵を行った南アフリカのスパークリングワインMCC(Methode Capclassique)とヌガーとのペアリングが楽しめる。サステナビリティにも配慮していて、ブドウ栽培の敵ともされる鳥をあえて追い払わない。「鳥に食べられたとしても収穫の1%程度だ。気にするな。ただ、少し多めに苗を植えればいいのだから」との創設者の言葉を守り、自然と共存し続けている。敷地内では地元の植物を植えたり、プライベート・サファリ(有料)をもうけたりと、固有の生態系を保つ努力を惜しまない。
敷地内に広大なプライベート・サファリを所有するヴィリエラ・ワイン・エステート。キリンの向こうにワイン畑が見える
「Middelvlei Wine Estate(ミデルヴレイ・ワイン・エステイト)」では南アフリカ自慢のバーベキュー、ブライを。絶品の自家製パンを食べ過ぎないよう注意しつつ待っていると、庭の片隅にある料理場から炭火でこんがり焼いたジューシーなラムやチキン、濃厚な味の野菜が運ばれ、テーブルに所せましと並べられる。敷地内で買われている牛が自由に闊歩する横、屋外のテーブルで食せば、Farm to Tableの醍醐味を大いに味わえる。もちろん、料理とワインのマリアージュも文句なしだ。
そのほか、働き手のコミュニティを大事にし、自主性や向学心を応援している「Bosman Family Wines(ボスマン・ファミリー・ワインズ)」をはじめ、チョコレートとのワインペアリングを提案したり、スペインのタパス風に並ぶ小皿料理とワインを味わえたりと、個性を打ち出したワイナリーが多い。今回訪れたワインメーカーは皆、さまざまな角度から持続可能性を見据えてワイン造りを行っている。旅する際はぜひ事前にリサーチをして好みの味、好みの文化を持ったセラーを訪ねてみて欲しい。
地元のコミュニティを大切にしているボスマン・ファミリー・ワインズ
ステレンボッシュのほか、700年代に宗教的迫害によりフランスを逃れてきたユグノー派の人々によってワイン生産が始まったフランシュフック、この国最大のワイナリーが拠点とするパールなどワインランドを構成する魅力的な街も。
今回は、カフェやレストラン、ブリュワリーなどが集まる可愛らしい街タルバッハも訪れ、「Rijk's Wine Estate and Hotel (ライクス・ワイン・エステート・アンド・ホテル)」で一泊。山を背景にブドウ畑が朝日に照らされキラキラと輝く神々しい風景はまるで天国のよう。その美しさは今も目に焼き付いている。
ライクス・ワイン・エステート・アンド・ホテル
ブリュワリーや、気鋭の地元アーティストや料理人が集まるマーケット、気軽にテラスで新先素材を楽しめるテラスレストラン、猫のいるカフェなど立ち寄りたくなる場所が点在し、つい時間を忘れてしまう。
さらにもう一軒、「Seronsberg Wine Estate(サロンズベルグ・ワイン・エステート)」へ。湖畔に佇む女性像がSNSではちょっとした有名人なのだとか。ここのテイスティングで味わったヴィオニエの2018年ものが極上だった。クリームのような柔らかい味わいと程よいバニラ香、爽やかな酸味のバランスが良く、心地よいフルーティな薫りの余韻が残る。あまりのコスパの良さに、思わず一本購入。そんなことばかりのワインランド。スーツケースには、十分なスペースを空けておくことをおすすめしたい。
また、南アフリカでぜひ味わって欲しいワインが、この国独自のブドウ品種「ピノタージュ」から作られるワインだ。1925年にステレンボッシュ大学で、ピノ・ノワールとエルミタージュ(サンソー)が交配され誕生した品種。しっかりとした赤の深みを持ちつつも、どこか軽快さも感じさせる味わいが癖になる。どのワイナリー併設のレストランでもワインペアリングが定番だが、万が一リストに載ってなければ「ピノタージュを」と変更を申し出て欲しい。
今回、ワインランドに3泊し、8軒のワイナリーを訪れたが、個性豊かなワイン、多彩な食、決して飽きることのない絶景には、決して飽きることがなかった。面白かったのが、ブドウ畑の中を自転車で走り抜け、ワイナリーをはしごするサイクリングツアー。地元のツアー会社「Bike 'n Wine」が実施している。この会社は環境保護活動にも熱心で、植樹活動を展開する団体とパートナーシップを結び、ツアー参加者10人ごとに苗木を一本寄付している。健康的かつ環境に配慮した旅を希望するなら、このツアーがぴったりだ。
この他にも好みや日程に応じて、ツアーをカスタマイズしてくれる会社が数多くあるので、ぜひ悔いが残らないようゆったりとした旅のプランを立てておきたい。
ケープタウンからのデイトリップにぴったりのロケーションなので、日帰りでやってくる人も多いワインランド。ワイナリーを訪れ、併設のレストランで地産地消のメニューをいただくだけでも、この土地の魅力を知ることはできる。だが、ここを訪れてみると、時間を忘れてワイングラスを傾けつつ、絶景に抱かれる喜びをもっと味わいたくなるはず。心ゆくまで南アフリカのワイン文化を体感するためにも、歴史あるケープ・ダッチ様式のワイナリーに少なくとも一泊し、伝統的な街を散策することで、恵まれた環境を享受してほしい。
南アフリカのワイン文化をたっぷり体感したら、今度はケープタウンで美食体験を。この街には、この国独自の味だけでなく、多民族国家ならではの多彩な食の楽しみを感じられるお店が多い。

例えば、黒人居住区タウンシップ内で、有名シェフによる伝統的なソウルフードを味わえる「4Roomed ekasi culture & food(フォールームド・エカシ・カルチャー&フード)」。
音楽を聴き、歌ったり踊ったりおしゃべりしながら楽しく南アフリカ料理のレシピに従い自ら料理するスタジオ「Food Jam Cooking(フードジャム・クッキング・スタジオ)」。
大テーブルを見知らぬ旅行者たちと囲み、共に創作料理と会話を楽しむ「Reverie Social Table(リヴェリエ・ソーシャル・テーブル)」。
世界各国から集まった旅人がテーブルを囲み一夜を過ごす
そして、インスタグラムでも人気のケープマレー地区Bo-Kaap(ボカープ)もぜひ訪れて欲しい。
カラフルでキュートな家が建ち並ぶボカープ
シグナルヒルの麓に広がるこのエリアは、かつてマレークォーターと呼ばれていて、今もマレー系の人々が暮らしている。カラフルな家が建ち並びSNSでも人気のロケーションだが、モスクをはじめとした古い建物が残っており、ケープ・マレーの豊かな文化が感じられる歴史的な場所でもある。ボカープ博物館は、18世紀に建てられ、ケープタウンでも最も古い建築のひとつ。欧米人が入植した際に、東南アジアから連れてこられ、強制労働から解放された人々がここでコミュニティを形成。彼らの歴史や、南アフリカのイスラム伝統文化、社会的な物語などを伝えている。
ツアーでケープマレー地区を巡る
ここでは、カラフルな家を散策し、歴史について学んだ後、ここで暮らすマレー系の住民たちと楽しくおしゃべりしながら家庭料理を学ぶ人気クラスに参加できるツアー「Bo-Kaap Cooking Tour」もある。フレンドリーなレディから、スパイシーなケープマレー料理の極意を学び、甘くとろけるようなデザートと美味しいお茶をいただきながら、まるで数年来の友人であるかのように日々の暮らしについて語り合うことは、実際に旅をしてここを訪れ、人と交流することでしか味わえないとても特別な体験だ。
大自然と絶景。ワインと美食。そして、温かい人々との交流に大満足した全12日間の南アフリカ旅行は、その豊かな経験が語感に刻まれる素晴らしい思い出となった。またいつか訪れる日が来るまで、あの大地を、あの味を、そしてあの人々の笑顔を、夢に見続けることだろう。
南アフリカ観光局
south-africa.jp/

Asara Wine Estate & Hotel

asara.co.za/

Viliera Wine Estate
www.villiera.com/

Middelvlei Wine Estate
middelvlei.co.za/

Bosman Family Wines

bosmanwines.com/

Rijk's Wine Estate and Hotel
www.rijkswine.com/

Padding Restaurant by BuchananBrewwery
www.facebook.com/BuchanansBrewery/?_rdc=1&_rdr

The Olive Terrace & Bistro

tulbaghhotel.co.za/dining/

Seronsberg Wine Estate

www.saronsberg.com/

Bikes & Wines
www.bikesnwines.com/

Food Jam Cooking

www.foodjams.co.za/

Reverie Social Table

www.reverie.capetown/

4Roomed ekasi culture & food

www.facebook.com/4RoomedeKasi/

Bo-Kaap Cooking Tour

www.bokaapcookingtour.co.za/
                      
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