連載|南アフリカ旅行記
LOUNGE / TRAVEL
2020年6月30日

連載|南アフリカ旅行記

第4回「野生を感じるラグジュアリーロッジで優雅にサファリステイ」

アフリカ大陸を訪れる旅人にとって、最大のハイライトとなるのは、野生との出会いだろう。それは、南アフリカでも同じ。クルーガー・ナショナルパークをはじめとする国立公園や私営動物保護区が点在し、ゾウ、ライオン、バッファロー、サイ、ヒョウといったビッグファイヴと呼ばれる大型動物との遭遇も期待できる。19世紀初頭、産業革命によって富と余暇を手に入れ、冒険心旺盛な欧州のセレブリティたちはアフリカを目指した。彼らが愛した風景を見るために、サファリの地へと旅に出た。

Text by MAKIGUCHI June

アフリカ旅行のハイライト——ゲーム・ドライブへ

今回、私が向かったのは、ヨハネスブルグから小型飛行機で約1時間の場所にあるリチャーズ・ベイ。空港から90分ほど車に揺られて到着するのが、フルフルウェ・インフォロジ・ゲーム・リザーヴという私営動物保護区だ。このプライベート・リザーヴは、南アフリカで最大の民族集団ズールー族の土地、ズールー・ランドの一部。約96000ha(東京都23区の1.5倍以上)にも及ぶ。ここは、アフリカで「保護区」を宣言した最も古いリザーヴ。ビッグファイヴを含む約450種の動植物が今も、自然の営みを続ける野生の楽園だ。もちろん、大型動物に会えるかどうかは運次第なのだが。
エリア内に入ると、メインゲートでチェックインを済ませ、すぐにサファリ専用のオープントップ・カーに乗り込む。レンジャーの案内で公園内のロッジまで移動するのだが、1時間半ほどのその移動がすでに、都会で暮らす私には冒険の始まりだった。最初に遭遇したのはキリン。遠目からでもすぐに見つけることができる草原の人気者だ。

ゆったりと歩きまわり、高い木から枝や葉をむしり食む様子はやはり動物園で見る姿とは一味違っている。自由を身にまとっているとでも言おうか。何より、目の前でキリン同士が首を小突き合い、小競り合っている姿を見ると、可愛らしいだけだと思っていた彼らに強い野性を感じることができる。ふと気付くとそのそばにはシマウマが。まだまだ序の口だと知りつつも、やはり夢中でシャッターを切ってしまった。
ロッジまで案内してくれたレンジャーは、滞在期間中のリーダーでもある。彼が、天候によってすべてのスケジュールを、そして行き先を決める。アドミッションを払えば、個人でパーク内を車移動することも可能だが、野生動物をなるべく多く見たいなら、レンジャーに同行してもらうのがおすすめだ。
今回滞在したのは、グランピングの流れを汲んでいるラグジュアリーなゲーム・ロッジ「バイエラ」。ご存じの通り、グランピングは、“グラマラス”と“キャンピング”を掛け合わせた造語だ。便利かつ快適なギアを用いて、ラグジュアリーなライフスタイルはそのままにアウトドアの醍醐味を味わおうというもの。そもそもの源流は、1800年代後半から欧州の貴族たちが狩猟のためにアフリカを訪れたことだと言われている。1900年代には、お金持ちのセレブたちが冒険目的にこの地を旅した際に、自分好みの家具やラグを持ち込み、料理人まで同行させて贅沢なキャンプを行ったという。それが現在のグランピングスタイルに大きく影響を与えているようだ。
2泊3日の滞在中は、動物が活発に動く朝食前の早朝と夕食前の日暮れ時と、1日で最大2回のゲーム・ドライブが可能だ。それ以外は、ホテルのレストランで伝統料理をいただいたり、ラウンジで紅茶やシャンパン片手にビルトンなどのスナックを食べながらレンジャーと語らったり。部屋のプールで寛いだり、テラスから谷を見下ろしてゾウやサイといった野生動物が通るのを眺めたりして、心を癒す。
優雅で快適なあまり、つい忘れてしまいがちだが、ここは動物との距離が近い。日が落ちてからは施設内でも徒歩で移動しないよう忠告される。レストランやラウンジに行く歩いてわずか3分ほどの距離でも、必ずスタッフを呼んでカートに乗るようにと。ここは、本当に野生動物が自由に行き来できるリザーヴ内なのだと改めて実感する。
そんなロッジに滞在して楽しむのがゲーム・ドライブ。大自然の中で、動物を探しながらドライブすることをいう。野生の生態系を尊重しながら、人間が動物たちの世界にお邪魔する。動物たちとの遭遇時は声を抑え、激しい動きも控えなくてはならない。
レンジャーの案内でビッグファイヴを探しに出かけると、次々に野生動物と出会う。大きな木から一心に葉をむしっては食べている、子連れのゾウの群れ。バリバリと大きな音を立てて林の中を自ら道を作るようにして進んでいく。ゾウは水にアクセスするため、川沿いの大きな木をもなぎ倒す。彼らが移動した後は一目瞭然。ゾウが「Landscaper」という別名を持つ理由は、通った後の風景が一変してしまうからだという。
見つけにくいというサイも、シロとクロの2種を目撃。人間による乱獲により絶滅危惧種となっているサイだけに、両方観察できるのは幸運だという。シロサイは暑い日中なだけに泥浴びをしている。レンジャーから、目の前にいる巨大生物が実はものすごく走るのが早く、車に突進してきて襲われた経験もあると聞きき、車内の誰もが「静かに」という忠告に瞬時に従った。
キリンやシマウマ、バッファロー、南アのナショナル・アニマルであるスプリングボックとも数えきれないほど遭遇した。何度見かけても、全く違う状況の中で、全く違うことをしている動物たちに飽きることは決してない。私たちが通り過ぎても逃げることなく、横目で見ながら、さほど気にかけることもない姿を見ていると、彼らに認めてもらえたようで嬉しくなる。互いを認め合い、なるべく害を与えない。そう心掛けることで、違う文化を持つ者同士も共存できる。そんな可能性を、彼らを見ながら考えていた。
パーク内を個人でドライブすることも可能だが、レンジャーが安全かつ絶景スポットに車を止めて淹れてくれるブッシュ・コーヒー・タイムは、案内がいてこそ体験できるもの。

ゾウも大好物だというマルーラの果実から作られたマルーラ・クリーム(南ア名物のリキュール)を入れたコーヒーは、苦みと甘みが絶妙に絡み合ったクリーミーな味がクセになる。スパイスとフルーティーさを感じさせるキャラメルのような滑らかさがコーヒーに加わり、クッキーとの相性が抜群にいい。アフリカの乾いた風に吹かれながら一息ついていると、日々の雑事をすっかり忘れて大きな気持ちになる。かつてサファリ・ライフを愛した貴族たちが遠路はるばるキャンプ生活をいとわずに、アフリカで過ごしたがった気持ちがよくわかる気がした。
結論から言えば、ここでの滞在は期待以上だった。各国で動物園やサファリ・パークを訪れてきたが、ゲーム・リザーヴは迫力が格段に違う。目の前にいるのは野生動物。今はおとなしくても、次にどう行動するかはわからない。人間の力など到底及ばない野性への畏怖の念と、大自然のただ中に存在できる喜びは筆舌に尽くしがたい。
そんな自然とのアクセスを失わず、ゲームテントの趣をスタイリッシュに残した「バイエラ」はムードのみならずサービスも一流だ。ある日は、ゲーム・ドライブから戻ったらバスルームにキャンドルとバスソルトが用意されていた。時には悪路を移動し、時には動物との遭遇に身体をこわばらせることもあると、よく知っているからこその心配りがとてもありがたい。
滞在中、同じリザーヴ内の姉妹ロッジ「メテムブー」も訪問。ここでは、星空の下で伝統的な料理やバーベキューをいただきながら、土地の民であるズールー族のダンサーたちによるパフォーマンスも楽しめる。よりファミリー向けのラグジュアリー・ロッジだ。自然を感じながら、アフリカのリズムに身を任せるのは何とも心地よい。
2つのロッジを行き来して、パーク内の違ったエリア、違った趣のロッジを楽しむのも可能だ。実は、「メテムブー」で夕食を済ませて、「バイエラ」に戻る際、ちょっとした事件が起きた。夕刻も過ぎ、すっかり暗くなったパーク内をレンジャーの運転で進んでいると、ゾウの群れに遭遇したのだ。後続の車が、すっかりゾウに取り囲まれ動けなくなる事態に。私が乗った4WDの前を行くゾウも、後ろからついてくる車に何やら苛立っていて、頻繁に後ろを振り向く。レンジャーの機転により、後続車を群れの中から救い出し、先方のゾウのご機嫌をこれ以上損ねないように距離を取りつつ進む。群れから抜け出した時には、彼らと遭遇してから40分ほどが経っていた。
人間の思い通りにいかない時間を過ごしながら、ここは本当に自然のど真ん中なのだと実感。不思議な感慨を覚えていた。動物園で見るのとは違った素顔の野性を覗き見られることに感動しきりだった。
残念ながら今回は、ビッグファイヴのうち猫科の2種、ライオンとヒョウは姿を見せず。「やり残したことがあると、その地を再訪できる」という旅人定番のポジティヴな負け惜しみを胸に、次回の訪問を楽しみにしつつ、次の目的地にして最終目的地、ケープ・タウンへと向かった。
次回はケープ・タウンの文化と自然をご紹介したい。
南アフリカ観光局
south-africa.jp

フルフルェ私営動物公園
www.hluhluwegamereserve.com

バイエラ
mantisumfolozi.com/biyela

メテムブー
mantisumfolozi.com/mthembu
                      
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