連載|南アフリカ旅行記
LOUNGE / TRAVEL
2020年9月3日

連載|南アフリカ旅行記

第5回「ケープタウン——大都市で楽しむ大自然」

南アフリカの美しき港町ケープタウン。アフリカ大陸最南端に位置する南アフリカ第二のこの街は、ヨーロッパからの入植者たちが開拓の起点とした場所であり「マザー・シティ」とも呼ばれている。街中には歴史的遺産が点在し、文化背景の異なる人々によって築かれた個性豊かな街並みがひとつの景色として融合。さらに、ウォーターフロントからは大西洋を望むことができ、中心地の背後には、垂直に切り立つテーブルマウンテンがそびえたつ。車で2時間ほど走るだけで、喜望峰(ケープポイント)から大西洋とインド洋がぶつかる、どこまでも碧く雄大な風景に出会うことができる。歴史と文化に彩られたこの街は、人間が生まれるずっと前から息づいてきたドラマティックな自然とともに生きる街でもあるのだ。

Text by MAKIGUCHI June

天上世界から地上の楽園まで

南アフリカ随一の観光都市ケープタウン。地中海性気候が実に心地よく、晴れた日には空の青、海の碧が、雲の白、草木の緑が、実に鮮やかでとてもまぶしい。この街の楽しみ方はいろいろだが、予定を変更してでも晴天の日に楽しんでほしいのが、街から気軽にアクセスできる大自然だ。
この地を訪れた人の多くが目指すのが、街のアイコンでもあるテーブルマウンテンだ。2億8000万年前に隆起した岩盤が作り出す垂直に切り立った崖と、3キロに渡る台地を頂く標高1086mの山。その特徴的なフォルムから、新・世界の七不思議として登録され、貴重な動植物の宝庫“ケープ植物系保護地域”の一部として世界自然遺産に認定されている。
街を一望し、海岸線を満喫するなら、この山に登るのが一番。3コースの遊歩道が整備されて、約3時間で歩いて上ることも可能だが、ケーブルカーなら約3分ほどで別世界に到達することができる。
テーブルマウンテンに広がるのは、まさに天上の世界だ。ごつごつとした岩肌を歩き、切り立った崖の縁に立つ。街が近いため、眼下に生活圏がよく見える。海岸線の道路を車が走り、建築物が立ち並ぶ都市部と、今自分が立っている大自然とのコントラストが実に非現実的で、不思議なアイソレーション感を覚える。だがそれは孤独とは違う。世界を俯瞰できることから生まれる大らかさのようなものと、自然が生み出す神秘のパワーのせいだろうか。心がすうっと満たされていく、実に不思議なスピリチュアル体験だ。こんな感覚に浸ることができたのも、夕方に出かけたためだろう。
日中は観光客でごった返し、ロープウェイの乗車にも時間がかかることが多いそうだが、夕方は頂上までスムーズに移動でき、ゆっくりと神秘的な自然を堪能できた。天空での静かなひと時をお望みなら、時間選びも重要だ。

幅100m、3kmに渡って広がる頂上には、さまざまなハイキングコースが整備されているので、好みや体力によって楽しみ方を選ぶことができる。
ぐるりと回るだけなら、ゆっくりと歩いて1時間ほど。ただし、絶景に心奪われ、ここでしか見られない約1300種の花をはじめとする固有の動植物を見つけては立ち止まり、心行くまで観察していると、時間の感覚を忘れてしまう。可能であれば、2時間でも3時間でもここにとどまりだかった。カフェもあるので、ゆとりをもって出かけることをお勧めしたい。
また、ロープを使って断崖絶壁を降りるアブザイレンや、ロッククライミング、パラグライダーなども体験可能なので、刺激をお求めの方はぜひ。

頂に上るなら快晴の日がおすすめだが、天気が多少悪くてもご安心を。ケープタウン名物でその名も“テーブルクロス”が見られるのだから。それは、街のアイコンである巨大な“テーブル”に、まるで上質で真っ白いリネンのようにかかる雲。実は、本当の“テーブルクロス”は、年に数回のみ夏季にしか現れない、山全体を覆う薄い巨大雲のことを指す。だが、晴天ばかりではないため山が雲に覆われがっかりする旅行者を元気づけるように、地元の人々は雲全般をこの素敵なニックネームで呼んでいるようだ。
とはいえ、天候が荒れると当然ながら眼下に広がる景色は見られず、あまりひどくなるとロープウェイも運航休止に。滞在中に晴天の日があれば、ぜひそのチャンスを掴んでほしい。

地上に降りて美しい海岸線の風景を楽しむなら、ドライブを。ケープタウンのベイエリアから西側の海岸線を走り、とんがり頭のライオンズ・ヘッドの横を通り抜け、アフリカ大陸最南西端の喜望峰へ。

そして郊外からテーブルマウンテン、そこに並び立つデビルズ・ピークを周って、ベイエリアに戻るケープ半島周遊ルートが整備されている。一周120㎞の道のりだ。レンタカーもいいが、観光気分と少しの冒険気分に浸りたい人におすすめなのが、ヴィンテージの大型バイクで各地を巡るケープ・サイドカー・アドベンチャーだ。運営しているのは、頼りになる経験豊富なライダーたち。スケジュールが許せば、マスコット犬のブロディも同行してくれる。
今回お願いしたのは、ケープタウンからアザラシの観測クルーズが出発する港町ホウトベイまでの1時間程度の体験ツアー。途中、見えてくるのはため息のでるような絶景ばかりという、贅沢なライドだ。コースト沿いに街を抜け、潮風を頬に受けながら、移り行くフォトジェニックな絶景の中に身を置くのは、日ごろの疲れがほどけていくようでとても気持ちがいい。
ここケープタウンは、近年、世界のセレブリティにも愛されていて、海の見える丘の上に別荘を構えるハリウッドスターも多いという。なかでも、中心部から15分ほどのドライブで到着する高級リゾートであるキャンプス・ベイは人気だと聞く。訪れてみれば、それも納得だ。おしゃれなレストランやカフェが道沿いに並んでいるが、大規模開発された世界の超有名リゾート地よりもはるかに落ち着いている。のんびりビーチライフを楽しむのがお好みならもってこいのエリアだ。
街の目の前には真珠のように輝く白い砂浜に穏やかな波が打ち寄せる湾、その奥には大西洋がどこまでも広がっていて、そこに沈みゆく太陽を眺めに訪れる人も多いと聞く。真っ青な空をキャンバスにダイナミックな造形を誇る岩山と、ゆったりとした紺碧の海が生み出すコントラストが想起させるのは、地上の楽園というフレーズ。ここはまさに、そんな表現がよく似合う場所だ。
ケープ・サイドカー・アドベンチャーでは、要望に応じて2時間から1日のツアーをカスタマイズしてくれるだけでなく、2週間に及ぶネイチャー・ツアーにも応じてくれる。コース上には、美しいビーチや海を見下ろすビュースポット、歴史ある小さな町が点在し、ワイナリーエリアもあるので、見たいもの、希望する過ごし方を伝えつつ、思い出に残る自分だけのツアーを完成させてみてはいかがろうか。

また、この周遊コースを辿って行ける、絶対に外せないスポットが喜望峰やキャンプス・ベイ以外にもある。それが、ボルダーズビーチだ。ここには、南部アフリカにしかいない貴重なアフリカ・ペンギンの生息地。砂浜沿いに有料の観察用遊歩道が整備されていて、驚くほど近くで3000羽ほどのペンギンたちを観察できる。立ち尽くして日光浴をしたり、寝転がって休んだり、仲間と交流したり、子育てをしたりと、多くの人間に観られていても気にすることなく自由気まま。リラックスした様子の彼らの愛らしさに悶絶すること必至だ。
天上世界から地上の楽園まで。大都市のそばで、そんな大自然を満喫できるケープタウン。さっそく訪れる日を心待ちに、旅の計画を立ててみてはいかがだろうか。その際はこの美しい街を空から眺める、空中散歩もお忘れなく。
最終回となる次回は、ケープタウンのカルチャーとフード&ワインをご紹介する。

南アフリカ観光局
south-africa.jp/

テーブルマウンテン

tablemountainnationalpark.org/

ケープ・サイドカー・アドベンチャーズ

www.sidecars.co.za/

スポートヘリコプターズ
sporthelicopters.co.za/
                      
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