MOVIE|キム・ギドクが挑む壮絶なヒューマンドラマ『メビウス』
MOVIE|人間の欲と業を描いた壮絶なヒューマンドラマ
キム・ギドク監督史上最大の衝撃作『メビウス』
『サマリア』、『うつせみ』、『絶対の愛』など、時代を風刺しつつも偏愛に満ちた唯一無二の作風を持ち、『嘆きのピエタ』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したキム・ギドク監督。監督自身の歴史でも類をみない領域へと足を踏み入れた衝撃作『メビウス』が、12月6日より新宿シネマカリテほかで公開中だ。
Text by WATANABE Reiko(OPENERS)
キム・ギドクが生み出した“壮絶なヒューマンドラマ”
人間のもつ根源的な「痛み」と常に向き合い、これまでにも数かずの問題作を社会に投げかけてきたキム・ギドク監督。本作『メビウス』は、韓国では上映制限が敷かれ、過激といわれるギドク作品のなかでも、特にいわくつきの1本だ。
物語の舞台は、冷え切った関係にある3人暮らしの上流家庭。夫の不貞に気づき嫉妬に狂った妻が、その怒りの矛先を息子に向け、前代未聞の凶行に出る。母親に性器を切り取られ絶望の淵に立つ息子と、罪悪感にさいなまれつつもなんとか息子との関係性を築こうとする父。そこに、姿を消していた母親がふたたび現れると、家族はさらなる破滅への道をたどりはじめる。
セリフなしで紡がれる「性」「家族」「人間の業」
『メビウス』によって暴かれるのは、むきだしの「性」「家族」そして「人間の業」そのもの。一切のセリフを廃し、「笑う」「泣く」「叫ぶ」という3つの感情要素だけで、独自の世界観を築き上げたギドク監督の、シンプルなまでにそぎ落とされた演出のなかにあるのは、俳優たちがもたらす尋常ならざる演技だ。
苦悩する息子を静謐に演じきったのは、韓国映画界の新星ソ・ヨンジュ。まだ15歳という若さにもかかわらず難しい役どころを乗り切り、韓国でいまもっとも注目を集める若手俳優のひとりと言われている。
不貞な父を演じているのは、“キム・ギドクのペルソナ”と呼び声の高いチョ・ジェヒョン。ギドクのデビュー作『鰐~ワニ~』以来、『受取人不明』や『悪い男』といった初期作品に出演していた彼が、ふたたびギドクとタッグを組み、かつてない境地へと監督と共に挑んでいる。
女優人生をかけて本作への出演を決めたのはイ・ウヌ。嫉妬に憑かれた狂気の母、さらには夫の浮気相手である妖艶な女を一人二役で見事に演じ分け、強烈な印象をスクリーンに刻み込んでいる。
父、母、息子、男と女、痛みと快楽が表裏一体となって廻る人間の業を、真正面から描いた衝撃作『メビウス』。キム・ギドクみずから「家族とは、欲望とはなにか」を問い、新境地を切り開いた意欲作であるのはまちがいない。
『メビウス』
新宿シネマカリテほかにて全国順次ロードショー
監督・脚本|キム・ギドク
出演|チョ・ジェヒョン、ソ・ヨンジュ、イ・ウヌ
配給|武蔵野エンタテインメント
2013年/韓国/83分/原題『뫼비우스』/R18+
http://moebius-movie.jp/
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