INTERVIEW|中島哲也監督『渇き。』主演・小松菜奈 単独インタビュー
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2015年3月18日

INTERVIEW|中島哲也監督『渇き。』主演・小松菜奈 単独インタビュー

INTERVIEW|鬼才、中島哲也監督の心を捉えた新ミューズ!
『渇き。』

主演 小松菜奈 単独インタビュー(1)

『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『告白』など、個性と創造力がふんだんに駆使されたエンタテインメント作品で、日本映画界を牽引する中島哲也監督。これまでも、土屋アンナ、中谷美紀、松たか子らとともに、映画史に残る女性像を生み出してきた。最新作『渇き。』で迎えたのは、モデル出身の小松菜奈。頭脳明晰、容姿端麗という学園のカリスマでありながら突然失踪し、捜索に乗り出す父親を翻弄する女子高生を圧倒的な存在感で演じている。鬼才を唸らせた新たなるミューズに、デビュー作について聞いた。

Text by MAKIGUCHI June
Styling by KAWAKAMI Kaori
Hair & Makeup by OZAWA Mai
Photographs by JAMANDFIX

「はじめての映画が中島監督の作品でよかった」

──劇薬エンタテインメントとも称される衝撃作『渇き。』ですが、デビュー作をスクリーンで観た感想はいかがでしたか?

「観終わって、呆然としました。『凄かった』という言葉が最初にでてきたんです。台本を読んでいましたから、展開はわかっていたはずなのに、思いもよらないカットやアニメーションが使われていたり、いじめのシーンなのに明るい曲がかかっていたり、過去と現在、現実と幻想が混ざりあった感じとか、中島監督らしい迫力のある表現に改めて驚かされました。カット割りがとても細かいので、目を離さないようにと懸命に観ていたら、いつの間にかその世界に入り込んでいました。言葉でお薦めするのが難しいですね。とにかく観てもらいたいです」

『渇き。』

『渇き。』

『渇き。』

──美しさと残酷さを併せ持つ役ですが、加奈子が持つ複雑さを表現するのに不安はなかったのでしょうか。

「周りは濃いキャラクターばかりだし、そのなかで埋もれてしまわないかと最初は不安でした。加奈子はカリスマ的な存在感を持っていて、常に一番上にいなくてはならない存在。それなのに、存在感が薄れてしまったら台無しになってしまいますから。そんなプレッシャーはすごくありましたが、演じてみると加奈子がふっと入って来たんです。キスシーンでも、加奈子ならこうしただろうというぐらい堂々とできました。素の自分だったらきっとできないはずなので、やはり役が入ってきたのかなと思っています。

ただ、加奈子は不思議な女の子でほかのだれとも違いますから、なにを考えているかわかりません。観た人には、この子はどんな子なんだろうと興味がわくような存在にしたかった。だから、こういう女の子だと決めずに演じたいと思い、なにかを参考にして役を作ることもしませんでした。ワンシーン、ワンシーンで監督と話しながら演じていき、時間がたつにつれて、自分で考えた加奈子像を取り入れながら演じるようになっていきましたね」

──中島監督はこれまでにもさまざまな作品で、意外性がありながらも、他には考えられないほど作品や役に合った抜群のキャスティングを成功させてきた実績があります。その監督が、小松さんを選んだということも、自信への大きな後押しになったのでは?

「オーディションで選んで下さったときは、なぜわたしをと思ったんですが、映画の前に中島監督とCMでご一緒する機会があったんです。その時、周りがわたしに抱いている“静か”というイメージを覆して、まったくあたらしい小松菜奈を引き出してくれた。『ああ、わたしにも変顔とかできるんだ』なんて、知らなかった自分を発見したりして(笑)。そんな経験を通して、最初は余裕も自信もなかったのに、撮影が進むにつれ『わたしが加奈子だ』と思えるようになっていきました。監督がわたしの可能性を広げてくれたんです。はじめての映画が中島監督の作品でよかったと心から思っています」

中島監督と小松菜奈さんの初仕事はテレビCMだった(映像は「dビデオ powered by BeeTV」のテレビCM「出会い」編と「転校生」篇)

INTERVIEW|鬼才、中島哲也監督の心を捉えた新ミューズ!
『渇き。』

主演 小松菜奈 単独インタビュー(2)

「自然に演技して伝えるって本当に難しい」

──「演技経験はなくても、彼女にはモデルとしての実績がある。メイクされ、衣装を着せられた瞬間、求められるキャラクターになりきれる。女優とは違う技術を持っている人。相手によっていろんな顔を見せる加奈子役にはそういう人のほうがいいと思い小松さんを選びました」と中島監督は言っています。いろいろな顔を持った役を演じるうえで、モデル業は役に立ちましたか?

「すごく役に立ちましたね。モデル業をしていたおかげで、いろいろな表情を見せるときに堂々とできました。ポーズを決めるのにも抵抗はないですし。ただ、演技に関してはまったく経験がなかったので、じつはもうちょっと簡単なものだと思っていたんです。でも、それは全然違っていました。

渇き。|小松菜奈""

モデルは、一瞬一瞬でキャラクターを作っていくけれど、演技の場合、撮影期間中ずっと同じ人物でいなくてはいけない。ずっとその役について考えますし。動きひとつにとっても自然に見せるのは難しくて、喜怒哀楽を出していても、全然相手に伝わっていないこともある。モデルよりもはっきりと感情を表現しなければ伝わらないんだと実感しました。

役をいただいたあと、演技レッスンをしていたんですが、オーディションの映像を見る機会があったんです。案の定、もう酷くて(笑)。そのときは必死でしたが、なにも伝わって来ないんです。怒っているつもりでもそうは見えないし、笑っているのにひきつっているだけに見えるし。自然に演技して伝えるって本当に難しいです」

──演技の難しさ、おもしろさを知ったいま、女優業への意欲はさらに増したのでしょうか。

「撮影中は大変なこともたくさんあったので、自分は女優に向いていないんじゃないかなとか、これから女優をやっていくのかなと不安になったときもありました。でも、撮られていて楽しいなと思う自分もいる。まったく違う自分になれるのもすごく楽しくて。不安な気持ちから、女優っていいなという思いに変わりました。こんな素晴らしい機会をいただいたので、これからももっといろいろ挑戦していきたいです」

──“愛する娘はバケモノでした”というのが『渇き。』のキャッチフレーズになっていますが、加奈子に近い年代の小松さんからすると、バケモノのようになってしまった子どもたちについて、どう感じますか?

「環境によって人は変わっていくものですよね。犯罪と家庭環境はやはり関係があるという意見に、そうかもとも思います。やはり愛情を受けて育ったら、犯罪に手を染めることにはならないと思うんです。すべてが親の責任ではないにしても、家庭の事情は子どもを大きく変える可能性があるはず。そんなことを考えるきっかけにもなるので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。観る人によって意見は違うと思うし、同世代の意見も気になります。どんな風に受け止められるのかな。早く皆さんの感想が聞きたいです」

『渇き。』

『渇き。』

小松菜奈|KOMATSU Nana
1996年生まれ、東京都出身。2008年より、モデルとして雑誌を中心に活動するとともに、ミュージックビデオ、CMなどに数多く出演。中島監督がオーディションで、加奈子役に抜擢。本作でスクリーンデビューを飾る。ある日、突然謎の失踪をとげる容姿端麗な優等生を、圧倒的な存在感で演じてみせた。

『渇き。』

6月27日(金)より、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国ロードショー

監督|中島哲也

原作|深町秋生『果てしなき渇き』(宝島社)

脚本|中島哲也、門間宣裕、唯野未歩子

出演|役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、國村隼

配給|ギャガ

2014年/日本/118分/R15+

http://kawaki.gaga.ne.jp

Ⓒ「渇き。」製作委員会

           
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