祐真朋樹・編集大魔王対談|vol.30 カン・ドンウォンさん
Page. 1
スラリとした長身に、凛とした佇まいとクールな眼差し。今回の編集大魔王対談には、現在公開中の新作映画の先行上映&舞台挨拶のため来日した俳優のカン・ドンウォンさんが登場。撮影やプライベートでも親交のある二人だけに、対談はリラックスしたムードでスタートした。まずは、大ヒット中の新作の話題から…
Interview by SUKEZANE TomokiPhotographs by NAGATOMO YoshiyukiHair by TSUKUI Hiro(Perle Management)Text by HATAKEYAMA Satoko
スリルと興奮の追跡劇、最新作「MASTER/マスター」
祐真朋樹・編集大魔王(以下、祐真) 公開中の映画「MASTER/マスター」観ました。スリリングなストーリー展開に加えてテンポも良く、時間が経つのを忘れてしまうほど面白かったです。捜査官役は初めてということですが、演じてみてどうでしたか。
カン・ドンウォン(以下、ドンウォン) キム捜査官という役は、今まで演じたことのない男っぽくてマッチョなキャラクターだったのですごく新鮮に感じました。撮影の数ヶ月前からトレーニングを重ねて身体づくりをし、犯人との格闘シーンのためにプロのボクサーにコーチをお願いしたりしました。
祐真 屈強でありながらしなやかさも感じられるいい役柄でしたね。知能犯を追いつめる緻密さと、巨悪に対峙するタフなメンタル。そのコントラストも印象的で。
ドンウォン ありがとうございます。今は、撮影中の作品(来年公開予定の映画「人狼 JIN-ROH」)の役作りのため、「MASTER/マスター」の撮影時より10kgほど絞っています。腹筋も今なら割れていますよ(笑)。
祐真 イ・ビョンホンさんとの共演も初めてだそうですね。悪役が予想以上にハマっていて、ドンウォンさん演じる捜査官役との対比がいっそう際立ってみえました。共演してみていかがでしたか。
ドンウォン 演技力の高さでは、国内はもちろん海外でも認められている俳優さんなので、共演すると発表されてからは期待感でいっぱいでした。撮影に入ってからも、ずば抜けた集中力や演技に対する姿勢など、刺激になることがたくさんありました。初めて共演する方との現場は、僕にとっていつも嬉しくて楽しいことです。
祐真 自分自身の演技や役作りで、いちばん気を使ったところや、大変だったところはどんなところでしたか?
ドンウォン 知能犯罪の捜査官を演じるということで、声のトーンをいつもと変えたところでしょうか。低めで早い口調にしているんです。抑揚の少ない喋り方というか、感情に揺さぶられないクールな喋り方。そこをずっと意識して同じトーンで台詞を喋るのが大変といえば大変でした。でもそれを最後まで貫いたおかげで学べた部分も多かったし、以降の作品への大きな糧にもなったと思っています。
祐真 確かにクールさは随所に感じられましたね。それと、もう一人のキーパーソン、天才ハッカーを演じたキム・ウビンさんとの絡みも良かったです。僕は初めて拝見する俳優さんだったのですが、彼は表情がすごくユニークですね。
ドンウォン ウビンさんは滑舌がいいので、セリフまわしがとてもキレイなんですよ。マニラで1ヵ月間ロケをしたんですが、彼とは遊びの趣味が合ったので、水泳をしたり、チームに分かれてテニスの試合をしたりと、スポーツを通じたいい付き合いができました。
祐真 仲が良さそうというか、気持ちが通じているような雰囲気が作品の中にも滲み出ていたような気がします。マニラでのロケはどうでしたか。
ドンウォン 実をいうと、ロケで1ヶ月も外国に滞在するのは初めてだったんです。ホテルがダウンタウンから遠く、周りに遊びに行ける場所もなかったので、撮影以外はほとんどホテルのプールやジムで過ごしていました。
祐真 あとは食事の楽しみぐらいですね(笑)。フィリピンのゴハンは口に合いました?
ドンウォン ローカルフードに積極的にトライして、けっこう好きになりました。マニラはバーベキューが美味しかったのと、漬け物と豚肉を入れて煮込んだ「シニガン」という酸味のあるスープがキムチチゲのようで美味しくて。それと、マニラには大きな韓国コミュニティーがあるので、韓国レストランにもけっこう行きましたよ。
祐真 マニラでのシーンは、橋や道路を封鎖したり、激しいアクションやカーチェイスも見ものでした。もちろんスタントマンはいましたよね?
ドンウォン 道路を転げ回るシーンはさすがにスタントマンがいましたけれど、車にぶら下がったりするのは普通にやっていました。けっこう深刻な怪我もして、爆発物の破片が顔や首に7カ所ぐらい刺さったんですよ。
祐真 えっ!? そういう時は、現場に救急車なり医療スタッフが入っていますよね?
ドンウォン はい。すぐに救急車に乗って病院に搬送されて、傷口を数針縫いました。でもちょっと笑えたのは、包帯やガーゼとかでなく子どもの擦り傷に使うような星のイラストのついたバンドエイドを貼られたこと。写真があるので、お見せします。
祐真 (スマホの写真を見ながら) あ、なんか可愛い。重症の割にはこれだけですか?みたいな感じがして(笑)。
ドンウォン そうなんです。細長い破片が深く刺さったところが1カ所あって、けっこう痛かったのに、これだけでしたから(笑)。
Page02. 50歳ぐらいまでアクションができるような俳優でいたい!
Page. 2
50歳ぐらいまでアクションができるような俳優でいたい!
祐真 この作品は魅力的な人物がたくさんでてくるので話は尽きないんですが、闇のドンのような年配のマダムとの絡みも良かったです。彼女の存在感はすごかった!
ドンウォン 彼女はパク・チョンジャさんという舞台をメインに活動されている俳優さんで、韓国では非常に有名な方です。最初の顔合わせの時から僕のことを快く受け入れてくださって、そのおかげもあって僕自身もその後の演技のトーンを少し変えました。本当はもっと距離のある関係性だったんですけれど、もっとカジュアルに、師弟関係のようにしてもいいかなと思ったんです。前からご一緒してみたい俳優さんでもあったので勉強になりました。
祐真 あと、劇中の衣装のことで1つ。犯人を追いかけて行ってマニラに降り立った時に、クリーム色の麻のスーツを着ていたでしょう? あれはどこのブランドですか。亜熱帯のマニラに来た!という雰囲気が出ていましたよね。
ドンウォン この映画のためにオリジナルで作ってもらったものです。衣装を担当してくれたのは韓国のトップクリエーターの方で、映画「群盗」(2014年、韓国公開)を始めとして、他の映画でも何度もご一緒させてもらっていて。
祐真 ところで、今はどんな映画を撮っているんですか。
ドンウォン さきほどもちらっと言った押井守監督のアニメ映画「人狼 JIN-ROH」の実写リメイク版を撮っている最中です。伊坂幸太郎さん原作の「ゴールデン・スランバー」はもう撮り終えていて、韓国では来年2月の旧正月に公開予定です。今年、映画の撮影は3本していて、残りのひとつは、韓国で12月に公開する映画「1987」。韓国の民主化運動を率いた学生運動のストーリーで、ドキュメンタリータッチの作品です。僕は特別出演として、この運動のシンボリックな役柄を演じています。
祐真 「人狼 JIN-ROH」は韓国のどこでロケをしているんですか。
ドンウォン 映画のセットはソウルから2時間ぐらいの大田(テジョン)にあります。これも「MASTER/マスター」同様、アクションシーンが多い映画になりそうです。僕もいつまでアクションができるのかちょっと自信はないんですが(笑)。
祐真 いや、まだ大丈夫でしょう。50歳位までアクションしてください。過酷ですけれど、もう怪我はしないようにしてくださいね(笑)。でもそんなに仕事が忙しいと、趣味のファッションを楽しむ時間もなかなか取れなさそうですね。
ドンウォン …本当に時間がないんです。SISEのコレクションをチェックするぐらいで、他を見る暇がないのが残念です。でも最近はアートや建築にも興味があって、いろいろと見るようになってきていますけれど。
祐真 アートはどういうジャンルに興味があるんですか。何か作品を買ったりはしました?
ドンウォン いえ、僕は作品を買うとしたら、綿密にリサーチをして買うタイプなので、まだそこまで到達はしていないです。どちらかというとモダンアートに興味があって、いろんなアーティストの作品を見ているところです。
祐真 見るだけでも楽しいですよね。ギャラリーの建築もすごく凝っているものがあったりして、それも眺めるのも楽しかったりする。今年の夏、安藤忠雄さんが江原道・原州に建てた「MUSEUM SAN」に撮影に行きましたよ。韓国はアートに対しての熱がすごく高いですね。
ドンウォン 確かに勢いがある感じはしますね。僕自身は、建築やインテリアはミッドセンチュリーやスカンジナビアデザインが昔から好きです。特にスカンジナビアデザインは、シンプルでフォルムやラインがとても美しいし、飽きない。見れば見るほど好きになります。
祐真 最近、東京で気になった場所などはありますか。
ドンウォン 麻布十番にある紹介制の焼き鳥のお店はすごく美味しかったですね。全部の料理が美味しかったんですけれど、特に締めに出された卵かけご飯が絶品でした。韓国では卵を生で食べる習慣がないので、これには感激しました。
祐真 美味しそうな光景が目に浮かびます!
ドンウォン あと、友人に銀座の天ぷらのお店に連れて行ってもらって、そこもめちゃくちゃ美味しかったです。ただ、支払いを現金でしか受け付けてくれなくて、「おごるよ」といってくれた友人の手持ちはカードのみ。しかたなく食事に行った全員の現金をかき集めて支払いをしたというオチがつきました。東京ではこういうことはよくあることですか?(笑)
祐真 時々ありますね。そういう店は、食事の途中で「あれ、ここカードだめなんじゃないか?」と肌で感じるんです。東京は高級店でも意外とカードが使えない店があるので気をつけてくださいね。「東京ディナーあるある」にご用心です(笑)
カン・ドンウォン|GANG DONG-WONG
1981年生まれ。2000年にモデルでデビューし、03年にテレビドラマ「威風堂々な彼女」で俳優へ転身後、常に第一線で活躍。兵役を終えてからも、「世界で一番いとしい君へ」「プリースト 悪魔を葬る者」「華麗なるリベンジ」など、作品ごとに様々なキャラクターを熱演。来年にも新作映画の公開が予定されている、韓国を代表するトップ俳優のひとり。「MASTER/マスター」は、TOHOシネマズ新宿ほかにて大ヒット上映中。