『岸辺の旅』主演・浅野忠信 独占インタビュー|INTERVIEW
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2015年9月29日

『岸辺の旅』主演・浅野忠信 独占インタビュー|INTERVIEW

INTERVIEW|黒沢清監督最新作『岸辺の旅』

“魂の絆”を描いた切ない愛の物語

主演・浅野忠信 独占インタビュー(1)

第68回カンヌ国際映画祭のある視点部門で日本人初となる「監督賞」に輝いた、黒沢清監督の最新作『岸辺の旅』。湯本香樹実による同名小説を、浅野忠信、深津絵里のダブル主演で映画化した本作は、長らく失踪していた夫が死者となって妻のもとに戻り、妻とともに死後の軌跡を辿る旅に出る、という異色のロードムービーであり、魂の絆を描いた切ない愛の物語。黒沢監督作品には『アカルイミライ』(2003年)以来の2度目の出演ながら、いずれもカンヌに出品という快挙を成し遂げた浅野忠信さんに、本作に至るまでの俳優人生における心境の変化や、映画や演技にたいする熱いおもいをうかがった。

Photographs by KOBAYASHI Takashi(ITARU studio)Text by WATANABE Reiko

10代、20代のころの自然な動きをもう一回追及してやってみたい

――黒沢監督とは『アカルイミライ』以来、12年ぶりのタッグとなりますが、今回『岸辺の旅』でふたたび「死者」の役を演じるにあたり、どのようなおもいで取り組まれましたか?

ちょうど『ロング・グッドバイ』、『私の男』に続く作品として、これからやってみたいと僕が想定していた役のなかに「40代の夫婦役」というのがあったんです。しかも深津さんと黒沢監督ですからね。「これは完璧だな。やる以外ないな」とおもって、最初からどう演じるか考えながら台本を読んでいきました。

『アカルイミライ』につづいて、今回も黒沢監督から「死者」の役をいただけたということは、監督の方でもこういう役柄に対して僕を信頼してくださっているところがあると感じていたので、自分のなかでは12年間の変化というものを実感しつつも、あまり膨らまさず淡々と演じようとおもいましたね。

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――具体的には、『アカルイミライ』から『岸辺の旅』までの間に、浅野さんのなかでどのような心境の変化があったのでしょうか。

10代のころに受けたオーディションで、劇団の子たちの過剰な演技に違和感をもったこともあって、とにかく恥をかかないためには、いつも通りでいるしかない、とおもってやってきたんです。まわりからも「浅野忠信ってナチュラルでいいね」と言ってもらえたし、20代半ばくらいまでは好きなように突っ走っていられたんですが、ちょうど30代を前にして、どこか自分自身のなかで限界を感じてしまったのが『アカルイミライ』のころでした。でもありがたいことに、この12年間でいろんな作品と出合えて、さまざまな監督に指導していただくなかで、自分の弱いところも勉強していくことができたんです。

もちろん年齢を重ねていけば、求められる役も変わって来るんですが、最近やっぱり10代、20代のころにやっていたような役の方が自分には合うのかなって素直におもえるようになってきて、当時の自然な動きをもう一回追及してやってみたいと考えるようになりました。だからおなじように見えたとしても、いろんな経験を積んでまた戻ってきたという意味では、あのころはできなかったやり方で自分なりにやっているつもりではあるんですけどね。

――優介と瑞希が醸し出す、独特の親密さが印象的でした。本作で深津絵里さんと夫婦役を演じられてみていかがでしたか?

深津さんとは『ステキな金縛り』の現場で出会って、いずれガッチリと組める作品でごいっしょしたいねという話はしていました。深津さんと僕は同世代で、デビューも割と近いということもあり、絶大な信頼を置いているんです。撮影中も「ああしましょう、こうしましょう」ということはなくて、ただそこに佇んで、自分たちの空気感だけで過ごしていた感じなんですが、今回の夫婦役ではそれがいい方向に出ていたんじゃないかなとおもいます。僕が隣で好き放題やっていても、深津さんはそれに寄り添ってくれるから、つい甘えてしまうんです。なにがあっても深津さんがそばにいてくれる、という安心感は撮影中すごくありましたね。

――日本ならではの死生観を背景に、魂の結びつきを描いた本作は、カンヌでも多くの観客に絶賛されていました。完成した作品をご覧になられてどう感じましたか?

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最後のシーンで優介が話すセリフがあるんですが、撮影中は、とにかくそのセリフに向かっていけばいいんだ、それを伝えるためだけに優介はみっちゃんに会いに来たんだ、っていうことだけをずっと考えるようにしていたんです。実際できあがった映画を観たときは、これまで黒沢監督が撮ってこられた作品とはずいぶん違うな、と感じましたね。

©2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

僕は普段から亡くなったお祖母ちゃんに毎朝手を合わせたり、「ありがとう」って会話したりもしているんですが、この作品で描かれているのは、いわゆる男女の恋愛だけじゃなくて、たとえばお祖母ちゃんと僕だったり、友だちと自分だったりというような、なんかこう、愛の形みたいなものだとおもうんです。海外の観客のなかにも、この映画を通じて、亡くなった家族や友だちのことをおもいだしたっていうひともいるみたいなんですが、僕も小学校時代から仲が良かった友人が、5年くらい前に亡くなっていて。15、6歳からずっと会っていなかったんですけど、本当におもしろいやつだったんで、彼が優介みたいに会いに来てくれたらうれしいですけどね。

どの国の人たちからも必要とされる俳優でありたい

INTERVIEW|黒沢清監督最新作『岸辺の旅』

“魂の絆”を描いた切ない愛の物語

主演・浅野忠信 独占インタビュー(2)

どの国の人たちからも必要とされる俳優でありたい

――浅野さんは、海外の監督の作品にも多数出演され、『マイティ・ソー』ではハリウッド進出も果たされるなど、日本にとどまらず国際的に活躍されています。海外のスタッフと一緒にお仕事をされるなかで得られたものというのはありますか?

若いころから、ヨーロッパやアジアの映画祭に参加させてもらったり、海外の撮影現場を経験させてもらったりして感じたのは、映画製作においてはあまり国籍にとらわれなくてもいいのかもしれないということですね。重要なのは、「この台本をどう撮りたいか」であって、たとえばカメラマンがオーストラリア人で、照明はドイツ人で、録音はフランス人にお願いする、というかたちでも全然構わないわけです。そういった意味では、僕もどの国の人たちからも必要とされる俳優でありたいとおもうし、自分ができることはどんどんアピールするようにもなりました。

海外の現場って、映画を撮るうえでの動機がすごくはっきりしているから、とにかくスタッフの情熱のレベルがすごいんです。僕も昔から衣装さんやヘアメイクさんにはちゃんと意見を伝えるようにしているんですが、そうすることで周りがイキイキしてくるし、さらに現場全体が活気づく。僕は、ひとがなんだかよくわからないことにたいして、ヒントや答えがほしくなったとき、それをあたえてくれるのが映画だとおもっているんです。だから、もちろん、曲でも絵でも写真でもそうですけど、そこに強烈な動機やおもいがない限りは、だれにも届かないし、いくら自分で映画だと言ってもそれはコピーにすぎないんじゃないかとおもうんですよね。

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©2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

――役作りをされるうえで、浅野さんはどういった観点からその役柄にアプローチされますか?

それはもう全部です。僕にとって衣装とメイクはとっても重要で、今回の優介が着ているコートにしても、形や風合いといった細かな要素まで、スタイリングの小川久美子さんとかなり具体的に話し合ったんです。僕にとっての映画は、「ブルース・リーが黄色いジャージを着てる。カッコいい、真似したい、ポスターも、カッコいい、貼りたい」っていう存在であってほしいから、僕自身、あこがれをもてないものは嫌だし、それほど強烈なイメージではないにしても、ひとつひとつにちゃんとした考えがあってほしいんです。

――浅野さんが作品に出演されるかどうかを判断する際の、決め手となる要素はなんですか?

最近また変わってきてはいるんですが、やっぱり自分が演じる役がどういう役なのか、というのが一番気にはなりますよね。たとえセリフがなくても、すごく意味のある役もありますし、結局のところは監督の熱意に尽きるとおもうんです。監督にとってこの作品はどんな映画で、どういう気持ちで撮ろうとしているのかというのが知りたくて、はじめてご一緒する際には、事前に監督とお会いしてお話しさせていただいてからにはなりますね。

ホントにずうずうしく言わせていただくと、「この役をこういう状態ではできない」っていうこともありますし、僕の方から「こうやって書きなおしてほしい」ってわがままを言わせていただくこともあるんですが、そうすると逆に断られる場合もあるんですよ! でもそれだったら最初から俺を誘わなきゃいいじゃん(笑)って。だから恋愛と一緒ですよね。「1回ふられて諦めるくらいなら、最初からやめてよ」って女性にも言われるのとおなじで、「5回でも6回でも、俺を口説く気持ちがないなら最初から来ないでくれ」って、僕もそうおもいますけどね(笑)。

――最後に、今後あらたにチャレンジしていきたい作品について教えていただけますか?

やっぱり「笑い」の要素がほしいなとはおもいますね。僕の日常には、なんでこんなことが起こるんだってことがたくさんあふれていて、たとえば、クルマの前タイヤがパンクして、修理した途端に今度は後ろのタイヤがパンクして、さらに左のテールランプが消えて、やっと全部直ったとおもったら右のテールランプが消えている、というようなことが、次から次へと起きるときがあるんです。

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そんなときに僕がおもったのは、「これはきっと『浅野忠信』っていう映画があって、監督が浅野忠信っていう役を痛い目に合わせているのを、だれかが見て笑ってやがるんだな」ってことなんですよ。本当はまともに生きたいはずなのに、転んじゃったとか、水をこぼしちゃったとか、そういう人生の瞬間っておもしろいじゃないですか。いたって真面目な話がベースになっているんだけれども、そこにちょっとしたユーモアが入っている作品っていうのは、いつかやってみたいとおもいますね。

浅野忠信|ASANO Tadanobu
1973年、神奈川県生まれ。1990年、『バタアシ金魚』で映画デビューを果たして以来、映画を中心に活躍、海外にも活躍の場を広げ、国際派俳優の地位を確立。なかでも『地球で最後のふたり』(2003年)では、第60回ベネチア国際映画祭のコントロ・コレンテ部門で主演男優賞を受賞するなど、高い評価を得る。2011年に『マイティ・ソー』でハリウッドデビューを遂げ、以降『バトルシップ』(2012年)『47RONIN』(2013年)と、立てつづけにハリウッド映画へ出演を果たしている。さらに2014年には、主演映画『私の男』で第36回モスクワ国際映画祭の最優秀男優賞を受賞した。

『岸辺の旅』
10月1日(木)より、テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督|黒沢清
脚本|宇治田隆史、黒沢清
原作|湯本香樹実『岸辺の旅』文春文庫
出演|深津絵里、浅野忠信、小松政夫、蒼井優、柄本明
配給|ショウゲート
2015年/日本・フランス合作/128分
http://kishibenotabi.com/

           
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