150年を迎えたノンヴィンテージ ブリュット|MOËT & CHANDON
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2019年10月29日

150年を迎えたノンヴィンテージ ブリュット|MOËT & CHANDON

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モエ・エ・シャンドンとシャンパーニュの276年(3)

シンプリシティの極致

ブノワ・ゴエズの話に戻ろう。
「私は2005年に現在の立場に就きました。そのときすでに、モエ アンペリアルは成功していて、私は何も変えずにそれを続けることもできたかもしれません。しかし、それをしなかった。リザーブワインをより使うようにしましたし、ドザージュは11gだったものを9gにして、この2年間は7gにしています」
若干35歳で、モエ・エ・シャンドンの最高醸造責任者という大役を担った天才は、いま、21年のキャリアのベテランだけれど、挑戦を続ける。
「ノンヴィンテージのシャンパーニュの強みは、収穫年によるブドウの品質のばらつきを抑え、コンスタントなシャンパーニュを造れることにあります。しかし、これまでお話したように、コンスタンシーとは同じ味を再現しつづけることではありません。高い品質、モエ アンペリアルから受ける感動、誰もが手に取ることができ、無理なく自然で、寛容で、そしてエレガントなスタイル。そこにモエ アンペリアルのコンスタシーはあります」
そう、先述の革命の「広く分かち合うことができる」とは、決して価格的に高すぎないこと、そして世界のどこでも手に入ること、も意味する。モエ アンペリアルは、たしかに、セレブリティたちの、成功者たちのそばにある。けれども、それは封建領主たちだけの秘められた楽しみ、憧れるばかりで手に入らないものとは違う。1869年。フランスではナポレオン三世の治世がおわり、象徴的なパリ・コミューンがおこるその前年にモエ アンペリアルは生まれ、ベル・エポックとともに育ち、戦後の経済成長期に愛された。これは、市民社会とともに誕生した、デモクラティックなシャンパーニュだ。
「5年後のトレンドを正確に言い当てることはできなくても、手元の流行だけを見ていればいいという時代でもありません。ブリュットのシャンパーニュを愛する人は、世界中にいます」
ブノワ・ゴエズはそれから「アメリカにも、カナダにも、ベルギーにも、日本にも」とそこに居合わせたジャーナリストたちの出身国を挙げ、「中国にも、アフリカにも」と翌日、この場に訪れるジャーナリストの出身国を挙げた。それから楽しそうに、
「最大限を魅了するのも、アンペリアルの使命です」と続ける。
モエ アンペリアルはたしかにその使命を全うしている。とはいえ、あらためて聞くと、どうやったら、そんなことができるのか、と思ってしまう。マスプロダクトであれば、そんなこともできるかもしれない。あるいは憧れの対象としての、超高級品であれば。しかし、たしかにモエ アンペリアルは多く造られているけれど、そこにはシャンパーニュとしては、という但し書きがつく。酒類全体でいえば、ほんのわずかな量でしかない。シャンパーニュという限られた土地、しかも、そのなかに無数の多様性をもった土地のブドウから、ブノワ・ゴエズを筆頭に、限られたエキスパートによって造られるシャンパーニュは、マスプロダクトにはなりえない。
そんな疑問が顔に出ていたのかもしれない。ブノワ・ゴエズはますます楽しそうに続ける。
「シャンパーニュのあらゆる要素をモエ アンペリアルのなかにみることができると私は思っています。ピノ・ノワールの構築性が背骨をなし、これを最初に感じるでしょう。そしてシャルドネの爽やかさ、繊細さ、後味のインパクト。相反しかねない両者をつなぐ、シャンパーニュ地方の固有品種、ムニエ。あるいは、それらが育った畑の多様性まで感じられるかもしれません。また、リザーブワインの厚み、若いブドウの軽快さ。モエ アンペリアルは最低でも2年はセラーで熟成しますから、熟成感をとらえることもできるでしょう。多様性はモエ アンペリアルのキーです」
言われてみれば、とグラスを傾けるけれど、造った人物を隣にして、その産地で飲んでいるせいか、普段より美味しい気がするものの、グラスの中の液体は、あの、モエ アンペリアルだ。まとまったひとつの総体をなしている。
「多様性はそれだけではありません。モエ アンペリアルの味を決める私のチームは、20代から60代まで、さまざまな年代、男女半々、出身国、文化的背景はさまざまです。私は、そこにも多様性を持たせています。そして、これがモエ アンペリアルだ、という決定を、チームの同意なくすることは決してないのです。モエ アンペリアルのコンセンサスです」
しかも、筆者知らなかったのだけれど、モエ アンペリアルは1年に3パターン造られるそうだ。それは、同じ年に収穫されたブドウが主調をなすといっても、最初に出荷されるボトルと、最後に出荷されるボトルの間には1年の開きがあり、その間にワインが熟成してしまい、コンスタシーを欠くからだ。
「そんなシャンパーニュはモエ・エ・シャンドンのなかで、モエ アンペリアルだけです。モエ アンペリアルは、ブリュットのシャンパーニュを愛する人のためのビスポークなのです」
なんとも不思議だ。それは考えようによっては、曖昧にピントを合わせておいて、飲む人の気の持ちようによってピントが合う、ということなのだろうか。しかし、それでは、無視した要素が雑音のように残って、気持ち次第で、そこが気になってしまうかもしれない。モエ アンペリアルから、そんなぼやけた印象を受けたことはない。筆者が考えあぐねている間に、食事の時間がきてしまい、話はそこで中断した。しかし、その後、ブノワ・ゴエズと話をするチャンスに恵まれ、あらためて、その秘密を聞いてみた。するとブノワ・ゴエズはこう言った。
「ひとことでいうなら、シンプリシティです。そして私の言うシンプリシティとは、究極の複雑さです。補足(Complement)と対照(Contrast)とで考えるのです。料理との相性を考えるときでいえば、モエ アンペリアルには、酸味、苦味、旨味、甘味があります。でも塩味はない。だから、塩味のものは合う。ワインに詳しい人はミネラリティを挙げて反論しようとしますが、よく考えてください。それは塩味ではありません」
塩とモエ アンペリアルは対照であるから、補足しあう。
「複雑にせず、過剰を退け、足すのではなく、引こうと考える。複雑なものを前にして、もっと引けるものはないかと問う。そうすることで、もうこれ以上引いたら崩れてしまう、というバランスに到達する。それが、モエ アンペリアルです」
なにかまとめの言葉を書きたい衝動にかられるけれど、おそらくそれは、避けるべき過剰というものだろう。今日は、一人、モエ アンペリアルと向き合いながら、ブノワ・ゴエズの言葉の意味を考えたい。モエ アンペリアルは、そんな楽しみ方だって、受け入れてくれるはずだ。
問い合わせ先

MHD モエ ヘネシー ディアジオ
Tel.03-5217-9906

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