伝統と革新― 写真家・長塚誠志に聞く、4代目市川猿之助の素顔|INTERVIEW
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2016年2月16日

伝統と革新― 写真家・長塚誠志に聞く、4代目市川猿之助の素顔|INTERVIEW

写真家・長塚誠志インタビュー

伝統と革新――4代目市川猿之助の素顔とは

4代目市川猿之助による「スーパー歌舞伎II ワンピース」が大阪にて再演される。伝統と新しさに挑む彼を、亀治郎時代から10年以上に渡って撮り続けてきた写真家・長塚誠志が語る猿之助の素顔。

文/熊谷朋哉

4代目市川猿之助による「スーパー歌舞伎II ワンピース」ふたたび

4代目市川猿之助が尾田栄一郎による大ヒット漫画に挑み、大きな話題を呼んだ「スーパー歌舞伎II ワンピース」。猿之助の主演と演出により、誰もが知る大ヒット作品『ONE PIECE』が、新たにスーパー歌舞伎として蘇った“事件”であった。

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「スーパー歌舞伎」は、先代の3代目市川猿之助によって始められた、これまでの歌舞伎とは異なる演出による全く新しい現代歌舞伎である。4代目による「スーパー歌舞伎II」の最新作である今作は、驚くようなスペクタクルあり、現代劇の要素あり……歌舞伎の「伝統」の意味を新たに問い直す、掛け値無しの傑作となった。

そしてこの3月、大阪松竹座にこの「ワンピース」が帰ってくる。更なるブラッシュアップを経て、また新たな展開を見せてくれることだろう。

写真家・長塚誠志が語る天才・市川猿之助とその原点

この「ワンピース」の始まりに際し、“亀ちゃん”と呼ばれた市川亀治郎時代から長年に渡って猿之助を撮り続けた写真家の写真集が出版されている。

写真家の名前は長塚誠志。自動車写真の大家であるが、俳優として独自の道を歩き始めた市川猿之助(当時は亀治郎)に寄り添って、4代目を襲名するまでの12年間、その歩みをレンズに収め続けてきた。

その長塚が、改めて猿之助、原点としての“亀治郎時代”、そして成長する俳優を写し続けることについて語ってくれた。

“亀治郎”を写すことの始まり――彼のなかには何人の人が住んでいるのか?

今回の「スーパー歌舞伎II ワンピース」を見ると、本当にここまでスケールの大きな存在になったんだなという驚きが先に立ちますね。ひとりの人間がこれだけの多才さを発揮して、それでいて全く器用貧乏になっていないことの凄まじさ。僕が撮り始めたときから、もちろん多彩な姿を見せてくれる人だったけれども、本当に本物の役者であって演出家だったんだなと、改めて感嘆させられています。

一番最初に彼を撮ったのは、2002年、彼が誰の力も借りずに「亀治郎の会」という独自興行を打とうとしているときでした。その時の役は玉手御前(『摂州合邦辻』)。自分の力だけでやろうとしているときにこの役を選んだということは、彼が本当に演じたい役柄だったんでしょう。すごく気合が入っていて、これまでに先輩たちが演じてきた玉手御前を全ておさらいしたうえで、自分にはなにができるのか、この役柄をどうつくりあげるのか、芝居というものに真剣に取り組んでいることが強く伝わってきたのを覚えています。

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写真家・長塚誠志氏

舞台の彼は、可憐で、綺麗で、それでいて怖くて、おどろおどろしくてね。この人の中には何人の人が住んでいるのだろうと思うくらいの多彩な表情と演じ方、そして立ち姿の美しさに感銘を受けました。そうか、この青年は本物だ、と。

その「合邦」を撮ったこの撮影は、実は、僕にとっては初めての歌舞伎役者とのフォト・セッションだったのです。その始まりはちょっとした偶然で、それなら僕が撮るよというくらいのものだったんですけれどもね。しかし、これが本当に上手く行った。彼の変化や面白さ、われわれふたりの“気”のぶつかり合いに、写真家として本当に燃えるものを感じたんです。そしてこれが、その後の彼との長い旅の始まりになりました。

写真家の語る俳優としての市川亀治郎改め4代目市川猿之助

それからは、折りに触れて彼を撮り続けるようになりました。仕事というわけではないから、劇場の踊り場や楽屋に簡易スタジオを組んで、アシスタントは女房(笑)。そこで舞台前、もしくは舞台直後の猿之助さんと呼吸を合わせて、その一瞬一瞬をフィルムに焼き付けていく。それまでの車の撮影では空撮だったり大規模な撮影だったりしたけれど、本当に正反対だよね。そのぶん、彼と僕とのあいだの濃密な時間が写し出されていると思う。音楽でいうとデュオだよね。僕がベースで彼がピアノ、デュオで初めて踏み込めた世界だと思います。

写真家として言わせてもらうと、彼はとにかく身体能力が素晴らしい。たとえば彼がジャンプをした一瞬をたくさん撮ってきているんだけど、表情はもちろん、衣装、そして指先に至るまで、全てに彼の神経が行き届いていることがわかる。結果として、“絵”が完璧になるんです。子どもの頃から厳しく自分を鍛えてきたことの全てがレンズを通して伝わってきた気がしましたね。

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それと同時に、とにかく頭がいい人。どんな芝居であっても、台本を読んだだけでその内容・台詞が全部頭に入っちゃう。だからこそ、すぐに役になりきって自分のモードを切り替えることができるんだよね。このことが演出家としての才でもあるのでしょう。芝居を理解した上で、自分の役割を本当によくわかっていて、見る者を完全に楽しませてくれる。これは今もまったく変わりがありませんね。

写楽を遥かに超えている――現代に歌舞伎の伝統を撮ることの意味

これだけ長い間彼を撮影してきて、もちろんプライベートでも交流して、たとえば一緒に海外に出かけたり、彼が僕ら夫妻の家に遊びに来てくれたりもしたけれども、猿之助さんってどんな人?と聞かれると、実はなかなか答えることができないんですよ。素顔もすごく複雑というのかな、本当にいろいろな面を持っている人。ものすごく素直に優しい人でありながら、突然すごくシャープで的を得た辛辣さを見せたりもする。本当に不思議な人です。

猿之助さんが、僕が撮った彼の写真を「写楽を遥かに超えている」と仰ってくださった。もちろんそれは嬉しいし、最大限の賛辞だと思っています。俺が当時の絵師だったらどう彼を描くだろう?とは彼を撮る折々に考えてきたことです。写楽の絵が今も生き生きと当時の役者の力を示してくれているように、僕の写真によって、後世の人々が4代目猿之助さんの才能と力量とを感じてくれれば、本当にこれ以上に幸せなことはない。

一人の演者を、しかもその激しい成長の時を、ともに10年以上に渡って撮り続けるという機会はそう多くあることではない。そしてそれが猿之助さんという本当に歴史に残るような役者さんだったわけですから。この写真たちは、伝統と新しさへの挑戦を同時に続ける猿之助さんを捉えた記録であり、歌舞伎の伝統を21世紀の写真家が撮ることについての僕なりの回答です。ひとりでも多くの方々にこの写真を見ていただければ嬉しいですね。

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スーパー歌舞伎II ワンピース
上演期間|2016年3月1日(火)~3月25日(金)

場所|大阪松竹座

大阪市中央区道頓堀1−9−19

公式サイト|スーパー歌舞伎II ワンピース <特設サイト> 主演 市川猿之助
http://www.onepiece-kabuki.com/

長塚誠志写真集『四代目 市川猿之助』
写真|長塚誠志

著者・編集|長塚誠志、市川猿之助(4世)

発行所|パイ・インターナショナル

発行日|2015年10月10日

ISBN|ISBN-10: 4756247407

ISBN-13: 978-4756247407

購入(Aamazon.co.jp内)|
http://www.amazon.co.jp/dp/4756247407

長塚誠志webサイト(SLOGAN gallery内)
オリジナルプリント販売開始
http://www.slogan.co.jp/NAGATSUKA/

NAGATSUKA Seishi|長塚誠志
1942年生まれ。写真家。数々の広告写真等を手がけ、とくに自動車に関しては日本を代表する写真家のひとりとして知られる。受賞歴多数。2002年より、独りの道を歩き始めた市川亀治郎を撮り始め、その後彼の演じるほとんど全ての役柄を撮り続け、全幅の信頼を寄せられる。

           
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