美食大陸オーストラリア、美食とワインをめぐる旅へ|ビクトリア州 メルボルン(1)|特集
特集|美食大陸オーストラリア、美食とワインをめぐる旅へ
Spin Off ビクトリア州 メルボルン(1)
「オーストラリアはおいしい!」。それを確かめるべく豪州大陸を「美食」をキーワードにめぐった特集が「美食大陸オーストラリア、美食とワインをめぐる旅へ」。特集はコンプリートしたが、実は一番取り上げたかった究極のグルメエリアが入っていなかった。それがビクトリア州だ。今回はスピンオフ企画として、最先端ガストロノミー体験と、魅惑の食をめぐる旅をお届けする。
Special Thanks to Tourism Australia, Tourism Victoria, Cathay PacificText & Photographs by TERADA Naoko
一日に四季がある気候と豊かな大地が生み出すハイクオリティな食材
ビクトリア州は、シドニーに次いで人口の多い州都メルボルンを中心とする、オーストラリアを代表するエリア。豪州大陸の南に位置し、うつくしい公園や海岸線に彩られた自然ととけあう環境。「一日に四季がある」といわれるほど表情豊かで、日本人好みの情緒がある。そして、この環境こそが優れた食材を生み出す源なのだ。
ビクトリア州といえば、ワイン好きは外せないプレミアムワインの宝庫である。ヤラバレーを筆頭に、キングバレー、スワンヒル、ラザグレインなど個性的な産地が点在。好評価を受けるワインも少なくない。さらにワインだけでなく、野菜、フルーツ、精肉、ジビエ、シーフード、乳製品など、豊かな大地が生み出すビクトリア州産の製品は国際的にも評価が高く、その味わいはときに言葉を失うほど。ビクトリア州をこよなく愛するシェフたちも多く、おのずと名レストランが顔をそろえているというのも納得だ。
それをリアルに実感できるのが、メルボルンでの美食体験にほかならない。
世界が認める美食都市メルボルンをフードライター同行の食探訪ツアーで満喫
メルボルンは間違いなくオーストラリアを代表するグルメシティだ。前述したように食材の豊かさ、プレミアムワインの産地を抱え、シェフが望むクオリティの高い食材が手に入る環境は貴重だ。しかも、生産地は市内からクルマで数時間のエリアに広がる。シーフードなどは、20分もクルマを飛ばせばコーストラインで手に入る。
また、美食だけでなくファッション、アートなど文化度の高い都市でもあり、クリエイターたちも多く輩出。さらに学生街という顔をもつほか、チャイニーズ、ベトナム、イタリア、ギリシャなど、多様な国民性を持ったマルチカルチャーな文化圏でもある。このさまざまな異なった文化、環境によってフードカルチャーも必然的に多様化するわけだが、食にうるさいグルメを満足させる食材が近距離に広がるサスティナブルさも、メルボルンの特徴だと言える。
そのメルボルンで最新の食のトレンドをキャッチするにはどうしたらいいか。レストランを探す場合はまず、地元新聞『The Age』が毎年発行するThe Age Good Food Guideを参考にしたい。ミシュランのような格付けで、星の代わりに「シェフの帽子」であらわされ、帽子3つが最高。このほか、あたらしく誕生した期待のレストランなども網羅。またメルボルンだけでなく、地方のレストランもカバーしているので頼りになる一冊だ。
そして今回、私が参加したのが元料理人で『オーストラリアン・グルメ・トラベラー誌』などに寄稿、多数のグルメ本を執筆するジャーナリストでもあるアラン・カンピオン氏が主宰するMelbourne Food Experiences。世界で食べ歩き経験を積んだあと、2004年からグルメツアーをスタート。カップルや個人参加というプライベートなスタイルから小人数のグループまで、さらに観光客からプロ級の料理愛好家、フーディーたちまで幅広く対応。彼の奥深い知識と料理界での顔の広さを活かし、バラエティに富んだメルボルンの食の魅力を、食べ歩きながら学ぶツアーを催行している。
たとえば、カンピオン氏イチオシのレストラン、カフェなどをホッピングするフードツアーのほか、話題のレストランでのコース料理を含んだグルメツアー、カクテル&バーをめぐるもの、アート&フード、さらにはチョコレートづくり、クッキングクラス、マーケット探訪などまさにメルボルンの食の魅力を網羅する内容になっている。そして、今回はそのなかでもお勧めという場所を紹介してもらった。
The Age Good Food Guide(ジ・エイジ・グッド・フード・ガイド)
http://www.goodfood.com.au/good-food/good-food-guide/the-age-good-food-guide-2015-the-hats-20140825-3e99v.html
Melbourne Food Experiences(メルボルン・フード・エクスペリエンス)
http://www.melbournefoodexperiences.com.au/
Page02. メルボルンのおすすめグルメスポット
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Spin Off ビクトリア州 メルボルン(2)
メルボルンのおすすめグルメスポット
Dukes Coffee Roasters(デュークス・コーヒー・ロースターズ)
6月のオーストラリアは冬。朝、ホテルで待ち合わせると開口一番、「まずコーヒーで目を覚ましましょう」とカンピオン氏。そこで彼が選んだのがDukes Coffee Roasters。メルボルンはオーストラリアきってのカフェカルチャーを誇る都市。街にはレーンウェイと呼ばれる、開拓時代からの路地が残り、そんな通りには個性あるカフェがひしめきあい、極上のコーヒーが味わえる。某チェーン系コーヒーが進出したものの、あっという間に撤退していったというのもうなずける。
店の前には出勤前の一杯を、あるいはテイクアウェイ(オーストラリアではテイクアウトをこう呼ぶ)を求めるメルボルニアンたちが列をなしている。一杯ずつ丁寧に、そしてクールに淹れるバリスタたち。狭い店内には、挽きたてのコーヒーの香りが広がり、コーヒーアディクトを恍惚とさせる。トップ5パーセントにあたる、世界各地の産地・生産者から厳選して確保するコーヒー豆は、カリフォルニア・サンタロサにあるLORING社の焙煎機で毎日、焙煎。季節やその日のコンディションで微調整しているという。
「ブラックやエスプレッソ好きならこれだね」と勧められたのがロス・ハウス・ブレンド。ガテマラとエチオピアのブレンドで、同店で出すエスプレッソはすべてこの豆を使用しているそうだ。爽やかな甘みと果実味が心地よい。ちなみにロス・ハウスとはこの店の入った建物の名前で、50以上の小さなNPO団体の拠点となっている。Dukesではこのブレンド豆の売り上げのなかから、ワンパックにつきA$3を彼らの活動のために寄付するほか、店の売り上げの1パーセントをエコ活動のために寄付。極上のコーヒーは、優れた自然環境と適正なビジネスによってもたらされる。それをしっかりと理解したエシカルな姿勢が好ましい。
Dukes Coffee Roasters
https://www.dukescoffee.com.au/
Spring Street Grocer(スプリング・ストリート・グロサー)
つぎにカンピオン氏が連れていってくれたのが、Spring Street Grocer。エントランス脇には作り置きをしない、天然素材で作ったイタリアンジェラートのカフェがあり、なかにはグルメな食材が並ぶ。最近、海外で人気の枝豆の冷凍もある。「じゃあ、こっち来て」と促されて、地下へとつづくらせん階段を降りた先にあったのはチーズセラーだった。
小さな空間にはさまざまなバリエーションのチーズが並び、それをまるで我が子のように世話をしているのが、ヴィクター・ペルシネット氏。フランス・ヌーシャテル出身で、メルボルンのチーズビジネスに貢献する人物だ。
「ヨーロッパに比べて、オーストラリアのチーズはまだまだ未熟です。でも、ビクトリア州には可能性を感じています。たとえばHoly Goat Cheeseは優秀なヤギのチーズをつくりますし、ギプスランドのブルーチーズもすばらしい」と絶賛。美食文化が発達したメルボルンでは消費者の目も肥えている。カンピオン氏によると、このチーズセラーやグルメなデリも大人気だという。「日本に持って帰りたいならちゃんとパッキングもしますよ」とペルシネット氏がニッコリと笑った。
Spring Street Grocer
http://www.springstreetgrocer.com.au/
Holy Goat Cheese
http://holygoatcheese.com/
Ganache(ガナッシュ)
「ところでチョコレートはお好きですか?」と甘くほほ笑むカンピオン氏がつぎに寄ったのがGanache。メルボルンを代表するショコラティエ、アルノー・バックス氏のショップ兼カフェである。愛らしい雰囲気の店内には、トリュフからチョコバー、マカロン、ケーキなど数百種類のアイテムが、甘い匂いを漂わせて蠱惑(こわく)的に出迎える。奥にはカフェコーナーがあり、若い女性客にまじって、好みのケーキと名物のホットチョコレートがテーブルに来るのをじっと待つ男性客の姿もあって微笑ましい。
バックス氏の作るチョコレートやケーキの特徴は、うつくしいアート性と地元の素材を使った奥行きのある味にある。たとえば人気の高いソルトキャラメルのトリュフには、地元産のピンクソルトを使用。彼は地元の若手を育てることにも積極的で、チョコレートをつくるテクニックに留まらず、ビジネスのノウハウも含めてスタッフを熱心に指導している。また、市内でハチミツづくりをおこなうほか、一般向けのクラスもおこなうなど幅広いビジネスマインドをもっている。キュートなパッケージに入ったチョコは、メルボルン土産に最適。チョコレートマニアならまず行っておきたい一軒だろう。
Ganache
http://www.ganache.com.au/
Page03. めくるめく隠れグルメスポットが待ち受けるレーンウェイ&アーケード
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Spin Off ビクトリア州 メルボルン(3)
めくるめく隠れグルメスポットが待ち受けるレーンウェイ&アーケード
カンピオン氏のフードツアーは原則、電車やトラム、徒歩でめぐる。それはまた、メルボルンの街を知る絶好の機会でもある。
メルボルン市内は碁盤の目のように正方形に広がり、そこに19世紀の開拓時代のクラシックな建物と近代的なハイライズが重なる。道路にはトラムが走り、これは市内中心部にかぎり無料。古さとあたらしさが共存するメルボルンの魅力は、歩いてこそ見えてくるようだ。そして、それぞれのメインストリートを密やかにつなぐのが路地(レーンウェイ)。ここにメルボルンの魅力が凝縮している。
ちょうどランチタイムにかかるときで、レーンウェイにひしめくカフェやテイクアウェイのサンドイッチや、パイのスタンドにも徐々に人だかりが。路面のオープンエアのテーブルには、ブランケットや暖房器が備わり、冬でも大盛況。路にあふれるシズル感が食欲を刺激し、メルボルンの躍動感を伝えてくる。
また、メルボルンのもうひとつの楽しみはアーケード。モザイクタイル、ステンドグラスの装飾などのエレガントな内装と、レーンウェイよりも高級感にあふれたブティックやカフェ、ショップなどがきらびやかに並んでいる。カンピオン氏お勧めのThe Block Arcadeは、120年以上の歴史をもつショッピングスポットとして有名な街のアイコン。うつくしいアーケードには、オーストラリアのネイティブハーブや岩塩をはじめ、世界中のスパイスを集めた専門店Gewürzhausや、ハイティーで有名な行列のできる店Hopetoun Tea Roomsがある。
ランチタイムということで我われも食事タイムに。本来ならばレーンウェイのカフェあたりを選ぶところだが、すでにそこでの食事は体験ずみの私のことを考えてカンピオン氏が選んでくれたのが、あたらしく誕生したショッピングセンターEmporium Melbourne内のフードコート。ここはエスニックなレストランが中心で、ヘルシー志向とのこと。
なかでもカンピオン氏のイチオシは、人気ベトナムレストランのPho Nom。ほかにはラーメンもあるが、寿司やジュースバーなど、たしかにヘルスコンシャスな店が多い。我われが選んだのは、クリスピーポークとグリルドレモンチキンの生春巻き。隣ではカップルが、音を立てず華麗にフォーを味わっている。メルボルンはベトナム人街もあるほどベトナム人が多く暮らす街で、クオリティの高いベトナム料理が味わえることで知られる。ここも気軽に楽しめるカジュアルな店構えだが、味はたしかであった。
The Block Arcade(ザ・ブロック・アーケード)
http://theblock.com.au/
Gewürzhaus(ゲヴェルツハウス)
http://www.gewurzhaus.com.au/
Hopetoun Tea Rooms(ホープトウン・ティー・ルームス)
http://www.hopetountearooms.com.au/
Emporium Melbourne(エンポリウム・メルボルン)
http://www.emporiummelbourne.com.au/Articles/Gourmet-without-the-guilt/
Pho Nom(フォー・ノム)
http://www.phonom.com.au/
Page04. 賛否両論? クールジャパンを感じさせるカリスマシェフの新規店へ
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Spin Off ビクトリア州 メルボルン(4)
賛否両論? クールジャパンを感じさせるカリスマシェフの新規店へ
フードツアーのハイライトは「Cumulus, Cutler & Co,」「Builders Arms,」「Moon Under Water」といった話題のレストランを数多く手がけるメルボルンのカリスマシェフ兼レストランオーナー、アンドリュー・マコンネル氏の新規店Super Normal。
白木のシンプルなロングテーブルとカウンターだけで構成された空間には、意表をつかれた。いたるところに古い日本のかき氷器や盆栽などが配され、マコンネル氏が相当な日本好きであることがわかる。聞けば、上海、香港、ソウル、そして東京のフードカルチャーにインスパイアされた店とのこと。たしかにメニューにもそれが反映されている。
あたらしいレストランだが、実はメルボルン在住の日本人のあいだでは評価が二分している。私もかなりのキワモノを想像していた。しかし、出てきた名物料理「Duck Bao - Twice cooked duck」を味わってみて、そのおもいは一瞬にして吹き飛んでしまった。
ダークブラウンにこんがりと揚げたダック(アヒル)は、ストイックなまでにシンプル。横にはプラムソースと輪切りのキュウリ、ほっかりと湯気をたてるバンズ。そのダックをスプーンとフォークでほぐし、解体。それをバンズにはさみ、キュウリとプラムソースをかけて一気にかぶりつく。
ジューシーな肉と香ばしい皮、そしてさわやかな酸味のソースとキュウリのシャッキリとしたテクスチャー。北京ダックのようでもあるけれど、それとも異なるひねりの効いた合わせ技が味蕾を覚醒させる。これには脱帽。さすがはメルボルンでトップクラスのレストランを手がけてきたシェフだ。これを食べるためだけに訪れても後悔しないだろう。
ルーフトップバーとウィスキーがナイトライフのトレンド
ツアーの最後はナイトライフのちら見。ということで、メルボルンで流行のルーフトップバーのひとつGoldilocksへ。場所はなんとチャイナタウンのど真ん中。しかも、1階にある直通エレベータは、チャイニーズレストランのなかというユニークさ。まずひとりではたどり着けない。ルーフトップは4階の店内から、さらに階段を昇った上にあり、メルボルンの高層ビル群に囲まれた空間。
12月から2月(南半球の夏)にかけては、最高のロケーションだ。フレッシュフルーツを使ったオリジナルカクテルを取り揃えていて、女性客も多いという。
さらに姉妹店にあたるのがEau de Vie。こちらはガラリと変わって、スコッチやウィスキーなどヘビーリカーが中心のバー。オーストラリアでも人気が高まってきているそうで、日本のウィスキーなども充実している。
ツアーの最後をカンピオン氏はこう締めくくった。
「メルボルンの食は本当に多様です。しかもリーズナブル。もちろん高級レストランも多いけれど、ちゃんと選べば適正なプライスで上質、しかもバリエーションに富んだ食事を楽しむことができます。そして日本食をリスペクトしているシェフが多いのも特徴です。日本とおなじような季節感があるメルボルンは、風土・食環境の面でも近しいものを感じます。ぜひ、メルボルンでそれを体感してください」
メルボルンの最先端のグルメシーンを体感したあとだけに、その言葉には説得力があった。
Supernormal(スーパーナチュラル)
http://www.supernormal.net.au/
Goldilocks(ゴールディロックス)
http://www.goldilocksbar.com.au/
Eau de Vie(オー・デュ・ビー)
http://eaudevie.com.au/melbourne/
<取材協力>
オーストラリア政府観光局 http://www.australia.com
ビクトリア州政府観光局 http://jp.visitmelbourne.com