ラ・メゾン・デュ・ショコラが手がけた至極の野菜スイーツ「エスプリ サレ」|INTERVIEW
LOUNGE / EAT
2015年6月17日

ラ・メゾン・デュ・ショコラが手がけた至極の野菜スイーツ「エスプリ サレ」|INTERVIEW

INTERVIEW|セップ茸やタマネギを使った至極の野菜スイーツ

ニコラ・クロワゾーが切り開く、チョコレートのあらたな境地(1)

“ガナッシュの魔術師”と称えられた「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」の創始者、ロベール・ランクス氏。フレッシュなミントハーブの風味を見事に封じ込めた風味付けガナッシュ「ザゴラ」など、独創的かつ繊細な味わいのチョコレートは、フランスのみならず世界中の人びとを魅了した。そのランクス氏の意思をいまに伝えるのが、2012年にシェフ・パティシエ・ショコラティエに就任したニコラ・クロワゾー氏。この夏、彼が送り出す新コレクション「エスプリ サレ」は、野菜とチョコレートを組み合わせたメゾンのパイオニア精神を感じさせる逸品。クリエイションの源を探るため、クロワゾー氏を直撃した。

Interview & Text by TANAKA Junko (OPENERS)

チョコレートの可能性を大きく広げる野菜マジック

「野菜にはずっと前から興味をもっていました。2005年にM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)の審査で『チョコレートの前菜』を作ったのが、私にとって最初の“野菜スイーツ”ということになるでしょうか。そのときはパプリカとフェンネル(ういきょう)を使用しましたね」

ニコラ・クロワゾー氏が夢見る菜園には、いつもチョコレートがあったという。それはスイーツとしてではなく、ひとつの料理としてチョコレートを表現したいという願望があったからかもしれない。けれど、一般的にチョコレートと野菜というと、どこか不釣り合いなカップルを想像してしまいがち。

長年の夢を叶えるためにクロワゾー氏は考えた。「どうしたらチョコレートの可能性を大きく広げるような味わいが実現できるだろう」と。そうしてひらめいたのが、季節の味わいを自由自在にチョコレートにまとわせること。チョコレートはそのときどきの旬に左右されないため、夏の味わいも、秋の味わいも、良質なものであれば難なく身にまとうことができるのだ。

INTERVIEW|ニコラ・クロワゾーが切り開く、チョコレートのあらたな境地

ニコラ・クロワゾー氏

クロワゾー氏は、独自の方法でパプリカのまろやかさや、セップ茸の芳醇な香り、タマネギの甘みを引き出し、さまざまな風味の織りなす世界を創出した。さらに、多彩で複雑な感覚をもたらす塩のアクセントや破壊的なノート、味の強弱、ダークとミルクチョコレートの使い分けによって、チョコレート本来の味わいは一層豊かなものになる。

「これまでのレシピは通用しないので、考え方を少し変えました。チョコレートを“調理”したんです。今回のために採用したテクニックがいくつかあって、タマネギを煎じて香味を抽出したり、バルサミコ酢とイチジク、オリーブオイルとオリーブは液体に漬け込むことで風味をつけたり、ドライセップ茸を水に戻したり、そしてパプリカはピュレにしたものを煮詰めて濃縮したりといった具合に。浸漬法(液体に漬け込むことで風味をつけるテクニック)や乾物を戻す方法は、料理の世界ではよく使われますが、私にとってはまったくあたらしい体験でした」

かくして用意されたコース料理「エスプリ サレ」は全部で5つ。コンポートにした赤パプリカのまろやかなうまみを生かした、フルーツと野菜の合いの子のような味わいが特徴のダークガナッシュ「ガナッシュ ポワヴロン ルージュ」。森の香りを漂わせるセップ茸とバターのようになめらかなヘーゼルナッツプラリネとが絶妙なハーモニーを奏でる「プラリネ ノワゼット オ セップ」。

タマネギの甘酸っぱい風味と、バルサミコ酢に漬けてキャラメリゼしたイチジクを組み合わせた「ガナッシュ オニオン キャラメリゼ」。オリーブオイルの上品なノートにはじまり、細かく刻んだ黒オリーブとナッツの濃厚なプラリネで幕を閉じる「プラリネ オリーヴ ノアール」。そして唯一、海からやってきたゲストが、カカオの力強い香りを包み込むようなゲランド塩の余韻が心地良い「ガナッシュ セル ドゥ ゲランド」である。

クロワゾー氏、最良の材料を手に入れるべくフランス全土を駆け巡る

INTERVIEW|セップ茸やタマネギを使った至極の野菜スイーツ

ニコラ・クロワゾーが切り開く、チョコレートのあらたな境地(2)

クロワゾー氏、最良の材料を手に入れるべくフランス全土を駆け巡る

「一番苦労したのはセップ茸を使った『プラリネ ノワゼット オ セップ』のレシピです。基本的にプラリネを作るときは水を使わないのですが、これは乾燥したセップ茸を水に戻さなくてはいけなかった。そこでセップ茸を戻すために必要なバターの量を(水分量を含めて)研究して、プラリネのフォンダン部分(なめらかなクリーム状の部分)を崩さないように工夫しました」

エスプリ サレは、なんといってもこれまでの“野菜スイーツ”のイメージを覆す素材使いが新鮮だ。さらに驚くのが、わずか4グラムのチョコレートをひと口食べただけで、それぞれの素材の個性(香りや風味)が口のなかに一気に押し寄せること。カカオに負けない“強さ”をもった野菜がなかから顔を出すのだ。

「エスプリ サレの『サレ』とは塩味という意味。味にかんしていろいろな組み合わせの可能性を探っていたとき、塩味の利いたしょっぱいチョコレートというのはとても魅力的に映ったんです。自分好みのバランスに辿り着くまで、20種類以上の野菜は試しましたね。

そこで気づいたのが、なかにはチョコレートの味を引き出せない野菜もあるということ。たとえばニンジン。それからニンニクはチョコレートの味わいを壊してしまいますし、ビートルート(ビーツの根)は土っぽい味がします。最初のチャレンジは、チョコレートの風味を歪ませることなく、味を引き出すことのできる野菜を探すことでした」

INTERVIEW|ニコラ・クロワゾーが切り開く、チョコレートのあらたな境地

クロワゾー氏は最良の材料を手に入れるべく、フランス全土を駆け巡った。タマネギは北フランスのもの。甘いパプリカとエスペレット唐辛子を探して、南西部のランドにまで足を運んだ。セップ茸はフランスの中心部、ロットで見つけたものだ。若いセップ茸がもつヘーゼルナッツのような香りを求めて、早めに収穫したものを使用しているという。黒オリーブとオリーブオイルは南仏プロバンス地方で採れたベルゲット種。11月から12月ごろ、収穫が終わりを迎える時期まで待ったのは、よく熟れた状態のベルゲット種がもつアーモンドのような香りを求めてのことだそうだ。

そしてすべてのレシピに使われた塩は、透明感のあるエレガントなノートが光る大西洋産のゲランド塩。エスプリ サレで野菜の魅力を再発見したという人は、彼の野菜選びのポイントを参考にしてみてはいかがだろう。

「セップ茸とオリーブを選ぶ上でもっとも重視したのは熟成度です。もちろん使うものによって、どの段階を選ぶかは変わってきます。今回はそれぞれ求める香りによって、セップ茸は早めに収穫した若い状態のもの、オリーブはよく熟しているものを選びました。パプリカとタマネギにかんしては、チョコレートと合わさったときにも、味の特徴が消えてしまわないような個性の強い品種を見つけ出すのに苦心しましたね」

最後に少しイジワルな質問をぶつけてみた。5種類のエスプリ サレのなかで、もしひとつだけ個人的なお気に入りを選ぶとしたら?

「一番のお気に入りは『プラリネ ノワゼット オ セップ』の珍しいウッディーな香りです。だけど『ガナッシュ オニオン キャラメリゼ』の独特な甘酸っぱさも捨てがたい。うーん、ひとつだけ選ぶのは難しいですね(笑)」

エスプリ サレ
価格|15粒入り 3780円
フレーバー|チョコレートと野菜を合わせた5つのレシピ(ガナッシュ ポワヴロン ルージュ、プラリネ ノワゼット オ セップ、ガナッシュ セル ドゥ ゲランド、ガナッシュ オニオン キャラメリゼ、プラリネ オリーヴ ノアール
販売店舗|丸の内店、青山店、松屋銀座店、六本木ヒルズ店、梅田阪急店、オンラインブティック

ラ・メゾン・デュ・ショコラ 丸の内店
Tel. 03-3201-6006
http://www.lamaisonduchocolat.co.jp

           
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