日産GT-R50 by Italdesignに試乗──日伊の自動車史を駆る愉しみ
CAR / IMPRESSION
2021年4月28日

日産GT-R50 by Italdesignに試乗──日伊の自動車史を駆る愉しみ

コンセプトカーで鍛えた職人技

2021年2月下旬、イタルデザイン本社を訪れると、日産GT-R50 by Italdesignのプロジェクトリーダー、アンドレア・ポルタ氏が出迎えてくれた。
まずはポルタ氏に製作のプロセスについて聞く。
「日産の栃木工場から運ばれたGT-R NISMOは、ここイタルデザイン本社で丁寧に分解されます」
そして限りなくホワイトボディ状態となったボディにさまざまな作業を行う。一旦ルーフを取り去ってからピラーを切断してグリーンハウスを下げるのも、そうした作業のひとつだ。
同じイタリアの外部サプライヤー「マイクロテックス」から供給されるカーボンパネルは、地肌を見せる部分はそのままに、それ以外の部分はフィルムを貼ったうえで丹念に塗装する。スチール部分は、プロトタイプ製作で鍛えた熟練職人が手叩きで加工していく。
スカイライン時代からの意匠を現代風に解釈したテールランプは、イタルデザインの灯火機器部門による手作業でつくられる。それをボディの裏で支えるワイヤーハーネスは、GT-Rのものを緻密に延長して仕上げる。
それらの作業をイタルデザインの本社工場ともうひとつの拠点を往復しながら1台あたり6〜8カ月かけて仕上げてゆく。
その市販版テストカーと対面する。
「スカイライン」と「GT-R」はまったく別の道を辿って久しいことは知りつつも、かつて東京で時折見かけたスカイライン版GT-Rが、ここまで立派になったとは。ショッピングモールの青空ステージで歌っていたアイドルがブレイクして世界進出してしまったような、嬉しさと戸惑いが交錯する。
バンパーひとつとっても、そのパーツ点数と精緻を極めた造型に恐れ入る。全高はベース車両と比較して54mm低いが、室内で狭さを感じることはない。
その高スペックとは裏腹に、スタートボタンをプッシュすると、720psエンジンには何の不機嫌を起こすことなく火が入った。野太い、しかしけっして耳障りではないアイドリング音が室内に響く。
後方のラゲッジスペースは、リアスポイラーの専有面積があるので、事実上サイドに回り込んで荷物を積み込むほうが楽である。
そのリアスポイラーは30km/hを境に自動で上昇・下降するが、センターコンソール上のスイッチでマニュアル操作することも可能だ。イタルデザインのスタッフが「アミーコ(友達)に披露することも可能ですよ」と微笑んだ。たしかに油圧による作動音は、たとえアミーコがいなくても上下動させてみたくなる、興奮を伴うものである。
ベース車両の開発コンセプトであるから繰り返す必要はないかもしれないが、市街地でのクルージングでは、シーケンシャルATのシフトタイミング、ブレーキのフィール、パワーステアリングのアシストいずれも、神経を逆撫でされるようなことは皆無だ。
「スーパーマーケットに行けます!」というポルタ氏の言葉は、あながち嘘ではない。
敢えていえば、斜め後方の視界がかなり限定的であるが、頼れるパッセンジャーを乗せていれば克服できそうだ。
3000rpmあたりからのキャラクターの豹変ぶりは感動的である。それでも電子制御トルクスプリットAWDシステム「ATTESA E-TS」のトルク配分は常に冷静で、少なくとも一般道でドライバーを慌てさせるような場面はない。
低くスタイリッシュに構えたフロントスポイラーを擦らないよう気をつければ、その安心感からサンモリッツあたりのウィンター・リゾートにさえ連れ出したい誘惑に駆られる。
イタルデザインといえば1990年代初頭、同社がコンセプトカーから派生させて極めて少量を生産した「アズテック」に同乗試乗したことがあった。その時代から剛性感は充分確保されていたが、格段に向上していることに驚く。モックアップで済ませられるコンセプトカーを、あえて数々の実走モデルとして実現してきたイタルデザインの手腕が光っている。
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