試乗、新型ボクスター スパイダー|Porsche
Porsche Boxster Spyder|ポルシェ ボクスター スパイダー
試乗、新型ボクスター スパイダー
ポルシェ「ボクスター(981型)」をベースに、よりスポーツ走行に特化させた「ボクスター スパイダー」を河村康彦氏が試乗。徹底した軽量化をほどし、よりパワフルになったパワーユニットを搭載したボクスターの乗り味とは。その魅力に迫った。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
5年半ぶりのモデルチェンジ
オープン状態こそが本来の姿――そんな考え方に基づいて、まずはパワー開閉機構を省略した軽量志向の、あたらしいデザインによるソフトトップを採用。さらに、リアウインドウを樹脂化したり遮音材を削減するなどで軽量化を徹底しつつ、「シリーズ中で最軽量」が謳われるそんなボディに、より強力なエンジンを搭載。
くわえて、サスペンションなどにも専用のチューニングをほどこすことで、もっともスポーツ志向の強いモデルへと仕立てて行く――それが、現行ボクスターでもっともあたらしく、同時にポルシェ自身によって「シリーズの頂点に立つ」とも表現をされる、「ボクスター スパイダー」の基本的なクルマづくりのスタンスだ。
このグレード名が与えられたボクスターは、実はこれで2代目。先代は2009年末の登場だから、今年春にワールドプレミアがおこなわれたこの新型は、「5年半ぶりにモデルチェンジをおこなったスパイダー」ということになる。
そんなあたらしいスパイダーのたたずまいは、なるほどオリジナルのボクスターよりもさらにスポーティで、ダイナミズムに富んだ雰囲気。
リアエンドの両端が後方へと引かれた専用デザインのソフトトップに、エンジン部分とリアのトランク部分を一体で覆う2つのバルジ(膨らみ)付きの大きなアルミニウム製リッドという組み合わせは、従来型の特徴を受け継いだいまや“スパイダーならではのアイコン”だ。
同時に、ひと足先にデビューを果たした「ケイマン GT4」と共通デザインの、フロントエアダム部分の大きな開口部やフード先端部分のエアアウトレットも、オリジナルモデルとは一線を画すよりホットなバージョンならではの迫力ある姿を表現する。
やはり軽量化への意識から、ベース車両の電動リトラクタブル式に対して固定式とされたリアのスポイラーが、小さいながらもややそそり立ったいわゆる“ダックテール”形状を見せるのは、「より強いダウンフォースを発生させるに至ったフロント側と、バランスを取るためのリファイン」と言うのが担当エンジニア氏による説明。
日本ではその“恩恵”に預かれる場面は皆無となりそうだが、これまで「200km/hまで」とされていたルーフ閉じ時の推奨速度が「最高速の290km/hまで制限ナシ」と改められたのも、構造の進化と共に空力性能の向上をも連想させるフレーズだ。
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試乗、新型ボクスター スパイダー (2)
スーパースポーツカー級の速さ
前述「より強力なエンジン」の出典元は、ケイマン GT4に前例が見られる「911 カレラS」用の3.8リッターユニット。これまでボクスター シリーズで最強だった「GTS」グレード用3.4リッターユニットに替え、こうした心臓を搭載した結果は、当然ながら大幅なパワーとトルクの上乗せだ。
ミッドシップ レンジ内での微妙な格付けが考えられてか、そのスペックは最高出力のみがケイマン GT4用よりも10psのダウン。それでも、GTSに比べると最高出力は45psもの上乗せで、420Nmという最大トルク値も一挙に50Nmのアップ。結果として、ウエイト/パワーレシオはわずかに3.5kg/psという値を示している。
組み合わされるトランスミッションはケイマンGT4同様6段MTに限定され、特にここは日本市場では"乗り手を選ぶ"大きなポイントとなってしまいそう。それでも、0-100km/h加速は4.5秒だから、これはもはや紛れもなく、スーパースポーツカー級の速さの持ち主ということになるわけだ。
実際その動力性能は、どうやっても「文句の付けようなどないもの」というのが実感。街乗りシーンでマメなシフト操作をさぼり、エンジン回転数が思いのほか落ちてしまっても、そこは"大排気量"がカバーして太いトルクにより瞬くまに速度を回復させる。
いっぽうで、エンジン回転数が高まればそこは生粋の"スポーツ心臓"ならではのシャープさと、パワフルさに感動させられる。興味深いのは、排気系のレイアウトはケイマン GT4と同様であるはずなのに、「よりサウンドが重視をされるオープンモデルゆえ、こちらではケイマン GT4とは異なる専用のチューニングをほどこした」という"スポーツプラス モードでの排気音が、アクセルOFF時に派手なアフターファイア的破裂音を交える"専用音"であったりする点だ。
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911 カレラSからの贈り物
大幅に強化をされたエンジン出力に対応をしながら、よりストイックなオープンスポーツカーを目指して、昨今のポルシェ車には標準で用いられる事例が多い電子制御式の可変減衰力ダンパー"PASM"を敢えて採用していないサスペンションは、特に60km/h程度までの低い速度域を中心に、かなりかための設定という印象。
ただし、それ以上に速度が高まると確実にフラット感が上乗せされるし、そもそもボクスターのボディがオープンモデルとしては比類なく高い剛性感の持ち主ゆえ、入力した振動はたちどころに減衰され、すこぶるドライなテイスト。この手のモデルを敢えて選択しようというスポーツ派ドライバーからは、「ハードに過ぎる」という感想はまず聞かれないにちがいない。
ちなみに、そうしたサスペンションのセッティングは、「GTS用のスペックをベースに、シューズサイズのちがいなどを考慮してアレンジしたもの」という。GTSとスパイダーではタイヤサイズそのものは同一ながら、前後共にリム幅が1サイズ拡大された20インチのホイールを装着するのだ。
そんなスポーティな足回りにくわえ、こちらは「911ターボ用をベースとした」という、中立付近で"速い動き"を実現させる可変ギア比のステアリングが採用されたことで、フットワーク全般は、いかにもミッドシップモデルらしい敏捷さと低重心感覚に溢れる、"余分なボディの動きの小ささ"が印象的。
他のグレードと同様、強力無比な効きで定評あるセラミック コンポジットブレーキ"PCCB"がオプション設定されるものの、今回テストドライブをおこなったモデルは標準仕様。
が、それでもことのほか逞しい効き味と、剛性感溢れるペダルタッチを味わうことが出来たのは、実は"気のせい"ではない。ボクスタースパイダーのブレーキシステムには、そのキャリパーとローターに、やはり「911 カレラSからの贈り物」が奢られているのだ。
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ボクスターらしいボクスター
もっともスパルタンでスポーティ――まさにそうしたフレーズで紹介をするのがふさわしいボクスターが、このスパイダー。「ポルシェ」が生粋のスポーツカーブランドであることからすれぱ、「これこそが、もっとも"ボクスターらしいボクスター"」と、そう受け取る人も少なくないだろう。
いっぽうでそれは、3.8リッターのエンジンを筆頭にランニングコンポーネンツを共有するケイマン GT4ほどには、"サーキットを目指してはいない"という点にもまた注目だ。
確かに軽量化が推進されたものの、それは快適性を大きく損なうほどに、顕著に攻めたものではない。エアコンは標準状態では装着されないが、希望があれば無償で用意をされるし、従来型では一部が脱着&巻き取り式の構造でその操作に大いに難儀したソフトトップは、新型では"フルモデルチェンジ"が図られ、その操作が画期的に簡単になったというニュースもあるのだ。
すなわち、例えオリジナルのモデルと直接比較をしても、さほどの我慢や不便さを強いられることなく、よりストイックでパワフルなオープンエア モータリングを堪能することができるのがこのスパイダー。確かにそれは、シリーズ中にあって唯一1,000万円の大台を超えるボクスターではある。
が、「基本はおなじ」3.8リッターの心臓を搭載する「911 カレラS カブリオレ」の価格が1,800万円超であることを知れば、それが"お買い得"と表現をしてもあながち的外れに当たらない内容の持ち主であることは、多くの人が納得をしてくれるはずだ。
Porsche Boxster Spyder|ポルシェ ボクスター スパイダー
ボディサイズ|全長 4,414 × 全幅 1,801 × 全高 1,262 mm
ホイールベース|2,475 mm
エンジン|3,799 cc 水平対向6気筒 直噴DOHC
最高出力|276 kW(375 ps)/6,700 rpm
最大トルク|420 Nm/ 4,750 - 6,000 rpm
圧縮比|12.5
トランスミッション|6段MT
駆動方式|MR
0-100km/h加速|4.5秒
最高速度|290 km/h
燃費(NEDC)|9.9 ℓ/100km(およそ10.1km/ℓ)
ハンドル位置|左/右
価格|1,012万円
ポルシェ カスタマーケアセンター
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