試乗、ポルシェ ケイマン GT4|Porsche
Porsche Cayman GT4│ポルシェ ケイマン GT4
試乗、ポルシェ ケイマン GT4
「GT3」や「GT2」など、これまで「911」シリーズのなかでもっとも辛口な仕様モデルに与えられてきた伝統の名称が、今回はじめて「ケイマン」に採用された。「911 カレラS」とおなじ3.8リッターフラット6エンジンをミッドシップに積み、MTのみが与えられた「ケイマン GT4」、その仕上がりは如何に。ユーラシア大陸最西端の地ポルトガルから、河村康彦氏がインプレッションをお届けする。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
ミッドシップレンジにも"解禁"
エントリーレベルのGTモデル――本来であれば、オイルやタイヤの香りが漂うであろうパドックを小奇麗に改装した特設スペース。そこでおこなわれたプレゼンテーションで、サーキットを主な舞台としたポルトガルでの国際試乗会に現れた開発担当のエンジニア氏は、このモデルのキャラクターをまずそのように表現した。
ちなみにここで言うところの"GT"には、フォルクスワーゲン車における「GTI」と同様、このところのポルシェが車種バリエーションを縦断してひとつのブランド化を企てる、スポーツ性とともにデイリーユースでの快適性なども重要視した「GTS」は除かれている。
そう、該当するのは「GT3」や「GT2」など、これまで「911」シリーズに設定されて来た飛び切りスポーティでハードコアな"役付きモデル"。それをミッドシップレンジへと下方展開し、前出911のGT系からすれば破格の安さを実現させたことも、冒頭の紹介フレーズが指し示すひとつのポイントであるはずだ。
シリーズの頂点に位置するモデルとして、今年春のシュネーブモーターショーで披露をされた「ケイマン GT4」。その見どころは、よりスポーティなセットアップのシャシーにさらにパワフルなエンジンを組み合わせたハードウェア部分はもちろんのこと、見方によっては「兄貴分である911をも凌ぎかねない」ハイパフォーマンスなバージョンを、ミッドシップレンジにも"解禁"したという、マーケティング部分にもあると考えられるのだ。
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試乗、ポルシェ ケイマン GT4 (2)
ミッドシップレンジにも"解禁"
GT4が、これまでのケイマン ラインナップとは一線を画したパフォーマンスの持ち主であること。それは、"見る人"が目にすればその佇まいからも一目瞭然にちがいない。
「911 GT3」などの場合と同様、バイザッハ研究所に属するモータースポーツ部門が手掛けたというシャシー/サスペンションは、「多くのコンポーネンツをGT3から流用」としながら、オリジナル ケイマンに対して30mmローダウンの設定。そこに履くのはフロントが245mm、リアが295mm幅と特にリア側の太さが目立つファットな20インチのシューズだから、これだけでも固有の迫力がじゅうぶん醸し出される。
さらに、そのハードコアなイメージを決定付けるのが、冷却効果とダウンフォース向上の双方を念頭にデザインされた、専用のエアロパーツ類。低く前方に伸びたフロントのリップスポイラーと、アルミ製ブラケットに支えられたリアの固定式スポイラー。さらには、フード前方のエアアウトレットと、ドア後方のインテーク部にくわえられたサイドブレードは、このモデルの走りのパフォーマンスを視覚上で印象付ける最大のポイント。
サーキット走行時に限っては、フロントアクスル用のディフューザーチャンネルを覆うインサートを取り外した上でリアスポイラー角も調整することにより、より大きなダウンフォースを得る事も可能になるという。
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ミッドシップレンジにも"解禁"
いっぽう、軽量化を連想させるベルト式のドアオープナーがそのキャラクターを象徴するインテリアでは、「クラブスポーツ パッケージ」が設定されるのがGT4ならでは。リアロールケージ、消火器、ドライバー席の6点シートベルトから成るこれらにくわえ、競技用パーツとしてモータースポーツ部門から供給されるフロントロールケージを備えることで、ドイツモータースポーツ連盟によるイベント向け規定がクリアされることになると紹介される。
そんなケイマンGT4に、6段MTとの組み合わせ限定で搭載されるのは、「911 カレラS」から譲り受けた3.8リッターのフラット6エンジン。最高385psという出力と420Nmの最大トルクは、カレラS用と比べ15psと20Nmのマイナス。911系とはパワーパックの搭載方向が逆になり、主に排気系の取り回しが制約を受けるのがその要因とされるが、昨今のポルシェ社の戦略を見ていると、911系とミッドシップ系とのヒエラルキーを堅持するという販売戦略上の可能性も否定はできない。
トランスミッションはギア比を含め、既存のケイマンS、ケイマンGTSグレード用と同一ユニット。ただし、高出力化に対応してエンジンとの接合フランジ部分には強化が図られているという。
その操作フィーリングがより硬く、重く感じられたのは「シフトレバー長を20mm短縮した」という点に起因するはず。絶対的なスピード性能を追求した結果、PDK仕様のみとされた911 GT3に対し、こちらが逆にMT限定であるのは、「対応するPDKを同時開発するためにはマンパワーが足りなかったため」というのが開発陣からの(正直な)回答だ。
ただしこうなると、現状で4.4秒という0-100km/h加速タイムと7分40秒というニュルブルクリンク旧コースのラップタイムは、PDK仕様があれば共により短縮される理屈となる。ちなみに、911 カレラSクーペの0-100km/h加速タイムは、7段MT仕様が4.5秒でPDK仕様が4.3秒。
ニュルのラップタイムは「"走りのオプション"をフル装備状態で7分40秒」というデータが発表されているから、仮にケイマン GT4にPDK仕様が現れた場合、まさにそこでは"下克上"が実現する可能性が大きい。
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ミッドシップレンジにも"解禁"
前述のように、ケイマンS/GTSに比べて少々大きな操作力を要するシフトで1速ギアをセレクトし、こちらは既存モデルと変わることのない操作感のクラッチを静かにミート。アクセルペダルをさして深く踏み込む必要もなく、その瞬間からさらなる力強さで美しいクーペのボディが加速されるのは、より強力な心臓をS/GTSグレードと20kgほどしか変わらない重量に組み合わせるという、スペックからも想像ができるとおり。
興味深いのは、背後から耳に届くサウンドが"派手な演出"が図られたGTSよりもむしろ大人しく、そして"出典元"の911 カレラSのそれとは微妙にことなった「ケイマンの音」とおもえる点。911とはマウント方向が前後逆向きとなったことで、耳に近いノイズの発生源がことなるパーツとなることが成せる技かも知れない。
かくして、3.8リッターユニットがもたらす加速は、もちろん強力そのもの。同時に、レッドラインの引かれた7,600rpmまで小気味良く伸びる高回転・高出力型特性の持ち主であるのも確かだが、その裏で「欲をいえば、回転が高まるほどに増す切れ味感がもう少し欲しいかな――」と贅沢な気持ちも芽生えるのは、やはりどこかで911GT3用の心臓と比べてしまうからだろうか?
そうここばかりは、モータースポーツ部門による専用開発がおこなわれたGT3用の心臓に対し、"量販タイプ"のユニットをそのまま搭載したことによる差を感じてもしまう部分。もちろん、「だからこそGT4では"リーズナブルな価格"が実現できたのだ」と、頭では理解できているのだが――。
いっぽう、サーキット走行でのフットワークは、掛け値ナシで「ゴキゲンそのもの」という仕上がりだった。そもそも、ボディ剛性の高さも手伝ってオリジナルモデルでも正確なハンドリングと信頼に足るスタビリティが高いポイントで融合されているのがケイマン。
そうした素性の良さを生かしつつも、ハイグリップなコンパウンドを用いたファットなサイズのタイヤが生みだす入力の大きさに負けることなく、むしろより"位置決め精度"が増したとおもえるフットワークに、やはり911 GT3から譲り受けたという大容量のブレーキを組み合わせた結果は、なるほど「GT3に準じたサーキットへの適性」が実感できる仕上がりでもあるのだ。
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ミッドシップレンジにも"解禁"
ちなみに、頻繁なサーキット走行が考えられるユーザーに、是非とも推奨したいオプションアイテムが、セラミックコンポジットブレーキ「PCCB」。前述のように、より大容量化されたフロント/6ピストン、リア/4ピストン式のアルミモノブロックキャリパーを採用する標準システムも、S/GTSグレート用よりヘビーデューティな内容の持ち主。が、"PCCB"装着車はそれと比べても、明確な効きとタフネスぶりの高さを実感することができたからである。
ところで、そんなGT4で一般道へと乗り出してみると、その乗り味がシリーズ中でもっともハードなことはすぐに理解ができる。ローダウン化された上に低く前へと伸びたフロントトスポイラーを採用するゆえ、制約の強いアプローチアングルが気になるという場面も少なくない。サーキット走行に興味はあるが、まずは日常の街乗りシーンこそを重視するというユーザーには、ミッドシップモデルらしい軽快感ではより上回るという点も含め、むしろGTSグレードの方を強く推奨したくもなる。
いっぽうで、サーキットでのスピード性能の高さにこそ魅力を感じる純然たるスポーツ派ドライバーにとってみれば、多少強い上下Gは伝えられてもそうした振動は即座に減衰され、ドライな感覚の強いGT4の乗り味は全く苦痛とは映らないはず。
"走り"を追求した結果のそうしたスポーティな乗り味にくわえ、911 GT3からも"失われた"MTを操る楽しみもたっぷり堪能できるケイマンGT4は、これまで「ポルシェはやっぱりRR!」と、そんな信念を持ちつづけてきた911ファンにとっても、大いに気になるにちがいない。
Porsche Cayman GT4|ポルシェ ケイマン GT4
ボディサイズ│全長 4,438 × 全幅 1,817 × 全高 1,266 mm
ホイールベース│2,484 mm
エンジン│3,799 cc 水平対向6気筒 DOHC
最高出力│283 kW(385 ps)/7,400 rpm
最大トルク│420 Nm/4,750-6,000 rpm
トランスミッション│6段MT
駆動方式│MR
0-100km/h加速|4.4 秒
0-200km/h加速|14.5 秒
80-120km/h加速|5.5秒(5速)
最高速度|295 km/h
燃費(NEDC)|10.3ℓ/100km(およそ9.7km/ℓ)
ハンドル|右 / 左
トランク容量|(フロント)150リットル / (リア)275リットル
価格│1,064万円
ポルシェ カスタマー ケアセンター
0120-846-911