PEUGEOT 508|プジョー 508 新型セダン/SWに試乗
PEUGEOT 508|プジョー 508
老舗の技が冴える、あらたなるフラッグシップ(1)
プジョーから「407」の後継モデル「508」が誕生した。昨今のプジョー車とはことなり、吊り目が抑えられた、あたらしい顔だちも特徴だが、見直されたサスペンションをはじめ、実用性のある広いラゲッジルーム、高い乗り心地など、決して派手な装飾はほどこされていないものの、プレミアム感が随所に織り込まれた老舗の技を垣間見ることのできるクルマである。
文=森口将之写真=プジョー・シトロエン・ジャポン
コンセプトモデル「SR1」を踏襲する顔だち
昨年秋のパリ・モーターショーで発表されたプジョー508は、407の後継車である。3ケタ数字の最初が4から5に切り替わった先例としては、1960年代の404から504へのモデルチェンジがある。ただし今回はひと足先に、408というモデルが存在していたことが、508という数字の起用につながったとも言える。
つまりプジョーはDセグメントを2車種用意した。新興国向けに308のプラットフォーム2を用いた408と、先進国向けとして407とおなじプラットフォーム3を使った508だ。
それだけ新興国の需要が高まったのだろう。なかでも中国は、408と508の両車を売る唯一の市場になるとのことで、彼の地のマーケットの奥深さが理解できる。
508は車名の数字だけでなく、デザインも変わった。スペインのアルカンテで開催された国際試乗会で実車と対面すると、まずは顔つきのちがいが理解できた。407や408をふくめた従来のプジョー顔と比べ、ヘッドランプの吊り目は控えめになり、グリルは角張って、エンブレムの周囲の飾りが消えていた。
1年前、プジョーは会社創立200周年を記念して、ハイブリッドスポーツのコンセプトカーSR1を披露した。そのさい、このSR1が次世代のプジョー・デザインを提示していることをあきらかにした。508は、その顔をはじめて採用した市販車なのである。
サイドビューも407とはことなる。508は全長で101mm(セダン)/48mm(SW)、ホイールベースで92mm、407より長くなっているのだが、フロントオーバーハングは逆に43mm短くなったからだ。クーペのようにダイナミックだった407にくらべると、508のたたずまいには落ち着きが感じられる。406や405、505といった歴代ミドルクラス・プジョーの雰囲気をとりもどしたように見える。セダンの斜めのラインを入れたリアコンビランプは、かつての504クーペをモチーフにしているのだろう。原点回帰という言葉を連想させる造形だ。
ダウンサイジングによるV6の廃止
407はリアシートの狭さが数少ない欠点だったが、508ではホイールベース延長も貢献して、クラス相応のスペースを手にしている。前席の座り心地は固めだったが、後述するすばらしいサスペンションのおかげもあって、2~3時間乗りつづけたぐらいではまったく不満を覚えなかった。
クオリティがアップしたことも目につく。実用性重視の408があるからこそ、プレミアム性を追求できたのかもしれない。4ゾーンのオートエアコンが装備されるなど、アメニティのレベルも高水準だ。もちろん荷室容積も拡大されていて、セダンのトランクは407リットルから545リットルまで増え、SWで後席を畳むと1,865リットルのスペースが得られる。
ヨーロッパで用意されるエンジンは、ガソリンが1.6リッターの自然吸気とターボ、HDi(ディーゼルターボ)が1.6、2.0、2.2リッターというラインナップ。すべて4気筒で、407にはあったV6をガソリン/ディーゼルともに消滅させた。ダウンサイジングである。このなかから今年6月に日本に導入されるのは、RCZや3008にも積まれるガソリン1.6リッターターボで、6段ATが組み合わせられる。
PEUGEOT 508|プジョー 508
老舗の技が冴える、あらたなるフラッグシップ(2)
走る悦びをあたえてくれるサスペンションセッティング
試乗会では6段MTとのコンビでこの1.6リッターターボに乗ったが、同サイズのシトロエン C5を不満なく走らせるエンジンだけあって、高速道路や山道をふくめ、十分な加速をみせてくれた。2,000rpmという低回転からなだらかにトルクを立ち上げるターボらしからぬ特性も、扱いやすさにひと役買っている。
気になるのはエンジンのダウンサイジングに合わせ、サスペンション形式を見直していることだ。リアのマルチリンクは407そのままだが、フロントは2.2リッターHDiを積むGTグレードだけダブルウィッシュボーンを残し、それ以外はマクファーソンストラットに置き換えている。
その結果、前足だけで12kgの軽量化を達成し、ボディは大型化にもかかわらずセダンで25kg、SWでは45kgも軽くなったそうだが、形式的には格下げともとれる変更だけに、乗る前には懸念を抱いた。しかしアリカンテの街を抜け出し、高速道路を経由して山道に入るころには、不安はすっかり悦びに変わっていた。
“快感”とも言える乗り心地
ハンドリングが、サイズを忘れさせるほど軽快なのである。電動油圧式ならではのしっとりした手応えが好ましいパワーステアリングを切ると、軽く短くなったノーズがスッとインを向く。しかもストラットになっても伝統のネコ足は健在。ロードホールディングの高さは想像以上で、オーバーペースか!? と思ったコーナーも何事もなく抜けてしまう。
乗り心地もいい。街中を流すような速度でも、足をしっかりストロークさせてショックを吸収し、速度を上げるにつれフラット感がくわわっていく。ボディの重さとホイールベースの長さが味方して、上下の動きは207や308よりはるかに落ち着いている。快感という言葉を使いたくなるほど、心地いい時間を過ごすことができた。
試乗会ではHDiエンジン搭載車にも乗った。直線加速ではGTを名乗る2.2リッターが圧倒的だったが、身のこなしはエンジン重量が軽いガソリンに分がある。
2リッターをふくめて、粘り強いトルクを生かしてロングツアラーとして使うのが似合いそうだ。e-HDiと呼ばれるアイドリングストップを装備した1.6リッターは街中で乗っただけだが、ストップ&ゴーのレスポンスは満足できるレベルにあった。
派手なカタチや複雑なメカを奢ればいいクルマができるわけではない。そのことを、508をとおしてプジョーに教えられた。シンプルなエンジンとシャシーを用いながら、最上の乗り味を生み出してしまう老舗の技は、やはり一目置く存在であると再認識した。