4つのドアを持つ、ベントレーの愉悦|Bentley
CAR / FEATURES
2015年4月3日

4つのドアを持つ、ベントレーの愉悦|Bentley

Bentley|ベントレー
ショーファーサルーンで京都をめざす

4つのドアを持つ、ベントレーの愉悦

大阪の中心部にそびえる5つ星ホテルから、京都の奥座敷、嵐山・嵯峨野へ。ベントレーのプレステージ4ドアサルーン「フライングスパー」と「ミュルザンヌ」に乗り、至極のドライビングエクスペリエンスを愉しむ。

Text by TAKEDA Hiromi Photographs by HANAMURA Hidenori

その歴史はベントレーボーイズとともに

ベントレーは生粋のスポーツカーメーカーだ。しかし、それは自動車のヒストリーに詳しいカーマニアでもなければ、意外におもえることかもしれない。

1919年の創業直後から、ヴィンテージ期における世界最高位にランクされるスポーツカーを製作していたベントレー。1924年から1930年にかけて、裕福なアマチュアドライバー有志によって結成されたワークスチーム「ベントレーボーイズ」とともに、ル・マン24時間レースでは5回もの総合優勝を獲得したという歴史を持つ。

1930年のル・マンで優勝したベントレー

ベントレーを象徴するエンブレム“フライングB”

もちろん、それは過去の栄光に限った話ではない。21世紀に入ってル・マンへの復活を遂げ、2003年には「スピード8」とともに、実に73年ぶりとなるル・マン制覇を果たし、スポーツカーメーカーとしての魂はいまも連綿と生き続ける。そんな高貴な血統を受け継ぐ2ドアクーペ/コンバーチブルの「コンチネンタルGT」シリーズは、当代最高の全天候型超高速GTカーとして、いまや世界中のファンから絶大な支持を受けている。

しかしそのいっぽうで、ベントレーの本質はサルーン、つまりセダンにあるとも言える。特に1930年代以降には素晴らしいサルーンの数々を世に送り出し、スポーツマインドを持つ裕福なエンスージアストたちのもと「日常を楽しむためのベントレー」として愛好されてきた。

Bentley|ベントレー
ショーファーサルーンで京都をめざす

4つのドアを持つ、ベントレーの愉悦 (2)

サルーンがベントレーの“本流”である理由

ベントレーのサルーンと言えば、その正統性を物語る有名な逸話がある。1930年3月、「ベントレーボーイズ」を代表するひとりで、ル・マンでは3戦3勝(1928-29-30年)の偉業を果たしたウォルフ・バーナート大尉が、プライベート用の愛車としていたベントレー6 1/2リッター「スピードシックス」を駆って、当時フランスにて運行されていた花形寝台特急「トラン ブルー(ブルートレイン)」を相手に公道レースを敢行。南仏カンヌ-ロンドンRACクラブ間のルートを、実に約4時間もの大差をつけて快勝してみせたという、ベントレー ファンにとっては感涙モノのエピソードである。

一般的には、名門コーチビルダーの「ガーニー・ナッティング」社が、ベントレー6 1/2リッター「スピードシックス」のシャシーを使用し、ルーフ後方をなだらかにスロープさせた“ファストバック”スタイルで製作した魅力的なクーペが、「ブルートレイン クーペ」として認知されている。

ところがこの有名なクーペは、実はバーナート大尉がチャレンジの勝利を記念して製作させたもの。

1930 Bentley Blue Train at The Savoy|ベントレー ブルートレイン

バーナートが所有していたブルートレイン クーペ

実際にブルートレインとの対決に使用されたのは、おなじベントレー6 1/2リッターでも、荘重なデザインを持つ「H.J.マリナー」社製4ドアスポーツサルーンだった。つまり、ベントレー創生期を担った「ベントレーボーイズ」とて、重要なチャレンジのパートナーとしたのは4ドアサルーンだったのである。冒頭から話題が長々と脱線してしまったが、ベントレーにとって4ドアサルーンが、たしかな本流のひとつであることはご理解いただけるだろう。

さて、そろそろ話題を2015年に戻さねばなるまい。

現在のベントレーにおける4ドアサルーンのラインナップは「フライングスパー」と「ミュルザンヌ」。前者のフライングスパーは、コンチネンタルGTと基本コンポーネンツを共用する4WDサルーンで、4リッターV型8気筒ツインターボを搭載する「フライングスパー V8」と、6リッターW型12気筒ツインターボを搭載する「フライングスパー W12」の2グレードが展開されている。

Bentley Mulsanne

Bentley Flying Spur V8

いっぽう、往時のベントレーが大活躍したル・マン24時間レースのコース、サルト サーキットの名物ストレートに続く90度コーナーから名付けられた「ミュルザンヌ」は、2009年に初公開された当代最新のプレステージサルーン。

とはいえ、そのオリジンを遥か半世紀以上も前、1959年まで遡ることのできるV8 OHVユニットなど、古典的なテクノロジーを極限までソフィスティケートしたもので、スタンダードモデルのほかに高性能版の「ミュルザンヌ スピード」も設定されている。

Bentley|ベントレー
ショーファーサルーンで京都をめざす

4つのドアを持つ、ベントレーの愉悦 (3)

戦慄さえ覚えるような力強さ

今回、大阪の中心部にそびえる5つ星ホテル「セントレジスホテル大阪」から、京都の奥座敷、嵐山・嵯峨野に至る魅力的なコースでテストドライブするチャンスを得たのは「フライングスパーV8」と「ミュルザンヌ」の2台であった。

いまやベントレーのラインナップのなかでも、もっとも人気の高いモデルとなった「フライングスパーV8」は「コンチネンタルGT V8」系と共用となる4リッターV8ツインターボエンジンを搭載する。

Bentley Flying Spur V8

Bentley Flying Spur V8

気筒休止機能に代表される現代最新のテクノロジーで環境性能も追及したこのエンジンは、上級バージョンに相当する「フライングスパーW12」と比較すれば、少なくとも数値の上では118psものビハインドを喫するものの、それでも最高出力507ps、最大トルク660Nmを発生。

0-100km/h加速は5.2秒、トップスピードでは295km/hに達するという驚異的なスペックを裏付けるように、不用意にアクセルを踏み込んでしまえば、いささかの戦慄さえ覚えるような力強さを披露してくれる。

Bentley Flying Spur V8

対する「ミュルザンヌ」も、パフォーマンスについてはまったく負けていない。

車両重量にして2,710kgに達する超ヘビー級ながら、最高出力512ps、最大トルクでは実に1,020Nmを発生するV8ツインターボがもたらした、最高速度296km/h、0-100km/h加速でも5.3秒に達する怒涛の性能は、「フライングスパー」と同様、スポーツカーのレジェンドに相応しいものである。

さらに「ミュルザンヌ」だけの特権である、旧き良きベントレーV8がもたらすフィールは、とことんまでスウィート。アクセルを踏み込まない限りは、ほぼ無音のような静寂に包まれるいっぽうで、ひとたび加速態勢に入れば甘くささやくようなバリトンを響かせる。効率とエコロジー性能ばかりが追究されがちな現代にあって、このクラシカルかつ魅惑的なフィールは唯一無二のものと言えるだろう。

ところで、2台のベントレー サルーンの素晴らしい走行性能については、乗る前の段階からおおかたの予想はついていた。だがその時、嬉しいサプライズを今回の試乗であらたに発見することになるとはおもってもいなかった。

Bentley|ベントレー
ショーファーサルーンで京都をめざす

4つのドアを持つ、ベントレーの愉悦 (4)

スーパーカー級の性能とハンドリング

そのサプライズとは“操縦する楽しさ”という側面についても第一級のクルマだったことである。

今回ドライブコースに選んだ「嵐山−高雄パークウェイ」は道幅が狭く、カーブの曲率も小さいツイスティなワインディングロード。それに対して、比較的小柄な「フライングスパーV8」でも全長5,315mm、「ミュルザンヌ」に至っては全長5,575mmにも達する巨大なプレステージサルーンである。

こんなコースはベントレーにはあまり似つかわしくないかとおもいきや、2台ともにまるで車体が一回り、いや二回りほども小さくなったかのような錯覚に陥らせるほどに、卓越したハンドリングを披露してくれたのだ。

Bentley Mulsanne

Bentley Mulsanne

「フライングスパーV8」は、強力なパワーを4WDのトラクションでねじ伏せるような豪快な走り。いっぽうの「ミュルザンヌ」は意外にも優れたシャシーバランスを生かし、サイズと車重をまるで感じさせない軽妙なコーナーリングマナーを見せる。

2台のベントレーが属する「スーパーラグジュアリー」のセグメントでは、かつてはパートナーだったロールス・ロイスの「ゴースト」と「ファントム」。そしてつい先日デビューを果たしたばかりの「メルセデス・マイバッハ」などの強力なライバルが存在するが、ベントレーはそれらの強豪に対して、伝統に裏打ちされた骨太なスポーティさを身上とする。

Bentley Mulsanne

クルマとの対話を愉しみつつドライブする超高級スポーツサルーン。ベントレーは、現代自動車界における奇跡のような存在と断じてしまっても過言ではないとおもうのである。

Bentley|ベントレー
ショーファーサルーンで京都をめざす

4つのドアを持つ、ベントレーの愉悦 (5)

後席で過ごす至福の時

近年では、生粋のスポーツサルーンたるベントレーにもショーファードリヴン(運転手つきのドライブ)向きの気質を求めるリクエストが、世界中で高まっているという。そんな機運に応えてのことか、この日のドライブではショーファーを仕立てていただき、特別にリアシートにおけるベントレーも堪能させてもらうことになった。

ベントレーの誇るハンドメイドの超高級車ならではの世界観は、ショーファーにステアリングを任せてリアコンパートメントに身を沈めると、さらに濃厚に味わうことができるかもしれない。穏やかな静寂の中、熟練を究めたアルチザン(職人)たちが手作業で仕立てた本革レザーと天然木材によるインテリアを視覚と触覚で感じていると、ベントレーのもうひとつの特質に触れられた気がしてくるのだ。

Bentley Flying Spur V8|ベントレー フライングスパー V8

Bentley Flying Spur V8

Bentley Flying Spur V8|ベントレー フライングスパー V8

Bentley Flying Spur V8

「フライングスパーV8」は3,065mmという長大なホイールベースを生かし、余裕をもって脚を組むことも可能なニー(膝)スペースを誇る。室内の空調やインフォテイメント、あるいはシートアレンジも、タブレットのように取り外しが可能なタッチスクリーンリモートで操作することができるなど、「後席で過ごす時間の質の向上に努めた」というベントレー側の意気ごみがひしひしと感じられる。

そして「ミュルザンヌ」はベントレーの最上級モデル、すなわち世界の最上級サルーンのひとつであることから、「フライングスパー」系よりももう一枚上の高級感が漂う。絶対的なスペースでは、実は「フライングスパー」に一歩譲るのだが、それは戦前以来の英国製高級スポーツサルーンの伝統にしたがったもの。囲まれ感を強調したコンパートメントはクラッシィな感覚を呼び起こさせる。

Bentley Mulsanne|ベントレー ミュルザンヌ

Bentley Mulsanne

Bentley Mulsanne

また使用されている天然マテリアルの質やフィニッシュも、「これ以上はあり得ない」と感じたはずだった「フライングスパー」をさらに上回る最上のものがふんだんに用いられ、華美になる寸前の抑制されたゴージャスさを巧みに演出しているのである。

今回、大阪・京都の市街地や阪神高速道路など、いわゆる普通のルートはショーファーにお任せし、筆者はワインディングロードのみでステアリングを握るという“美味しいところ取り”のドライブを愉しませていただいた。それはおそらく、ベントレー サルーンたちを自らのものとする僥倖に恵まれ、しかもショーファードリヴンをも可能としているオーナーたちはとってはきわめて日常的な使い方だろう。しかし、あくまでかりそめのオーナーに過ぎない筆者は、ジェラシーのような衝動を抑えることはできなかった。

スーパースポーツカー級のパフォーマンスを秘めるとともに、独自の世界観を表現した世界最高のスポーツサルーンを、ショーファードリヴンで味わう。

それは自動車界における天上とも言うべき、極上の贅沢なのである。

080507_eac_spec
Bentley Flying Spur V8|ベントレー フライングスパー V8
ボディサイズ|全長 5,315 × 全幅 1,985 × 全高 1,490 mm
ホイールベース|3,065 mm
重量|2,560 kg
エンジン|3,992 cc V型8気筒ツインターボ
ボア×ストローク|84.0×90.2 mm
圧縮比|9.0 : 1
最高出力| 460 kW(625ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|800 Nm(81.6kgm) / 2,000 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|4WD
タイヤサイズ 前/後|275/45ZR19
最小回転半径|6.05 m
最高速度|322 km/h
0-100km/h加速|4.6 秒
燃費(EUサイクル値)|14.7 ℓ/100km(6.8 km/ℓ)
CO2排出量|343 g/km
トランク容量(VDA値)|475 ℓ
燃料タンク容量|90 ℓ
価格|1,945万円

Bentley Mulsanne|ベントレー ミュルザンヌ
ボディサイズ|全長 5,575 × 全幅 1,925 × 全高 1,530 mm
ホイールベース|3,270 mm
重量|2,710 kg
エンジン|6,747cc V型8気筒 ツインターボ
ボア×ストローク|104.0×99.0 mm
圧縮比|7.8 : 1
最高出力| 377 kW(512ps)/ 4,200 rpm
最大トルク|1,020 Nm / 1 ,750 – 3,250 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|FR
タイヤサイズ 前/後|265/45ZR20
最小回転半径|6.30 m
最高速度|296 km/h
0-100km/h加速|5.3 秒
燃費(EUサイクル)|14.6 ℓ/100km(6.8 km/ℓ)
CO2排出量|342 g/km
トランク容量(VDA値)|443 ℓ
燃料タンク容量|96 ℓ
価格|3,500万円

           
Photo Gallery