新世代スーパースポーツのベンチマーク、918スパイダー|Porsche
Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー
生産開始は9月18日に決定
新世代スーパースポーツのベンチマーク
「ラ フェラーリ」や「マクラーレンP1」といった、ハイブリッドシステムを搭載したスーパースポーツが一斉にデビューを飾った今年。ポルシェもまたおなじく、内燃機関にエレクトリックモーターを組み合わせた「918スパイダー」の生産を開始する。だが、ポルシェはラ フェラーリやP1のそれとは、まったく異なるものであると主張する。それは何故か。ヴァイザッハ研究開発センターの最高責任者ヴォルフガング・ハッツ氏に、モータージャーナリスト山崎元裕が、その理由を聞いた。
Text by YAMAZAKI Motohiro
918スパイダーで何を訴えたいのか
991世代へと進化を遂げた「911GT3」が発表された、今年のジュネーブショー。そして大幅なマイナーチェンジによって、ポルシェ自身がセカンドジェネレーションと称するモデルへと、まさに画期的な進化を遂げた、新型「パナメーラ」が初披露された、上海ショー。
世界各国で開催されるモーターショーで、常にポルシェのスポークスマンとして、我々のインタビューに積極的に対応してくれるのが、副社長であり、また研究開発担当役員というタイトルももつ、ヴォルフガング・ハッツ氏だ。
ジュネーブショー、上海ショーでのインタビューでは、限られたその時間の中での話題は、やはり911GT3であり、またパナメーラであったのだが、このハッツ氏にとってもきわめて重要なイベントが、さらに今秋に計画されている。
正確には9月18日にスタートする、「918スパイダー」の生産がそれである。
事前に一切の予告も、またメディアからの一切の予想もなく、2010年のジュネーブショーで発表された、コンセプトカーの誕生から2年以上の時を経て、ようやく918台の限定生産が開始されることになった918スパイダー。
前後してハイエンドスーパースポーツの世界には、「ラ フェラーリ」や「マクラーレンP1」といった、やはりハイブリッドシステムを搭載した新型車が、いずれも限定車としてデビューを果たすことになるが、ハッツ氏は、それらは918スパイダーにとっての直接のライバルではないと、常々主張している。
「我々ポルシェが、918スパイダーで何を訴えたいのか。つまり918スパイダーのコンセプトは、ラ フェラーリやP1のそれとは、まったくことなるものであるとおもいます。確かにこれまで進化をつづけてきた内燃機関に、エレクトリックモーターを組みあわせることで、運動性能と環境性能をともに、さらに高い水準へと導くということでは、開発の方向性は一致していますが、918スパイダーでの我々の考えは、それがスーパースポーツであると同時に、ゼロエミッション走行を可能とする純粋なEVであるべきだということなのです。
そのコンセプトがもっとも強く主張されているのは、リチウムイオンバッテリーの搭載量でしょう。918スパイダーに搭載されるバッテリーは、重量にして約200kg。それが160km/hまでの加速と、25km以上のゼロエミッション走行での航続可能距離を生み出しているのです」
Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー
生産開始は9月18日に決定
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自分自身の意思でチョイスする
先日ポルシェから発表された、918スパイダーの最新スペックによれば、フロア後部に搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量は6.8kWh。
エレクトリックモーターは、612psの最高出力を発揮する、4.6リッターのV型8気筒DOHCエンジンに組み合され、ハイブリッドモジュールを構成する156ps仕様のほかに、フロントアクスルに129ps仕様を搭載。システム全体の最高出力は897psに達し、それによって、2.8秒の0-100km/h加速、7.9秒の0-200km/h加速、そして23秒の0-300km/h加速を実現しているのだ。最高速は340km/h以上。
そのいっぽうで、新欧州走行サイクルによるテストでは、3.3リッター/100kmの燃費を記録。CO2排出量は79gを達成している。
「918スパイダーには、EV走行のための“Eパワー”を始め、“ハイブリッド”、“スポーツハイブリッド”、“レースハイブリッド”、そして“ホットラップ”という走行モードが用意されていますが、そのステアリングを握るカスタマーは、バッテリーの充電レベルが極端に低下していなければ、常に“Eパワー”から走行を開始することになります。
航続可能な距離を考えれば、仮に日常的な通勤などに使用するなら、一度もエンジンが始動することなく目的地に到着できるでしょう。市街地を離れ、田舎道やアウトバーンへと至った頃には、好みのハイブリッドモードで918スパイダーの走りが楽しめると同時に、バッテリーには再び十分な電力が蓄えられます。
ホットラップは、もちろんサーキットで918スパイダーのパフォーマンスをフルに発揮させるためのモード。カスタマーは918スパイダーという車が持つ多様性というものを、自分自身の意思でチョイスすることができるのです」
Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー
生産開始は9月18日に決定
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後輪操舵で得られる最大のメリットとは
918スパイダーには、ハイブリッドシステムのほかにも、技術的にはさまざまなトピックスがある。エアロダイナミクスを徹底的に検証したボディーデザインや、前で触れたリチウムイオンバッテリーの熱対策をも考慮して、上方排気を選択したエグゾーストシステム。そしてこれもまたポルシェの誇りともいえるシャシーも、もちろんその例外ではない。
「918スパイダーの開発は、911GT3とほぼ同時期におこなわれましたから、シャシーのエンジニアリングには、両車の間で共通する部分も多くあります。そのもっとも象徴的な例は、後輪操舵を採用したことですね。
ポルシェの後輪操舵への取り組みは早く、その歴史は928で採用した『バイザッハ・アクスル』にまでさかのぼることが可能です。後輪を操舵することで得られる最大のメリットは、車速に応じて、ホイールベースを延長、また短縮することに近い効果が得られることです。918スパイダーでは特に、高速域でのスタビリティに、後輪操舵の効果は大きく表れたと思います」
プロダクションモデルの最終スペックも発表され、限定生産のスタートまで、まさに秒読みの段階に入った、ポルシェ918スパイダー。それがハイエンドスーパースポーツの世界に、きわめて大きな影響力を持つモデルであることは確かなようだ。スーパースポーツとしても、そしてもちろんEVとしても、これから918スパイダーは競合他社から、直接のベンチマークとして意識されるのは間違いない。
はたして918スパイダーは、市場でどのような評価を得ることになるのか。前後してやはりセールスが開始されるライバルとともに、その動向からは目が離せない。
Wolfgang Hatz|ヴォルフガング・ハッツ
1983年から1989年までBMW AGおよびBMWモータースポーツにおいて、エンジン開発のエンジニアとプロジェクトリーダーを務めたヴォルフガング氏。1989年にポルシェに入社しF1エンジンの開発に携わり、現在はヴァイザッハ研究開発センターの最高責任者、またポルシェ社の取締役にもその名を連ねる。
Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー
ボディサイズ|全長4,643×全幅1,940×全高1,167mm
ホイールベース|2,730 mm
トレッド 前/後|1,664 / 1,612 mm
重量|1,640 kg(Weissachパッケージ装着の場合)
エンジン|4.6リッター V型8気筒
最高出力| 612 ps/ 9,150 rpm
最大トルク|530 Nm / 6,600 rpm
リアモーター出力|115 kW
フロントモーター出力|95 kW
システム最高出力|897ps
システムトルク|800Nm /800-5,000rpm
1,275 Nm(7速時)
1,086 Nm(3速時)
トランスミッション|7段オートマチック(PDK)
駆動方式|4WD
タイヤ 前/後|265/35R20 / 325/30R21
0-100km/h加速|2.8 秒
最高速度|340km/h(モーターのみで走行の場合は150km/h)
燃費(NEDC値)|約3.3 ℓ/100km
CO2排出量|約79 g/km
EV走行可能距離|約30 km