電動ポルシェがはじまる|Porsche
Porsche Panamera S e-hybrid|ポルシェ パナメーラ S eハイブリッド
電動ポルシェがはじまる
上海モーターショーにてポルシェ「パナメーラ」が初のモデルチェンジを果たした。注目をあつめるのは、よりエコ性能をたかめ、プラグインハイブリッド化という道をとった「パナメーラ S e-hybrid」だ。今回はその「パナメーラ S e-hybrid」ついて、これを解説するワークショップに出席した河村康彦氏のリポートをお届けする。ポルシェがかんがえる、あるべきエコカーとは何か?
Text by KAWAMURA Yasuhiko
ただのプラグイン化であるはずがない
4月に開催された上海モーターショーで初公開された、マイナーチェンジを受けた「パナメーラ」。
成長をつづける中国市場を強く意識しての全長とホイールベースを拡大した「エグゼクティブ」グレードの追加、および、従来の自然吸気4.8リッター8気筒エンジンに代えて開発されたツインターボ付き3.0リッター6気筒エンジンのS / 4Sグレードへの新搭載が、今回のリファインでの大きな目玉。とともに、大きなトピックとなったのが、ハイブリッドモデルのプラグイン化。
とはいえ、そこは“技術者集団”でもあるポルシェの事。その内容が、「これまでの『S ハイブリッド』を、単に外部充電対応とした程度」などに留まっていないのは、期待と予想通りと言って良いだろう。
実際、あたらしいシステムでは駆動用モーターの出力が2倍以上にまで引き上げられ、バッテリー容量も5倍以上に拡大。それを、基本的には従来と何も変わらないパッケージングの中に収めている。
ポルシェが考える”電動化”とはいかなるもので、それは他のブランドのアプローチとはどうことなるのか? そんな事を探るべく、テクノロジーワークショップが開催された本国ドイツを訪れた。
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電動ポルシェがはじまる (2)
なぜハイブリッドなのか?
初代「プリウス」のリリース以来、トヨタが世界累計販売500万台という偉業を達成し、(ハイブリッドモデルのない)軽自動車を除いた乗用車の新車販売シェアの、実に3割ほどを占めるというデータも報告されるなど、ハイブリッドモデルがすっかり市民権を獲得して久しい日本の自動車マーケット。
そんなハイブリッド車の人気の理由はもちろん、優れた燃費による“エコノミー”性と環境に優しいという“エコロジー”性の高さという、両面によるところが大だろう。
そして、そんな“2つのエコ性能”は電池の容量をより増やし、究極的にはそこからエンジンを排除したピュアEVとする事で、さらに進化をさせられる、と、これも多くの日本人に共通した認識であるはず。そこには、今でも「走行時ゼロエミッション」を声高に謳う世界最量販のEVである「リーフ」にたいする、日産の強力なプロモーション活動の影響も多分にあるはずだ。
従来の「S ハイブリッド」にたいして、今度は「S eハイブリッド」を名乗る外部充電に対応をしたパナメーラの新型モデルが、前出のスペックでも明らかなように“よりEV的要素を強めたもの”であるのは間違いない。
実際、従来型では2km程度と言われていたEV走行可能距離は、新型ではヨーロッパ最新の燃費測定モード(NEDC)で36kmと飛躍的に延長。EV状態での0-50km/h加速を6.1秒でこなし、その最高速も135km/hに達するというのだから、なるほどこれはもはや“セミEV”と表現しても良さそうな能力の持ち主だ。
rpm/kmという指標から導かれる答え
かくして、「エンジンを使わずに走行できる機会が大幅に増した」事で、ポルシェの燃費低減コンセプトによる“エンジン回転数の低回転化”をしめすあたらしい指標として採用された走行km当たりのエンジン回転数『rpm/km』の値も、あたらしいパナメーラでは大幅に低減されている。
ポルシェ社内でのテストに用いられる、市街地+郊外路+アウトバーンで構成される総距離65kmの“シュツットガルト サーキット”を走行の場合、従来型ハイブリッドモデルの524rpm/kmというデータにたいして、新型は318rpm/kmでクリア。
ちなみに、通常の「パナメーラ S」ではそれが1,432rpm/kmで、アイドリングストップ機構を用いた場合は1,350rpm/km。さらに、トランスミッションの“コースティング”機能によってアクセルOFF時の空走距離を伸ばした場合には、ハイブリッドシステムを用いる事なく1,239rpm/kmまで落とす事が可能であるという。
こうして、「燃費の向上は、エンジンの稼働率を下げる事で達成が可能」と、まずはそんな基本コンセプトがしめされている。
すなわち、プラグインモデルが従来型ハイブリッドを大きく凌ぐ燃費性能を達成するのは、「エンジン稼動率を大幅に下げる事ができたから」というのがひとつの結論というわけだ。
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急速充電はなぜ必要ないか
しかし、今回のワークショップではまずはそうした“座学”を受けた上で、だからこそ興味深かったのは、あたらしいパナメーラ ハイブリッドが、敢えて“急速充電”には手を出さなかった点にある。
新型のハイブリッドモデルのセンターコンソール部には、これまで見慣れない2つの走行モード切り替えスイッチが並んでいる。
そのひとつは、バッテリーの充電状態に余裕がある限り、EV走行を優先させる“Eパワー”モード。もうひとつは、走行しながらバッテリー残量を増して行く、充電優先の“Eチャージ”モードだ。
実は、36kmという新型でのEV走行レンジは、「多くの人々の日常の使い方であれば、9割方のシーンはこの範囲内に収まり」、「現在のバッテリーの性能を勘案すると、これ以上の容量を積むのは得策ではない」という判断から決定されたものという。と同時に、ポルシェの開発陣はそんなEV走行が燃費低減に大きな効果を持つ事は認識をしつつも、急速充電をおこなう事でその頻度を“無理矢理に伸ばそう”という発想は持ってはいないのも特徴だ。
そんな考え方の表れのひとつが、前出の“Eチャージ”モード。これは効率の良い範囲でエンジンを稼動できる、主にアウトバーン走行時などでの使用を想定。
「アウトバーン出口を降りた後に、EV走行が望ましいシチュエーションが予想される場合でも、このモードを用いて走行中に短時間で効率良く充電が可能なので、敢えてクルマを止めての急速充電は必要としない」と説明する。
そう、このモデルでの見どころは、何が何でもEV走行の距離を伸ばそうというのではなく、特定の市街地やヨーロッパで検討されている“ゼロエミッションゾーン”など、真に排出ガスの削減が求められる地域ではEV走行を確実におこない、それ以外の場所では効率の良いハイブリッド走行を容認するという、より現実的な“棲み分け”がおこなわれている点にある。
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EVが排出するCO2
そもそもいかにピュアEVといえども、そこにチャージする電力を火力を用いて発電する限りは、「真のゼロエミッション」には成り得ない。ましてや、CO2削減の目的を地球温暖化緩和のためとするならば、“走行時ゼロエミッション”ではまったく意味が無いのは明らかだろう。
実際、誤解を避けるために英国ではそうした表現による広告活動は禁止されていると聞くし、低質の石炭を用いた火力発電が主流となる中国では「ピュアEVより通常のハイブリッドモデルの方が、CO2排出量が少ないばかりでなく、昨今『PM2.5』で注目される大気汚染の抑制にも効果的」という報告事例もあるくらいだ。
そう、風力や水力、原子力など“発電そのものがゼロエミッション”でおこなわれる電力をチャージする事が可能な一部(日本も、もはやその中には入らない……)の地域を除けば、「外部充電によるEV走行では、CO2の削減メリットは見出せない」というのが現状。
となると、外部充電には対応をしつつも、大掛かりなインフラの整備が必要な急速充電方式を敢えて排した新型パナメーラ ハイブリッドの考え方は、何とも「今の時代の現実解」だとおもえてくる。
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ポルシェのハイブリッドを体験
ところで、そんなパナメーラのニューモデルは、当然ながら「ポルシェのハイブリッドらしさ」もしっかりアピールする。
すなわち、そこでは単に“エコノミー”と“エコロジー”だけではなく、このブランドの作品ならではのハイパフォーマンスぶりも追求されているという事だ。
コンソール上の、前出2つのスイッチからは離れてレイアウトされたスイッチで“スポーツ”のモードを選択すると、「ポルシェ車ならではのハイパフォーマンスと、よりダイレクトなハンドリング」が実現される。
ちなみに、従来型同様の3リッターのメカニカルスーパーチャージャー付きエンジンと、あたらしいハイブリッドシステムが組み合わされた結果による416psというシステム出力と、5.5秒という0-100km/h加速タイムは、それぞれ380psと6.0秒だった従来型ハイブリッドのデータを、大きく凌駕するものだ。
ワークショップの最後に機会が設けられた、パッセンジャーシート上での“コ・ドライブ”では、そんなハイハフォーマンスの一端も体感する事ができた。
アクセルペダルを深く踏み込まれたテスト車は、アウトバーン本線への合流でグンと力強く加速。その印象はまさに「背中がシートバックに押し付けられる」という表現が相応しく、目まぐるしい勢いで数字を大きくしていくデジタルスピードメーターの表示は、たちまち『200km/h』を超える事になった。
いっぽうで、街乗り~郊外路でエンジンが頻繁に始動と停止を繰り返すシーンでの滑らかさもなかなか見事なものだった。短時間の体験ではあったが、当然ながらその仕上がりぶりはもはや実験車などのレベルではなく、しっかりと“商品”として熟成されている事を感じられたものだ。
アクセルペダルを深く踏み込まれたテスト車は、アウトバーン本線への合流でグンと力強く加速。その印象はまさに「背中がシートバックに押し付けられる」という表現が相応しく、目まぐるしい勢いで数字を大きくしていくデジタルスピードメーターの表示は、たちまち『200km/h』を超える事になった。
いっぽうで、街乗り~郊外路でエンジンが頻繁に始動と停止を繰り返すシーンでの滑らかさもなかなか見事なものだった。短時間の体験ではあったが、当然ながらその仕上がりぶりはもはや実験車などのレベルではなく、しっかりと“商品”として熟成されている事を感じられたものだ。
一過性のものではない
特に集合住宅に住む人にとっては、外部充電のための設備をどのように準備するかは簡単に解決できない問題かもしれない。また、軽く1,500万円超というモデルであるがゆえに、「ごく一部の恵まれた人々のための1台」というのも事実だろう。
が、しかし同時にそれは、従来型のハイブリッドモデルにたいして“わずかに36万円高”という価格で設定をされた、“2つの動力源を自在に使い分ける、夢のポルシェ車”でもあるのだ。
ポルシェにとってのハイブリッドモデルは、単なる一過性のものなどではなく、ブランド全体としてこの先の重要なバリエーションとなって行くのは確実だ。
Porsche Panamera S e-hybrid|ポルシェ パナメーラ S eハイブリッド
ボディサイズ|全長5,015×全幅1,931×全高1,418mm
ホイールベース|2,920 mm
トレッド 前/後|1,658 / 1,662 mm
重量|2,095 kg
エンジン|2,995 cc V型6気筒 直噴DOHC スーパーチャージャー付き+電気モーター
エンジン最高出力|245kW(333ps)/5,500-6,500rpm
エンジン最大トルク|440Nm/3,000-5250rpm
モーター最高出力|70 kW(95 ps)/2,200-2,600 rpm
モーター最大トルク|310 Nm/1,700 rpm以下
システム最高出力|306kW(416ps)/ 5,500 rpm
システム最大トルク|590Nm / 1,250-4,000 rpm
トランスミッション|8段オートマチック(ティプトロニックS)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|245/50R18 / 275/45R18
0-100km/h加速|5.5 秒
燃費(ECE R 101)|3.1 ℓ/100km
電費|162 Wh/km
CO2排出量|71 g/km
電気モータでの航続距離|約18-36km
価格|1,534万円