ボルボ V40 デザイナーインタビュー|Volvo
CAR / FEATURES
2015年1月17日

ボルボ V40 デザイナーインタビュー|Volvo

Volvo V40|ボルボ V40

スカンジナビアンデザインとは?

V40 デザイナー サイモン・ラマー氏に聞く

ボルボ「V40」のプレス試乗会が日本で開かれた際、タイミングをあわせて来日したのが、エクステリアチーフデザイナーのサイモン・ラマー氏だ。今回のV40の外観デザインを統括したケベック出身のカナダ人であり、スウェーデンのデザインセンターで1995年から勤務している。機能性にエモーショナルな要素を加味したプレミアムコンパクトカー、V40はいかなるコンセプトでデザインされたか、詳細を一問一答のかたちで紹介しよう。

Text by OGAWA Fumio
Live Photographs by ARAKAWA Masayuki

ボルボと安全とスカンジナビア

──まず経歴を教えてください

ケベック大学でインダストリアルデザインを専攻したあと、スウェーデンに渡り、まずサーブ(SAAB)のクレイモデラーとしてキャリアをスタートさせました。1995年にボルボに入社。2001年までは、「S80」や「S40」などのサーフェスエンジニアリングに従事すると同時に、クリエイティブデザインも担当しました。そのあと「C30」のプログラムチーフデザイナーになり、エクステリアデザインを手がけたあと、2010年から今回のV40のエクステリアデザインの担当となりました。

Volvo S40|ボルボ S40

初代 Volvo S40 の2003年モデル

Volvo C30|ボルボ C30

Volvo C30の2008年モデル

──ボルボもサーブもスウェーデンの自動車メーカー。スカンジナビアがお好きですか?

私が生まれ育ったケベックと似ていて、住み心地がいいのです。自然が美しく、ひととひととが助けあって暮らす社会であり、環境意識が高いところも気に入っています。

もちろん、自動車のような工業製品にも、スカンジナビアらしさがあります。クルマを人間のためにつくっている、という意識がとても強いのです。ボルボでも、乗っているひとが安全な気持ちでいられるように、ということを働いている私たちが強く肝に銘じてクルマを開発しています。

──日本でスカンジナビアン デザインというと、いまもビートルズの「ノーウェジアン ウッド」ではないですが、白木であたたかみのある家具のイメージが強いですが、あなたがスカンジナビアのデザインと言うとき、どんな要素が核になっていますか

さきに乗員を安全な気持ちにさせる、と言いましたが、ひとことでスカンジナビアン デザインといっても、もちろん、時代によって表現は変わってきています。

クルマでいえば、白木の家具のように素朴さをうりものにするわけにはいかず、あたらしい顧客を他社からひっぱってくるためのデザイン表現も必要になります。ボルボでいえば、根本にあるのは、安全性などの実利的な価値。そこに躍動感を表現するサーフェス処理など、情緒的な価値をつけくわえるようにしています。

なにはともあれ、消費者が、ボルボが提供したい価値とはなにか、を明確に感じてくれることが大事だと考えています。

Volvo V40|ボルボ V40

Volvo V40|ボルボ V40

スカンジナビアンデザインとは?

V40 デザイナー サイモン・ラマー氏に聞く(2)

ボルボの価値とは?

──デザイナーとして、みずから手がけたV40の見どころを解説していただけますか

ライバルとして、アウディ「A3」、メルセデス・ベンツ「Aクラス」、BMW「1シリーズ」などを日本のマーケティング担当者は挙げていますが、どれも、フォルクスワーゲン「ゴルフ」の変化形ではないかと私はおもっています。

ゴルフは偉大なクルマで、ドイツの各社は、自分たちなりのゴルフをつくっているようにおもえますが、ボルボはあくまでボルボをつくっています。マーケットに迎合して埋没しないで、自分たちが立つべき場所をきちんと確立していること。それがもっとも大切なことなのです。

──エクステリアデザインを統括する立場として、部下のデザイナーにつね日頃言っていることはなんでしょうか

おなじことです。自分(ボルボ)の信じることをやりつづけるのだ、ということです。

技術の面いえば、V40で世界に先駆けて採用した歩行者用エアバッグがいい例です。

ドイツの企業は技術が好きですが、私たちの場合は、つねに人間が中心で、技術はあくまでも人間をサポートするもの、と位置づけています。

Volvo V40|ボルボ V40

いい例が、カスタマークリニックの結果です。自動車メーカーでも、購買対象者に集まってもらい、どんなクルマが好きか、どんなインテリアを好むか、といったことを質問します。そうすると、消費者は複雑な操作類を必要としていないと分かります。

Volvo V40|ボルボ V40

歩行者エアバッグ

Volvo V40|ボルボ V40

4つのダイヤルを中心としたシンプルな操作系を謳う「フローティングセンタースタック」

──複雑さとシンプルさの対決ですね

ライバル会社は時として、デジタル表示や操作系などに複雑なものを採用します。iPhoneじたいは使いやすくても、クルマの操作類にiPhone的な要素は必ずしも必要ではありません。人生を楽なものにしてくれる技術とか操作がクルマには必要だと、私たちは考えてデザインしています。

Volvo V40|ボルボ V40

スカンジナビアンデザインとは?

V40 デザイナー サイモン・ラマー氏に聞く(3)

スカンジナビアン カラー

──ボディカラーも、V40ではかなり微妙な色が設定されているのが眼につきます

車体色は内装色とのマッチングが大事です。その2つがあわさって1台のクルマになりますから。それを意識してカラーコーディネートをしていきます。

だから、私が個人的に好きな色を訊かれた場合も、ホワイトの車体色にブラックの内装色、と答えます。なぜ白かというと、V40は凝ったグラフィックス(面構成)を持っているので、微妙な色合いの変化が楽しめるからです。

──カラーの選びかたにもスカンジナビア性が出るのでしょうか

出るかもしれません。私がスカンジナビアをおもうとき、夏の海の光景がつねに頭に浮かびます。波はおだやかで静寂が支配しています。太陽はさんさんと輝いている。しかし、突然、強風と雷雨が襲ってくることがあります。そして去る。それが15分のインターバルで繰り返される。この、静寂と驚きという強いコントラストが、往々にして自然には存在します。そんな事柄につながる“驚きの要素”とか、別の言い方をすれば“遊びの感覚”を、クルマの色彩にも採り入れていきたいとおもっています。

Volvo V40|ボルボ V40

Volvo V40|ボルボ V40

──北欧や米国西海岸など、日本とはまたちがう太陽光線なので、クルマの見え方が変わりますね。自然の光はクルマのデザインと密接な関係がありますね

私もさまざまな光線をおもしろがるタイプです。スカンジナビアの光が美しいことは、すでに述べましたが、とりわけデンマークにすばらしいところがあります。ユトランド半島のスカーイェンという漁村です。そこに砂丘で知られるグレーネン岬があり北海と大西洋の2つの海流がここで交わっています。ここの光はとてもすばらしく、多くの画家がここに出かけて作品を残しています。

クルマのデザインといっても、自然が影響しているのは、おもしろいとおもいませんか。

Simon Lamarre|サイモン・ラマー

Simon Lamarre|サイモン・ラマー
ケベック大学モントリオール校でインダストリアルデザイン専攻。卒業後、スウェーデンに渡る。1995年、ボルボに入社してから20年ちかく車両のデザインワークを担当。過去10年は主にC30、V40のエクステリアデザインを中心に、広報活動もおこなう。

           
Photo Gallery