次世代デザインをもとめて コンセプトデザインスタジオへ|Audi
Audi Concept Design Studio|アウディ コンセプト デザイン スタジオ
次世代のアウディデザインは?
アウディ コンセプトデザイン スタジオへ
先のパリモーターショー2012にて発表された、アウディのコンセプトモデル「クロスレーン クーペ」は、フレームと一体になった外装のデザインに、この先にあるアウディのデザインを予感させた。先日、そんなコンセプトモデルを生み出すデザインスタジオが、おなじみ、小川フミオ氏をふくむ、少数のジャーナリストに公開された。
Text by OGAWA Fumio
アウディの隠れ家へ
クルマ開発のもっとも重要な場所のひとつが、デザインセンターだ。アウディではさきごろ、ミュンヘンの隠れ家ともいえるコンセプトデザイン スタジオを、限られた数のジャーナリストに公開した。
アウディのコンセプトデザイン スタジオは、1984年9月、ドイツはミュンヘンの街中にこっそりオープンした。看板はなく、住所を知らなければ見つけることは出来ない。
そこで、2000年に公開されて話題をよんだコンセプトカー「ステッペンウルフ」や2010年の「クワトロコンセプト」をはじめとするコンセプトカーや、カーボンファイバー製の「e-bike」、はたまたラゲッジのようなライフスタイル商品まで、数かずの興味ひかれるプロダクトがデザインされている。
アウディデザインは4つの組織からなる(カッコ内はヘッドと呼ばれる部門長)。
エクステリア デザイン(アヒム・バドシュトブナー)
インテリア デザイン(エンツォ・ロートフス)
カラー&トリム デザイン(シモーナ・ファルチネッラ)
コンセプト デザインスタジオ・ミュンヘン(スティーブ・ルイス)
さらに、2010年にフォルクスワーゲングループで買収したイタルデザインと、先行開発の一部を担うカリフォルニアのスタジオ、さらにアウディ傘下のランボルギーニのスタジオとドゥカティのスタジオがアウディデザインには所属している。
秘密の部屋は開放的だった
ミュンヘンのコンセプトデザイン スタジオは、天井から床まで大きな窓を持ち、室内からは外の通りがよく見える。オープンカフェのような雰囲気だ。
「リアルワールドとの接点を持ちながらデザインをするのが大事だから」と、スタジオ ヘッドのスティーブ・ルイスが教えてくれた。暗くなってくると電気工学的なフィルターでスモークがかかり、秘密だらけのデザインルームが外からのぞかれることはない。
ここでは、ペンタブレットに代表されるコンピューターツールを用いるか、あるいは昔ながらの手描きによるスケッチでコンセプトが練られ、それがプログラマーによってCADにとりこまれる。
そのあと、専用ルームで特別なテープを使いながらの線描(テープレンダリングと呼ばれる)が起こされ、専用プラスチック粘土をコンピュータで数値を打ち込んだNC(数値制御)切削で形づくる3Dモデル製作がおこなわれる。
デザインが決定される前のプロセスはじつに数多い。
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次世代のアウディデザインは?
アウディ コンセプトデザイン スタジオへ (2)
いま変革のとき
「アウディはこれまで“もっとも美しいクルマ”をつくってきました。しかし、いま変革のときを迎えています」
そう語るのは、アウディ デザインを統括するウォルフガンク・エッガーだ。
その象徴ともいえるのが、2012年秋にパリモーターショーで公開された「クロスレーン クーペ」だ。SUVの雰囲気をまといながら、ルーフは取り外して収納可能で、それにより、ほとんどオープンの爽快感を味わえる。このモデルは、コンセプトデザイン スタジオで生み出された。
世界各地から招かれたジャーナリストが足を踏み入れた部屋に置かれていた実車は、ショーモデルに私たちが期待する、鬼面ひとを驚かすような、色使いも、とっぴなディテールもない。むしろ明日にでも路上を走ってもおかしくない。
しかし、とコンセプトデザイン スタジオ統括のスティーブ・ルイスは言う。
「ここにアウディの明日があります」
クロスレーン クーペを仔細に見ると、カーボンファイバーとアルミニウムの複合素材によるシャシーが、一部外側に剝きだしになっているのがわかる。クルマの骨格ともいえるシャシーが、皮膚であるべきボディの一部を構成しているのだ。
テクノロジーとデザイン
「私たちのデザインの課題は、技術とデザインに不断の関係性を持たせるところにあります。Design drives tech. Tech drives design. (デザインがテクノロジーに影響を与え、テクノロジーがデザインに影響を与える)という言葉もあり、私はデザイナーたちに、“クルマは内側からデザインしなさい”と言っています。内側とはフィロソフィ(哲学)です。それが技術とデザインを結びつけているからです」
エッガーは「デザインとスタイリングはちがう」と語り、アウディにとって、スタイリングと業界では呼ばれる審美的な処理は二の次なのだとする。美のための美でなく、必然性のあるかたち。クロスレーン クーペは、そんなアウディの哲学を象徴するモデルで、「軽量化と安全性を、美と融合させた究極の形状」と語られる。
ちょうどスタジオの一角に、往年の名機と言われる、F4Uコルセア、P51マスタング、P38ライトニング、そしてジービー モデルR スーパースポーツスターの4機の航空機のスケールモデルが飾られていた。ルイスはそのうちジービーを手にして、「示唆的なデザインです」と語る。
「1930年代につくられたこの航空機は、ずんぐりしていて、とても速そうには見えない。しかし重量は834kgしかなく、速度競技では優秀な成績を残しました。クルマでも、速いとか軽いとか見えなくても、じつはスポーティというのがありうるのです」
クロスレーンを開発するにあたって参考になる表現だ、と言うエッガーの言葉を聞くと、自動車のデザインはかくも哲学的なものだと知れる。
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アウディ コンセプトデザイン スタジオへ (3)
バウハウス的な発想
「装飾がなく、シンプル」と語られるクロスレーン クーペのインテリアデザインも、大いに興味が惹かれるディテールが多い。
第一に、シャシーフレームの一部がインテリアを構成していること。
CFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)は時々スポーティなクルマの室内でも装飾的に使われるが、クロスレーン クーペは、軽量シャシーのためにフレームに使われている部材が剝きだしになっているのだ。F1マシンにも多用されるCFRPについて知っているひとは、それを観ただけで、クロスレーン クーペがいかにスペシャルなクルマかひと眼でわかる。
ただし「デコレーションのためのデコレーションはありません。現状では、CFRPとアルミニウムのシャシーは、高価すぎて実車には使えませんが、このコンセプトを追求していきたいと考えています」とインテリア スタジオを統括するロートフスは語る。
取材中ときどき耳にした言葉が「バウハウス」だった。1919年、ドイツで生まれ、芸術とクラフツマンシップを融合させたモノづくりから、ダンスまで含む総合美術の学校として、いまも高い評価を受けている。
バウハウスの特徴的なデザインは、装飾を廃し、機能を追求し、素材をその素材として見せる(つまりアルミニウムは塗色したりせず輝くアルミニウムのまま)といった点にあった。
現代のアウディのコンセプトデザイン スタジオでは、「バウハウスのデザインをいまも採り入れているということでなく、無駄な装飾を排除するバウハウス的思考によるデザインを尊重しています」(前出のウォルフガング エッガー)とする。
先代「TT」が1998年にデビューしたとき、さかんにバウハウス的デザインということがメディアでとりざたされたが、本格的に「レス・イズ・モア(そぎ落とすことから豊かなデザインが生まれる)」を謳ったモデルが、いよいよ登場するのか。
クロスレーン クーペはアウディにとってのあたらしい時代のとば口に立つモデルといってよさそうだ。