ジャガーの新コンパクトSUV「Eペイス」とは|Jaguar
Jaguar E-Pace|ジャガー Eペイス
ジャガーの新コンパクトSUV「Eペイス」とは
ジャガーが、初のSUV「Fペイス」に続いて発表した「Eペイス」。英国ブランドが放つ第2のSUVとはどのようなモデルなのか。本国で実物を目の当たりにした河村康彦氏がお伝えする。
Text by KAWAURA Yasuhiko
スポーツカー ブランドに原点回帰
輸入車と言えばドイツのブランド──そんなイメージが拭えない日本の自動車界にあって、このところ着実に存在感を増しつつあるのがジャガー発の最新作品群。
商品力の低下や品質問題などから、一時は存亡の危機にさえ見舞われたのがこのブランド。が、かつての親会社である米国フォードの手を離れ、インドのタタ・モーターズの傘下に収まった2000年代の後期以降、この歴史ある英国ブランドは復調の兆しが明確だ。
そうした好調さの要は、やはりまずはその商品そのものにあると言ってよさそう。フォード車とのハードウェア共有化など、かつてのしがらみから解き放たれた最近のジャガーの作品は客観的に見ても、多くの人から「大いに魅力的になった」と感じられる仕上がりであるはずだ。
中には、「歴史と伝統が前面に押し出された、かつてのようなジェントルな雰囲気こそがジャガーの神髄」と考える人も少なからず存在はしそう。一方で、例えそうしたかねてからのファンの想いとは一部対峙をすることになってでも、新しい顧客層を開拓していかない限り自らに未来はない――と、そんな不退転の覚悟すらが感じられるのが、このところのこのブランドから生み出される商品と言っても過言ではないように思う。
かくして、新生ジャガーがまず取り組んだのは、自身のヒストリーを引き合いに、そもそもは“スポーツカーブランド”であることを改めてアピールするという戦略。
例えば、2010年にフルモデルチェンジを行って現行型となったフラッグシップサルーンである「XJ」の変わりようや、永らく途絶えていた2シーターのピュアスポーツカーを、2012年にブランニューモデルの「Fタイプ」としてローンチしたことを見れば、そんなスタンスは明らかであるもの。
そして、そんな新たなる考え方に基づいて開発をされてきた作品が、このところいよいよ“収穫期”を迎えているのがジャガーの現状であるわけだ。
Jaguar E-Pace|ジャガー Eペイス
ジャガーの新コンパクトSUV「Eペイス」とは (2)
Fペイスの弟分、Eペイスの登場
そうした新生のジャガーが、最近SUVのラインナップ拡大を熱心に進めていることにも注目をしたい。
プレミアムを標榜する世界の自動車ブランドが、昨今とみに熱心に取り組むSUV。かつては“スポーツカー専業メーカー”でありつつも、いち早くそれに取り組んで成功を収めたポルシェを筆頭に、ベントレーやマセラティ、さらにはアルファ・ロメオやランボルギーニ等々と、ひと昔前であれば“背の高い4WDモデル”などに興味を示すとは到底思えなかったブランドが、次々と手掛けるにいたっているのは周知の事柄だ。
そして「ライバルはポルシェ!」と、エンジニアの中にはそう明言をする人すら存在をする昨今のジャガーも、もちろんそうした流れに乗り遅れてはいない。
そんな中、まずこのブランド初のSUVとして「Fペイス」をローンチし、次いでピュアEVである「Iペース」が、「2019年の前半」と具体的な市販予定を発表。さらに、それらに次ぐモデルとして自ら“コンパクトパフォーマンスSUV”を謳いつつ披露をされたのが、ここに紹介をするEペイスというわけだ。
Eペイスという名称から、それが世界で好評を博しているFペイスの“弟分”であることは、誰にも容易に想像が付くはず。
実際、全長とホイールベースの値はFペイスのそれよりも明確に小さく、4,39mmmの全長は同じ本国仕様のFペイスよりも351mm、2,681mmのホイールベースは、193mmのマイナスとなっている。
一方、全高がわずか18mmのダウンに留まったのは、フル4シーター モデルとして十分なキャビンスペースの確保を狙ったゆえの事柄でもあるはず。ドアミラーを畳んだ状態での全幅は、Fペイスの2,070mmに対してEペイスでは1,984mmと発表されている。
ただし、「ドアミラーは含まない」という日本式表記での全幅値は、Fペイスの1,935mmに対してEペイスは“未発表”というのが現状。願わくば、日本での使い勝手を考えると、これが1・8メートル台半ば程度までに収まると嬉しいもの。
それにしても、ロンドンのイベントホールで華々しく発表をされたEペイスの実車を目前にすると、そのスタイリングは「何とも流麗でスポーティ」というのが率直なる第一印象。大径シューズを履いた厚いロワボディは、確かにSUVならではの逞しさ。が、一方でまるでクーペのようなサイドウインドウのグラフィックを備え、後端ではキャビン部分が左右から絞り込まれたアッパーボディは、いかにも昨今のジャガー車らしい躍動感に溢れていたからだ。
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ジャガーの新コンパクトSUV「Eペイス」とは (3)
ラインナップ中で唯一の、FFレイアウトベース車
フロントフェンダー上部へと回り込みつつ後方へと引かれたヘッドライトハウジングや、細い水平線とシケイン状の凹みを組み合わせたテールランプのグラフィックなどは、ピュアスポーツカーであるFタイプとの関連性を彷彿とさせるもの。そんなFタイプとの共通イメージは、インテリアデザインではさらに強く感じさせられることになる。
例えば、パッセンジャー側とのあいだがダッシュボード上部からセンターコンソールへと下降線を描くグリップバー状の造形で仕切られ、コクピット感覚が強調された造形や、「ライカ製のカメラレンズにヒントを得た」とデザイナーが語る、センターパネル上の3連空調ダイヤルなどにそれは明確。多くのジャガー車が好んで用いる、イグニッションONとともにセンターコンソール内部からせり上がるデザインではなく、敢えてスティックタイプとしたシフトセレクターも同様だ。
かくして、Fタイプとの近似性という点では、むしろFペイス以上に強調されているのがEペイス。すなわち、すべてが“SUVのスポーツカー”を目指してデザインされたという意図は明らかということだ。
そんなEペイスに採用されたランニングコンポーネンツは、“インジニウム”と愛称が与えられた最新設計によるエンジンを除くと、兄貴分であるFペイスはもちろん、既存のどのジャガー車とも明確に異なるもの。
何となれば2種類のガソリン、3種類のディーゼルと合計5種類のターボ付き2リッター4気筒エンジンと、6段MTもしくは9段ATの組み合わせでなるこのモデルのパワーパックは、ジャガーラインナップの中では唯一の横置きでの搭載。一部グレードに用意される2WD仕様の場合、駆動されるのは前輪。すなわち、それは「ラインナップ中で唯一の、FFレイアウトベース車」ということにもなるわけだ。
一方、それでいながら高出力エンジン搭載の4WD仕様では、湿式の電子制御カップリングを用いてエンジントルクをより積極的に後輪側へと分配し、低ミュー路面上ではドリフト状態の維持をも可能とするなど、“後輪駆動車ライク”なハンドリング感覚を意識したチューニングが行われた、というのは、何ともジャガーの作品らしいストーリー。
同様に、高強度鋼やアルミニウム、軽量複合材などの組み合わせで構築されたボディが、「ルーフやテールゲート、フロンフトフードなど、高い位置にあるものからアルミ化を図って重心高の低下に努めた」というフレーズも、やはり“スポーツカーメーカー”の作品と納得させられる部分ではある。
そのほか、最新のマルチメディアやステレオカメラを用いた運転補助システム、カラーヘッドアップディスプレイなど、ニューモデルにふさわしい装備も数々設定しているのがこのモデル。
ジャガー自らが「スポーツカーのデザインとパフォーマンスを、コンパクトなSUVで実現」と謳うそんなEペイスは、本国では2017年冬からの販売開始が発表されている。