ジャガーFタイプに試乗|Jaguar
Jaguar F-Type|ジャガー Fタイプ
Fタイプに試乗
ジャガー生粋のスポーツカー「Eタイプ」の血を引く「Fタイプ」の登場は、レースで名を馳せたジャガーのブランドイメージを、再び、そして一気にスポーツに引き戻す使命を帯びる。果たしてFタイプは本当にそれだけの「スポーツカーとしてのマインド」をもちあわせているのだろうか? 河村康彦氏が、Fタイプを試す。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
あたらしいジャガーのスポーツカー
スラリと長く伸びたノーズに、後輪の直前位置にレイアウトされた2つのシート──そんな、いかにもFRスポーツカーの典型らしいプロポーションでついに姿を現した量販型 Fタイプは、「前回のフランクフルトモーターショーに出展されたコンセプトクーペ「C-X16」を“オープン化”したら、きっとこんな姿になるだろうな……」とそんな予想をしたとおりの、なんとも魅惑的なアピアランスの持ち主だった。
まるで鏡面のような映り込みでみずからの陰影を強調し、えもいわれぬ迫力をアピールするブラックメタリックも魅力的だが、“ファイアサンドメタリック”を謳う、目のさめるようなオレンジ色に彩られたモデルも大いに新鮮。
その他、国際試乗会の場にズラリと揃えられたどの色のFタイプも、そのいかにも躍動感に溢れたそのルックスが気持ちを昂らせる。
1.9m超の全幅に大きなドアという組みあわせが、日本のタイトな空間下での実用性に一抹の不安をもたらすのは事実だが、そんな“幅方向のゆとり”がなんともグラマラスで、立体感に富んだ「あたらしいジャガーのスポーツカーらしい佇まい」を演じる、大きな原動力となっている事もまた否定できない。
そんなエクステリアに負けるなとばかり、一切手を抜く事なく細部まで入念につくり込まれたインテリアのデザインもまた、Fタイプを“静的”にチェックするうえでの大いなる見所だ。
Jaguar F-Type|ジャガー Fタイプ
Fタイプに試乗(2)
1+1キャビン
高く、幅の広いコンソール部分によって、ドライバーとパッセンジャー側が視覚的にも明確に分離をされたシーティング・レイアウトは、なるほど開発陣がコメントをする“1+1キャビン”というフレーズを納得させるもの。
ゴールドに輝くパドル付きのステアリングホイールの奥のクラスター内には、中央に小さなインフォメーションディスプレイをはさみ、右にタコメーター、左にスピードメーターが見やすくレイアウトされる。
ダッシュアッパーから手前に伸びた“ハンドル”によってパッセンジャー側との空間が物理的に隔てられたセンターパネル部には、上から大型のディスプレイ、空調ダイヤル、そしてトグルスイッチ類がならぶ。
ナビゲーションシステムは、そのタッチ操作グラフィックが旧態依然としてやや使いづらいのが惜しいが、その他空調系の操作性は極めて優れ、走行中でもイージーに操作が可能なのはいかにも機能性が重視をされる“スポーツカー的”でもある。
Fタイプ全モデルが採用の8段ATは、昨今のジャガー車が好んでもちいるダイヤル式ではなく、手前にDレンジ、左に倒してシーケンシャルモードを選択するレバー式セレクターのもち主。ブラインド操作が容易いという点では、なるほどこのFタイプ方式に軍配があがる。
貴重なコンソール部分のスペースを節約する目的もあってか電気式とされたパーキングブレーキや、開閉時間がわずかに12秒で、50km/hまでであれば走行中も開閉可能というソフトトップのスイッチなども、このコンソール部分に集中してレイアウトされている。
Jaguar F-Type|ジャガー Fタイプ
Fタイプに試乗(3)
まずはV6モデルに乗る
デビュー時点でラインナップされたFタイプは、
「XK」や「XJ」など他のジャガー車に搭載されて実績ある最高495psを発する5リッターのV型8気筒エンジン搭載モデルと、それをベースに3リッター6気筒化された380、もしくは340psの最高出力を発する心臓を搭載するモデルという計3タイプ。
このうち、日本に導入されるのはV8モデルと340psを発するV6モデルという“両端の仕様”で、残念ながら「V6S」を名乗る380ps仕様は設定ナシとアナウンスされている。
しかし、まずはそんな340ps仕様でスタートを切ってみると、「もっともベーシックな仕様だと“悲観”する必要はまったくなさそうだナ」と、そんなおもいが第一印象となった。
そう、前述V6Sよりも最高出力は40psのダウンとなるベーシックグレードだが、これが「おもいのほかに速い」のだ。少なくとも日常シーンでは、あとにチェックをおこなったったV6Sとの直接比較でも、大きな力感の遜色は気になる事はないのだ。
メカニカルスーパーチャージャー付きゆえ、スタート直後から太いトルクが立ち上がる3リッターのV6エンジンは、変速レンジが広い上にステップ比が小さい8段ATとの組みあわせで、「一級スポーツカーに十分相応しい加速力」を与えてくれる。
じつは、最高出力ではかくも差がある2タイプのV6エンジンも、最大トルクの差はわずかに10Nm。これが、こうして両者の間に、「日常シーンでは“さほどかわらない感”」を生み出していると考えられる。繰り返すが、5.3秒という0-100km/h加速データが証明をしているように、「ベースグレードでもFタイプは十二分に速いスポーツカー」なのである。
Jaguar F-Type|ジャガー Fタイプ
Fタイプに試乗(4)
ちょっとやりすぎ?
いっぽうで、最高出力の発生回転数が6,500rpmというスペックがしめすように、この心臓がいわゆる“高回転・高出力型”でないのは事実ではある。そんなウイークポイント(?)をカバーするかのように、エキゾーストサウンドは念入りにチューニングをされていて、そのサウンドはまるである種の管楽器が奏でるような“快音”と表現できるもの。
ただし、キャビン内で常に後方から大きめのボリュームで耳に届くそれは、メカニカルな“エンジン音”とは明確に別モノで好みは大きくわかれそう。
ある種「スポーツマフラー装着のロータリーエンジン車」のような乾いた音色は、人によってはちょっとやり過ぎと受け取られる可能性もありそうだ。
トルコン式8段ATの動作は滑らかで、そうした点では“高級車”としての適性も十分。パドル操作時の変速レスポンスはなかなか素早いが、アクセルペダルから車輪までの一体感という点では、やはりDCT車にはごくわずかに及ばない感もある。
今回のV6のテスト車はオプションの20インチシューズを履いていたにもかかわらず、予想と期待を超える快適性を提供してくれた。
もちろん、基本かためのセッティングであるのは間違いないが、ピッチング方向の動きがきれいに排除され、ボディコントロールがしっかり効いた乗り味は好印象。ヒョコヒョコとした動きや強い上下Gとは無縁なので、長距離ツーリングでも疲労感は小さく抑えられそうだ。
また、そうした印象の背景には、新開発されたオールアルミ製のボディ骨格が極めて高い剛性感を実現させ、細かな振動を即座に減衰させていた点も見逃せない。その上で、ステアリング操作によるノーズの動きは素早く、かつ軽快。スタビリティ面での不足もまったく感じられない、と、操縦安定性の観点でも高得点だ。
いずれにしても、そのフットワークの印象はすこぶる優れていた、というのがこのモデル。なるほどその走りは、「ジャガーにとって、みずからの原点回帰を目指したピュア・スポーツカー」という自信のほどが、素直に実感できる仕上がりであったという事だ。
Jaguar F-Type|ジャガー Fタイプ
Fタイプに試乗(5)
ジャガーらしいV8モデル
そんなV6モデルから、シリーズのトップグレードである「V8S」へと乗りかえると、こちらはこちらで、V6モデルが備えていた軽快さにくわえ、さらにさまざまな味わいの濃い1台である事をすぐに教えられた。
V8Sが発表する0-100km/h加速タイムは、前出V6モデルのそれをまる1秒短縮の4.3秒。当然ながら、アクセルペダルを深く踏み込むと同時に背中に実感する加速Gは“強力”を通り越してもはや強烈そのもの。それでいながら、そこに荒々しさよりも洗練された感覚が強くともなうのは、8気筒エンジンゆえの上質なパワーフィールとともに、きめ細かな変速を実現する8段ATのマナーの良さも貢献しているにちがいない。
3,300rpm付近から上での破裂音が強調されたエキゾーストサウンドは、V6モデルよりも“着色感”が薄く、より自然な印象。それも含め、エンジンフィールはこちらのほうが全般により“スウィート”で、どちらがジャガーらしい心臓か? と問われれば、自身としては「やはりこちらのほう」と答えたくなるのが正直なところでもある。
Sグレードには電子制御式の可変減衰力ダンパーが標準採用。テスト車には、やはり標準比でプラス1インチ径の20インチシューズが装着されていたが、その乗り味は前出V6モデルに輪をかけてスムーズでしなやかな。スイッチ操作により、高減衰のダンパーモードをデフォルトとする事も可能だが、乗り味は硬くなりつつも跳ねるような挙動をしめさない点に、そのセッティングの妙が感じられる。
カタログ値では前出V6モデルよりも80kgほど重量が増し、当然それはフロントヘビー寄りになると考えられるこちらのモデルだが、それでもステアリング操作にたいするノーズの動きの軽快さと素直さは失っておらず、自在なハンドリング感覚はほぼそのままだ。
じつは、今回デビューのオープンボディのFタイプでは、トランクスペースがかなり狭く、航空機内持ち込みサイズのキャリーケースの搭載すら難儀をしそうというのが、海外出張の多い個人的にも見逃せないウイークポイント。
となると、「近い将来に追加されるのでは!?」と噂をされるクーペバージョンにたいする期待は、いよいよ高まろうというものでもある。
そう、スポーツカーメーカーである事を鮮明に打ち出す昨今のジャガーが、「50年ぶりの2シータースポーツカー」というキャッチコピーとともにスタートをさせた“Fタイプフィーバー”は、まだホンの序章がはじまったに過ぎないはずなのだ。
「ボクスターと911の狭間のポジション」を狙って世に現れたこのモデルは、世界のスポーツカー界でこれからひと暴れをするにちがいない!
Jaguar F-type|ジャガー Fタイプ
ボディサイズ|全長4,470×全幅1,923(ミラー除く)×全高1,296mm
ホイールベース|2,622mm
トレッド 前/後|1,585/1,627mm
エンジン|2,995ccV型6気筒+スーパーチャージャー
圧縮比|10.5:1
ボア×ストローク|84.5×89mm
最高出力|250kW(340ps)/6,500rpm (FタイプSは280kW(380ps)/6,500rpm)
最大トルク|450Nm/3,500-5,000rpm(FタイプSは460Nm/3,500-5,000rpm)
トランスミッション|8段クイックシフト
変速比|
1速 4.714
2速 3.143
3速 2.106
4速 1.667
5速 1.285
6速 1.000
7速 0.839
8速 0.667
減速比|3.15(FタイプSは3.31)
重量|1,597kg (FタイプSは1,614kg)
0-100km/h加速|5.3秒(FタイプSは4.9秒)
80-120k/h加速|3.3秒(FタイプSは3.1秒)
燃費|9.0ℓ/100km(FタイプSは9.1ℓ/100km)
CO2排出量|209g/km(FタイプSは213g/km)
Jaguar F-type V8 S|ジャガー Fタイプ V8 S
ボディサイズ|全長4,470×全幅1,923(ミラー除く)×全高1,307mm
ホイールベース|2,622mm
トレッド 前/後|1,585/1,627mm
エンジン|5,000ccV型8気筒+スーパーチャージャー
圧縮比|9.5:1
ボア×ストローク|92.5×93mm
最高出力|364kW(495ps)/6,500rpm
最大トルク|625Nm/2,500-5,500rpm
トランスミッション|8段クイックシフト
変速比|
1速 4.714
2速 3.143
3速 2.106
4速 1.667
5速 1.285
6速 1.000
7速 0.839
8速 0.667
減速比|2.56
重量|1,665kg
0-100km/h加速|4.3秒
80-120km/h加速|2.5秒
燃費|11.1ℓ/100km
CO2排出量|259g/km