ベントレー コンチネンタル GT スピードに試乗|Bentley
Bentley Continental GT Speed|ベントレー コンチネンタル GT スピード
日本上陸を果たした
コンチネンタル GT スピードに試乗
「コンチネンタル GT」ファミリーの登場以来、ノーマルモデルたる「コンチネンタル GT」と人気を二分していた「コンチネンタル GT スピード」。2011年に、2代目へと移行した同ファミリーにも、ついにこの「GT スピード」がくわわり、日本への上陸も果たした。ここでは、この「コンチネンタル GT スピード」の性格を解き明かしつつ、V型8気筒エンジンを搭載したニューメンバー「コンチネンタル GT V8」もくわわり、充実を見せる2代目「コンチネンタル GT」ファミリー、それぞれの個性を大谷達也氏が捉えなおす。
Text by OTANI Tatsuya
Photographs by ARAKAWA Masayuki
演出は控えめに
名は体をあらわす。ベントレーはモデル名でその概要が知れる。
ここに紹介する「コンチネンタル GT スピード」は、コンチネンタルシリーズのクーペボディ(=GT)の、そのまたさらにスポーツバージョン(スピード)である。
では、“スピード”というグレード名の付かないスタンダードな「コンチネンタル GT」
(以下、“ノーマル”と呼ぶ)とどこがどうことなるのか?
エンジンは基本的にノーマルとおなじ6.0リッターW12ツインターボ。そのECU(エンジンコントロールユニット)を変更し、専用のエグゾーストシステムを採用するなどしてプラス50psの最高出力625psを獲得した。ギアボックスはノーマルとおなじZF製の8段ATだが、2007年に発表された先代のコンチネンタル GT スピードは6段ATだったので、この点は大きく進歩したといえる。
サスペンションのチューニングはさらに入念で、車高が10mm下げられたエアサスペンションのバネレートは、フロントで45パーセント、リアも33パーセント締め上げられたほか、リアのアンチロールバーは剛性を53パーセントもアップ。タイヤも275/40ZR20から275/35ZR21へとサイズアップされている。
それでも……である。
こうしたお化粧直しはベントレー コンチネンタルの圧倒的な存在感の前ではなきに等しい。だから、たとえ目の前をコンチネンタルシリーズの2ドアクーペが通り過ぎたとしても、多くの人々の記憶に残るのは「お、ベントレーだ!」という驚きであって、「おや、いまのはコンチネンタル GT スピードじゃないか?」という疑問ではないだろう。
同様のことはコンチネンタルGT V8のインプレッション
でも記したが、慎ましさを尊ぶイギリス人はまたしても控えめな演出を選択したといえる。
Bentley Continental GT Speed|ベントレー コンチネンタル GT スピード
日本上陸を果たした
コンチネンタル GT スピードに試乗(2)
スペック上の差はわずか
50ps増しとされたパワーだって、そもそも最高出力が600ps近かったことをおもえば、その10パーセントにも満たない数字である。したがって、アウディでいえばノーマルとRSのちがいには遠く及ばず、ノーマルとSにも匹敵しないほどの差でしかない。
それでは、「コンチネンタル GT スピード」は、マーケティング上の理由から無理やりひねり出された「あってもなくても構わないモデル」なのだろうか? いや、決してそんなことはない。なぜなら、ベントレー史上最速の330km/hというトップスピードをマークするコンチネンタル GTの最新モデルは、ノーマルとも「コンチネンタル GT V8」とも大きくことなる独自の世界観をつくり出しているからだ。
より高い速度域にあるクルマ
コンチネンタル GT スピードで街を走りはじめる。最初に気づくのは、ダンピングのよく効いた、どっしりとした乗り心地である。ただし、それを“硬い”と表現したくならないのは、21インチタイヤからハーシュネスの類いが一切伝わってこないからだろう。このため、路面からの衝撃はきれいに角がそぎ落とされ、不快な印象を与えない。
そのいっぽうで、ハンドリングのレスポンスは確実に高まっている。特に、4段階に切り替えられるエアサスペンションのセッティングをもっともハードな“スポーツ”にすると、ノーズはステアリング操作に即応してシャープに向きを変える。ノーマルよりも一段と高い速度域を想定した足まわりに改められていることは間違いない。
Bentley Continental GT Speed|ベントレー コンチネンタル GT スピード
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コンチネンタル GT スピードに試乗(3)
地を這って進む
発進のマナーもかなりシャープだ。最高出力の差が50psしかないことがにわかには信じられないほど、コンチネンタル GT スピードは勢いよく発進していく。おそらく、スロットルの踏みはじめ付近におけるエンジン出力の立ち上がりがノーマルとはことなり、鋭く切り立っているのだろう。
さらに、スロットルを強く踏み込むとエグゾーストサウンドが一段と高まり、ドライバーの聴覚を刺激する。排気系にバイパスバルブを仕込んでおく、最近のヨーロッパ製ハイパフォーマンスカーにありがちな仕掛けのせいだろうが、その効果はおもいがけず強めで、「気品あるベントレーだったらここまでやらなくてもいいのでは?」とさえおもえる。
高速道路を走ると、締め上げられたサスペンションの恩恵がはっきりと意識される。ノーマルよりもあきらかに上下動が小さく、地を這って進むような印象を与えるのだ。最高速度付近で125kgのダウンフォースを生み出すというエアロダイナミクスの進化も、この安定性に寄与しているのかもしれない。
コンチネンタル GT ファミリーの性格
「コンチネンタル GT スピード」がかもしだすテイストは、おなじスポーティでも「コンチネンタルGT V8」のように山道で軽快なハンドリングを楽しむためのものとは微妙にことなる。おそらく、「コンチネンタル GT スピード」がもっとも得意とするのは、高速道路をハイスピードで延々と走りつづけるようなシチュエーションだろう。
つまり、ベントレー本来のグランドツアラーという性格をさらに強めたのが「スピード」であり、メルセデス・ベンツでいえばAMGに近いポジショニングといえる。
これにくらべると、「コンチネンタルGT V8」はよりスポーツカー的だ。それも、有り余るパワーで風を切り裂き突進するグランツアラーというよりは、バランスの良さでコーナリング性能を高めたライトウェイトスポーツカーのようである。
いっぽうで、ノーマルの「コンチネンタル GT」はグランドツアラーのポテンシャルを備えながらも、よりラグジュアリーなドライビングが楽しめる贅沢なパーソナルクーペと説明できる。
これまた「コンチネンタル GT V8」を試乗したときにも感じたことだが、ベントレーの各モデルは外観や基本コンポーネンツに大きなちがいはなくとも、それぞれの味付けは明確にことなっている。言い換えれば、コンチネンタルという言葉はハードウェアのファミリーを指しているだけで、それぞれが唯一無二の世界観を形成していることになる。
だから、見た目に惑わされてはいけない。購入する際には、じっくりとテストドライブをして、あなたにぴったりとあったコンチネンタルを見つけ出して欲しい。
Bentley Continental GT Speed|ベントレー コンチネンタル GT スピード
ボディサイズ|全長 4,806 × 全幅 1,944 × 全高 1,394 mm
ホイールベース|2,746 mm
トレッド 前/後|1,667 / 1,663 mm
最小回転直径|11.3メートル
トランク容量(VDA値)|358 リットル
重量|2,320 kg
エンジン|5,998cc W型12気筒 DOHC ツインターボ 48バルブ
最高出力| 460 kW(625 ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|800 Nm / 2,000 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|4WD
サスペンション 前|4リンクダブルウィッシュボーン コンピューター制御式セルフレベリング エアサスペンション
サスペンション 後|台形マルチリンク コンピューター制御式セルフレベリング エアサスペンション アンチロールバー付き
タイヤ|275/35ZR21
ブレーキ 前|405mm ベンチレーテッドディスク(420mm クロスドリルド カーボンシリコンカーバイドをオプション設定)
ブレーキ 後|335mm ベンチレーテッドディスク(356mm クロスドリルド カーボンシリコンカーバイドをオプション設定)
最高速度|330 km/h
0-100km/h加速|4.2 秒
燃費(EUサイクル 混合)|14.5 ℓ/100km
CO2排出量|338 g/km
燃料タンク容量|90 ℓ
価格|2,490 万円