アウディA1スポーツバックに試乗|Audi
Audi A1 Sportback 1.4 TFSI|アウディ A1 スポーツバック 1.4 TFSI
コンパクトでもプレミアム
アウディ A1 スポーツバックに日本で試乗
「アウディ A1」は、サイズはコンパクトであっても、プレミアムな品質を求める、わがままなユーザー欲求にこたえるモデル。アウディのエントリーモデルとしての側面はもちろんのこと、大きなクルマは持て余してしまう、というライフスタイルにも向けられている。その「A1」に日本で待ち望まれていた5ドアモデル「A1スポーツバック」が追加された。
Text by OTANI Tatsuya
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko
A1は5ツ星ホテルのようだ
「イメージは3ドア版とあまりちがわないな」
アウディの最新モデル、「A1スポーツバック」を見たときの、それが第一印象だった。
昨年デビューした「A1」は全長4mを切るアウディ兄弟の末弟。フォルクスワーゲン「ポロ」と主要コンポーネントを共用しているものの、A1は内外装だけでなく走りの味までアウディ・テイストで仕立て直されており、プレミアムコンパクトカーと呼ぶに相応しい質感を備えている。別にポロが安っぽいなんていうつもりはこれっぽっちもないし、実用上不足している部分だって何ひとつない。普段の足として使うなら、いまでもポロは私の「欲しいクルマ・トップ3」に間違いないランクインする。
でも、やっぱりA1はポロよりもひとクラス上の存在感を放っている。デザインだって、どちらかといえばすっきりまとめられたポロにたいし、A1はアーティスティックにデザインされていることが嫌みでない範囲で伝わってくる。インテリアにしても、「おお、いい素材を使っているね」というポロの印象が、A1では「あれ、これは相当に高級な素材なんじゃないの?」という具合に変わってくる。ホテルにたとえれば、4ツ星と5ツ星のちがい、かもしれない。4ツ星と5ツ星のちがいって、実は意外と小さい。でも、その小さな差のなかに決定的なラグジュアリー感のちがいが潜んでいる。ポロとA1を乗り比べると、いつもそんなことを考えさせられる。
そんなA1に、5ドア版のスポーツバックがくわわった。いまや「A5」にも「A7」にもラインナップされているスポーツバックだけれど、A1にもっとも近いのは「A3スポーツバック」。もっとも、こちらはユーティリティ性が徹底的に追求されていて、デザイン的にはスポーツワゴンと呼んだほうがしっくりくる。だから、A1にスポーツバックがくわわると聞いたときにも、似たような関係になるんじゃないかと想像していたのだが、この予想は見事に外れた。
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アウディ A1 スポーツバックに日本で試乗(2)
プレミアムなオプションが充実
A1とA1スポーツバックはホイールベースだけじゃなく全長までまったくおなじ。ボディのちがいは、スポーツバックではドアがふたつ増えて5ドアになることと、ルーフが後方に向けてより長く伸ばされたデザインになっていることの2点だけ。ただし、ルーフ周りのデザインに“無理矢理”な印象はなく、視覚的なバランスのよさは相変わらず。この辺が、3ドア版とあまりイメージがちがわない理由なのかもしれない。
パワートレインも3ドア版とまったく同じで、122psを発揮する1.4リッターTFSIと7段Sトロニックが組み合わされる。ダウンサイジングコンセプトを採用した最新モデルらしく、低速域からでも踏めばすぐにトルクが沸き出し、テンポのいい加速感が得られるのが特徴。しかも、街中で軽くスロットルを踏み込んでいる範囲なら、2,000rpm前後だけを使ってどんどんシフトアップしていき、クルマが「決してガソリンを無駄遣いしまい」と強く決心している様子がうかがえる。でも、だからといって加速がもどかしいことはなく、ドライバーのイメージどおりの機敏さで走ってくれる。そういえば、A1スポーツバックはアイドルストップ機構も装備して燃費は17.8km/ℓ(JC08モード)。おかげでエコカー減税の対象車になっていて、取得税やら重量税が9万7000円も割り引かれる。これも、ちょっと嬉しいポイントだ。
キャビンに乗り込むと、その華やかな雰囲気にやや圧倒されるかもしれない。繰り返しになるけれど、A1スポーツバックは全長4m以下のコンパクトカー。日本車でいえばトヨタ・アクアよりさらに小さいサイズなのだ。でも、室内スペースがコンパクトなだけで、インテリアのラグジュアリー感は、極端な話、「A8」と比べてもさして見劣りしない。たとえば、オプションで用意されるレザーシートは、ベース価格200万円台の輸入車ではこれまで見られなかったくらい質感は高いし、その色使いにしても、キャビン全体を黒一色に塗った単調なものではなく、様々な色のコントラストが標準もしくはオプションで用意されていて、選ぶ楽しさがある。もちろん、オプションを装着すればその分、価格は上昇するけれど、こうしたオプション装備の充実ぶりこそ、本当の意味でのプレミアムカーの証明といえる。
おなじオプションでいえば、試乗車に装着されていたスポーツサスペンションの仕上がりにも目を見張らされた。低速域でも決してゴツゴツすることはないのに、どんなに飛ばしても音を上げないくらいの強靱さを持っているのだ。高速道路を巡航中に路面のうねりでぽーんと煽られても、車体をフラットな姿勢に保ち、ロードホールディングも確保しながら、それこそ矢のように突き進んでいく。ボディやサスペンションの剛性感が高いことも、ドライバーに強い安心感をもたらすひとつのポイントだろう。3ドア版のA1とスポーツサスペンションの味つけがことなるのか、またはA1全体の足回りの設定が変更になったかはまだ確認できていないが、いずれにしても、これまではドイツ車のなかでもDセグメント以上でなければ味わえなかった高速スタビリティが、このA1スポーツバックでは感じ取ることができた。
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アウディ A1 スポーツバックに日本で試乗(3)
5ドア化も上々の仕上がり
5ドアの使い勝手も上々。まず、フロントドアがコンパクトになって開け閉めが容易になったうえ、当然のことながら後席へのアクセス性は格段に向上している。A1スポーツバックの眼目である後席の居住性にしても、3ドア版では頭が天井に触れんばかりだったものが、3cmほどのスペースを残すまでに改善されていた。ルーフ形状を手直しした効果は確かにあったというべきだろう。
ただし、細かいことをいうと、3ドア版のA1よりもなぜかシートバックが立ち気味になっていた。このため、ヘッドクリアランスは限られていても、むしろ3ドア版のA1のほうがゆったりと腰掛けられるような気がしたのだ。「ひょっとして、3ドア版よりも広い荷室スペースを確保しようとしたのか?」と思って諸元表を見てみると、A1もA1スポーツバックも270ℓでおなじ。だから、A1スポーツバックでリアのシートバックを立ち気味としたのは、後席の位置をやや後ろ気味としてリアのニースペースを拡大するいっぽう、3ドア版と同等の荷室容量を確保するのが目的だったのでは? なんて勘ぐりたくなる。とはいえ、せっかくの5ドア版なのだから、後席の居住性を優先するのが本筋だろう。どうしてもたくさん荷物を積みたかったら、後席を折りたためばいいのだから。
後席の居住性は今後の改良を期待するとして、アウトバーンで育ったドイツ車らしい高速巡航性能、コンパクトでもプレミアムカーと呼ぶに相応しい内外装のクォリティ、そしてダウンサイジングコンセプトを中心とする最新の環境技術を採用するなど、A1スポーツバックは都市部をベースに生き生きと暮らす人々を満足させるコンパクトカーに仕上がっていた。アウディが用いる「アーバン・エゴイスト」という言葉は、なんだか性格の悪そうな人が連想されてしっくりこないけれど、こんなクルマと暮らしていたら、おもわず微笑がこぼれる機会がいままでよりほんの少し増えそうな気がする。
Audi A1 Sportback|アウディ A1 スポーツバック
ボディサイズ|全長3,970×全幅1,745×全高1,440mm
ホイールベース|2,465mm
トレッド 前/後|1,465/1,460mm
重量|1,220kg
エンジン|1.4リッター4気筒直噴ターボエンジン
最高出力|90kW(122ps)/5,000rpm
最大トルク|200Nm/1,500-4,000rpm
燃費|17.8km/ℓ(JC08モード)
CO2排出量|122g/km
トランスミッション|7段Sトロニック
価格|293万円