Audi A8|アウディ A8 試乗
Audi A8|アウディ A8
大きく進化した最上級サルーンに試乗(1)
ドイツ車のダウンサイジングコンセプトは、最上級サルーンにまで。新型アウディA8は4.2リッターV8にくわえて、3リッターV6もラインナップに用意。静粛性、快適性、走行性、そして経済性と、あらゆる面で卓越した特徴をもつ。ジャーナリスト 小川フミオが過去2モデルとの比較をふまえ、進歩したA8の実力について語る。
文=小川フミオ
A8はアウディのコアなファンのためのクルマ?
新型アウディ A8は、本国では2010年に発表された肝いりの1台。アルミニウムを主とした軽量シャシーに、フルタイム4輪駆動のクワトロシステムを組み合わせた成り立ちは、歴代のA8の路線を踏襲。かつ、その技術に磨きをかけシャシー剛性を高め、走行性の向上を図るなど、全体的に洗練度が上がっている。ここでは対話形式で、A8の価値はどこにあるか、掘り下げる。
――大型サルーンは、燃費経済性が叫ばれる世のなかでも、需要がなくならないマーケット。日本だとレクサス LSに相当するセグメントでは、ドイツ車が強い。メルセデス・ベンツ SクラスとBMW 7シリーズ、くわえてアウディ A8。ただアウディはこの3車のうちでは、もっとも意欲的なメカニズムを採用していながら、販売面では苦労していたのも事実。
A8は2010年に3代目になったが、過去のふたつのジェネレーションは、たしかに意欲的なのだけれど、乗り心地とか操縦性とかの面で、完全にはしつけていなかったような感がありました。どうもいまひとつ、好きになれなかった。
――たしかに、硬い、という印象が強い。高価なアルミニウムの押し出し材を多用した、アウディスペースフレームなど、作りに凝っていて、ある種、アウディという技術志向のメーカーの象徴的存在だったが、実際は、アウディのコアなファンのためのクルマ、という印象も。
ところが、新型A8は格段に進歩している。おどろいた。
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大きく進化した最上級サルーンに試乗(2)
3リッターエンジンの採用という進歩
――進歩、というのは?
ふたつの意味がある。ひとつは、低炭素化社会の実現など世のなかの欲求にどれだけ応えているか。もうひとつは、純粋にクルマとして、そのセグメントで求められているものを、きちんと身につけているか。新型A8には、全長5メートルを超える大型車として、できるだけのことをやろうという気概を感じさせるモデルが設定されたのは見るべき第一点。それが3リッターエンジンの採用。
――意外なほど小排気量、と話題になったパワープラント。エンジンを高効率化、つまり、排気量を小さくする一方、ターボチャージャーやスーパーチャージャーで過給してパワーを上げ、全体としては燃費と性能を両立させるやりかたを、ダウンサイジングコンセプトという。3リッターエンジンの採用もまさにそれということか。
小さくするだけなら、どのメーカーでもできるが、注目すべきは、じつによく走ること。低回転域から効くスーパーチャージャーが、2,500rpmから420Nmもの強大なトルクを発生するおかげだ。
しかし新型A8で感心したのは、パワーの面だけでない。ハンドリングがよい。ノーズの重さを感じさせることなく、ハンドルの切れ角への反応がよく、シャシーと一体になったボディが瞬時に向きを変えてゆく。このナチュラルな感覚は、かつてなかったものだと思う。
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大きく進化した最上級サルーンに試乗(3)
高効率化により3リッターモデルで9.2ℓ/kmを記録
――ハイブリッド技術も採用しつつも、あくまで本流はいまのところ従来のエンジンにこだわるのがドイツのメーカー。高速走行が日常的だと、ハイブリッドシステムで大型の電気モーターや大容量のバッテリーを積むのは、かえって重量面や操縦性の面で不利になりかねない、という交通事情のちがいからくるもの。市街地走行と高速走行とを、日本以上に明確に切り離して考えているのがドイツ、それに欧州。
そのなかで、いろいろ考えている、高速で巡航中にエンジンがトランスミッションと切り離されてアイドリング状態になって燃費に寄与したり、エンジン自体が冷えすぎて燃費が悪くなるのを防いだりと、現代の技術を採り入れている。3リッターモデルが、高速と街中のミックスモードで実燃費9.2km/ℓにいったのにも感心した。
ハイレベルな乗り心地、静粛性
――高級車としてのレベルはあがったのか?
あがっている。ひとつは乗り心地がよりよくなったこと。かつてアウディには、ふたつのネガがあった。ひとつは、エンジンを前車軸より前に搭載していることからくるピッチング。とくに大型エンジンの場合、高速でフロントが上下に揺れるのを感じてしまうほどだった。もうひとつは、それを防ぐ意味もあって、足まわりを硬くしすぎていたこと。つまりサスペンションの設定がハードで、ハンドリングには寄与しても、乗員は路面からの突き上げなど、あまり愉快でない気分になることもあった。ところが新型A8はみごとにフラット。気持ちいい!と声を大にして言いたくなるレベルの高さ。ここまで到達したのに感心した。
――このところ登場するアウディは総じて乗り心地の評価があがっているようだ。
たしかにプラットフォームの一部を共有するA7 スポーツバックもよい。新型A8はさらによいと感じた。アルミニウムに超高張力鋼板を組み合わせて軽量化と剛性を両立させた新型シャシーの恩恵も大きいのだろう。さらに感心したのは静粛性の高さ。標準ホイールベースでも2,990mmと長いのだが、後席乗員のつぶやきも前席でちゃんと聞き取れる。速度が上がっていっても、静粛性が乱れることはなかった。3リッターでも4.2リッターでもおなじで、高速での室内は、ディーゼルエンジン?と思えるほど静かだ。
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大きく進化した最上級サルーンに試乗(4)
ドライバーに信頼感をあたえてくれるクルマ
――A8 3.0 TFSI quattro(956万円)と、A8 4.2 FSI quattro(1171万円)、どっちがよいと感じたか?
どちらにも個性がある。それがまた新型A8のよさだが、個人的には前者でいいと思った。通常、大型エンジンはノーズが重くなって俊敏性が損なわれるものだが、新型A8では、意外なほどそれが感じられない。つまり4.2リッターV8でも、取りまわしがじつに気持ちがいい。すこし厳しくみると、V8は3,000rpmの手前で一瞬だが力が細くなる、いわゆるトルクの“谷”が感じられる。でもそれを瑕疵とは感じられない。ごく低回転域からわき出てくる強大な力は、スーパーチャージャーで過給された3リッターV6とはまた別の世界を味わわせてくれるからだ。
――新型A8はSクラスや7シリーズに匹敵する魅力をもち得たか。
もち得ている。高速での疲労感の少なさはメルセデスの持ち味だが、4つのタイヤを駆動して矢のように走るA8も、横風などの外乱に強く、安定して走れる能力では卓越している。東京と名古屋を日帰り往復しても、疲労感はまったくない。スポーティなハンドリングはBMWの持ち味だが、アウディは一時期のようにいたずらにBMWに迫ることはやめたようで、独自の味を出すことで、別の魅力を得ることに成功している。1mm単位でクルマを操るような超のつくスポーティさはないが、クルマとの一体感を感じさせ、同時に、クルマへの信頼感が増すような、安定感をドライバーにあたえてくれる。それがクルマとよく合っている。その意味で、今回の新型A8には“もっとも完成された”という賛辞を送りたい。
Audi A8 3.0 TFSI quattro|アウディ A8 3.0 TFSI クワトロ
ボディサイズ|全長5,145×全幅1,950×全高1,465mm
ホイールベース|2,990mm
車両重量|1,930kg
エンジン|3リッター V型6気筒DOHCスーパーチャージャーつき
最高出力|213kW(290ps)/4,850-6,500rpm
最大トルク|420Nm(42.8kgm)/2,500-4,850rpm
トランスミッション|電子制御8段AT
10・15モード燃費|9.2km/ℓ
CO2排出量|252g/km
駆動方式|4WD
価格|945万円
Audi A8 4.2 FSI quattro|アウディ A8 4.2 FSI クワトロ
ボディサイズ|全長5,145×全幅1,950×全高1,465mm
ホイールベース|2,990mm
車両重量|1,940kg
エンジン|4.2リッター V型8気筒DOHC
最高出力|273kW(372ps)/6,800rpm
最大トルク|445Nm(45.4kgm)/3,500rpm
10・15モード燃費|8.3km/ℓ
CO2排出量|280g/km
駆動方式|4WD
価格|1160万円