3台の4ドアスペシャリティを大比較試乗
CAR / IMPRESSION
2015年3月6日

3台の4ドアスペシャリティを大比較試乗

Audi A7|アウディ A7

Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY|

メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG

3台の4ドアスペシャリティを大比較(1)

いわゆる4ドアクーペブームの火つけ役となったと言っても過言ではない「メルセデス・ベンツ CLSクラス」の初代が誕生したのが2005年。2011年2月には2代目、5月にはCLSと直接のライバルと目されるアウディ A7 スポーツバックが日本上陸を果たした。先日、この3台のテストドライブをおこない、当日ドライバーを務めてくれた渡辺敏史氏によるインカーレポートムービーをお伝えしたが、今回はその本編。各モデルの真価とは如何なるものなのだろうか? ぜひムービーとともに参考にしていただきたい。

文=渡辺敏史写真=荒川正幸

インカーレポートムービーはコチラ!

実用性、正装感、走りを融合させた3台

Eセグメントはそもそも、メルセデスならEクラス、BMWなら5シリーズ、アウディならA6と、プレミアムを標榜する各社の中核車種がひしめいており、EUにおいてその需要の約半数はフリート、すなわち法人が支えている。ヨーロッパの企業では報酬の一部として通勤・移動用のクルマを付与することが慣例化しており、その多くにEセグメントが選ばれているという寸法だ。

それゆえ、自家用車としてEセグメントを使う向きには、よりパーソナル感の強い仕立てが望まれていたのも事実である。かといってクーペでは実用性が低く、ワゴンやSUVでは正装感にとぼしいとあらば、日本人には懐かしくもある4ドアスペシャリティというコンセプトがクローズアップされるのも自明というわけだ。この流れをいちはやく汲んだのがメルセデスの初代CLSであり、2005年の発売以来、一定の成功を収めたこともあって選択肢がじわじわと増えてきた。直近ではBMWの参入も噂されるなど、今、かなりホットなカテゴリーであることはまちがいない。

Audi A7 Sportback|アウディ A7 スポーツバック|01

アウディ A7 スポーツバック

Audi A7 Sportback|アウディ A7 スポーツバック|02

一台目は、流麗さ、ユーティリティを兼ね備えるA7

CLSのストレートなライバルとして名乗りを上げたアウディ A7は、彼らがいうところのスポーツバックというボディ形状を採用している。リアウィンドウからノッチにかけて一直線にスラントしたファストバッククーペのフォルムをもちながら、ユーティリティ的にはサッシュレスの4ドアセダンであり、荷室へのアクセスにハッチゲートを用いるというそれは、彼らが先のA5のスポーツバックでみせた手法をトレースしている。

天地に低いサイドウインドウからは穴ぐらのような収まり感を思い浮かべるが、A7の居住性は思いのほか悪くない。着座高も低めに採れる前席は、ピラーの角度もよく吟味されていて視界に大きな遮りはなく、セダン比で若干潜り気味かという程度の姿勢でステアリングを握ることができる。後席は着座高が低めで前方の見わたしがやや悪いが、それはCLSも然りで、このカテゴリーでは容認すべきこと。着座高も180センチメートル級が座って頭部に触れないギリギリのところが保たれており、ショーファーとしても使えないわけではない。ただし後席サイドウインドウの開口はサッシュレスの優雅さを優先したため、中途半端に留まる。

Audi A7|アウディ A7

Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY|

メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG

3台の4ドアスペシャリティを大比較(2)

低回転域から太いトルクを生みだす3リッターV6

A7 スポーツバックのプラットフォームおよびメカニカルコンポーネンツの多くは、先日、日本デビューを果たした新型A6のそれを先取りして用いている。FFベースのAWDにして、エンジン配置の後方化で重量配分の適正化を、アルミ材を大胆に使って車重の軽量化を意識し、駆動可変配分のクワトロシステムは前40:後60の基本駆動配分と旋回性寄りの設定。さらにクラウンギアを用いた新型のセンターデフや、ブレーキベクタリングシステムの採用で敏捷性も確保……と、これらは新型A6にも受け継がれる要素だ。搭載されるエンジンはスーパーチャージャーつきの3.0リッターV6で、300psの最高出力もさることながら、44.9kgmのトルクを2,900rpmから発生、それ以下の低回転域でも図太いトルクをもたらす扱いやすい特性がフォーカスポイントでもある。

実際に走ってみても、1,900kgの車重にたいしてこのエンジンの動力性能は十分以上だ。とくに0-100km/h領域では、スーパーチャージャーならではの低回転トルクにクワトロのトラクション能力がくわわり、4リッターV8エンジン級のレスポンスをみせてくれる。一方で、このエンジンは6,000rpmオーバーまでタレを感じさせずスキッとまわりきる特性も兼ね備えており、A7のスポーティなイメージの足を引っ張ることはない。一方で街中では再始動も至極スムーズなスタートストップシステムが、燃費だけでなく静粛性にも貢献するなど、ドライブトレインの洗練度は十分車格に見あったものを備えている。

Audi A7 Sportback|アウディ A7 スポーツバック|04

アウディ A7 スポーツバックに搭載される3.0リッターV6エンジン

アウディとして志すべきライド感

が、A7 スポーツバックのウリは、キャラクターが鮮明化したフットワークにある。クワトロシステムを擁するアウディならではの濃厚なロードコンタクト感を、いかに安心感を削ぐことなくスッキリと軽やかにドライバーに伝えるか。個人的に、昨今のアウディは、とりわけラージクラスにおいてその方向性を模索していたように思う。現行のA6などはその模索が運転実感の曖昧さとしてもあらわれていたが、あたらしいA8、そしてこのA7 スポーツバックあたりでは、四肢を路面にしっかり接地させながら確実に車体を前に推し進める一方で、操舵の手ごたえ感やペダル類の応答性、ドライバーへの情報伝達の明瞭さという点において大きな進歩がみられる。

今回A7が履いていたのはオプション装備の10パラレルスポークのアルミホイール

アウディ A7 スポーツバック

端的に言えば操作感のつじつまがあったおかげで一体感が高まったというか、あるいはあらゆるチューニングがおなじ方向を向きはじめたというか。その先にある、ハイクラスのアウディが志すべきメルセデスともBMWともちがうライド感が、確実に掴めてきたと言えるだろう。

Eセグメントとはいえ、その車格は上位にかぎりなく近いA7は、はじめての峠道でも自信をもって飛ばせるクルマとなった。逆にスローな速度域でもしなやかな乗り心地に支えられながら、なかに詰まったその精緻さを慈しむように味わえるクルマでもある。日本市場においてアウディが、プレミアムのポジションを確固たるものにするためにはミドル~ラージクラスの拡販が必須だ。そのためにも絶対にハズせない新型A6が、ライバルを脅かす存在になりえていることは、このA7の仕上がりなら確信できる。

Audi A7|アウディ A7

Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY|

メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG

3台の4ドアスペシャリティを大比較(3)

ラインナップ屈指のプロポーションをもつCLS

メルセデスの型式名称において、頭文字のCはクーペを指す記号だ。同様にセダンにはWが、ワゴンにはSが与えられる。ちなみに二代目となるCLSに与えられているそれはC218。すなわち、現代的な4ドアスペシャリティのカテゴリーを切り拓いたといっても過言ではないクルマとて、メルセデスにとっては純然たるセダンに属するものではないというわけだ。

それほどの拘りをもつがゆえ、CLSはセダンと一線を画する分類を背景に、メルセデスらしからぬ大胆なデザインが与えられてきた。二代目もそれは継承され、低い車高に薄いキャビンと、Eクラスとはまるでちがったプロポーションが守られている。

くわえて、クラシックロードスターのキックアップしたフェンダーを思わせるサイドのキャラクターラインをはじめ、初代以上にキャッチーなディテールを盛り込むなど、意匠の攻めっぷりはメルセデスのラインナップでも屈指といえるだろう。

Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY| メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー|02

メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー

A7にたいする長所と短所

たいして車内の収まりが想像以上に常識的なのも初代譲りと言えばそうである。若干背もたれを寝かせ気味に配した後席の着座感はA7 スポーツバックと同様だが、乗り込みやすさや頭上や側方の開放感、ウィンドウの開口面積・形状などはこちらのほうがよく練られている。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG|01

メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG

ただしこちらは独立したトランクルームをもつ4ドアゆえ、荷室の容量や使い勝手という点ではおよばない。ガチンコのライバルゆえ、一長一短はお互いが一番良く知るところだろう。

一長一短といえば、アウディはその静的質感において他を圧しつづけているが、その点において新型CLSも相当に力を注いできた。その甲斐あってA7 スポーツバックにたいしても著しく見劣りするところはない。くわえて先進的なドライバーアシストデバイスの充実においてもカテゴリーをリードするにいたっている。

デザイン、質感、そしてセーフティテクノロジー。これらは今後Eセグメントにおいて無視できない比較要素の三本柱となるだろう。

Audi A7|アウディ A7

Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY|

メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG

3台の4ドアスペシャリティを大比較(4)

適度な粘り気を帯びたステアリングフィール

今回、新型CLSの試乗車にはベーシックな350 ブルーエフィシエンシーだけでなく、ほぼ同時の上陸となったCLS 63 AMGも用意された。2台のあいだにはざっとみて倍に近いほどの火力差があるが、その乗り味は基本的におなじと思ってもらっても過言ではない。クルマそのもののカテゴリーはイロモノ的かもしれないが、そのライド感はまごうかたなきメルセデスのそれである。

昨今のメルセデスは相対的に操作系が軽く、とくに停止から極低速域でのステアリングフィールは、以前のそれを知る身には頼りなく思えるほどかもしれない。これは燃費低減を目的としたアシストの電動化にくわえて、アウディやBMWといったライバルの動向を鑑みてのことでもあるのだろう。

Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY| メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー|03

CLS 350には3.5リッター V型6気筒エンジンを搭載。

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG|03

CLS 63 AMGに積まれる5.4リッターV型8気筒エンジン

しかしそれも30~40km/hの実用域を過ぎれば消散し、適度な粘り気を帯びた、らしいステアリングフィールとなる。ブレーキやアクセルの操作力やストローク感は絶妙で、はじめてでも癖めいたものを感じることがない。パッと乗せられてもアクセルの過敏な反応やブレーキの唐突な効きにドキッとさせられることもなく、スルスルとなめらかに走り曲がり停まらせることができる。軽く500ps超のAMGですら、そう手懐けているところに彼らのクルマづくりの分厚い哲学が感じられる。

安心であるがゆえの速さ

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG|04

メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG

飛ばして伝わるのは強烈な直進安定性とともに徹頭徹尾のフラットなライド感、そしてコーナリング中であろうが地面にへばりつくように車体を沈めこむブレーキと、ここでも根底にあるのは乗員への安心感だ。その兆候が顕著な350はまだしも、AMGともあればもう少し刺激に満ちた存在でもいいのでは……と、ライバルを横目に見ながらそう思う向きもあるだろう。が、安心であるがゆえの速さという一貫したポリシーを彼らが譲ることはない。結果的に街乗りでももてあまさずロングツーリングでも疲れず、仮にサーキットスピードでも決してネムさを感じることなく、高いコントロール性で自在にラインを刻むことができる。

踏めば荒ぶれたV8サウンドと爆発的なパワーで車体を弾き出すAMGをして、その躾があるからこそ、普段のアシとしてそれを使うひとが多いわけだ。

と、細かな能書きは気にすることなく、デザインとクオリティとユーティリティで気に入ったほうを買うのが幸せ。このテのクルマにはたしかにそういう側面もある。しかし今、この各モデルのあいだには鮮明化したブランドの動的なポリシーが垣間見えるのもまたたしかだ。いくら酒脱者を装っていても、最後は走ってナンボの世界。それがドイツのクルマ屋の本音でもある。

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Audi A7 Sportback|アウディ A7 スポーツバック
ボディサイズ|全長4,990×全幅1,910×全高1,430mm
ホイールベース|2,915mm
車輌重量|1,900kg
エンジン|3.0リッターV型6気筒DOHC+スーパーチャージャー
最高出力|220kW(300ps)/5,250-6,500rpm
最大トルク|440Nm(44.9kgm)/2,900-4,500rpm
トランスミッション|7段Sトロニック
10・15モード燃費|10,2km/ℓ
CO2排出量|228g/km
価格|879万円

Mercedes-Benz CLS 350 BlueEFFICIENCY|
メルセデス・ベンツ CLS 350 ブルーエフィシエンシー

ボディサイズ|全長4,940×全幅1,881×全高1,416mm
ホイールベース|2,874mm
車輛重量|1,735kg
エンジン|3.5リッター V型6気筒
最高出力|225kW(306ps)/6,500rpm
最大トルク|370Nm(37.7kgm)/3,500-5,250rpm
トランスミッション|電子制御7速AT
燃費|6.8-7.0ℓ/100km
CO2排出量|159–164g/km
価格|930万円

Mercedes-Benz CLS 63 AMG|メルセデス・ベンツ CLS 63 AMG
車輛重量|1,870kg
エンジン|5.4リッター V型8気筒+ツインターボチャージャー
最高出力|386kW(525ps)/5,250-5,750rpm
最大トルク|700Nm(71.4kgm)/1,750-5,000rpm
燃費|9.9ℓ/100km
CO2排出量|232g/km
価格|1,625万円
※国内で未発表のCO2排出量は本国データにもとづく。

           
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