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2022年4月4日
食わずに死ねるかーっ! と、唸ります。天才総料理長によるイノベーティブフレンチ|TRAVEL
TRAVEL|星のや東京
「知る」は、おいしい!リターンズ 星のや東京編(1)
「美味しいものを食べて、楽しんで、免疫力を上げてもらえたらと思い、開発しました」と語るのは、「星のや東京」総料理長の浜田統之さん。2020年8月から、同旅館のダイニングで提供している「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」の開発意図は至極明確です。
Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi
日本の美食界に、やはりこの人! その腕前を、予約が取れるうちに確かめるべき
美味しいもの好きの皆さんには、今さらご紹介するまでもないかもしれませんねっ。浜田さんは、世界最高峰のフレンチ料理コンクール「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」で、2013年に3位入賞(魚部門では1位)という輝かしい実績を持つ”スターシェフ”。「軽井沢ホテルブレストンコート」の一軒家フレンチ「ユカワタン」の総料理長を経て、2016年7月から「星のや東京」のオープンと共に同施設の総料理長に就任しました。
その翌年には、日本の豊かな自然から生み出される食材とフレンチの技法をかけ合わせた、日本旅館のフレンチ「Nipponキュイジーヌ」を爆誕させます。コースはさらに進化、免疫力を高める発酵食品とフレンチが華麗に融合した「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」へとリニューアルしたのです。
今回は、その冬コースをいただいちゃおうと、大手町にやってきた次第でして。
「日本人って、食事に関してはとても保守的な部分があるじゃないですか。寿司でいえば、江戸前寿司がすべて。カリフォルニアロールは寿司とは認めません(笑)。でも海外はそうじゃない。カリフォルニアロールを寿司と認める土壌があり、だからこそ食文化が広がっていく。日本ももっと、どんどんやっていっていいと思うんです。ボキューズ・ドールも、フランス料理にそれぞれの国の独自性を入れて作る大会だし、『ノーマ』(※)だって、今や昆虫料理を出すくらいですから」(浜田さん)
※英レストラン誌が選ぶ「世界のベスト・レストラン50」で4度にわたり1位を獲得している、デンマーク・コペンハーゲンのレストラン。世界の美食家がこぞって通い詰めています。……行きたい!
浜田さんは保守的な日本の料理界に警鐘を鳴らしつつも、「こと魚に関しては、やはり日本はすごい。あれほど氷を積んで漁に出る漁船は、他の国にはありません。水道水が飲めるのも強み。それがひとつの調味料といってもいいくらい」と、続けます。グローバルな感性を持つ、浜田さんの口からぽんぽんと飛び出す言葉、はやっぱり面白いなあ!
そんな浜田さん渾身の「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」。結論から言ってしまえば、すべてに発酵食材が使われたクリエイティビティあふれる料理たちは、美味しく、楽しい。そりゃ免疫も上がりますわ!
そんなわけで、私がいただいた「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」冬のコースを、浜田さんの言葉を交えながら紹介していきましょう。ちなみにこちらは2月末までの提供でして、現在は春のコースがサーブされています。でも、浜田さんがこのコースに込めたエッセンスは感じてもらえるんじゃないかと……。
ハイ、先制パンチは「ふぐの白子のパイ包み」。ふぐの卵巣の糠漬けと白子を、ソースペリグー(マデラ酒とポルト酒を煮詰め、トリュフを加えたソース)と一緒にパイ生地で包み、焼き上げた一皿です。ふぐの卵巣といえば、猛毒があり、1匹で30人を殺せるとも言われている危険な輩……。ですが、塩漬けにしたあと麹漬けにすると、毒が消え去ってしまうのだとか。え、本当に⁉
「河豚の卵巣の糠漬けは、石川県の郷土料理です。初めていただいて驚いた。これが一口で食べられるパイになったら面白い、と考えたのがきっかけです」
で、「半年から1年かけて」(浜田さん)完成させたのがこちらの料理。ふと浜田さんが、「ちょっと壮大な話になってもいいですか」といって語り始めたことを思い出しました。
「宇宙から地球を見ると、陸と海しかないですよね。料理もその組み合わせがいいんです。ナトリウムとカリウム──、たとえば、肉もそのままよりも、塩を付けたほうが美味しいですし、魚には醤油が合うじゃないですか。とても理にかなっている」
このパイも、そんな小宇宙を形成していました。ふぐの卵巣と白子のとろとろ感を、発酵バターを使い、さくさくに仕上げたパイが引き立てます。そしてペアリングで供された、クリーミーできめ細やかな泡のシャンパン、シャルル・エドシックにしなだれかかるように寄り添うのです。うっとり。
そして、この料理がここだけでは終わらないのが浜田さんの浜田さんたる所以(笑)。ふぐのアラでとったコンソメスープを、炙ったふぐのヒレが入った器に移し、ヒレ酒のようにしていただきます。舌も内蔵も気持ちも、俄然鼓舞されちゃいました!
お次は、「五つの意思」。五味(酸・塩・苦・辛・甘)をミニマルな料理で表現した、「ユカワタン」時代から続く、浜田さんのスペシャリテともいうべきアミューズです。「Nipponキュイジーヌ ~発酵~」では、この5つのアミューズすべてに、発酵食品が使われています。芸、細かすぎ!
ペアリングのお酒がまた凝っているのです。「五つの意思」については、先ほどのシャルル・エドシックに、アンダルシア地方の辛口のシェリー酒を少し加えて……なんということでしょう。シャンパンがオールドビンテージのような味わいに。ちょっとー、こんな素敵なこと思い付いちゃったの、誰ですか? と聞いてみたところ、ペアリングは、ソムリエであり、調理も担当している料理長(浜田さんは総料理長)の村瀬直人さんがメインで手掛けているそうです。調理も担っている(しかも料理長!)ソムリエが選ぶペアリングドリンク、そりゃ間違いありませんね。「星のや東京」のペアリング、ガチでおすすめです。
続いてやってきたのは、「ゆり根のムニエル」。浜田さーん、これはいったいどんな料理なんでしょ?
「地方でゆり根を丸ごと蒸したものをホイル焼きにしていただいたんですが、ゆり根の水分だけで蒸されているので、めっちゃめちゃ美味しかったわけですよ。でも、じゃがバターも美味しいじゃないですか(笑)。そこで、ゆり根で、じゃがバターのように、外はカリカリ、中はホクホクの料理ができないかと考えたんです。茶碗蒸しに入っている、あってもなくてもいいような存在ではなく、ゆり根をメインにした料理を作りたかったんです(笑)」
カリっと感を出すために、素揚げにしてからバターで焼き上げているんですって! 寄り添うのは、バターと卵黄で作るベアルネーズソースに、長野県木曽地方に300年以上もの昔から伝わる漬物すんきを刻んで入れたもの。酸味のあるソースに、乳酸由来のやさしい酸味を持つ漬物が加わることで、品のあるまろやかさはマシマシ。不遇を極めてきた、ゆり根のためにここまでしてくれるなんて。ゆり根サポーター(という女性は多いと思います)としては感涙ものです……!