日本酒LOVER必見! 復活酒蔵併設の個性派宿で一夜を過ごす、唯一無二の体験「BYAKU Narai」|TRAVEL

「BYAKU」というネーミングには、「地域に眠る百の物語をお客様に届け、百年前の建築を未来に遺す宿」という想いが込められている。百(HYAKU)は重なっていくことで何百(BYAKU)にもなるからだ。

LOUNGE / TRAVEL
2022年5月27日

日本酒LOVER必見! 復活酒蔵併設の個性派宿で一夜を過ごす、唯一無二の体験「BYAKU Narai」|TRAVEL

TRAVEL|BYAKU Narai

中山道のど真ん中。奈良井宿に誕生した古民家再生プロジェクトにて、テロワールを味わい尽くす

400年の歴史を誇る、木曽の宿場町・奈良井宿に誕生した宿泊型複合施設は、開業前からちょっとした話題になっていて、OPENERSでも、すでに一度、紹介(https://openers.jp/lounge/lounge_travel/fIWw7)しています。寛政年間(!)の1793年に創業、2012年に休業した酒蔵「杉の森酒造」と、近接する民宿の建物を改修するかたちで、2021年8月にオープンした施設でして、宿泊施設「BYAKU Narai(ビャク ナライ)」をはじめ、レストランやバー、温浴施設、酒蔵、ギャラリーという構成になっています。

Photographs by OHTAKI Kaku|Text by HASEGAWA Aya|Edit by TSUCHIDA Takashi

谷崎潤一郎『陰翳礼讃』の世界に飛び込んだかのよう!

このところ、古い建物をリノベーションし、宿泊施設やレストラン・カフェ、雑貨店などとして活用する「古民家再生」の動きが活発です。そんななか、また魅力的な施設が誕生しました。「日本のトップシェフのひとり長谷川在佑さんがメニューを監修するレストラン」、「休蔵状態にあった酒蔵の再生」と、食いしん坊&飲ん兵衛にとっては、看過できないキーワードが散りばめられていることもあり、これは早いうちに行っておかないと!
「杉の森酒造」の屋号を継いで新たに誕生した、「suginomori brewery (スギノモリ・ブルワリー)」については、別にひとつ記事を作成予定(※近日公開)です。まずは、そのほかの施設についてご案内しましょう。
ここで改めまして、奈良井宿の位置関係を。「木曽路はすべて山の中」の木曽に位置し、また江戸から数えて34番目、京都から数えて34番目と、中⼭道のちょうど中間地点にある宿場町です。標高は900メートル。かつて「奈良井千軒」と謳われた街並みは国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されていて、木曽路の最大難所と言われる標高1197メートルの⿃居峠を控え、往時は多くの旅人で賑わっていました。複合施設は、そんな奈良井宿のど真ん中にあります。
宿泊施設「BYAKU Narai」の客室は全12室。いずれも約200年前の伝統的建造物を生かした作りになっていて、ひとつとして同じものはありません。露天風呂付の客室や、土蔵をまるごと一棟、使った客室、縁側を有する客室など、いずれも個性豊かです。また、すべての客室に漆で仕上げられた無垢の木のコーヒードリッパーを置くなど(※江戸時代、「曲物」は奈良井宿の主産業でした)、伝統とモダンがいい感じに混ざり合ったプレゼンテーションに大好感。そもそも日本酒ラバーとしては、酒蔵に泊まるというだけでわくわくするわけでして。
かつて酒蔵の貯蔵庫があった場所に作られた、温浴施設「山泉 SAN-SEN」もあります。「ふーん、温泉じゃないんだ……」と、あまり期待していなかったのですが(失礼)、すっかり虜になってしまいました。だって、聞いてくださいよ、奥さん。「suginomori brewery」が仕込み水に利用している、信濃川の源流である山の湧水を、地元の木曽森林組合から調達した木質チップを活用したバイオマス燃料で沸かしているんですってよ。これぞ、究極の地産地消、SDGsの極み!
そして、清廉さとやわらかさを併せ持つ、ツンデレ系のお湯のすばらしさ、ぜひ体験していただきたいです。さらに、浴室の壁には木曽五木(ヒノキ、サワラ、アスナロ、コウヤマキ、ネズコ)、床には長野県産の柴石を使用しているなど、地元愛に溢れた空間デザインとなっています。
レストラン「嵓 kura」
食事は、旧「杉の森酒造」で酒造りの主たる作業が⾏われていた場所を改修した、レストラン「嵓 kura」でいただきます。「suginomori brewery」のすぐ横に位置していて、ガラス越しに酒造りの空間を眺めながら食事がいただける──というシチュエーションに、すでにテンション上がりまくりなわけですが、冒頭でも触れましたが、「嵓 kura」には、さらに強力な食いつきポイントがありまして。
2022年、「アジアのベストレストラン50」で第1位に輝くなど、今、飛ぶ鳥を落としまくっている東京・神宮前「傳(デン)」の⻑⾕川在佑さんがメニュー監修を担当しているのです! 料理の質の高さはもちろん、遊び⼼とおもてなしの精神に溢れた「新しい形の⽇本料理」を体現する長谷川さんが、木曽の郷土食や、気候風土に寄り添った人々の知恵と食文化をどう表現するか──。今や世界中が注目している、といっても大げさではないんじゃないかと(笑)。
実際に厨房で腕を振るうのは、料理長の友森隆司さんです。友森さんは、長谷川さんと同じ1978年生まれ。広島県出身で、パリを始め、東京、神奈川、長野などで修行したあと、2011年、塩尻市に自身の店をオープンしました。
「土地そのものの食材を、その時々のインスピレーションで提案する。これが僕の料理スタンスです。和をベースにした料理に、洋のエッセンスを加える料理を作ることに関しては、最初から抵抗はありませんでした。というかとても楽しい作業です」と、友森さんは笑います。
長谷川さんとのコラボについて尋ねると、「一緒に作っている、という感覚でやらせてもらっています。長谷川さんの創造性には刺激を受けますし、料理が大好きで、いかにお客さんに楽しんでもらうかを考えながら、その気持ちを料理に体現するという姿勢にはとても共感します」と、力強いお言葉が。
──お腹すいてきましたね。では、私たちが訪れた、まだ冬の名残を残しつつ、少しずつ春の息吹を感じ始めていた頃のお料理をご紹介していきましょう。
最初は「その時期、いちばん美味しい野菜をスープにして、まずはほっとしていただきたい」という、「嵓 kura」料理長に就任する前から、友森さんが貫いている一品。通常はカツオ出汁だけで仕上げますが、肌寒い日は濃度や温度感を変えて、まったり感を出すのだとか。
この日いただいたのはごぼうのすり流し。一口食べただけで、大地の息吹を感じる壮大な味わいがじんわりと体にしみ込んでいきます。私に資金があれば、友森さんに監修をお願いして、オフィス街で日替わりすり流しの店を出すんだけどな。おいしいパン屋とも提携しちゃたりして。出資者求む!
こちらはシナノユキマスのお造り。自家製ポン酢でいただくのですが、お造りはもちろん、ポン酢そのものの美味しいことよ! ペアリングは、松本のワイナリー、GAKUFARM(ガクファーム)のピノ・グリ。ペアリング理由は、シナノユキマスではなくて、ポン酢に寄せているんですって。で、肝心のシナノユキマスですが、「寒い時期は脂が乗っていて、歯ごたえもあるので、薄造りがいちばん美味しいと思います」と、友森さん。この日はふぐのてっさをイメージして、「あえて昭和感を出して盛り付けました(笑)」。ガラスに漆を塗った漆器もセクシーです。
なんと鯉を使った料理です。まだ交通が発達していない時代、海のない長野県、とくに木曽の山のなかにおいて、鯉は貴重なたんぱく源でした。今では地元でも鯉を食す機会は減少していると言います。でも、いえ、だからこそ、鯉を食べる文化を“伝承”するため、1年を通して、鯉を提供していきたいと考えているそうです。

これまでも、すり身にして真薯(しんじょ)にしたり、フリットにして餡をかけるなど、さまざまなかたちで提案してきましたが、今回は、蓮根のはさみ揚げとなり、朴葉に乗ってお出ましです。鯉には吹き味噌が練りこんであり、その上には、金柑を使ったセリのサラダがあしらわれていました。傍らには、クタクタに煮た白菜が添えられています。寸分の隙もない一皿です。
これに続くのは、「嵓 kura」の、そして、友森さんのスペシャリテとも言うべき、「里山」。生、煮る、焼く、炒める、揚げる──、ニラの根や里芋、蕪、芽キャベツ。ビーツなど、それぞれに適した調理法や味付けが施された、多種多彩な野菜たちが恭しく並びます。木曽の里山の風景が、お皿の上で見事に表現されていました。こちらにジンを合わせるところがまたおしゃれです。
コースの前半ではなく、中盤以降に、野菜が主役の料理を持ってくるところも、友森さんのこだわり。地元野菜への愛情をひしひしと感じます。友森さんは、13年前、塩尻に来た時、その野菜の美味しさに驚き、そして、すっかり魅了されたのだとか。
「勝手に“野菜偏差値日本一”の街と言っています(笑)。ただ、こんな美味しい野菜の宝庫なのに、地元のみなさんは美味しくいただく方法をご存じないんですよ。都心なら、300〜400円するようなすばらしいズッキーニが、50円でも売れません。私がいろいろな調理法を提案することで、生産者の方にも喜んでいただければうれしいですね」
食事は土鍋ごはん。「傳」の名物でもある土鍋ごはんを、塩尻のお米を用いるなどして、「嵓 kura」のスタイルにアレンジしました。炊き込みごはんではなく、土鍋で炊いたごはんに、調理した食材を混ぜていただくのが、「傳」イズム。「ご馳走ごはんです」と、友森さんは言っていましたが、ええ、まさにご馳走でした(笑)。さまざまなバリエーションがあるそうですが、今回いただいたのは、木曽牛のサーロインを使った“サーロインごはん”。和牛の脂がいい感じでごはんに溶け、食べているほうもとろけてしまいます……。
まだまだ夜は終わりません。味噌蔵だった建物を改修したバー「TASTING BAR suginomori(テイスティングバースギノモリ)」へ立ち寄るとしましょう。というか、マストゴーです! 木曽の文化でもある漆を採用したカウンターは艶っぽく、また、壁面には「杉の森酒造」で使われていた備品が飾られています。
そんな唯一無二の空間でいただけるのは、長野県に特化したお酒たち。運が良ければ、同敷地内で醸造を行う「suginomori brewery」の日本酒「narai」の搾りたてがいただけるかもしれませんよ。ジンに木曽五木を漬け込んで作る、自家製ジンも見逃せません。
友森シェフが手がける、郷土色豊かなおつまみも魅力的です。「narai」のためのおつまみも、ちゃーんと用意されていました。「narai」の酒粕のペーストに、味噌とはちみつ、この地の名物でもある地蜂の子の佃煮を練りこんで炒ったものなのですが、これ、合わないわけないですよね(笑)。南木曽に拠点を構えるベテラン猟師が仕留めた鹿肉を使った、自家製の「信州鹿ジャーキー」は永遠に噛み続けていたいくらいの旨味をたたえていました。
少し飲みすぎても、客室はすぐそこ。安心して美酒に酔いしれようじゃありませんか!
秘密基地のようなバーは素敵だし、長谷川さんとの協働による友森さんの料理はぜひまた季節を変えていただきたいところです。まだ奈良井にいるうちから、「今度は食事をするためだけに訪れてもいいな」なんて考えていた私です。
朝食。がんもとほうれんそうと切干大根の煮物。川中島納豆。野沢菜漬け、ヤマゴボウの粕漬。真ん中は木曽の豆腐。赤大根とショウガの餡。味噌汁は具材が長ネギ。
でも「お母さんの朝食」をテーマにした、素朴な朝食もナイスだったし(信州ぎたろう軍鶏の卵焼きサイコー!)、温浴施設は毎日でも通いたいくらい魅力的でした。で、しっとりとした時間が流れる、部屋で過ごすのもいいんですよねぇ。やっぱりまた、泊まりにいかなくちゃ、ってことですね。

BYAKU Narai

  • 住所|長野県塩尻市奈良井551
  • アクセス|JR中央本線 奈良井駅より徒歩5分または塩尻ICよりクルマで35分
  • チェックイン・チェックアウト|15時・11時
  • 宿泊料|4万円〜(1泊2名宿泊時の1名分、朝食・夕食付き)
問い合わせ先

BYAKU Narai
Tel.0264-34-3001(受付時間9:00-17:00)
https://byaku.site